448 / 681
連載
たとえ、この身は滅ぶとも16
しおりを挟む降り注ぐ爆炎弾は、マスターゴーレムの表面で炸裂していく。
一撃ごとに必殺の威力を込めたそれを吐き出す炎のオーブは、時折現れるエレメント達にも爆炎弾を吐き出していく。
爆炎珠は込めた魔力を使いきるまではその場に残る魔法だが、ヴェルムドールが込めた莫大な魔力を内包した炎のオーブは少しずつ小さくはなりつつも消える気配は全く無い。
マスターゴーレムは即座に炎のオーブを脅威認定し剣を振るうが、魔力を込めていない剣が魔力の塊を破壊できるわけがない。
あっけなく通り抜ける手応えの無い剣撃を何度か続け……その間にもマスターゴーレムの表面は削れていく。
空から降り注ぐ流星雨をも彷彿とさせる攻撃に耐えるのは、流石という他は無い。
だが、それとて滅びるまでの時間の差でしかない。
マスターゴーレムの身体は削れ、抉れ、崩れていく。
「喜べ、マスターゴーレム。お前は間違いなく一級品の武器だ」
意思など存在しないマスターゴーレムは、そんなヴェルムドールの賛辞など聞いては居ないだろう。
現時点で一番の脅威である炎のオーブを握り潰そうとし……しかし、その手も爆炎の中で崩れ落ちる。
もしマスターゴーレムに意思があれば……いや、せめてレルスアレナが命令を下せる状況にあれば、もう少し変わっただろう。
それとて結局は決着までの時間を引き延ばすだけに終わったかもしれないが……それでも、格段の差はあったはずだ。
大規模破壊魔法をヴェルムドールが使う気がない以上、幾らでも戦術はあったはずなのだ。
つまり、マスターゴーレムの一番大きな敗因をあげるとするならば、それは……ただの武器でしかなかったという、ただそれだけの致命的な理由である。
「さて、イクスラースは……」
崩れ落ちるマスターゴーレムの残骸から目を離し、ヴェルムドールはイクスラースの姿を探し……その瞬間に、振り返る。
その眼前に迫るのは、ボロボロの巨大な剣の切っ先。
「……物理障壁ッ!!」
激しい衝突音が響き、巨大剣の切っ先が弾き返される。
今ヴェルムドールを攻撃して来たモノは、マスターゴーレムの巨大剣。
だが今、マスターゴーレムは機能を停止したはずだ。
家屋のような修復機能があったとしても、早すぎる。
その正体を探るべくヴェルムドールは別の屋根へと飛び移りながらマスターゴーレムの残骸へと視線を向け……思わず舌打ちをする。
そこに居たのは、一体の巨人。
マスターゴーレムの残骸に土塊を塗りつけたかのような、そんな姿。
削れた頭部も土塊で形を取り戻しており、二つの赤く光る目が輝いている。
「アースエレメント……一体じゃないな、集合体……そんな真似もできたのか!」
そう、それはマスターゴーレムの残骸を軸に複数のアースエレメントが融合して出来たモノ。
名付けるならば、アースゴーレム……といったところだろうか。
「チッ……!」
先程とは違う、明確な意思の元に横薙ぎされる剣を屋根から飛び降りることで回避する。
すると、それを追うようにアースゴーレムは指先を器用に動かして剣を握りなおし地面へと突き刺す。
一撃ではなく、何かを追うように二撃、三撃と突き刺す。
アースゴーレムの頭部と視線は忙しく動き、やがて剣を肩に担ぐと地面を砕く蹴りを繰り出す。
だが、その場所から一瞬早く飛び出したヴェルムドールがアースゴーレムの側面の位置にある屋根に飛び乗って爆炎弾を放つ。
爆発で体を削られたアースゴーレムは揺らぎ体勢を崩すが、すぐに剣を突き刺して身体を支える。
更におまけとばかりに剣を支えにしてアースゴーレムは蹴りでヴェルムドールの乗る屋根を砕く。
明確な意思が動かす巨体はそれに見合った効果を生み出し、物理障壁を展開してダメージを防いでいたヴェルムドールは即座に解除すると別の壊れかけた建物の屋根へと飛び移る。
アースゴーレムはそれを追撃するべく身体の向きを変えるが、先程と同様に飛来してきた赤い矢が頭部で炸裂して爆発し、その発射点を探すべく周囲を見回し……その眼前に、燃え滾る炎のような赤い瞳を輝かせたイチカが現れる。
「ヴェルムドール様に薄汚い足を向けるとは……この痴れ者が」
その驚くべき跳躍力でアースゴーレムの眼前まで跳んできたイチカの発動させている威圧の魔眼は、本来のマスターゴーレムであれば威圧される意識も魂もないのだから通用しない。
だが、アースゴーレムとなった今は明確な意思が存在する。
それ故に、イチカの威圧の魔眼はアースゴーレムの動きを縛り付ける。
「突・七十三連撃」
イチカの超高速の突きがアースゴーレムの頭部を削り取り、そのままイチカは振り上げられた拳をも足場にして跳び、離れた場所へと降りていく。
それを追撃しようとしたアースゴーレムは……背後で高まっていた魔力に気付き、振り返る。
だが、もう遅い。
ヴェルムドールの魔剣に、闇の魔力が集結していく。
それは、以前ヴェルムドールが見たイクスラースの魔法と同じもの。
それは、相手の肉体と精神をゼロになるまで削り取る闇魔法。
「此処に汝の墓標は無く、此処に汝の証は無い。ただ、忘却の彼方に消え行け……影世界の異邦人」
現れた「黒」がアースゴーレムを絡めとり、不気味なオブジェを形作る。
そこから逃れる術など……何一つ、ありはしない。
1
お気に入りに追加
1,740
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。


母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません
八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】
「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」
メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲
しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた!
しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。
使用人としてのスキルなんて咲にはない。
でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。
そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。