勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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たとえ、この身は滅ぶとも16

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 降り注ぐ爆炎弾ボルカノンショットは、マスターゴーレムの表面で炸裂していく。
 一撃ごとに必殺の威力を込めたそれを吐き出す炎のオーブは、時折現れるエレメント達にも爆炎弾ボルカノンショットを吐き出していく。
 爆炎珠ボルカノンオーブは込めた魔力を使いきるまではその場に残る魔法だが、ヴェルムドールが込めた莫大な魔力を内包した炎のオーブは少しずつ小さくはなりつつも消える気配は全く無い。
 マスターゴーレムは即座に炎のオーブを脅威認定し剣を振るうが、魔力を込めていない剣が魔力の塊を破壊できるわけがない。
 あっけなく通り抜ける手応えの無い剣撃を何度か続け……その間にもマスターゴーレムの表面は削れていく。
 空から降り注ぐ流星雨をも彷彿とさせる攻撃に耐えるのは、流石という他は無い。
 だが、それとて滅びるまでの時間の差でしかない。
 マスターゴーレムの身体は削れ、抉れ、崩れていく。

「喜べ、マスターゴーレム。お前は間違いなく一級品の武器だ」

 意思など存在しないマスターゴーレムは、そんなヴェルムドールの賛辞など聞いては居ないだろう。
 現時点で一番の脅威である炎のオーブを握り潰そうとし……しかし、その手も爆炎の中で崩れ落ちる。
 もしマスターゴーレムに意思があれば……いや、せめてレルスアレナが命令を下せる状況にあれば、もう少し変わっただろう。
 それとて結局は決着までの時間を引き延ばすだけに終わったかもしれないが……それでも、格段の差はあったはずだ。
 大規模破壊魔法をヴェルムドールが使う気がない以上、幾らでも戦術はあったはずなのだ。
 つまり、マスターゴーレムの一番大きな敗因をあげるとするならば、それは……ただの武器でしかなかったという、ただそれだけの致命的な理由である。

「さて、イクスラースは……」

 崩れ落ちるマスターゴーレムの残骸から目を離し、ヴェルムドールはイクスラースの姿を探し……その瞬間に、振り返る。
 その眼前に迫るのは、ボロボロの巨大な剣の切っ先。

「……物理障壁アタックガードッ!!」

 激しい衝突音が響き、巨大剣の切っ先が弾き返される。
 今ヴェルムドールを攻撃して来たモノは、マスターゴーレムの巨大剣。
 だが今、マスターゴーレムは機能を停止したはずだ。
 家屋のような修復機能があったとしても、早すぎる。
 その正体を探るべくヴェルムドールは別の屋根へと飛び移りながらマスターゴーレムの残骸へと視線を向け……思わず舌打ちをする。
 そこに居たのは、一体の巨人。
 マスターゴーレムの残骸に土塊を塗りつけたかのような、そんな姿。
 削れた頭部も土塊で形を取り戻しており、二つの赤く光る目が輝いている。

「アースエレメント……一体じゃないな、集合体……そんな真似もできたのか!」

 そう、それはマスターゴーレムの残骸を軸に複数のアースエレメントが融合して出来たモノ。
 名付けるならば、アースゴーレム……といったところだろうか。
 
「チッ……!」

 先程とは違う、明確な意思の元に横薙ぎされる剣を屋根から飛び降りることで回避する。
 すると、それを追うようにアースゴーレムは指先を器用に動かして剣を握りなおし地面へと突き刺す。
 一撃ではなく、何かを追うように二撃、三撃と突き刺す。
 アースゴーレムの頭部と視線は忙しく動き、やがて剣を肩に担ぐと地面を砕く蹴りを繰り出す。
 だが、その場所から一瞬早く飛び出したヴェルムドールがアースゴーレムの側面の位置にある屋根に飛び乗って爆炎弾ボルカノンショットを放つ。
 爆発で体を削られたアースゴーレムは揺らぎ体勢を崩すが、すぐに剣を突き刺して身体を支える。
 更におまけとばかりに剣を支えにしてアースゴーレムは蹴りでヴェルムドールの乗る屋根を砕く。
 明確な意思が動かす巨体はそれに見合った効果を生み出し、物理障壁アタックガードを展開してダメージを防いでいたヴェルムドールは即座に解除すると別の壊れかけた建物の屋根へと飛び移る。
 アースゴーレムはそれを追撃するべく身体の向きを変えるが、先程と同様に飛来してきた赤い矢が頭部で炸裂して爆発し、その発射点を探すべく周囲を見回し……その眼前に、燃え滾る炎のような赤い瞳を輝かせたイチカが現れる。

「ヴェルムドール様に薄汚い足を向けるとは……この痴れ者が」

 その驚くべき跳躍力でアースゴーレムの眼前まで跳んできたイチカの発動させている威圧の魔眼は、本来のマスターゴーレムであれば威圧される意識も魂もないのだから通用しない。
 だが、アースゴーレムとなった今は明確な意思が存在する。
 それ故に、イチカの威圧の魔眼はアースゴーレムの動きを縛り付ける。

「突・七十三連撃」

 イチカの超高速の突きがアースゴーレムの頭部を削り取り、そのままイチカは振り上げられた拳をも足場にして跳び、離れた場所へと降りていく。
 それを追撃しようとしたアースゴーレムは……背後で高まっていた魔力に気付き、振り返る。
 だが、もう遅い。
 ヴェルムドールの魔剣ベイルブレイドに、闇の魔力が集結していく。
 それは、以前ヴェルムドールが見たイクスラースの魔法と同じもの。
 それは、相手の肉体と精神をゼロになるまで削り取る闇魔法。

「此処に汝の墓標は無く、此処に汝の証は無い。ただ、忘却の彼方に消え行け……影世界の異邦人ダルケルヴィシュエ

 現れた「黒」がアースゴーレムを絡めとり、不気味なオブジェを形作る。
 そこから逃れる術など……何一つ、ありはしない。
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