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たとえ、この身は滅ぶとも7
しおりを挟む「……ふう。これで大丈夫ですね。まあ、本人は余計な手出しと言うかもしれませんが」
他の面々とは離れた建物の屋根。
そこに立っていたルーティは、息を吐き出すと共に構えていた弓を下ろす。
その隣に立つのはファイネルで、目を細めながら遠くを見ている。
「私にはよく見えなかったが……あんな遠く、よく狙えるな」
ニノさんを援護します、と言ったルーティが弓を構え、実際に放ってから今の瞬間まで、ファイネルはファイネルなりに目を凝らしてルーティの見る方角を見ていたが……「確かにそこにニノがいる」という結論には至れなかった。
しかしルーティの自信満々な言葉を聞くに、どうやらエレメントに命中したのは確かだろう……ということを想像できただけだった。
「シルフィドというのは、そんなに目が……」
よかったのか、と言いかけて。
ファイネルは、ルーティの目の前に薄く丸い水晶版のようなものが2つあることに気付く。
何となく似合っていたので違和感がなく気付かなかったが……よくよく見てみると、それはルーティの眼前に展開する魔法陣のようなものであるようだった。
しかも思い返してみれば、結構前から展開されている。
「……なんだそれ」
「あ、これですか?」
「遠見の魔法だよ。僕のやり方をそのままやると、目が壊れかねないからね。まずは簡単なところから……ってやつさ」
言いかけたルーティを遮り、赤銅色の弓……殲弓レナティアが声を出す。
レナティア自身、遠くを狙う際には自分の視力を強化する為に目に魔力を込めて特殊な力を発動させていた。
それはレナティア自身の力でもあったが、この遠見の魔法を日常的に使い続けるうちに突然目覚めた力でもあった。
効果としては、単純に遠くの景色を近くの景色であるかのように認識し、その正しい距離をも把握するというもの。
「まあ、最終的にはこんな魔法陣展開しなくても出来るとこまでいって貰いたいけどね」
「……後天的に魔眼になるということか」
「魔眼じゃねーし。あんな立派なもんじゃないよ」
どこか不貞腐れたようなレナティアの言葉の意味が分からず、ファイネルはルーティに助けを求めるように視線を向け……そのついでに、湧いて出てきたウインドエレメントを火の魔力を込めた裏拳……もとい火の魔法拳で粉砕する。
ファイネルからしてみれば、そんな事が出来るなら「遠見の魔眼」とかそういうのでいいんじゃないだろうかと思うのだが、魔眼の定義からしてみれば違うのだ。
そもそも魔眼というものは何種類かあるが、そのどれもが強力なものだ。
たとえば、イチカの威圧の魔眼。
これは比較的発現しやすい魔眼だが、そのほとんどは低レベル……精々が「なんか眼力が強くなる」とか、「相手をなんとなく威圧しやすい」程度のものだ。
しかし高レベルともなれば相手の魂そのものを威圧するとも言われる恐ろしい魔眼である。
次に、ニノの緑の魔眼。
これは威圧の魔眼とは違い発現したという事例自体がほとんどない魔眼であり、しかも発現したとしても「ちょっと植物の成長が早くなる気がする」とか「ちょっと植物を動かせる」程度であったりする。
しかしこれもレベルの高いものであれば植物を大きく操ったりできるし、ニノくらいの超高レベルになれば一瞬にして種から巨木まで成長させることすら可能だ。
他にも破壊の魔眼と呼ばれるものもあるが……とにかくこうした魔眼に共通するのは発現した瞬間に「魔眼であると理解し認識できる」という点だ。
そしてレナティアはこの「遠見」を、「魔眼である」と認識できなかった。
つまり、この「遠見」は魔眼のようでありながらそうではない代物だということだ。
「えーと……まあ、そういうものなんですよ」
「そうなのか」
とはいえ、そう説明するのもレナティアのプライドを傷つけるだけだと分かりきっているのでルーティは「そういうもの」で誤魔化すが、ファイネルはそれでいいのかアッサリと納得してしまう。
「まあ、それがお前に役立つものであるというんなら、別にいいんだ。それよりも、さっさと移動しよう。この周辺には闇の巫女とやらはいないようだしな?」
「まあ、そうですね」
ルーティが殲弓レナティアを構えると、その手元に赤い矢が現れる。
「一発派手にやって、その隙に別の場所へ行くとしましょう……か!」
放たれた赤い矢は二人目掛けて襲いかかろうとしていたウインドエレメントに命中するとその形がするりと解け、小規模の爆発を引き起こす。
続く第二射、第三射が命中すると同時に、ファイネルはルーティを抱えて走り出す。
「まったく、お前は……私の足をあてにしてるな!?」
屋根から屋根へと飛び移り叫ぶファイネルに、ルーティは小さく笑って問いかける。
「あら、嫌でしたか?」
その問いに、ファイネルは少しだけ真面目な顔になり……ニヤリと笑う。
「別に嫌じゃないさ。お前に頼りにされるというのも……中々いい気分だ!」
眼前の屋根に集結しつつあるのは、無数のウインドエレメント達。
だがそれを見てもなお、ファイネルは顔色一つ変えない。
ルーティを抱えているのとは別の手を前方へと向け、叫ぶ。
「電撃砲!」
放たれた輝きが、空気を切り裂きながらウインドエレメント達を蹴散らしていく。
絶好調のファイネルからは、知らずのうちに高笑いが漏れ……ルーティに慌てて手で塞がれて、「もが」と不満そうに声をあげた。
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