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連載
たとえ、この身は滅ぶとも6
しおりを挟む斬る、斬る。
正面を塞ごうとしたダークエレメントを斬り伏せ、ウインドエレメントを斬り裂く。
ニノの双剣に一切の迷いは無く、一切の無駄は無い。
何をすればいいかは見えており、その為に必要な手段は常に自分の手にある。
それがニノには理解できているからこその動きであり、エレメント達の行動目的がニノの殺害であることもまた、ニノに動きを読まれやすい一因でもあった。
故に、ニノの得た結果もまた単純にして明快。
正面に立ち塞がるモノだけを斬り裂き、ニノは入り口から飛び出し屋根へと一気に駆け上がる。
そのニノをウインドエレメントが追いかけてくるが、ウインドエレメントが屋根の高さまで登ってきた時にはもう、ニノは視界にいない。
即座に地面まで降りていたニノはそのまま走り、次の建物の中へと窓から飛び込む。
あのエレメント達は一度視界から見失った相手をしつこく追うことは無い。
習性なのか余裕なのかは不明だが、それは「絶対」である。
あるいは、「目の前」から消えた敵を「探す」という思考事態が無いのかもしれないが……そんなことをせずともいずれ死ぬと考えているのかもしれない。
とにかく、一度視界から消えれば追っては来ない。
それを何度かの攻防で理解したが故の行動である。
「ふん……バーカ」
建物の中に入り込んだニノは音も無く着地し、「何か」が湧き出てくる気配を察知して風の魔法剣を起動する。
「ガ……ガッ」
「えい」
湧き出てくるファイアエレメントを風の魔法剣で切り刻むと、ニノは建物の中を見回す。
一階建のこの建物は広い部屋が一つあるきりで、他には何も無い。
どうやら集会場か何かであったと思われるが……すっかり錆び付いた金属の扉は外から打ち破られたようで、床に転がってしまっている。
その近くに散乱しているのは長椅子か何かだろうか……こちらもすっかり朽ちていて、判別はできない。
如何に保存の魔法といえど、対象物を破壊された上で長い年月を耐え抜くのは難しかったという事だろうか。
この辺りは魔法を使えないニノにはあまり理解できない部分ではある。
ロクナあたりに研究させれば面白い結果が返ってくるのかもしれないが、別にニノはそこには興味は無い。
適当に残骸を避けて歩きながら、壁や床に目を向ける。
そうした箇所には随分と古びてはいるが、血の跡がこびりついている。
壊れた長椅子の件も合わせれば……ここでは、エレメント以外の「何か」の虐殺が行われたのかもしれないし、あるいはエレメントに反撃を受けた者達が死んだ現場かもしれない。
どちらにせよ、今は判断する術は無いしニノは然程興味も無い。
ニノが思うのは「ここにもいないな」という、それくらいのものだ。
そしてそれは、結果的に言えば正解だ。
ここには過去しかなく、求める現在も未来も無い。
ここに留まるのは無駄でしかなく、ニノはそれを充分に理解していた。
故にニノは、入り口から出て行き次の建物に目をつける。
するとニノの眼前にアースエレメントが出現するが、何かをする前にニノの一撃で霧散する。
次から次へと現れるエレメント達は実に面倒であるが、ニノは普段ならするであろう舌打ちをしない。
何故ならば、元から分かっていたことだからだ。
予想以上の状況であれば舌打ちしただろうが、ここまでは予想の範疇だ。
そんな状況で舌打ちするのは、自らを無能と宣言するようでニノは嫌なのだ。
再度現れたアースエレメントの上にジャンプで飛び乗り、そこから更にアースエレメントを台にして跳び、ニノは更に別の建物の屋根へと駆け上がる。
不思議なものだがエレメント達は積極的に建物を破壊することを嫌がるようで、こうしてニノが屋根に駆け上がってしまえば無理矢理建物を壊すような事はないし、鈍重なアースエレメントは登ってくることすら出来ない。
そしてニノを見失ってしまったアースエレメントは、屋根の上のニノをそのままに何処かへと歩いていってしまう。
これで問題は無い。
ニノがそう判断する直前、新たなウインドエレメントが屋根の上に出現する。
「どけ」
ニノの一閃がウインドエレメントを霧散させ、その隙にニノは先程目をつけた別の建物へと向けて走る。
もう、入り込む窓は見つけている。
あとは、そこに飛び込むだけだ。
そして、ニノは軽やかに跳び……跳んだその瞬間を狙うかのようにニノの眼前にウインドエレメントが出現し「何か」に貫かれ、四散する。
ウインドエレメントが四散するその中をニノは突っ切り、目標の「窓」に取り付く。
「……」
ニノは、一瞬だけその「何か」が飛んできた方向へと視線を向ける。
今のは、「矢」だった。
それを使ってニノを援護するような輩は一人しか想像がつかないが、その人物はニノの可視範囲内に居ない。
その事実に少し驚きはしたが……まあ、今はどうでもいい話だとニノは思考を切り替える。
今やるべき事は相手を探す事でも一言告げる事でもなく、魔王たるヴェルムドールの命令を遂行することなのだ。
だから、ニノはすぐにそこから視線を外し次の建物の中へと潜り込んでいった。
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