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連載
たとえ、この身は滅ぶとも
しおりを挟む「……エレメントの都市に建築物、か。これ程奇妙なものもあるまい」
ヴェルムドールの言葉が、生きる者の無い廃都に響く。
目の前にあったのは、一部は崩れているものの美しく形を残した数々の建物の姿。
石造りの建物は特に特徴的な様式というわけではないが、しっかりとした建て方がされているのが分かる。
ザックリと言ってしまえば、普通の廃墟であるのだが……ヴェルムドールの台詞の意図するところが理解できなかったファイネルが、首を傾げる。
「奇妙、とは……その、どういう意味でしょう?」
「……エレメントは、魔力体なんです」
「それが、どうかしたのか?」
ルーティの端的な解説にファイネルは分からんぞ、と唸り……その様子を見てアルムがクスクスと笑っているが答えを言う様子は無く、イチカが小さく溜息をついて口を開く。
「つまり、この廃墟にある建築物はエレメントには不要な物だということです」
そう、エレメントは魔力体。
これはすなわち、物理的な干渉を受けない身体であることを意味している。
そして同時に、物理的な干渉をなしえない身体でもあるということだ。
肉の身体を持たぬ彼等にとってはどんな自然現象も自身を脅かすものとはならず、モンスター程度であればエレメントを傷つける事などできない。
通常の人類が「家」を持つのと同じ理由を、エレメントは持たないのだ。
それでも、エレメントが「家」を造り「街」を造った理由は何なのか。
「あえて不要であるものを造る事に意味があった、ってことですよね」
「そうね。趣味でやったんなら何処かに人が住むのには無理な構造や形状がありそうなものだけど……それもないわね。あくまで実用的で、遊びが無い。確実に住む為のものね」
ルモンの推測をロクナが補足する。
たとえばエレメントが「家」という文化形態を真似ただけなのであれば、何処かに芸術的要素が出る。
窓や扉がなかったり、二階以降があっても登る為の階段がなかったり、そもそも天井がなかったり。
そういうものがあれば、「遊び」であったと断ずる事もできる。
だが、見たところ普通の建物である。
内装に関しては流石に入ってみなければ分からないし、そうすると何か歪な点も見えるのかもしれないが……。
「……人類と分かり合おうとした結果、よ」
懐かしいものを見る目でレプシドラの光景を見ていたイクスラースが、ぽつりと呟く。
「エレメントは強かった。卓越した魔法能力と、一見無敵にも思える魔力体という身体。それでいて物質文化に興味がなかったし、肉の身体を持たないエレメントには肉の身体を持つ者なら当然ある「欲」も欠けていた」
華美な宝飾など意味は無いし、美食など作るだけ無駄。肉欲も、当然ながらあるはずもない。
他の人類の生き方を真似て建国した霊王国も、彼等が何者にも邪魔されず思索にふける場所でしかなかった。
当然建物など作ろうと思うはずも無く、国の境界を示す「壁」や国の象徴としての外観ばかりを真似た「城」くらいしかレプシドラにはなかった。
その生き方が、聖人に見えた者もいた。
虐げられた者や理想の地を求める者が、エレメントの住む地を目指してレプシドラへと殺到した。
数々の救いを求める声にエレメント達は困惑し、同時に肉の身体を持つ他の人類の不便さを間近で見るにあたり不憫に思った。
肉の身体を持つ人類は他の物質的な物を食わねばならない。
肉の身体を持つ人類は体調を崩しやすい。
肉の身体を持つ人類は家族あるいは個人という単位で纏まり、固有の場所を保有したがる傾向がある。
それらを調整、あるいは実行する為に「家」「街」などの環境が存在する。
エレメントには不要なこれ等のうち、早急に必要なのは「家」であった。
それであるが故に、エレメント達は「城」へと人々を案内した。
しかし外観を真似ただけの「城」は居住性に欠けていた。
だが、エレメントには何が悪いのか分からなかった。
エレメント達が悩んでいると、一人の人間が提案した。
此処に城があるならば、この城の周りに街を作ってよいだろうかと。
エレメントはそれを許容し、肉の身体を持つ人類の望む「家」について学習した。
そして一度学習してしまえば、作るのは簡単だ。
エレメントの魔法はそれを可能としたし、「警邏の騎士」の代わりに作ってみたゴーレムは力作業にも向いていた。
出来た「家」と「街」で幸せそうに暮らす肉の身体を持つ人類にエレメント達は興味を持ち、自分達も「家」という領域を持つようになった。
やはりその必要性はあまり理解できなかったのではあるが、「連絡先」という概念としての意味は理解できていた。
そして同時に、そうする事で肉の身体を持つ人類達を分かり合えたような気もしたのだ。
これによりレプシドラでは「生活を支える魔法」が発達し、それを聞きつけた人類が霊王国へと来るようになった。
街は大きくなり、首都と呼ばれるような規模になると同時に「王都レプシドラ」と呼ばれるようにもなった。
エレメント達はその交流を喜び、肉の身体を持つ人類達に聞いて制度をも真似るようになった。
エレメントの中で特に強く聡い者を正式に「王」と定め、ゴーレムを使って道の整備も始めた。
こうして「世界」に強く目を向け始めたエレメントと霊王国ルクレティオの栄華の次代は始まり……そして、それは同時にエレメントという「人類」の滅びの始まりでもあったのだ。
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