勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
431 / 681
連載

祈国セレスファ5

しおりを挟む

 ……そして、翌日。
 更にイチカとイクスラースを加えた一行は、祈りの壁へと向かっていた。
 流石に街中でアースワームを乗り回すわけにもいかないので歩きではあるが、「目立たない」などという思考はすでに捨てている。
 何故ならば、まずは「英雄」ルーティ。
 人類領域に住む者であれば子供でも知っている英雄を知らない者は居ない。
 そして、メイドナイトのイチカとニノ。
 いわゆる「知的な魔法使い」を地でいくロクナ。
 黙っていれば涼しげな美女のファイネルに元気印のメイド、クリム。
 更にこの中で一番身長は低いがミステリアスな雰囲気を持つイクスラース……ついでにアルム。
 この美女・美少女軍団が連れ立っているだけでも多数の者は振り返る。
 そして更に、少年期と青年期の中間程の中性的な顔立ちの青年、ルモン。
 笑えば多少凶悪なものの、基本的には美形であるヴェルムドール。
 少し離れて歩いているラクターが威圧感を出しているのを除けば、男女共に振り返らない者が居ないほどである。
 更に一行が向かうのは街の最奥の「祈りの壁」であり、近づけば近づく程人が増えていく。
 当然注目度も上がり……時折話しかけようとしつつも、諦める者の姿もチラホラ見え始める。

「……見られてるな」
「まあ、当然でしょう。人類の美醜の基準は僕等とそう変わりませんし。後ろのあの方がいなければ、囲まれてるかもしれませんよ?」

 ヴェルムドールにルモンがそう答えると、一同の視線は最後尾のラクターへと注がれる。
 山のような……というと大袈裟ではあるが、普通にしていても威圧感のあるラクターだ。
 万が一機嫌を損ねて彼にぶっ飛ばされるかもしれないと考えたら、声をかけるのは中々に勇気のいることだろう。

「それにしても、人は多いのに店は少ないのう。この辺りは中央じゃろう?」
「セレスファにおいては必ずしも中央が栄えているという訳ではありません。このあたりだと、祈りの壁に隣接していますからね……観光にしろ冒険者にしろ、そちらに人は集まりますから」

 観光と聞いて、ニノが馬鹿にしたように鼻で笑う。
 まあ、実際に態度に現すか現さないかの差だけで、ここにいる面々の心境は似たようなものだ。
 モンスター・エレメントはそのあたりにいるゴブリン等とは格が遥かに違う敵だ。
 確実に「敵」であり確実に「害」を為し、その結果は常にどちらかの死。
 それでいて、物理攻撃の通じない難敵なのだ。
 そんな相手が壁の一枚向こうにいるというのに、それを観光などというのは笑い話にもならない。

「……まあ、エレメントはレプシドラから出てきませんからね。一部の人には、祈りの壁がエレメントを封じていると信じる人もいます」
「なんとも平和な話だ」

 呆れたように言うヴェルムドールにルーティが苦笑し、イチカがその間にすっと入り込む。

「……それで。例の人物はもう、その壁の向こうにいるのですか?」
「その可能性はあると思います。彼女は闇の護符を持っていますから」

 闇の護符。
 それはかつてレルスアレナが語った、「エレメントに襲われない」という効果を持つペンダントである。
 彼女はそれを貸す事を良しとせず、リューヤ達に一時的に同行していた経緯がある。

「彼女からしてみれば、どの場所よりもレプシドラの方が安全に感じるはずです。この近くまで来ていれば、街中よりも可能性が高いでしょう」

 そうやって話しているうちに、街の端からも見えていた白い壁が近くなってくる。
 街を守る砦代わりの壁とは違い、正しく「壁」としての役割しか持たない壁。
 そこに設置された門は大きく開かれ、騎士達がその両端に立っているのが見える。
 しかしながら警備というよりは立っているだけのようで、時折武具を纏った者達が入っていくのを気にもしていない。

「なあ、あの警備に意味はあるのか?」

 そんなファイネルの感想も当然で、時折欠伸をしているのすら見える。
 見張りの意味すらなさそうだ。

「あー……あれはですね。子供が悪戯で入り込むのを防ぐくらいの意味しかありません。中に探索目的で入る者に関しては自己責任ですね」

 過去に色々あった結果です、とルーティは肩を竦める。
 
「自己責任ですか。便利な言葉ですが……まあ、そうするしかないのでしょうね」

 イチカの呟きに、ルーティは頷く。
 この街に来る者の目的は大抵がレプシドラであり、もっと言えばレプシドラに眠ると言われる「霊王国の遺産」である。
 一つ持ち帰るだけでも相当な値がつくと言われ、その為ならば命くらいかけてやると豪語する輩は多い。
 そしてそういう輩を制止して下手に怪我人を出すよりは、通してしまったほうがセレスファの騎士団としても色々な意味で後腐れが無いのだ。
 何しろ命からがら逃げ帰ってくれば二度と挑戦しようなどとは思わないだろうし、帰ってこなければその者が再度無茶をすることはない。
 今のところ見たことは無いが、もし目的を果たして帰ってくれば「更に儲けよう」と思わない限りは再度の挑戦をすることもないだろう。
 ……という風に、「通した」ほうが管理が結果的に楽になってしまうのだ。

「まあ、いいことだ。おかげで俺達が通ろうとも何も言う者はいないのだからな」
「その通りですね」
「そうだね」

 ヴェルムドールの言葉にイチカとニノが即座に頷き、互いに睨み合う。

「……あー、お前等。こんな所でケンカを」
「おい、兄ちゃん。女侍らしていいご身分じゃ」

 ヴェルムドールの拳が眼前に立ちはだかって何かを言いかけた男の腹にめり込み、男はガクガクと膝を震わせて倒れこむ。

「あー、なんだ。こんな所でケンカをするなよ?」
「……どの口が言うんですか」

 邪魔だとばかりに男を蹴り転がしたヴェルムドールを見て、ルーティは額に手をあてて深い溜息をついた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。