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連載
テトラ遊国へ
しおりを挟む胡散臭い。
アースワームを降りたルーティがまず感じたのは、そんな感情であった。
シオンとニノ。
二人組の冒険者の事は一部では有名だ。
大きな事件の解決こそ無いが実力は上位で五本の指に入るだろうと言われ、しかも他の冒険者が放り出すようなものを率先して解決する人格者。
目先の金に惑わされぬその姿こそ、まさに正義と慈愛の表れ……などと色々言われていただろうか。
聖アルトリス王国の騒ぎで何処かの国へと旅立ったと言われて以降ぷっつりと消息の途絶えた二人だが……まあ、当然だろう。
魔王ヴェルムドールとその側近のニノこそが、その正体なのだから。
顔が全く同じなのに正体がバレていないのは、冒険者シオンとニノの二人組が表の場に出るのを嫌っていたからに他ならない……とルーティは思っていた。
しかし久々に「冒険者シオン」としてやってきたヴェルムドールを見て、ルーティは「胡散臭い」という感想しか浮かんではこない。
「こんにちは、ルーティさん。護衛の依頼を受けたシオンです」
格好はいつもの服装とは違う、シンプルな装備。
といっても恐らくはシンプルなのは見た目だけで、性能は高いのだろうが、それはさておき。
標準装備の威圧するかのような雰囲気はどこへいったのか、その顔には爽やかで好青年のような表情を浮かべている。
世間で言われているような「冒険者シオン」に相応しいこの男を見て、「あいつは魔王だ」と言うような者は居まい。
隣でくっついているニノもなんだか微妙な表情でヴェルムドール……いやシオンを見上げている。
思い出せば「シオン」にルーティが会った時もこうだったような気はするのだが、「魔王ヴェルムドール」に慣れた後だと違和感しか湧いてこない。
思わずシオンをじろじろと見てしまうルーティだが、シオンはそれに困ったような苦笑を浮かべてみせる。
「どうしました? 何か気に入らない点でもありましたか?」
なんか胡散臭いのが気になる。
胡散臭すぎて警戒してしまう。
……とは流石に言えず、ルーティはそっと隣のニノへと視線をスライドさせる。
どうやらニノは何も見なかったことにするつもりなのか、シオンの服に顔を埋めている。
やはり普段とのギャップ差が激しいのだろうか……と思ったものの、ルーティの耳にはしっかりと「「シオン様」はニノだけのものなのに」とかいう台詞が聞こえてくる。
どうやらギャップとかではなく、「シオン」という一面を他の者が見ていることが気に入らないらしかった。
とりあえずそれについてはどうしようもないので聞こえなかったフリをして、ルーティはぎこちない笑みを浮かべる。
「い、いえ……。それではシオン殿も乗ってください。出国手続きはやっておきますので」
「ええ、お任せしました」
そう言ってアースワームの縄梯子を登っていくシオン達を一瞥した後ルーティは溜息をつき、出国用の関所を見上げる。
比較的立派な石造りの門のようなソレは、横をすり抜けようと思えば幾らでもすり抜けられる。
ジオル大森林は広大であり、別にその全てを壁で囲んでいるわけでもない。
あくまで街道を整備している場所に、そうしたものを置いているに過ぎないのだ。
それでも何故そうしたものがあるかといえば、色々な役割がそこにはある。
たとえば、街道の治安維持。
街道で待ち伏せする盗賊などが居れば退治できるような戦力の確保や、そうした盗賊に追われた者の保護。
そもそも盗賊が出ないようにする為の巡回、そして威嚇としての効果。
そうした役目が関所には課せられている訳だが、この出国用の関所の場合には向かう場所が危険な事も多い中小国であるが故に警告の意味も含まれている。
逆に「入国」する者に関しては禁止物品を持ち込まないようにする為の警告などの意味も含まれている。
この辺りは大国ならではの厳しさ……というよりは、戒律の国とまで言われるジオル森王国ならではの厳しさであるだろう。
言うなれば、知らずに戒律を破らない為の優しさでもあるのだ。
「これはこれは、ルーティ様……!」
門の近くに立っていた騎士の一人が、ルーティが近寄ってくるのを見て駆け寄ってくる。
ある意味で「憧れの人」であるルーティの顔を知らないシルフィドは少なく、この騎士も例外ではなかったらしい。
「例の地へ向かわれると聞いてはおりましたが……お早いお着きで!」
「ええ。アースワームを使っていますからね。馬車の旅よりはずっと早いですよ」
「そうです、ね……」
言いながら騎士はアースワームへと視線を送り、すぐにルーティへと視線を戻す。
あまり同意を得られた風ではなかったが、とりあえず気にせずルーティは話を進める事にする。
「話が通っているなら手間が省けますね。そういうことですから、通って構いませんね?」
「はい、何も問題ございません。今門を開けますので少々お待ちください」
そう言うと騎士は手を上げ、門へと向けて叫ぶ。
「開門! アースワームが通る、周囲の確認を怠るな!」
バタバタと慌しく動き始める門周辺へと視線を送った騎士は、ルーティへと敬礼すると「そういえば」と口を開く。
「ルーティ様なら心配は要らないと思いますが、テトラ遊国は近頃怪しい動きが増えているといいます。お気をつけて」
「ええ、ありがとうございます」
「では、良い旅を!」
そう言って門へと走っていく騎士を見送ると……ルーティの背負っていた弓から、囁くような声が聞こえてくる。
「怪しい動きって、何?」
「……戦争、というわけではないでしょうね。考えられるとしたら……」
呟きかけて、ルーティは黙り込む。
「どしたの?」
「……いえ。続きは門を抜けてからにしましょう」
まさか、とは思う。
同時に「やりかねない」とも思う。
テトラ遊国。
そこへと繋がる門が開いていく音が……ルーティには、やけに重々しく聞こえていた。
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