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闇の巫女レルスアレナ3
しおりを挟む「蹴散らしなさい」
出現した赤いゴーレムに少女が命令すると、地響きをあげながら赤いゴーレムは疾走する。
その姿に明確な脅威を感じたのだろう、驚きのあまり固まっていたビスティア達は赤いゴーレムに向けて殺到していく。
しかし、その透き通った鉱石のような身体に爪は通らない。
そして、その透き通った鉱石のような身体は剣を弾き返す。
だというのに、赤いゴーレムの蹴りはビスティア達を薙ぎ払っていく。
巨大といっても、精々大人二人分。
ビスティア達が一斉にかかれば引き倒すこともできそうなものだが、飛び掛ったビスティア達はほぼ例外なく弾き飛ばされていく。
暴れまわる赤いゴーレムにビスティア達は村長の家の扉を壊そうとするのをやめて次々に赤いゴーレムへと飛び掛っていくが……それを好機とばかりに、少女はビスティア達が離れた村長の家の扉へと近づいていく。
だが少女が動いた事によって風に漂う香りをビスティアが逃すはずも無く、何体かのビスティアが振り返り少女へと殺意に満ちた視線を向ける。
「……チッ」
少女は舌打ちすると今度は青い宝玉を取り出し……少し考えてから、それを再び懐へと仕舞いこむ。
そうして杖をビスティア達へと向けると、ビスティア達はそれが何かを理解しているかのように散開し少女へ向けて走ってくる。
だが、少女はその無表情な顔を一切変化させない。
少女の口から出るのは焦りを一切感じさせない、淡々とした詠唱だ。
「突撃せよと大地に命じた。故に、そこには千の墓標が残された。ならば、私もまた命じよう」
少女の杖が、地面を軽く叩く。
杖が触れた場所から魔力が地面へと伝わり広がっていく。
それは少女と杖を中心に円形に広がり薄く輝く。
「天を穿つ千槍墓標」
そして、大地から突撃槍にも似た尖った岩が次から次へと突き出てビスティア達を貫いていく。
その岩槍に走る者も跳ぶ者も等しく貫かれ、ただ屍を晒す。
文字通りの「墓標」となった岩槍は少女が杖を地面から離すと同時に消え、ビスティア達の死体が地面に重なっていく。
少女はそれには一切興味を向けず、ひょいひょいとビスティアの死体を避けるように歩いて村長の家の扉へと近づいていき……響く轟音に気付き、振り返る。
「……はぁ」
溜息をつく少女の視線の先にあった光景は、筋骨隆々のビスティアに殴り倒される赤いゴーレムと……少女に向けて杖を構える、ローブ姿のビスティアの姿。
「アア……火撃ァ!」
生まれた火球を、少女は水の魔法障壁で防ぐ。
だが、その隙を狙って筋骨隆々のビスティアが走ってくる。
魔法障壁を張ったタイミングで物理攻撃を仕掛けてくるというのは対魔法使い戦での常識であり……杖を持っているところを見ても、このビスティア達が魔法使いを相手にしたことがあるのではないかという「上手さ」をうかがわせる。
相手をさせていたはずの赤いゴーレムは立ち上がろうとするところを他のビスティア達が飛び掛り、抑え付けようとしている。
そんなものはゴーレムからしてみれば些細な抵抗のはずなのだが、何故かその動きは鈍い。
少女がその理由を探るまでも無く……強制的に、少女はその理由を理解する。
赤く輝くその瞳から、強烈な威圧を感じたからだ。
「……魔眼」
威圧の魔眼。
魂にまでビリビリと響き屈服させようとするかのようなそれは、かなり高ランクのものであることが分かる。
成程、このくらい高ランクであれば自意識などないゴーレムが「威圧」されてしまったのも頷けると少女は納得する。
自然と少女の動きも鈍り、口を動かすのすら困難になりつつある。
先程出そうと考えてやめた青い宝玉も、今からでは出すのも難しい。
杖で自身を支えるようにして立つ少女を見て、筋骨隆々のビスティアは勝利を確信したような笑みを浮かべ、少女の頭を噛み砕こうとするかのように鋭い牙の並んだ口を大きく開き、跳ぶ。
少女との距離を一気に詰める跳躍は、次の瞬間には少女に届く。
故に、もう少女が何をしようと間に合わない。
ビスティアと少女の間に土の塊で出来た人型が現れてさえいなければ、絶対に。
「……クレイゴーレム」
少女は淡々とした声で、人型に命じる。
「そいつを、殴り飛ばしなさい」
並んだ鋭い牙が、へし折れる。
勝利を確信していた笑みが、物理的に歪む。
涎と血と鼻血を撒き散らしながら、筋骨隆々のビスティアが転がっていく。
同時にビスティアを全力で殴ったクレイゴーレムの拳も砕け、それを合図とするかのようにクレイゴーレム自体も崩れて土の山のようなものになってしまう。
だが、もう問題は無い。
すでに威圧の魔眼の効果は解除され、少女の手には輝く青い宝玉がある。
「……来なさい、ブルーオーブガーディアン」
そうして、先程のものとは色違いの青いゴーレムが現れる。
「蹂躙しなさい」
その命令を受け、起き上がった赤いゴーレムと共に青いゴーレムは暴れまわる。
筋骨粒々のビスティアは踏み砕かれ、杖のビスティアも蹴り砕かれる。
襲い掛かるビスティアも逃げ惑うビスティアも等しく蹂躙されていく光景を余所に、少女は村長の家の扉の前へと辿り着いていた。
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