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そして、歩き出す事を決めた4
しおりを挟む状況をまとめるならば、こうだ。
まず、次元の狭間に行くには光の鍵と闇の鍵が必要である。
闇の鍵は「闇の巫女」レルスアレナが持っている。
その所在は不明であり、ルーティにも行方は掴めていない。
「……ふう、随分と……まあ……」
闇の鍵とやらを手に入れるのに、随分と問題が多すぎる。
救いがあるとすれば、ルーティが本人の顔を知っていることだろうか。
シルフィドであれば然程顔が変わっているとも思えないし、生きているのであれば見つかるだろう。
まあ、だがそれも「いつかは」という但し書きがついてしまう。
いくら諜報員がいるといってもシュタイア大陸は広く、四大国の中ですらも「政治的に重要人物ではない」者を探すのは困難を極める。
更に手を伸ばしきれていない中小国にいたりすれば、更に難易度は高くなり至難の域に達してしまう。
トドメに、相手は世界を放浪するような人物だ。
噂すら掴めないのであれば、それはもうあるかないか分からない幻を追うのと変わらない。
どうしたものかとヴェルムドールは考え……ふと、ルーティへと視線を送る。
いや、正確にはルーティが背負っている殲弓レナティアへ……だ。
そういえば確か、この連中は次元の狭間へ出入りする能力を持っていたのではないだろうか、と思い出したのだ。
もしそうだとすると、わざわざ闇の巫女などという相手を探す必要もないのではないだろうか?
「……おい、レナティア。聞きたいことがある」
ヴェルムドールはそう声をかけ……しかし、レナティアは答えない。
しばらく待ってみて何も返答がない事を確認したヴェルムドールはもう一度同じように繰り返してみるが、やはり同じだ。
もしや武器形態になると話が出来ないのだろうか。
そうヴェルムドールが考え始めた矢先、ルーティが殲弓レナティアを軽くコンコンと叩く。
「レナティア。もしこの状態だと話せないというのであれば、元に戻ってもいいのですよ?」
ルーティの囁きに、しかし殲弓レナティアからはチッという舌打ちが聞こえてくる。
「別に喋れるよ。ったく、めんどいから黙ってようと思ったのにさあ」
「ということは、今までの話は聞いてたんだな?」
「おー、聞いてたよ。それがどうしたってのさ」
心の底から面倒そうなレナティアの返答に、ヴェルムドールは全く気にせずに用件を伝える事にする。
「ならば話が早い。お前、次元の狭間へ行けるな?」
「ああ、行けるよ」
「そこに、俺の指定する人員を連れて行ってほしい」
それが出来るならば話はとても簡単だ。
さっさと次元の狭間に乗り込んで、グリードリースとやらを倒してしまえばいいのだ。
ついでにアルヴァも根絶できれば、今後は随分やりやすくなるだろう。
そう考えるヴェルムドールに返ってきたのは、アッサリとした返答だ。
「ああ、無理。できない。諦めとけ」
「無理……?」
「それは魔力的な問題ということか?」
ルーティとヴェルムドールから出た疑問に、殲弓レナティアは違うと否定する。
「そういうアレじゃなくてさー。単純に入れないぜ?」
「入れない……? だが、お前は入れるんだろう?」
「僕はね。でも、僕以外は入れない」
次元の狭間へ出入りする技は、確かにレナティアも使える。
だがそこへは、一定の資格か権限か……そういったものを持っている者しか入れないようなのだ。
「いつだったかな。撤退しようとする剣魔に追撃かけようとした勇者を、次元の狭間で弾き飛ばしたことがあったって聞いたけど」
「……そういえば、確かにそんなことがありました、が」
昔を思い出すように、ルーティは遠くを見る。
確かに一度、そういうことがあった。
空中を引き裂き現れた極彩色の空間に入っていく剣魔を追おうとしたリューヤが、思い切り弾き飛ばされた事は……確かに、あった。
無理矢理入ろうとしたからそうなったのだとばかり思っていたが、あれがそうでなかったとしたら。
「あれは、無理矢理入ろうとしたから……ではない、と?」
「違うよ。陰険策士気取りが昔言ってたけど、僕等が作る「裂け目」は特殊なものらしくてね。まあ、こっちから次元の狭間へこっちの連中を運ぼうと思うなら、転移魔法を使う必要があるらしいよ?」
転移魔法でいけるならば、もっと話は簡単だ。
人類には難しいだろうが、魔族には出来るのだから。
しかし、ヴェルムドールが具体的に行く為の計算を始めようとする前に殲弓レナティアは言葉を続ける。
「まあ、実際に転移魔法で行き来するのは至難らしいけどね。空間が有り得ないくらい歪んでるから、座標の指定なんかまず無理だって言ってたよ。力技で「外」へ転移した奴はいたらしいけど、逆はどうかなあ……」
……なるほど。
それでは確かに転移魔法で次元の狭間へ行くことは無理だろう。
そして、レナティアに連れて行ってもらうのも恐らくは無理だ。
それについては試す事もできるが……あまり得策とはいえない。
「分かってるとは思うけど、次元の狭間への穴を此処で作るのはオススメしないよ。アルヴァが寄ってくるかもしれないし、何より陰険策士気取りが気付いたら妙な事を考えないとも限らない」
「……そうだな。となると、それ以外で方策を考えねばならんが」
とはいえ、どうしたものか。
そう考えていると、ルーティが軽い咳払いをして全員の視線を自分へと向ける。
「彼女に……レルスアレナに会える可能性は、あります」
「ほう?」
少し自信ありげなルーティの様子に、ヴェルムドールは興味を引かれ聞き返す。
「彼女ならば必ず立ち寄る場所が、一つだけあります」
その台詞に、ヴェルムドールは一つの可能性を思い浮かべる。
「……呪都レプシドラ。禁じられた場所となったあの地であれば……彼女と会える可能性は、あります」
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