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連載
クロードの記憶3
しおりを挟む杖魔から受け取ってきてね、と言われたクロードは玉座の間を出て、長い廊下を歩く。
ぐねぐねと曲がった廊下は上下左右の感覚すら無くすような奇妙な構成で造られており、この城の歪さを如実に示している。
「……杖魔か」
確か魔王シュクロウスの部下であったという魔族だったか、とクロードは思い返す。
確か杖魔も死んでいたはずだが……まあ、クロードと同じように蘇ったのだろう。
いや、蘇ったという表現は少し違うだろうか。
恐らくは、杖魔もまたクロードと同じモノに過ぎないのだろうから。
「しかし、杖魔は何処にいるんだ……すぐに分かると言っていたが」
「私に御用ですか?」
背後の通路に突然現れた気配。
それに即座に反応しクロードは剣を抜こうとし……無い事を思い出すと、即座に拳打に切り替える。
だが、そこにいた赤いローブの何かの胸元に打ち込んだはずの拳はローブの中に何も居ないかのように手応えが無い。
「おおっと! これはご挨拶ですね」
ローブの何かは白い仮面を被っており、手に思えたものはローブから漏れ出す闇のようなものであることが分かる。
その手に握られた大きな魔法石の嵌った金属杖を見れば、それが目的の相手であろうことはクロードにも想像がついた。
「お前が杖魔か」
「如何にも。再度伺いますが、何か御用ですか?」
芝居がかった仕草で礼をしてみせる杖魔に、クロードは胡散臭さを感じながらも用件を言う事にする。
「斬剣ルーテリスとかいう剣を貸して欲しい。グリードリース殿の許可は得ている」
「……ほう?」
その言葉に、表情など分からぬ杖魔の顔が笑みに歪んだようにクロードには見えた。
「よりにもよって、アレですか。使用目的について伺っても?」
「頼まれ事と、俺の目的の為だ。それ以上が必要か?」
そう言って睨み付けると、杖魔は肩を竦めるような動作をしてみせる。
「いいえ、必要ありませんとも。単なる興味ですからね」
「そうか。ならさっさと剣を出してくれ」
「ええ、いいですとも。その前に剣魔を探さねばなりませんがね」
剣魔。
再び出てきたシュクロウス配下の魔族の名前に、クロードは疑問符を浮かべる。
「何故、という顔をしていらっしゃいますね」
「当たり前だろう。剣魔に何の関係がある」
「ありますとも。斬剣ルーテリスというのは、剣魔の剣形態のことですからね」
そう言って、杖魔は小さく笑う。
「そもそも我等四魔将はシュクロウス様の四つの武器であり……比肩するもの無き最強の武器なのです」
「……なるほど、武器か」
「ええ、武器です。それが何か?」
「確かに武器であれば、己が何者かなどということに意味は無いのか」
そう言って納得するクロードとは逆に、杖魔はぴたりと動きを止める。
「おかしな事を言いますね」
「ん?」
「武器であればこそ、己が何者であるかということを強く意識するものです。特に私は、ただの武器ではありません。史上最強の呪杖マゼンダにして、最高の魔法使いでもあるのですから」
自信満々に言ってみせる杖魔に、クロードは答えず……しかし、一つの確信をする。
この杖魔という魔族は、何も聞いていないのかもしれないと。
だからこそ、一つカマをかけてみることにした。
「……ところで、お前等が放っているという融合能力のアルヴァのことだが」
「ああ、他者を乗っ取るアルヴァですね。それが?」
「それは、死体にも融合できるようなものなのか?」
クロードの発言に、杖魔は少し考えるような様子を見せた後……杖でコツン、と床を叩く。
「というよりもアレは、死体にしか憑依できませんよ。生きている奴の魂は強固ですからね。一度殺す必要があるんです。で、それが何か?」
「……いや、聞いてみただけだ」
「そうですか」
杖魔はその話題にすぐに興味を無くしたようだったが、再度杖で床をコンコンと叩き考え込むような様子を見せる。
「……さて、と。剣魔を探さないといけないんでしたね。どれ」
杖魔が集中を始めると、杖魔の持つ金属杖の魔法石に輝きが宿り……そして、怪しげな光の波紋が周囲へと広がっていく。
それは発動と同時に薄くなり無色へとなっていくが、杖魔はそのまま動かない。
そうして少しの沈黙の後に、杖魔はピクリと小さく動く。
「……見つけましたよ」
「相手を探す魔法か? 便利だな」
輝きを失った杖を見ながらクロードが素直な感想を言うと、杖魔は杖を振って否定するような様子を見せる。
「そんな便利なものではありませんよ。随分昔に勇者リューヤが使った魔法の真似事ですが……この魔法を使うと、魔力を放つ分効果範囲内の相手に「何かいる」と知らせてるようなものですからね……そら来た」
そう言って振り返る杖魔の視線の先には、何かが慌しく走っているような音が響いている。
やがて曲がり角で急停止したそれは、杖魔を見つけて指を突きつける。
「おいコラァ! さっき妙な魔力投げてきたのてめぇだろ杖魔! この根暗の根性悪! 今度ぁどぉいう嫌がらせだっ!?」
まるでチンピラか何かのような口調でがなりたてるのは、凶悪なデザインの銀色の全身鎧。
「ご紹介しましょう。あれが剣魔です」
そう紹介する杖魔に、クロードは頭痛がするのを感じ始めていた。
************************************************
次回、場面が戻ります。
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