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英雄会談13
しおりを挟む「残念だが、そういうわけにもいかない」
「は? 何言ってんの?」
明らかな敵意を見せるレナティアに少し引きつつも、ネファスは咳払いをする。
「先程も言ったが、この辺りで異常とも言える魔力の高まりを感知した。俺はこの原因を可能な限り探らなければならないんだ」
「神経質かよ。そんなもん、どうでもいいだろが」
「どうでも良くは無い。ただのケンカなら……いや、よくはないが納得はいく。だが、もし魔力異常であれば街中にエレメントが発生する可能性もある」
ネファスの真面目極まりない台詞にレナティアは溜息をつくと、動物を追い払うかのような仕草で手を振る。
「万が一発生したら僕がボコっとくよ。ほら安心だ。どっか行け。しっしっ」
「……やけに俺を追い払いたがるな」
「あーもう、マジめんどくせえ。なんなの、お前。僕に惚れてんの?」
その言葉にネファスは一瞬驚いたように目を見開き、何かを思い出すようにふっと笑みを浮かべる。
「いや……俺にはすでに惚れた相手がいるからな」
「聞いてねえよ。のろけたいなら、どっか隅っこで猫か鳥にでも聞いてもらえよ」
「のろけたいのは山々なんだがな。俺の片思いで」
「あのさあ!」
苛立ったレナティアは立ち上がると、ネファスの服を掴む。
本当は襟を掴みあげたかった所だが、身長差がありすぎて出来なかったのだ。
レナティアはそれでもネファスを睨みつけ……そこで初めて、ネファスの目に気付く。
先程までくだらない話をしていたネファスの目は……恐ろしく真剣な色を宿していたのだ。
「……お前」
「正直に言おう。こんな屋根の上に弓を持って上っている君を怪しんでいる。ついでにいえばその弓……かなりの魔力を秘めている。大した理由も無くこんな所にいるというのは、納得できないな」
レナティアはネファスの服を離すと、その胸元をドンと突く。
しかしネファスは全く揺らがず、じっとレナティアを見つめる。
「お前は、何処の誰だ? 実力があるのは見れば分かる。冒険者か?」
「……何の関係があるってのさ」
「その反応からすると冒険者ではない……が、対応が上手いわけでもない。何処かの諜報員という線もなさそうで安心した」
勝手に頷くネファスにイラッとしたレナティアはもう何も話すまいと口を噤むが、ネファスは気にした様子も無い。
「此処で発生していた魔力。恐らく、原因の一端はお前だな?」
レナティアは、何も答えない。
しかし、それも想定内であるというかのようにネファスは言葉を続ける。
「この街には今、少々面倒な相手が来ている。出来れば騒ぎは起こして欲しくないんだ」
「フン」
ぷいと余所を向くレナティア。
全身で拒否する姿勢だが、とある緑色のメイドナイトに慣れているネファスには全くダメージはない。
「黒髪で黒目の男でな。珍しいからすぐ分かると思うが」
「それなら会ったよ」
「何……?」
「黒髪で黒目。おのぼりさんっぽい態度の割には金のかかってそうな装備。そんな感じの奴?」
「た、態度までは知らないが……たぶんそいつだな」
ふーん、とレナティアは呟き……トール君って「面倒な相手」とやらだったんだなあなどと呟く。
「おい、待て。名前知ってるのか?」
「知ってるよ。聞いたからね」
「……それを言えばすぐだっただろうが」
ネファスの疲れたような言葉に、レナティアは悪戯っぽく舌を出してみせる。
「ああ、ごめん。君の事なんか嫌いだから忘れてたってことにしてたよ」
「……俺の何がそんなに嫌いなんだ」
「粘着質なところ。本人が自覚してなさそうなのが更にタチ悪い」
レナティアのほぼ反射的な返事にネファスはぐっと呻き……しかし、それでも落ち込み蹲るような真似はしない。
「そ、そう……か。まあ、とにかくこの後は出来るだけ関わらないようにしてほしい」
「なんで?」
「面倒なんだ。別の国からの来賓でな……」
別の国。
このジオル森王国以外で「来賓」になれる地位の人間のいる国をレナティアは頭の中で考え……すぐに、その答えを導き出す。
「ああ、聖アルトリス王国かあ。確かにめんどくさいね」
「良く分かったな」
「他に無いでしょ。まあ、うん。気をつけとくよ。それでいいかな?」
「ああ、それでいい」
頷くネファスに、レナティアはにこりと優しく微笑みかける。
「んじゃ、用事は終わったね? とっとと帰れ」
「……そんなに俺が嫌いか」
「うん。帰れ」
ネファスが来た方向を指差すレナティアに、ネファスは小さく溜息をつく。
「最後に、一つ。あの魔力の高まりはなんだ? まるでこれから何か戦闘でも始まるかのような高まり方だったが」
真剣な表情のまま聞いてくるネファスに対し、レナティアの態度はそっけない。
「戦闘なんか見ての通り始まってないよ。僕はこの街で騒ぐ気は無いからさ。とっとと帰れ」
そのまま帰れコールを始めるレナティアに、ネファスは仕方無さそうに分かった、と呟く。
「そこまで言うなら帰ろう。だが、名前くらいは教えておいてくれ」
「最後の一つは終わっただろ?」
「そこを曲げて頼む」
言わなきゃまた粘るんだろうな……と考えたレナティアは、仕方なく名前を教えることにする。
「レナティア」
「そうか。レナティア。またな」
そう言って屋根の上から降りていくネファスを見送り……その姿が完全に見えなくなったあたりで、レナティアは深い溜息を吐く。
「……ああ、もう。余計な時間くっちゃったよ」
そう呟くと、レナティアは再びルーティの屋敷の方角へと目を向けた。
************************************************
次回、場面が戻ります。
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