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英雄会談
しおりを挟む……そして、翌日の朝。
窓から差し込む光に目を覚ましたルーティは、ゆっくりと目を開ける。
無駄に広いルーティの屋敷の中で私室と使っている部屋に置かれたベッドはまた無駄に大きく、二人くらいならば余裕で寝られるであろう大きさがある。
しかしこの屋敷の住人は使用人を除けばルーティのみであり、当然一緒に寝る相手など居ないのだが……何やら妙な重みを感じて、ルーティは僅かに身じろぎをする。
未だぼうっとする頭ではいまいち判別ができないが、昨日のように暖かい気すらもする。
「ん……」
ゆっくりと覚醒を始める頭を軽く動かすと、そこにはファイネルの幸せそうな寝顔がある。
しっかりと抱き枕にされているが故の重みには、もう驚きはしない。
たぶんそうだろうな、という予感があったせいだろうか。
「……うぴぅ」
昨日とはちょっと違うながらも幸せそうな寝息……いや、寝言だろうか?
しかしその顔は段々と気難しいものになっていく。
「うう……踏むなぁ、私のだぞう……」
「一体何の夢を見てるんですか……」
ぎゅうっと自分を抱きしめてくるファイネルを押して引き剥がすと、ファイネルは「あー」という悲しそうな声をあげる。
「やめろぉ、もうそれは手に入らなぁ……」
何かを探すように手を動かすファイネルの手に枕を押し付けると、再び安心したようにすぴぅ、という寝息を立て始める。
そのまますぴすぴと幸せそうな音を立てているファイネルをそのままに、ルーティはベッドから起き上がる。
みつあみにした髪を揺らし、軽く湯浴みでもしようかと考えて……ふと思い出したように、ファイネルの手から枕をとりあげる。
再び悲しそうな顔で「あー」と言い始めたファイネルの顔にそのまま枕をぼふっと投げつけると、次の瞬間にはファイネルが飛び起きる。
「な、なんだ!?」
「何がなんだ、ですか」
「む、おはようルーティ」
生真面目な顔で朝の挨拶をするファイネルに気が抜けたように肩を落とし、ルーティはおはようございます、と返す。
「……で、どうして私の部屋にいるんですか。確か貴方には客室を用意しましたよね?」
「なんか落ち着かないから来た。よく眠れたぞ。だが聞いてくれ、サンクリードが酷いんだ。夢の中にまで現れて私の駒を踏むんだ」
「意味が分かりません」
「説明するか?」
「いりません」
そんな事言うなよ……と不満そうなファイネルに溜息をつくと、ルーティは手元のベルを鳴らす。
すると控えていた使用人……ではなく、イチカがすっと現れる。
「おはようございます、ルーティ様」
「はい、おはようございます。いいんですか、ファイネルはともかく貴女までこっちに来て。目的はハッキリしてるんですし、必要なときだけいればいいのでは?」
そう問うルーティに、イチカは首を横に振って答える。
「形として此処の使用人を装いますので、他の使用人との連携がとれていなくてはなりません。時間的にはギリギリというところですが、しっかり仕上げました」
無表情ではあるが、しっかりとした自信が垣間見える顔を見て、ルーティはそうですかとだけ答える。
具体的にどうとか聞きたい気持ちがないわけではないのだが、その辺りに踏み込んで詳しく聞いたところで、理解できる自信もなかった。
「……その服は……」
イチカが着ているのは、いつもの黒いメイド服に鎧姿。
メイドナイトとしてのイチカの正装である。
他の使用人達と比べると、少々浮いている感は否めないのではないだろうか?
そう考えて、いやしかしとルーティは思い直す。
イチカは、普通のメイドなどではない。
最高の従者と呼ばれるメイドナイトである。
その秘めた実力はある程度の者であれば察知できるだろうし、そうなれば「ただの使用人」を装うのはむしろマイナスだろう。
むしろ、「メイドナイト」としてその場にいた方が不自然さはない。
「いえ、なんでもありません」
「そうですか」
イチカは頷くと、すっと道を開ける。
「部屋の片付けは湯浴みの間にしておきます。朝食の準備もほぼ終わっておりますので、食堂へ向かう頃には完成しております。例の客人については予定通り、その後にこちらに来る予定です。各員の情報も手にいれてありますが、そちらについては朝食の時にお伝えします」
「え? あ、はい」
すらすらと並べ立てられ、ルーティは頷く。
「貴女も早くなさい、ファイネル。いつまで寝ぼけてるつもりですか」
「分かってるよ……まったく、イチカは厳しいな」
「普通の事しか言っていません」
ピシャリと言うイチカにファイネルはあくびで答え、仕方無さそうにベッドから降りて伸びをする。
「ふうー……ああ、いい朝だ。こっちは太陽が見えるせいか、寝覚めはスッキリしているな」
「暗黒大陸はいつも曇天でしたからね。あれも今考えると不思議なのですが……」
「そんな細かい事は知らん。イチカに聞け」
「私も存じません。しかし、恐らく自然に……というわけではないでしょうね」
まあ、それもそうだろうとルーティも思う。
曇天が多いというならばともかく、暗黒大陸は常に曇天だ。
そんなものが自然であるはずはなく、何かしらの理由があるのは当然だろう。
だがまあ、今追及することでもない。
とりあえずはまあ……湯浴みだろうか。
そんな事を考えながら、ルーティはいつもよりも少しばかり騒がしい自室を出て行った。
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