358 / 681
連載
魔王談義5
しおりを挟む「アルヴァクイーン……か」
「何かあるのか?」
ヴェルムドールの問いかけに、イクスラースは頷いてみせる。
「確かアルヴァクイーンは、疑心の魔王……を名乗ってたはず、よ」
その辺りの記憶も定かではないが故に、少し自信なさそうにイクスラースは答える。
疑心の魔王。
キャナル王国を取り巻いていた状況にはピッタリのその称号に、ヴェルムドールは納得したような顔をする。
「疑心の魔王か。なるほどな、確かに搦め手が得意とみえる」
「それだけならまだ楽なのだけれどね」
「そうだな。しかし……」
「何よ」
自分を見つめるイクスラースに、ヴェルムドールは真剣な表情を向ける。
「何故、アルヴァクイーンはお前を欲しがった? こう言ってはなんだが、お前を引き込むメリットが俺や……あるいはカインへの人質という観点以外からはあるとは思えん」
「言ってくれるじゃないの」
「悪いとは思っているが、真面目な話だ。これがたとえばイチカであったとしても同様だ。魔族一人を引き込む事と、俺に手札や狙いを晒すデメリットが釣り合うようには思えん。疑心の魔王を名乗っているならば、実にお粗末じゃないか?」
言われて、イクスラースは「そうね」とだけ答えて考え込む。
確かに、デメリットのほうが大きいように思える。
今回向こうが使ってきた手札は「クロード」だが、それとて幾らでも効果的な使い方があったはずだ。
何故、イクスラースを引き込むだけにそれを使ってきたのか?
必ず、それに見合うメリットがあったはずだ。
「……いや、違うわ。アルヴァクイーンはたぶん、本当に「私」が欲しかったのよ」
「どういう……いや、まさか」
その可能性に思い当たり、ヴェルムドールは目を見開く。
「たぶんだけど、私を喰らおうとしたんだわ。かつて「魔王シュクロウス」だった私を喰らうことで、残りの全ての力を得るつもりだったのよ」
「……理屈としては合っている。だが、そう簡単なものではないだろう。単純に相手を喰らえばその力が手に入るというような風にはなっていない」
人類は勿論、魔族にだって……ヴェルムドールにだって、そんな機能は無い。
だが、イクスラースは「それ」を出来る存在を知っている。
「ソウルイーター」
「……キャナル王国の時の、アレか」
キャナル王国の光杖騎士団長、チェスター。
生物を喰らい魔力を喰らう化け物。
イクスラースが倒したソレは、放っておけばやがて人類そのものを食い尽くしかねない危険物だった。
「アルヴァクイーンが、ソウルイーターだというのか?」
「そのもの、だとは言っていないわ。でもアルヴァが半魔力体であるならば、ソウルイーターと同じ事を出来る条件は揃っている」
今のところ、そうなったアルヴァの情報は無い。
だが、アルヴァクイーンがそうでないという証拠は無い。
アルヴァクイーンがイクスラースを求める理由としてはその可能性が大きいという、それだけの話。
「……だとすると、アルヴァクイーンは更なる力を求めているということか?」
「クロードは神のシナリオについて言及していたわ。その話をクロードに吹き込んだのはアルヴァクイーンのはず。なら、アルヴァクイーンは恐らく……フィリアに対抗できる力を得ようと考えているんじゃないかしら」
その手段の一つとして、まずはイクスラースということだろうか。
それで対抗できるとも思えないが、クロードという手札によって手に入れやすい相手……ということだったのだろうか。
そう考えると、ある程度見えてくることがある。
「面倒な相手だな。これ以上厄介な事になる前に片をつけたいものだが」
「あら、私と同じように仲間に加えるとは言わないの?」
イクスラースがからかうと、ヴェルムドールは実に嫌そうな顔をする。
「無理を言うな。想像通りの奴だとすれば、俺達とは絶対に共存できん」
「ええ、そうね。絶対に無理よ。それに……たとえ貴方と共存できたとしても、私が許さない。必ず滅ぼすわ」
暗い笑みを浮かべるイクスラースの頭にヴェルムドールは手を載せ、わしわしと撫でる。
いきなりの行動にイクスラースが戸惑いながらもされるままになっていると、ヴェルムドールはイクスラースを乱暴に撫でていた手を離す。
「……いきなり何するのよ」
「別に。特に意味は無い」
そう言って、ヴェルムドールは立ち上がる。
「意味は無いが……まあ、無駄を楽しんでみた」
ニヤリと笑うヴェルムドールは、取り上げていたままだった枕をイクスラースへと投げ返す。
ぼふっという音を立てて枕がイクスラースの腕の中に収まったのを確認すると、ヴェルムドールはそのまま歩き出す。
「まあ、今日一日は無理をするな。一応レモンあたりを後で来させる。足りない物があればその時に言ってくれ」
「……分かったわ」
イクスラースの返答にヴェルムドールは満足そうに頷いて扉を開け……倒れこむように飛びついてきた緑色の少女を反射的に受け止める。
その緑色の少女……ニノはヴェルムドールに抱きつくと、不満そうな顔で見上げる。
「どうした、ニノ」
「ズルい」
「ズルい?」
「ズルい。すごくズルい。ニノだって魔王様に心配されたい。でもニノは優秀でパーフェクトな女だから、それが出来ない」
全身で不満を表現するニノの頭を撫でながら、ヴェルムドールは苦笑する。
「そう言うな。心配など、する余地が無いのが一番いいんだ」
「つまり、ニノは一番いい女?」
「そうだな、ニノはいい子だな」
「……今、露骨に誤魔化した」
スタスタと歩いていくヴェルムドールと、追いかけるニノ。
部屋の前から消えていくその姿を見送って、イクスラースは溜息をつく。
「……ドア、開けっ放しじゃないの」
枕をぎゅっと抱きしめ、ぽふんと音を立てて顔を埋める。
「ばーか」
そんな呟きと共に、イクスラースは再び布団に潜り込んだ。
************************************************
次回、新エピソード。
0
お気に入りに追加
1,736
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります
ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□
すみません…風邪ひきました…
無理です…
お休みさせてください…
異世界大好きおばあちゃん。
死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。
すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。
転生者は全部で10人。
異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。
神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー!
※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。
実在するものをちょっと変えてるだけです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。