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魔王談義5

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「アルヴァクイーン……か」
「何かあるのか?」

 ヴェルムドールの問いかけに、イクスラースは頷いてみせる。

「確かアルヴァクイーンは、疑心の魔王……を名乗ってたはず、よ」

 その辺りの記憶も定かではないが故に、少し自信なさそうにイクスラースは答える。
 疑心の魔王。
 キャナル王国を取り巻いていた状況にはピッタリのその称号に、ヴェルムドールは納得したような顔をする。

「疑心の魔王か。なるほどな、確かに搦め手が得意とみえる」
「それだけならまだ楽なのだけれどね」
「そうだな。しかし……」
「何よ」

 自分を見つめるイクスラースに、ヴェルムドールは真剣な表情を向ける。

「何故、アルヴァクイーンはお前を欲しがった? こう言ってはなんだが、お前を引き込むメリットが俺や……あるいはカインへの人質という観点以外からはあるとは思えん」
「言ってくれるじゃないの」
「悪いとは思っているが、真面目な話だ。これがたとえばイチカであったとしても同様だ。魔族一人を引き込む事と、俺に手札や狙いを晒すデメリットが釣り合うようには思えん。疑心の魔王を名乗っているならば、実にお粗末じゃないか?」

 言われて、イクスラースは「そうね」とだけ答えて考え込む。
 確かに、デメリットのほうが大きいように思える。
 今回向こうが使ってきた手札は「クロード」だが、それとて幾らでも効果的な使い方があったはずだ。
 何故、イクスラースを引き込むだけにそれを使ってきたのか?
 必ず、それに見合うメリットがあったはずだ。

「……いや、違うわ。アルヴァクイーンはたぶん、本当に「私」が欲しかったのよ」
「どういう……いや、まさか」

 その可能性に思い当たり、ヴェルムドールは目を見開く。

「たぶんだけど、私を喰らおうとしたんだわ。かつて「魔王シュクロウス」だった私を喰らうことで、残りの全ての力を得るつもりだったのよ」
「……理屈としては合っている。だが、そう簡単なものではないだろう。単純に相手を喰らえばその力が手に入るというような風にはなっていない」

 人類は勿論、魔族にだって……ヴェルムドールにだって、そんな機能は無い。
 だが、イクスラースは「それ」を出来る存在を知っている。

「ソウルイーター」
「……キャナル王国の時の、アレか」

 キャナル王国の光杖騎士団長、チェスター。
 生物を喰らい魔力を喰らう化け物。
 イクスラースが倒したソレは、放っておけばやがて人類そのものを食い尽くしかねない危険物だった。

「アルヴァクイーンが、ソウルイーターだというのか?」
「そのもの、だとは言っていないわ。でもアルヴァが半魔力体であるならば、ソウルイーターと同じ事を出来る条件は揃っている」

 今のところ、そうなったアルヴァの情報は無い。
 だが、アルヴァクイーンがそうでないという証拠は無い。
 アルヴァクイーンがイクスラースを求める理由としてはその可能性が大きいという、それだけの話。

「……だとすると、アルヴァクイーンは更なる力を求めているということか?」
「クロードは神のシナリオについて言及していたわ。その話をクロードに吹き込んだのはアルヴァクイーンのはず。なら、アルヴァクイーンは恐らく……フィリアに対抗できる力を得ようと考えているんじゃないかしら」

 その手段の一つとして、まずはイクスラースということだろうか。
 それで対抗できるとも思えないが、クロードという手札によって手に入れやすい相手……ということだったのだろうか。
 そう考えると、ある程度見えてくることがある。

「面倒な相手だな。これ以上厄介な事になる前に片をつけたいものだが」
「あら、私と同じように仲間に加えるとは言わないの?」

 イクスラースがからかうと、ヴェルムドールは実に嫌そうな顔をする。

「無理を言うな。想像通りの奴だとすれば、俺達とは絶対に共存できん」
「ええ、そうね。絶対に無理よ。それに……たとえ貴方と共存できたとしても、私が許さない。必ず滅ぼすわ」

 暗い笑みを浮かべるイクスラースの頭にヴェルムドールは手を載せ、わしわしと撫でる。
 いきなりの行動にイクスラースが戸惑いながらもされるままになっていると、ヴェルムドールはイクスラースを乱暴に撫でていた手を離す。

「……いきなり何するのよ」
「別に。特に意味は無い」

 そう言って、ヴェルムドールは立ち上がる。

「意味は無いが……まあ、無駄を楽しんでみた」

 ニヤリと笑うヴェルムドールは、取り上げていたままだった枕をイクスラースへと投げ返す。
 ぼふっという音を立てて枕がイクスラースの腕の中に収まったのを確認すると、ヴェルムドールはそのまま歩き出す。

「まあ、今日一日は無理をするな。一応レモンあたりを後で来させる。足りない物があればその時に言ってくれ」
「……分かったわ」

 イクスラースの返答にヴェルムドールは満足そうに頷いて扉を開け……倒れこむように飛びついてきた緑色の少女を反射的に受け止める。
 その緑色の少女……ニノはヴェルムドールに抱きつくと、不満そうな顔で見上げる。

「どうした、ニノ」
「ズルい」
「ズルい?」
「ズルい。すごくズルい。ニノだって魔王様に心配されたい。でもニノは優秀でパーフェクトな女だから、それが出来ない」

 全身で不満を表現するニノの頭を撫でながら、ヴェルムドールは苦笑する。

「そう言うな。心配など、する余地が無いのが一番いいんだ」
「つまり、ニノは一番いい女?」
「そうだな、ニノはいい子だな」
「……今、露骨に誤魔化した」

 スタスタと歩いていくヴェルムドールと、追いかけるニノ。
 部屋の前から消えていくその姿を見送って、イクスラースは溜息をつく。

「……ドア、開けっ放しじゃないの」

 枕をぎゅっと抱きしめ、ぽふんと音を立てて顔を埋める。

「ばーか」

 そんな呟きと共に、イクスラースは再び布団に潜り込んだ。
************************************************
次回、新エピソード。
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