勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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魔王談義4

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 そう、イクスラースに残されたのは「魔王ヴェルムドールに勝てないギリギリの力」であったはずだ。
 それは実際にその通りであったし、そこにはイクスラースも異論は無い。

「……待って。辻褄が合うと言ったけど、それは本当にそうかしら?」

 だが、疑問を挟む余地はある。

「何故勝てないギリギリである必要があったの? 捨て駒であれば、もっと弱くてもよかったはずよ。所詮私はフィリアの影が貴方を攻撃する為の前座。聖鎧兵という貴方を警戒させる駒があったのなら、それでもよかったはず」
「別の意味で俺を油断させる為だろう」
「え?」
「お前が本来持っているはずだった「力」を持った奴がいると。その可能性を俺に考えさせない為だ。その為に、見せ掛けの実力だけでも俺と伯仲している必要があった」

 実際、イクスラースは持っている手札を最大限に利用してヴェルムドールに挑んできた。
 その結果、ヴェルムドールは今の今まで気付かなかったのだ。

「……なら、もう一つ。フィリアにとってみれば、私が貴方を倒しても構わなかったはず。それをしなかったのは何故?」
「……考えられる理由は、幾つかある」

 一つは、これはカインにも関係してくる。

「イクスラース。お前は以前、カインに接近していたな?」
「そうみたいね。そこら辺は記憶が曖昧なんだけれど……」

 その辺りは命の神の手によるものだろうが……今はその詳細についてはどうでもいい。
 問題は、イクスラースがカインに近づいた理由のほうだ。

「恐らくだが、カインにイクスラースという存在を「仲間」の枠に入れさせるのが理由だったんだろう」
「……なるほど、ね」

 ヴェルムドールの言おうとするところを、イクスラースも理解する。
 カインは、女に基本的に甘い。
 知り合っての「仲間」の枠に入れた相手ともなれば、更に甘い。
 悩みがあらば全力で解決しようとするし、その為には努力を惜しまない。
 それは当然、正義と道理に反しない程度ではある。
 だが、たとえば。

「悪の大魔王に挑んで殺された、魔族の少女イクスラース。この事実をカインが知った時にどうするか、と。こういう話なわけね?」
「そうだ」

 つまり、こうだ。
 自分が勇者である事を隠して生きるカイン。
 其処に現れた謎の少女「イース」は、実は「悪の大魔王ヴェルムドール」を倒そうとする魔族の少女イクスラースであった。
 カインが勇者として戦うつもりが無い事を悟ったイクスラースは、自分がヴェルムドールに挑む事を決意。
 調和の魔王を名乗りヴェルムドールに挑んだイクスラースは力及ばず敗れ、殺されてしまう。

「出来れば四騎士のうちの誰かが生き残ってカインと偶然出会うのが理想ね。カインに復讐心……いいえ、義憤を呼び起こす事の出来る出会いをして、打倒ヴェルムドールを決意させる。そうすれば、貴方のやってきたことは……」
「全てが反転しただろうな」

 友好政策は、遠回りな支配計画に。
 ザダーク王国は、人類侵略の為の拠点に。
 魔王ヴェルムドールは、恐るべき計画を進める悪の大魔王となるだろう。
 かくしてカインは勇者として立ち上がり、人類は正義の御旗の元に団結しただろう。
 恐るべき計画を秘めた悪の大魔王ヴェルムドールは打ち倒され、人類は再びの友好を手に入れただろう。
 あらゆる罪は魔王の策略として清算され、人々はそれに踊らされた自分を恥じるだろう。
 そうして、世界は「めでたしめでたし」を迎えるのだ。

「だが、俺はそうしなかった。お前を生かす道を選んだ。だからこそ、カインは俺の敵に回らなかった」
「なら、フィリアの計画は崩れたということ?」
「いや。影を仕込んでいた辺り、その辺は織り込み済みだろう。今動いているのは、それがならなかった場合の計画のはずだが……」

 恐らく、それがアルヴァクイーンのはずだ。
 だが、アルヴァクイーンがすでにフィリアの手を離れているとするならば。
 今、フィリアは何を考えているのか?
 アルヴァの動きを見る限り、アルヴァは明確に人類の敵だ。
 そのアルヴァを倒す「正義の味方」は一体何処の誰だというのか。
 カイン?
 だが、カインはアルヴァクイーンはともかく現時点でヴェルムドールの敵には回らないだろう。
 まさか、ヴェルムドールとアルヴァクイーンが潰し合うのを狙っているのだろうか?

「……有り得ない話じゃないと思うわ。私の力と軍勢を何処かへ回したというならば、そのアルヴァクイーンが最有力だもの。あっちも次元の狭間にいるんだから」

 そう、アルヴァクイーンは次元の狭間にいる。
 アルヴァを使い、剣魔や杖魔といった連中を使って、何かを企んでいる。
 キャナル王国の混乱も、アルヴァクイーンの何らかの企みによるものであったはずだ。
 そしてそれは恐らくは、ある程度はフィリアの思惑の範疇にあったはずなのだ。

「……普通に考えれば、人類領域の混乱は全て魔王のせい、といったところか」
「それで合ってるでしょうね。恐らくは適当な所で企みを暴かせる手筈だったと思うわよ」

 しかし、アルヴァクイーンが完全に自分の意思で動いているならばその範疇には収まらなかっただろう。
 それが現在の状況に繋がっているとするならば。

「……フィリアの手を離れたアルヴァクイーンの思惑が、鍵だな。そいつが何を考えているかで、今後の全てが変わってくる」
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