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魔王談義2
しおりを挟むヴェルムドールが動いた事でベッドが軽く揺れ、イクスラースは思わず奥へと下がる。
「私の話……?」
「ああ、そうだ」
ヴェルムドールが頷くと、イクスラースは髪を軽く弄りながら首を傾げる。
「今更、するような話なんてあったかしら?」
「というよりも、今だから出来る話だな」
「……そう。どんな話かしら?」
ヴェルムドールを見上げるようにしてイクスラースが問いかけると、ヴェルムドールは頷いてみせる。
「そうだな……お前の魔力についての」
話だ、と言おうとしたヴェルムドールに枕が投げられ、台詞が途中で中断される。
突然の凶行に枕を顔で受け止める羽目になったヴェルムドールは枕をイクスラースの布団の上へと置き……再度投げつけられ、今度は手で受け止める。
「何をする」
「別に。その枕が貴方に投げつけられる運命にあっただけの話よ」
「……そうか」
再度投げつけられないようにヴェルムドールが枕を自分の膝の上で抱えると、イクスラースは不満そうにしながらもそれ以上は何も言ってこない。
「で、あー……お前の魔力についての話なんだがな」
「ええ、それは聞いたわ。それがどうかしたのかしら」
「少し、違和感がある」
違和感。
その言葉に、イクスラースは思考を切り替える。
想像以上に深刻な話であると気付いたからだ。
「……違和感、ね。私は感じたことはないけれど。何かあるなら聞かせて欲しいわ?」
「ああ。端的に言えば、お前の魔力量についてだ」
魔力量。
それは今のイクスラースにとってみれば、耳に痛い単語である。
言うなれば、その魔力量の問題故にイクスラースはこうして寝ているのだから。
とはいえ、そうなるだけの魔法を使用したのだから仕方のない話でもあり……だからこそ、イクスラースの言葉は知らずのうちに刺々しくなる。
「何よ。少ないとでも言いたいの?」
「ああ」
八つ当たりにも似た、冗談混じりのその言葉。
それを、ヴェルムドールはアッサリと肯定してみせる。
「なっ……!」
目の前のヴェルムドールという男が冗談の類を不得手としている事はイクスラースも充分に承知しており、それ故に本気で言っているのだとイクスラースは理解し絶句する。
「お前の魔力量は、少ない。だからこそ問題なんだ」
イクスラースは布団を完全に跳ね除け、身を乗り出しヴェルムドールの胸元を掴み引き寄せようとして……しかし、動かず自分の身体の方が引っ張られる。
それでも構わず、イクスラースはヴェルムドールを真正面から睨み付ける。
「私にケンカを売りに来たのかしら、ヴェルムドール」
「そうではない」
「言っておくけど、私に魔法で勝てる奴なんてザダーク王国でもそうはいない。その事実を踏まえた上で言っているのかしら」
イクスラースを分類するならば、魔法使い型……どちらかといえば魔法剣士型よりといったところだろうか。
サンクリード程剣の扱いが巧みというわけではないが、少なくともヴェルムドールよりは上だろう。
魔法もロクナ程多彩というわけではないが、闇属性魔法に関しては右に出る者は居ない。
強者が溢れるザダーク王国の中でも、上位に位置する実力を持っていると言っても過言ではない。
魔力量に関しても同じで、相当のものを持っている。
それに関しては、ヴェルムドールも異論は無い。
「ああ、分かっている。お前は魔族としては相当に強いし、魔法使いとしても上位に位置している」
「……ならさっきの発言は何なのよ」
「イクスラース、お前は強い。魔族として頼りになる強さを持っている。だがイクスラース、お前は何だ?」
ヴェルムドールの意図するところが分からず、イクスラースはきょとんとした表情をする。
何か、と問われれば現時点では魔王城に暮らす魔族の一人だろう。
だが恐らく、ヴェルムドールの言っていることはそうではない。
ならば、何か。
その意味を考え……イクスラースは、「それ」に気付く。
「……私が魔王だって言いたいの? でも私は貴方とは違うわ」
「そんな事は分かっている」
ヴェルムドールはそう答え、イクスラースの瞳を覗きこむ。
「イクスラース、お前は俺を倒すべく創られた「魔王」だ」
その言葉にビクリとして逃げ腰になるイクスラースの腰をヴェルムドールは捕まえる。
「調和の魔王イクスラース。お前こそが、命の女神フィリアが用意したシナリオにおける「勇者の最初の敵」であったはずだ」
「で、でも私は」
「そうだ。あの勇者……カインについては俺も判断しかねる部分があるが、お前はカインの敵に回らなかった。それは分かっている。だが恐らく、その時点でフィリアの計画は修正されていたはずだ。魔王イクスラースで世界を混乱させ、俺を倒す方向に持っていくシナリオからな」
そう、恐らくの話だ。
だが、当初の計画は「勇者リューヤの物語」を思い起こさせるものであったはずだ。
人類にかつての団結を思い出させ、「魔王イクスラース」と「大魔王ヴェルムドール」を倒し「めでたしめでたし」にする計画であったはずだとヴェルムドールは考えている。
だが、その計画はヴェルムドールが崩した。
「世界に混乱を起こす大魔王」は人類との友好を望み、四大国の一つであるジオル森王国と交流を始めてしまった。
長い寿命を持て余し自分達のコミュニティに引き篭もりがちであったシルフィド達は、自分達と同じ時間を生きる「魔族」という存在を予想よりも早く受け入れてしまった。
魔王ヴェルムドールの起こした行動によって、「魔族の王国」であるザダーク王国が人類に友好的な国家として存在感を示してしまったのだ。
「そう考えれば、亜人論で聖アルトリス王国が荒れたのは結果的には好都合だったがな。アレが無ければ、俺がザダーク王国の王として人類領域に手を出すのはもう少し遅れたかもしれん」
そう呟くと、ヴェルムドールは複雑そうな顔で笑った。
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