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ミキシングメモリー10
しおりを挟むそれは、攻撃に入る事の出来ぬ体勢からの攻撃。
剣を使うには体勢が崩れすぎ。
魔法を使うには視認どころか集中が乱されている。
そんな瞬間に放たれた、それはまさに必殺のタイミング。
無数の刃はイチカを串刺しにせんと放たれ……その全てを、真正面から迎撃され蹴散らされる。
常人ならば「見てから」では反応できないはずの距離と、速度。
それを何の小細工もなく正面から突破したイチカは、しかし停止し……クロードを、そしてその剣をじっと見つめる。
その間にクロードもまた常人離れした動きで体勢を立て直し、剣を構える。
「追撃しないとはな……余裕のつもりか? それとも騎士道精神か?」
油断無くイチカの隙を伺うクロードに、イチカはいつも通りの無表情な瞳を向ける。
「その剣。随分と奇妙なものを持っていますね」
「これか。単なる借り物だ」
「そうですか」
イチカはそう言うと、持っていた盾を背中に背負ってしまう。
「え……」
自分から防御手段を減らすようなイチカの行動に、イクスラースは思わず驚きの声を漏らす。
それはクロードも同じで、驚きに目を見開いた後……イチカを睨み付ける。
「盾を捨てる? 俺如きには防御など必要ないと? 侮るのもいい加減に」
「貴方の先程見せた技ですが」
クロードの声を遮るような、イチカの声。
それはイチカにしては珍しく感情の動きを見せる声。
「少し、昔を思い出しました」
イチカの構えが、普段よりも高い位置で静止する。
それは、いつものイチカとは全く違う構え。
……だが、ヴェルムドールは「それ」を知っている。
それは、「リア」の剣だ。
イチカがイチカとなる前の、「メイドナイト・リア」の剣。
あの日「リア」が繰り出そうとした、必殺の剣技の体勢だ。
明確な怒気と殺気を纏い、イチカはクロードを見据える。
「……お、お……」
クロードは、イチカの剣に集約されていく魔力に気付く。
魔法剣、あるいは魔法剣を超える何か。
この場にサンクリードがいればそれが「魔剣技」と呼ばれるものであることに気付いたかもしれないが、この場にそれを指摘する者など居ない。
分かる事は、ただ一つ。
あれを受ければ死ぬ。
ただそのシンプルな事実に、クロードは己の中から対抗する策を探そうとして。
「……待って、イチカ!」
響いたイクスラースの声。
イチカの腰に抱きつくイクスラースの姿に、クロードの思考が静止する。
「どきなさい、イクスラース」
「お願い、待って!」
「イチカ」
イクスラースの願いを後押しするかのようなヴェルムドールの声に、イチカは剣に集中させていた魔力を霧散させる。
「一体なんだというのですか」
忌々しそうにイチカがイクスラースを引き剥がすと、イクスラースはイチカを押しのけてクロードの前に立つ。
「クロード」
「イクスラース様、私は」
「クロード、質問に答えて」
クロードの言葉を無視し、イクスラースはクロードを睨み付ける。
「アルヴァクイーンは、私をどうするつもりだったの?」
「……貴女の力が必要だと。貴女があれば更なる力を得るのだと言っていました」
「そう。それで、私を殺していいと言ったのね?」
「いいえ。自分の眼前に来るまでは殺すなと。ですが、どれだけ怪我をしていてもいいと」
「……そう」
イクスラースは呟くと、黒薔薇の剣ではなく……腰の短杖を抜き放つ。
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「……命令でした」
少しの沈黙の後に、クロードは答える。
イクスラースは其処に隠し事の匂いを感じ取ったが、同時に「話すまい」という意思も感じた。
だからこそ、思い知らされてしまう。
目の前にいるクロードは、自分の知るクロードではないという事実に。
「クロード」
短杖をクロードへと向け、イクスラースは悲しそうに笑う。
「言い残す事があれば、言って? それが終わったら……本気で殺してあげる」
クロードは、イクスラースを正面から見つめる。
悲しみに揺れ動くイクスラースの瞳を、じっと覗き込み……クロードは、静かに口を開く。
「人類は、滅びるべきです。ヴェルムドールがしない事を、あの方はしてくださる。神のシナリオを崩そうと願うのならば、あの方と共にあるべきです」
「出来ないわ。きっとそいつも、かつての私と同じよ」
イクスラースの返答に、クロードはくくっと笑う。
「それはどうでしょう。貴女だって気付いているはずだ。いや、気付いていないとは言わせない。その違和感が、たった一つの答えで解決するという事に」
「……なるほどな」
黙っていたヴェルムドールが、口を開く。
「アルヴァクイーンは、フィリアの手を離れているんだな?」
それに、クロードは答えない。
だが、イクスラースのその先。
ヴェルムドールを見据え、笑う。
「ヴェルムドール。貴様には出来たはずだ。だが、しなかった。勇者などという不確定要素を恐れるあまり、保身に走り続けている。何が友好だ、何が平和だ。そんなもの、人類を余さず蹂躙し従えれば幾らでも実現できるものを」
クロードの魔力が、膨れ上がる。
全力で放り投げられた銀色の剣がイクスラースに向かって飛来し、イクスラースはきゃあっという小さな悲鳴をあげて回避する。
「人類の情でも信じたか!? 話せば分かり合えるなどと夢を抱いたか!? そんなものは幻だ。そんなものに縋っているならば、ヴェルムドール! 俺は、貴様をこの場で仕留めなければならない!」
「ほう、どうやってだ?」
瞬時に近づいたイチカの剣がクロードの首を刎ね……しかし、宙に舞ったのは中身の無い黒い兜。
「チッ!」
イチカの剣が届くよりも先に魔操鎧形態に変化したクロードは、何処から出ているのか不明な声で宣言する。
「殲魔形態」
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