勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
上 下
344 / 681
連載

ミキシングメモリー5

しおりを挟む

 魔王城、正面門。
 魔王城へと繋がるその門は昼は開け放たれてはいるが、勿論誰もが入ってよいというわけではない。
 門番として立つ魔操鎧達は、転移してきたルモンを見て互いの斧槍を行く手をふさぐようにクロスさせる。
 それは当然の行為でもあるのだが、多少の警戒も含んでいただろう。
 まあ、怪我でボロボロの男が転移してくれば当然の反応ではある。

「そこで停止してください」
「一般人であれば入場許可の有無を。軍属者であれば所属と氏名、入城目的の開示を願います」
「僕は東方軍ルルガルの森担当部隊部隊長のルモンです。イクスラースさんに用事があって参りました」

 ルモンの返答に魔操鎧達は互いに顔を見合わせて頷き……しかし、やはり気になったのかルモンの服を指差す。

「その服……というか怪我はどうされました?」
「それも含めた話です。申し訳ないが、緊急の要件です」
「……分かりました。確認をとります」

 魔操鎧の一人が頷くと中を歩いていた魔操鎧の一人が反応して敬礼し、城の中へと走っていく。

「カードがあればご提示頂きたいのですが」
「ああ、はい」

 ザダーク王国での「ギルド」と「ギルドカード」の運用開始以来、身分証の代わりとなりつつあるカードをルモンが提示している間にも、先程の魔操鎧があわてた様子で戻ってくる。
 その背後をスタスタと歩いてくるのは、メイド服姿のイクスラースだ。
 何処となく不機嫌そうな表情を浮かべたイクスラースはルモンの姿を見つけると、怪訝そうな顔で髪をかきあげる。

「……いつだったか会ったこともあったけど。でも、私と貴方は特に親しいわけでもなかったような気もするのだけれど?」
「あはは……そうですね。僕は所詮それだけの関係に過ぎませんから。まあ、その服は知りませんけど」

 ルモンの言葉に、イクスラースは分かりやすい舌打ちで答える。

「仕方ないでしょ。メイド共の纏め役なんてもの押し付けられてるんだから」
「へー、そうなんですか」
「そうよ。ていうか、何の用なのよ?」

 イクスラースがさっさと話を終えたいとでも言うかのようにおざなりに言うと、ルモンは困ったように微笑む。

「はい。貴方の部下のことでちょっと」

 それを聞いて、イクスラースは溜息をつく。
 オルレッド関連のケンカの話は時折持ち込まれるので、それだと思ったのだ。
 服のボロボロ加減から見ても、そうではないかと考え、イクスラースは頭痛をこらえるかのように額を手で押さえる。

「……オルレッドになら、私から言っておくわ」
「そうですか。ところで丁度僕、貴方の部下の彼に落し物を届けにいくところでして」

 カチャリと腰の剣を外し、イクスラースに見えるように腰をかがめて差し出すルモン。
 イクスラースはそれを受け取り、しばらくじっと見た後に剣を軽く引き抜き……再び鞘に収めてルモンを見上げる。

「……そう。これを、落としていったの」
「ええ。もう現れないと思っていたので貰っちゃってたんですけどね。つい先程、取りにきまして。でも結局忘れてったみたいなんで、これから届けに行こうかと」
 
 イクスラースはルモンの台詞を噛み締めるように黙り込み、手元の剣を再び見下ろし……ぎゅっと握る。

「それは、確かに本人だったのかしら」
「ええ、間違いありませんよ。僕と彼が会うのは二度目ですから」
「……そう。そういえば、そうね」

 魔人ルモン。
 かつて黒騎士クロードが虐殺を行ったルルガルの森担当部隊の生き残りの一人。
 魔王城の地下図書館に収められていた報告書にあった名前を思い出しながら、イクスラースは呟く。

「時間はあるの?」
「僕の見立てでは、律儀に待ってると思いますよ」

 イクスラースは軽く目を伏せ……くるりと、ルモンに背を向ける。

「なら、おいでなさいな。まずはそのボロボロの格好をなんとかしないと失礼よ」
「あはは。それなら着替えてきますけど」
「いいから。私が来いと言ってるのよ」

 振り返ったイクスラースに胸倉……ではなく服の前を掴まれると、ぐいとルモンは引っ張られる。
 胸倉ではないのは単純に身長差で届かなかったからだが、それはさておき。

「え、あ、ちょ……」
「手間をかけさせるんじゃないわ。面倒な男は一人ならどうにかしようって気にもなるけど、二人目以降は殴りたくなるのよ」
「僕のせいじゃないですよね、それ」
「そぉよ。だから八つ当たりされたくなかったら、さっさとしなさい」

 ぐいぐいと引っ張られながら歩くルモンを見ながら、三人の魔操鎧は円陣を組んでひそひそ話を開始する。

「……なあ、アレどう思う?」
「分からん。魔王様とは結構タイプ違うよな」
「アレじゃないか? ほら、今流行してるっつー女一人に男がいっぱいの」
「あー、いいな。俺立候補してもいいのかな」

 好き勝手な雑談を始めた魔操鎧達へ、イクスラースはくるりと振り返る。
 軽蔑すら浮かべた瞳にビシリと固まった魔操鎧達に、イクスラースは無表情に告げる。

「全然違うし、私は中身の無い男は嫌いよ」

 思わず顔を見合わせた魔操鎧達をその場に置いて、イクスラースは再びルモンを引っ張って歩き出した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。