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連載
ミキシングメモリー5
しおりを挟む魔王城、正面門。
魔王城へと繋がるその門は昼は開け放たれてはいるが、勿論誰もが入ってよいというわけではない。
門番として立つ魔操鎧達は、転移してきたルモンを見て互いの斧槍を行く手をふさぐようにクロスさせる。
それは当然の行為でもあるのだが、多少の警戒も含んでいただろう。
まあ、怪我でボロボロの男が転移してくれば当然の反応ではある。
「そこで停止してください」
「一般人であれば入場許可の有無を。軍属者であれば所属と氏名、入城目的の開示を願います」
「僕は東方軍ルルガルの森担当部隊部隊長のルモンです。イクスラースさんに用事があって参りました」
ルモンの返答に魔操鎧達は互いに顔を見合わせて頷き……しかし、やはり気になったのかルモンの服を指差す。
「その服……というか怪我はどうされました?」
「それも含めた話です。申し訳ないが、緊急の要件です」
「……分かりました。確認をとります」
魔操鎧の一人が頷くと中を歩いていた魔操鎧の一人が反応して敬礼し、城の中へと走っていく。
「カードがあればご提示頂きたいのですが」
「ああ、はい」
ザダーク王国での「ギルド」と「ギルドカード」の運用開始以来、身分証の代わりとなりつつあるカードをルモンが提示している間にも、先程の魔操鎧があわてた様子で戻ってくる。
その背後をスタスタと歩いてくるのは、メイド服姿のイクスラースだ。
何処となく不機嫌そうな表情を浮かべたイクスラースはルモンの姿を見つけると、怪訝そうな顔で髪をかきあげる。
「……いつだったか会ったこともあったけど。でも、私と貴方は特に親しいわけでもなかったような気もするのだけれど?」
「あはは……そうですね。僕は所詮それだけの関係に過ぎませんから。まあ、その服は知りませんけど」
ルモンの言葉に、イクスラースは分かりやすい舌打ちで答える。
「仕方ないでしょ。メイド共の纏め役なんてもの押し付けられてるんだから」
「へー、そうなんですか」
「そうよ。ていうか、何の用なのよ?」
イクスラースがさっさと話を終えたいとでも言うかのようにおざなりに言うと、ルモンは困ったように微笑む。
「はい。貴方の部下のことでちょっと」
それを聞いて、イクスラースは溜息をつく。
オルレッド関連のケンカの話は時折持ち込まれるので、それだと思ったのだ。
服のボロボロ加減から見ても、そうではないかと考え、イクスラースは頭痛をこらえるかのように額を手で押さえる。
「……オルレッドになら、私から言っておくわ」
「そうですか。ところで丁度僕、貴方の部下の彼に落し物を届けにいくところでして」
カチャリと腰の剣を外し、イクスラースに見えるように腰をかがめて差し出すルモン。
イクスラースはそれを受け取り、しばらくじっと見た後に剣を軽く引き抜き……再び鞘に収めてルモンを見上げる。
「……そう。これを、落としていったの」
「ええ。もう現れないと思っていたので貰っちゃってたんですけどね。つい先程、取りにきまして。でも結局忘れてったみたいなんで、これから届けに行こうかと」
イクスラースはルモンの台詞を噛み締めるように黙り込み、手元の剣を再び見下ろし……ぎゅっと握る。
「それは、確かに本人だったのかしら」
「ええ、間違いありませんよ。僕と彼が会うのは二度目ですから」
「……そう。そういえば、そうね」
魔人ルモン。
かつて黒騎士クロードが虐殺を行ったルルガルの森担当部隊の生き残りの一人。
魔王城の地下図書館に収められていた報告書にあった名前を思い出しながら、イクスラースは呟く。
「時間はあるの?」
「僕の見立てでは、律儀に待ってると思いますよ」
イクスラースは軽く目を伏せ……くるりと、ルモンに背を向ける。
「なら、おいでなさいな。まずはそのボロボロの格好をなんとかしないと失礼よ」
「あはは。それなら着替えてきますけど」
「いいから。私が来いと言ってるのよ」
振り返ったイクスラースに胸倉……ではなく服の前を掴まれると、ぐいとルモンは引っ張られる。
胸倉ではないのは単純に身長差で届かなかったからだが、それはさておき。
「え、あ、ちょ……」
「手間をかけさせるんじゃないわ。面倒な男は一人ならどうにかしようって気にもなるけど、二人目以降は殴りたくなるのよ」
「僕のせいじゃないですよね、それ」
「そぉよ。だから八つ当たりされたくなかったら、さっさとしなさい」
ぐいぐいと引っ張られながら歩くルモンを見ながら、三人の魔操鎧は円陣を組んでひそひそ話を開始する。
「……なあ、アレどう思う?」
「分からん。魔王様とは結構タイプ違うよな」
「アレじゃないか? ほら、今流行してるっつー女一人に男がいっぱいの」
「あー、いいな。俺立候補してもいいのかな」
好き勝手な雑談を始めた魔操鎧達へ、イクスラースはくるりと振り返る。
軽蔑すら浮かべた瞳にビシリと固まった魔操鎧達に、イクスラースは無表情に告げる。
「全然違うし、私は中身の無い男は嫌いよ」
思わず顔を見合わせた魔操鎧達をその場に置いて、イクスラースは再びルモンを引っ張って歩き出した。
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