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連載
カインとアイン
しおりを挟む「……さて、と」
キャナル王国の首都エルアークの宿屋、闇夜の白猫亭の一室。
そこでカインは荷物を纏めていた。
すでにキャナル王国での内戦が終わってからそれなりの日数もたち、状況も落ち着きを取り戻していた。
ティアノート商会の馬車へと託したエリア王女への手紙も日数的にそろそろ届いた頃であるだろうし、キャナル王国でカインが出来る事は全てやった。
ならばそろそろ聖アルトリス王国へ帰るべきだろうと思ったのだ。
「おい、こっちの本はどうするんだ」
「え? あ、うん。そっちは後でティアノート商会のウェッジさんが取りに来てくれることになってるよ」
部屋の隅でカインの荷物の纏めを手伝っているのは、魔族のアイン。
カインの監視役としての役目を負っていたのだが、カインが「勇者」であると判明したことで、その重要度は更に高くなった。
だからといってアインがカインを見る目が変わったかといえばそんなこともない。
アインにとってカインはカインであり、敵でないというのであれば警戒度を高める必要など微塵も無い。
まあ、何か変化があったかといえば……重要度が上がったことで、カインとアインを更に遠くから見守る役が設置されたことだろうか。
試しに窓の外に目を向けて見ると、鳥の姿のツヴァイが部屋の中をじっと覗きこんでいるのが分かる。
未だにカインに敵意混じりの視線を投げかけてはいるが、ツヴァイ曰く「アイツは気に入らない」らしい。
そういう視点も必要かと思い放っておいてはいるが、やはり多少問題があるだろうか。
そんな事をアインが考えていると、カインが近づいてきてアインの視線の先を追い……そこにツヴァイの姿を見つけて、げっと呻く。
「あの鳥ってまさか……」
「ツヴァイだ」
「やっぱりか……はぁ」
溜息をつくカインをじっと見て、アインはぼそりと呟く。
「思ったんだがな」
「何?」
「お前のそういう態度がツヴァイの反発を招いているという可能性はないか?」
それを聞くなり、カインはバタバタと手を振って否定する。
「いやあ、ないない! それはないよアイン! だってアイツ、初対面から態度最悪だったじゃない!」
「そうだったか?」
はたしてどうだったか、とアインは首を傾げる。
しかしまあ、そうなのかもしれない。
カインとツヴァイでは性格も大分違うし、仲良くしろというほうが無茶だろう。
「ふむ……」
そういえば、とアインは足元に詰まれた本の一冊を手に取る。
本好きのシャロンへの土産物らしいが、折角だからとアインが読んでみたものだ。
アインが手に取ったのは英雄譚で、何かにつけて叫びたがったり勇気があれば何でもどうにかなると本気で信じて、その場のノリで突拍子も無い行動をとって自ら危機を呼び込んだあげくに、やはりノリと勢いで解決して凄まじい戦果を得てしてしまうという恐るべき性格と豪運の主人公の話である。
出てくるヒロインもそんな主人公の破天荒な所に惹かれるという特殊趣味な女で、アインは読みながらヒロインの将来を心配してしまったほどである。
しかしながらカインに言わせれば「熱血な王道英雄譚」であるらしく、それでいうとラクター様は熱血とかいう部類に入るのだろうか……などとアインは考えたりもしたのだが、それはさておき。
「確か……ああ、あった」
ぺらぺらとページを捲っていたアインは目的とする部分を見つける。
それは主人公とライバルが夕日の照らす草原で殴りあうシーンで、殴りあった後に互いの力を認め合って仲良くなるという「王道」な内容である。
主人公曰く、「男は拳で語らねえと分かり合えない生き物なのさ」であるらしい。
「……ふむ」
本をパタリと閉じると、アインはカインへと振り向く。
「よし、カイン。お前ツヴァイと夕日の照らす草原で殴りあえ」
「なんで!?」
「男は拳で語らないと分かり合えない生き物なんだろう? 考えてみれば、お前とツヴァイは殴りあったことは無かったな」
アインにも理解できないことはない。
仲良くなる為にとりあえず殴りあう事は確かに理に適っている。
古くから続く魔族の風習であるが、確かにそうして互いの力を認め合う事はある。
カインが普通の人間であればツヴァイと殴り合えば一方的にカインが怪我をしてしまうだろうが、カインの実力は高い。何の問題も無いだろう。
問題があるとすれば、それは「人類の普通」ではないということだったのだが。
「この英雄譚とやらは人気だそうじゃないか。そして人気の英雄譚は真似するものが多かったり、あるいは共感できる部分が多いから人気だと聞く。つまり」
「いや、別に殴り合いで分かり合うのが主題の話じゃないからね?」
「そうか?」
アインはページを更にぺらぺらと捲って流し読みして、再びカインと向き直る。
「だが……主要な男とは最低一回は殴り合いで分かり合っているようだが」
「ぐっ! それはほら、互いに力を認め合う的なものが盛り上がりとしてさ」
「よく分からんが、そういう事を文化的に許容するのだろう?」
「いや、そういうわけじゃなくてさ……」
違うんだよ、と言うカイン。
しかし違うと言われても、何が違うかはアインにはサッパリ分からない。
「……だが、これを読んで人類はカッコいいとか真似したいとか」
「思うし目指すんだろうけど、それでも殴り合い推奨ってわけじゃないんだよ……」
「そうなのか?」
「そうなんだよ……」
疲れたようにアインの両肩に手を置くカイン。
すると、次の瞬間に窓から飛び込んできた人型のツヴァイの飛び蹴りを受けてカインが部屋の隅まで転がっていく。
「無事か、アイン」
「問題ない。それよりツヴァイ。いきなり蹴りはいかんぞ」
「そうだよ! ツヴァイ、お前いきなり何を……!」
起き上がって抗議の声をあげるカインに頷いてみせ、アインは真面目な顔でツヴァイを諭す。
「人類社会では拳が基本だ。作法は守るべきだろう」
「……だから別にそれはマナーとか文化じゃないんだってば」
アインに英雄譚の類を読ませるのはやめよう。
カインはそんな決意を固めながら、深い溜息をついた。
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