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魔剣技14
しおりを挟む「さ、サンクリードさん……」
「なんだ?」
再び静寂の戻った廊下に視線を巡らせているサンクリードに貼り付くような距離に立ちながら、シュナは不安げな声をあげる。
「やっぱり戻ってカインさんと合流しましょう。最寄のギルドまで行って、応援の魔法使いを要請するべきです」
「何故だ?」
「な、何故って。影から出てくるような未知の敵ですよ!? 黒狼に似ているのかもしれませんが……間違いなく新種と考えていいと思います。能力を考慮すればエレメントのような魔力体であることも考慮に入れるべきです! いくらサンクリードさんとカインさんが腕利きの魔法剣士でも……」
「ふむ」
サンクリードはそれを聞いて、少しだけ不機嫌そうな顔でシュナを見下ろす。
「お前の意見には、間違いが三つある」
「え?」
シュナから視線を外さないままに、サンクリードは剣を持たないほうの手で指を一本立ててみせる。
「まずは一つ目。連中の得意攻撃は奇襲だ。その最寄のギルドとやらに、それを的確に防ぎ反撃できる魔法使いはいるか?」
シュナがそれに答えるより前に、サンクリードは二本目の指を立てる。
「二つ目。あの黒狼は、魔力体などではない。魔力体であるならば、ただのナタで打撃が加えられるはずも無い。まあ、半魔力体くらいの可能性はあるがな」
「……あっ」
そういえばとシュナは先程の自分の行動を思い出す。
確かに、先程のシュナのナタでの一撃は有効であるようだった。
ならば少なくとも、物理攻撃がほぼ意味がないとされる魔力体ではないということだ。
「そして三つ目だが……光よ」
サンクリードの剣に、光の魔力が宿る。
光の魔法剣と化したそれに思わず注目するシュナに不敵に笑い、サンクリードは宣言する。
「俺と……ついでにあのカインは、単なる「腕利きの魔法剣士」ではない」
サンクリードの足元の影から、ぞぶりと黒狼が出現しようとした、その瞬間。
サンクリードはシュナを抱えて思い切り背後へと跳ぶ。
タイミングを外された黒狼は誰も居ない空中に噛み付き、慌てて辺りを見回しサンクリードを憎々しげに睨み付ける。
「まあ、少なくとも俺は少々変わった芸を覚えた狼風情に負けるような鍛え方はしていない……な」
「で、でも……」
サンクリードの剣が閃き、何処かから襲い掛かってこようとしていた黒狼の首を刎ねる。
「大体影だかなんだか知らんが、よく考えてみろ」
目の前の黒狼が再び消えていくのを見ながら、サンクリードは薄く笑う。
「攻撃する時に結局出てこなければならんというのであれば、その瞬間に斬ってやればいいだけの話だろう?」
そうすればご覧の通りだ……と言ってサンクリードは廊下に転がった黒狼の死体を示してみせる。
「そ、それはそうかもしれませんが……でも、影から出てこられるということは逃げられないということでもあるんですよ!?」
「ふむ」
なるほど、確かに「影」は全てのものに付きまとう。
それから逃れる術は、確かに無い。
「ならば余計に此処で仕留めなければダメだろう」
「え」
言葉を失うシュナに、サンクリードは何でもないことのようにそれを告げる。
「お前の言った事を纏めるならこうだ。黒狼に似た何かは「多少の腕利き」程度では倒せない新種の化け物で、襲われれば逃げる事も隠れる事すらも難しい。そして、何匹いるかは知らんが一つの村を容易に壊滅させることが出来る」
改めて言葉にされて、シュナはぞっとする。
障害物が障害にならぬ化け物。
それは既存の防衛策が全く役に立たないということで、場合によっては村どころか町すら滅ぼしうるだろう。
もし、もしもの話だ。
この化け物が更に数を増やしたらどうなるのだろう?
あの時エルアークを包んだ極光でもあればともかく、それが無ければどうすればよいのか。
影に隠れ影を移動する敵などというものを、どうやって相手取ればいいのか?
「……だが、同時に疑問もある」
「え?」
「今も連中の視線を感じている」
「そ、それは影の中から見ているから……ですよね?」
その言葉をサンクリードは肯定も否定もしない。
ただ、自問自答するようにぽつりと呟く。
「影の中などというものがあるのなら、どうしてそれを活用しない?」
「活用……ですか?」
シュナの疑問符交じりの言葉に、サンクリードは光を纏った剣を構えながら自分の影を見下ろす。
「そうだ。影に「中」があるならば、どうして引きずり込まない。わざわざ姿を見せるよりも、その方が余程安全なはずだ」
「え、えっと……自分達だけしか入れないから、とか?」
「そんな都合の良い力があってたまるか。何かからくりがあるはずだ」
そう、説明の出来ない力など存在しない。
あるとしてもそれは「現時点で説明できる者が居ない」力であるというだけだ。
この黒狼達の能力にも、必ず何かの「仕組み」が存在している。
たとえば影に「中」があり黒狼達がそこに入れるというのならば、サンクリード達もそこに入る方法がなくてはならない。
そう、たとえば。
「……やはりな」
悩んでいたシュナは、その言葉に弾かれたようにサンクリードを見上げる。
そして、その瞬間。
床を見下ろしていたサンクリードは、輝く剣を自分の影へと突き刺す。
「ギアアアアアッ!?」
そしてシュナが見たものは……苦悶の声と共にぞぶりと浮かび上がり、その瞬間に真っ二つに斬り飛ばされる黒狼の姿だった。
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