307 / 681
連載
魔剣技7
しおりを挟む転移魔法、あるいは転送魔法。
どちらも同じ魔法のことを示しているが、これは人類側に使える者が居ない為、効果で分類されてしまっているという事情がある。
自分を含む誰かを何処かへ運ぶ「転移」、そして自分を含まない「転送」。
どちらも魔族にとっては同じく「ゲート」であり、元々大雑把なところのある魔族にそれを「分類」して別の魔法として扱おうなどという者がいるはずもない。
さて、そんなわけで当然「転移」を経験した人類などいるはずもなく……「その時」を、シュナは驚きと緊張と共に迎えた。
しかし実際には、「光に包まれた」という感覚しか感じなかった。
故に、その光が薄れ始めた時、シュナは拍子抜けしたような気持ちすら感じていた。
色々想像で語られていた俗説よりも、余程アッサリしていたからだが……まあ、それも仕方の無いことだろう。
しかし転送先に辿り着いたその瞬間、シュナは目の前に広がっていた光景に驚きの声をあげることになる。
「……えっ」
そこに広がっていたのは、何処かの村の入り口のように見えた。
石で造られた簡素な石垣と、しっかり閉じられた木の門。
頑張れば簡単に乗り越えられる程度のものではあるが、野犬やゴブリンを防ぐのには充分な強度と高さを持つ一般的なものだ。
周囲を木々に囲まれた其処は、恐らくは目的地である「タキム村」であると思われたが……隠しようもない違和感が、そこにあった。
「……静か過ぎる」
カインが、ぽつりと呟く。
そう、静か過ぎるのだ。
人が住んでいる場所独特のざわめきが、此処にはない。
まるで全員が何処かに出かけてしまったかのような静けさ。
あるいは、廃村であるかのような寂しさ。
「此処って、本当に目的地なんです……よね?」
「そのはずだがな」
カインにサンクリードはそう答えると、門の側に刺してある木の看板を眺める。
タキム村と書かれた古い看板には何度も塗りなおされた跡があり、しかしかすれかけた文字はそろそろ塗りなおしの時期に来ていることを知らせている。
試しにサンクリードが門をグイと押してみるとガタリと音が鳴り、僅かに出来た隙間の向こうに木製の太い閂が見えている。
「閂か……。ならば中に誰かいると考えるのが一般的か?」
「いや、一般的っていいますか……」
貴方は中から閂かけて外出られるんですか……と言いかけたシュナは、今しがた自分が転移してきたことを考えて口を噤む。
そんなことをせずともサンクリードならば普通に飛び越えるのだが、それはさておき。
「でもそうなると、この静けさは何なんでしょう。まだ昼前ですよね?」
空を見上げたカインにシュナが頷き、門をガタガタと押し始める。
「んー……」
「どうした?」
何度か門を押していたシュナにサンクリードが問いかけるが、シュナは振り向かないまま門を押したり覗いたりを続ける。
「この閂は、差込型ですね。下ろすタイプと違ってしっかり人力で差し込む必要がありますから、偶然かかったってことはないでしょうね。となると、中から誰かが閉めたってことで間違ないんですが……」
こうした村で使われている閂は、一般的に二種類である。
まず一つ目は、簡素な「下ろす」タイプだ。
「抱える」ような形の金具に太い板などを上からはめ込むタイプで、いざという時に簡単に閉じることができるようになっている。
ただしこの場合、工夫次第では外から開けることも不可能ではない。
そして二つ目は、取っ手のような形になっている金具に横から「差し込む」タイプだ。
これは少し時間がかかるが、より頑丈で確実である。
メンテナンスもより手間がかかり、少なくとも手入れするものの居ない廃村でしっかりとかかっているようなものではない。
「これ、ちょっと外から外すのは面倒ですね……」
「え、ていうか外せるんですか?」
「時間はかかりますけど不可能じゃないですよ。あんまり人様にお見せするような技じゃないですけどね」
うーんと唸りながら門を調べているシュナに、カインはそうなんですかー……と言いながら感心したような目でそれを見る。
罠や鍵の対処を請け負うことの多い罠師であるシュナだからこその技術ではあるが、シュナの言う通りあまり人前で披露していいような技でもない。
こうした技術は古い遺跡などの罠を解除するだけでなく、盗賊の手に渡れば犯罪の手段ともなってしまうのだから。
「まあ、当然時間はかかるわけなんで、誰にも気付かれずに閂を外せるわけじゃないですよ。そんなに簡単なものじゃないです」
振り返ったシュナが安心させるように笑うと、その様子をじっと見ていたサンクリードが納得したように頷いてみせる。
「ということは逆に言えば、これだけガタガタやって誰も出てこないというのは、それが気付ける範囲に誰も居ないという事だな?」
「うーん、そういうことになりますね。こんな時間まで寝ているってこともないとは思いますけど……まあ、そういう生活スタイルなのかもしれませんしね」
冗談交じりにシュナが言うと、サンクリードは考え込むように顎に手をあてる。
「……となると、このまま此処に居ても門が開く可能性は低そうだな」
「ん……まあ、そうなるんです……かね?」
曖昧にシュナが頷いたその次の瞬間。
サンクリードは軽く二、三度ジャンプすると、高く飛び上がり勢い良く石垣を飛び越えていった。
************************************************
門が開かないなら、飛び越えればいいじゃない。
(斬らなかっただけマシ的発想)
1
お気に入りに追加
1,741
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。