勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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その光が幻だったとしても

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 ヴェルムドール達が会議の真っ最中である、その時。
 エルアークにある復興計画本部の真新しい扉は大きく開け放たれ、大勢の人が列を成していた。
 そう、今日は復興計画本部の本格始動日であり……初日の今日は実際の作業員としての人員募集と家屋の修繕の受付けを行っている。
 しっかり賃金は払うとはいえバリバリの肉体労働であり、日雇いにも近い形式であることからどの程度人が集まるかと心配された面もあったのだが、始まってみればこの通りである。

「はいはーい、二列に並んでくださいねー。順番にご案内しております!」

 青空の下に響くのは、手伝いに狩り出されたカインの声。
 功労者の一人としてキャナル王国に少しの間滞在する事になった彼は復興計画本部に足繁く通っていて……まあ、丁度いいからと手伝わされているのも自業自得である。

「おい兄さん、人員募集ってのはこの列であってるのかい?」
「はい、勿論!」
「あー、そこの君。家の修理の相談っていうのは」
「あ、それは左の列のですね」
「ねえねえボク、よかったらこの後一緒に食事でも行きましょうよ」
「お誘いは有り難いのですが予定が詰まってましてごめんなさいっ」

 次から次へと人を捌いていくカインの姿はなんだか慣れたものではあったが、それ故に「あの人に聞けば大丈夫そうだ」という安心感により声をかけられるという忙しさの悪循環に巻き込まれている。

「なあ兄ちゃん、人員募集のことだけどよ。グループ単位での申し込みっていうのは」
「あー、すみません。修理支援の範囲についてなのですが」
「はいはい、それはですね」
「あのうー……ちょっと聞きたいことが」
「はい、少々お待ちください。順番に伺いますので」
「ねーねー、ちょっといいかなー?」
「はい、少々お待ちを……あ! ねえちょっとアイン助けてー!」

 近くで列整理をしていたアインにカインが叫ぶと、アインはちらりと振り返った後に煩そうにしっしっと手を振る。
 どうやらニコニコと笑顔を浮かべるカインと比べてクールで鋭い印象のアインには話しかけ辛いものがあるらしく、その分までただの手伝いのはずのカインに仕事が回ってきてしまっているのである。
 アインとしてもそれを早々に悟ってしまったので、その「話しかけ辛い」雰囲気を活用して列整理に精を出しているというわけだ。

 無論、他にもザダーク王国の「ギルド」から借り出されたビスティアや魔人がウロウロしているのだが……それを含めても、カインは突出して話しかけやすい雰囲気を作ってしまったようだ。
 とはいえこちらはアイン程カインの扱いに雑になれるわけもない。
 何しろ魔王ヴェルムドール曰く「重要な客人」であり、ここ数日来る度にサンクリードにとっ掴まって何処かへ訓練相手として引き摺られていく「西方将が執心の相手」でもある。
 本当は手伝わせていいのかという感情も無きにしもあらずなのだが……かといって予想以上の盛況による人員不足は如何ともし難く、そこにカインという丁度いい人材がいれば使わない手は無い。
 役に立つというのであれば尚更で、それをいい子ぶって「お客様にそんなことさせられません!」などというような薄ら寒い建前を言うような者が魔族にいるはずもない。
 結果として、彼等の中でも「カインの存在を前提とした作戦」が組まれることになる。

「ああカイン君、おつかれさまです! お嬢さん、家の修理の件でしたらまずはこちらの列にお並びください。簡単な質問でしたら私が伺いますので」

 そうやって一人の猫のビスティアが女性を誘導すれば、次は羊のビスティアが屈強な男性に話しかける。

「お兄さん。お兄さんは人員募集にご応募を?」
「ああ、いや。俺は鍛冶工房を経営してるんだが、ちっとその工房の修繕っつーのには今回の支援は効くのかと……」
「はいはい。それでしたら新たに範囲内に入っておりますよ。細かい支援範囲については列にお並び頂いた後に説明できる点については簡単にでよろしければご説明致しますので」

 ちなみにであるが、彼らは魔人化しておらずビスティアの形態である。
 これは急遽決定された「魔族イメージアップ作戦」の一環であり、ビスティアの中でもモフモフしていて雰囲気の柔らかそうなビスティアが選ばれている。
 人類の中で「魔族といえば」で出てくるのはゴブリンかビスティアであり、言ってみればソレが人類の想像する「魔族」の代表例であると言い換えてもいい。
 そして「復興計画本部」は現在エルアーク限定ではあるが、かなりの好感をもって受け入れられている。
 ならばこの状況であれば「雰囲気の柔らかい」ビスティアであれば混ぜても大丈夫なのではないか、むしろチャンスなのではないかとなったわけだが……どうやら大当たりであった。
 時折毛皮にもふっと手を突っ込む冒険心溢れる女性が出てきたのもその証拠であろうか。

「あ、オランジの匂い……」
「身だしなみには気をつけてますから」

 ニッと笑う羊のビスティアに、その女性もつられるように笑う。

「あの……ついでなんですけど、お鼻も触ってみていいですか?」
「どうぞどうぞ」

 おどけた様子でずいっと鼻を突き出してみせる羊のビスティアに、誰かが笑う。

 ……それは、きっと昔の誰かが夢見たような、そんな光景に似ているだろう。
 まだまだ、それにこの国が……いや、この世界が至るまでには遠すぎる。
 けれど今日、この場には確かにその片鱗があったのだ。
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