勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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新たなる光

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 ……ゆっくりと、セリスは目を開いた。
 ライドルグの光に包まれ辿りついた先は、玉座。
 玉座の間を包んだ光に驚き城中から集まってきた人々は、セリスを見て……次に、その頭上に輝く王冠を見た。
 薄く輝くソレは光を照り返すのではなく、自ら発光している。
 それが「新たな神器」であることを理解し、光剣騎士団の団長と副団長、そして光杖騎士団長の副団長であるアンナが一斉に跪く。
 その団長達の様子に状況を遅ればせながら理解した騎士達もそれに続き……まだ状況の分かっていなかった文官達も、慌てて跪く。

「……」

 セリスは玉座の隣に立っていたレイナをちらりと見て頷くと、静かに立ち上がる。

「皆さん、私は先程……ライドルグ様にお会いしてきました」

 おお、とかまさか、とか聞こえてくる声には答えず、セリスは言葉を続ける。
 その手に持つアルトルワンドに僅かな魔力を流し、同時に頭上のセリスクラウンにも同様に魔力を流す。
 光を放ち輝き始める二つの神器。
 一つは、アルトルワンド。
 勇者一行の一人、賢者テリアがライドルグより授かりし「主を選ぶ」神器。
 一つは、セリスクラウン。
 セリスの名を冠する、最も新しき神器。

「この王冠こそは、私がライドルグ様より授かりしセリスクラウン。私が新たな王であるという証です」
「セリス様……」

 最正面で跪いていた光剣騎士団長が、感涙の涙を流す。
 それに微笑みで返しながら、セリスはすっと手で払う仕草を見せる。
 そうすると、跪いていた臣下達は立ち上がり、部屋の両側へと別れ整列する。

 コツン、コツンと。
 静寂の包む玉座の間をセリスは歩く。
 何をすればいいかは、分かっていた。
 自然と、次にするべきことが頭の中に浮かんでくる。
 目指すのは、ざわめきの聞こえてくる方向。
 玉座の間を出て、向かうのはバルコニー。
 城の外、正門の外。
 王城から放たれた光を見て集まってきた群衆が見渡せる位置に、セリスは立つ。

 ……この場からでは、セリスの声など届かない。
 故に、セリスはアルトルワンドを掲げる。
 先程、臣下達に対してそうしたように、二つの神器を輝かせる。
 先程よりも強く。
 先程よりも眩く。
 輝く一つの光となったセリスは、例え声が届かずともその王威を群集へと伝えた。
 何故なら、誰もがエルアークを襲った軍勢を打ち払った極光を覚えていたからだ。
 何故なら、その眩い光が新たな王の誕生を彼等に感じさせたからだ。
 新たなる王、セリス。
 光の王冠を授かりし、輝ける王。
 そう、ライドルグの加護は未だ此処に在る。
 それを感じ、誰かが叫ぶ。

「……万歳っ!」
「セリス様、万歳!」
「我らが王に万歳!」
「キャナル王国に栄光あれ!」

 叫ぶ声は広がっていき、ビリビリとした空気がセリスの元まで伝わってくる。

 ……きっと、誰もがこの内戦に嫌気がさしていたのだろう。
 そして、誰もが新たなる神器持つ王に光を見たのだろう。
 その落差は、反動は……そのままセリスに期待となって圧し掛かる。
 それはいつでも逆転して、セリスに襲い掛かる刃でもある。
 だがそれでも、セリスは王となることを選んだのだ。

「……ライドルグ様、どうかご照覧ください」

 怒涛の歓声を受けながら、セリスは遠い何処かへと声を投げかける。

「私は必ず、この国をネル様の夢見た国へと導いてみせます。その為なら、どんなことだって怖くない……!」

 それは、セリスの王としての約束だ。
 真の初代キャナル王国国王である、ネルの目指した国。
 誰もが平等で笑いあえる国。
 それはきっと、今こそ必要なのだ。

「私は……今此処に、新たな王となることを宣言します!」

 何処かの誰かがかけた拡声魔法が、セリスの声を増幅して群集へと届けていく。
 同時に更に湧き上がる群集の声が、それを祝福する。
 声を増幅されたセリスは少し驚いた様子を見せつつも、辺りをキョロキョロしないように……そして、笑顔を形作る。

「……ありがとう、ございます」

 その声も増幅され、ついに民衆の中には泣き出す者すら現れる。
 自然と膝を折り、まるで祈るかのようなポーズをとった者が現れ……弾かれたように祈りの姿勢をとる者達も現れる。
 それは、新たな王への祈り。
 それは、光の神ライドルグへの祈り。
 湧き上がる声は近く感じたライドルグへの感謝に変わり、誰もが涙を流す。
 泣きながら、喜びを叫ぶ。
 泣きながら、感謝を叫ぶ。
 それがエルアーク中に伝播していくまでに、然程時間はかからない。

「……ありがとう、ですって。随分粋な事したじゃない」
「このくらいはサービスの範疇だろう。むしろ、この程度で恩義を更に感じてくれるなら……」
「はいはい。で、どうするの?」

 フィブリス城の屋根……位置的にいえばセリスの現在位置の上のほうに纏めて放り出されたヴェルムドールとイクスラースは、別の屋根に放り出されたらしいサンクリード達を見る。
 もっとも、向こうは騒ぎになる前に早々にサンクリードは単身で、アインはカインを抱えて適当な部屋に潜り込んだようだが……ヴェルムドールとイクスラースに関しては位置が悪かった。
 此処から転移すれば相当に目立ち、磨いた水晶の嵌った窓は今から壊すには少々音と動きが派手になる。
 結果として目立たないようにしているしか無く……表門の方角からは見えない位置に、身を潜めていたのだ。

「……どうもこうも、な。しばらくこうしているしかなかろう」
「あら、そうなの」

 早々に諦めて寝転がっているヴェルムドールの隣に転がると、イクスラースは晴天の空を見上げて目を細める。

「……ああ、なんだか猫になった気分だわ」

 お前はいつも結構気分屋な猫に似ているぞ……とは、流石にヴェルムドールも言わなかった。
 視線で何となく伝わったのか、横から頬を抓られてはしまったけども。
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