勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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今は遠い光5

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 獣人。
 その最大の特徴は、頭に生えた「もう1つの耳」というべき獣の耳。
 獣人はこの他の人類よりも多い耳を本能的に活用し、聞こえる範囲が驚くほど大きい……とされている。
 その耳で分類するだけでも猫、犬、狐、ウサギ、狸……更に細かく分類すれば夜が明けても終わらないとすら言われている。
 獣人の放浪癖とも呼ばれる一所に中々留まらない性質もあり、その生態は更に謎に包まれている。
 また一説では獣人達には崇める特定の神が居ないとされている。
 これはその地に住む獣人がその地域の神殿に足しげく通い礼拝することから言われたことだが、根拠が薄いとして批判されることも多い。
 他にも寿命を悟ると旅に出るだの果てなく長い寿命を隠す為に放浪するだのと言われているが、これ等はすでにほぼ否定されている。
 しかし斯様に獣人とは多くの謎を有し、それが故に様々な噂や推測をたてられる。
 その上獣人達がそれに対し沈黙を守る為、更に謎となってしまうのである。
 
 そんな中で確定しているとされるものが、「獣人達に国は無く、また国を造らない。これは獣人の放浪癖によるものだ」というものである。
 ヴェルムドールの言葉はこれに真っ向から異を唱えるものであり、それ故にカインとセリスの二人は動揺した表情を見せる。

「正解だの。キャナル王国はそもそも、ネルという名の一人の獣人の少女が新天地を求めて造った国であった」

 リンド王国という国に生まれた第一王女であったネルは、とある事情で国を出た。
 その時にネルを従って付き従った者達が、後にシュタイア大陸に出来るキャナル王国の中核となる者達だったのである。

「とある事情というのは?」
「まあ権力争いだの外交上の問題だの色々あるのう。その辺りは本題には関係ないから置いておくとしようではないか」

 言いながらライドルグが不快そうな顔を浮かべるのを見て、ロクでもない事が起きたのだろうとヴェルムドールは予想する。
 もう一つの大陸とやらに夢を見る気はないが、何処まで行っても似たような問題はつきまとうようだ。

「さて、ともかくネル達は苦難の果てにキャナル王国を建国した。醜い争いに嫌気が差していたが故に、真に平等な国を目指して……の」

 その理念故にキャナル王国は様々な人の共感を得て、どんどん大きくなった。
 ライドルグより授けられた数々の武具を携えたネルは輝光王とすら呼ばれ、彼女の組織した「光槍騎士団」は急成長する余所者に嫉妬した中小国を次々と返り討ちにした。
 優秀な人材をどんどん吸収し、他の大国と並び称される程にもなった。
 そして掲げる理念ゆえに、様々な組織の本部が置かれる「中立の国」としての立場も確立した。

「まだ、この大陸で人類同士の争いが盛んだった頃の話じゃが……まあ、そんな中でネルの掲げる「平等」は輝いて見えたようじゃの」
 
 誰もが同じ人類の仲間であるということ。
 考えてみれば普通に過ぎるそんなことが、何よりも遠い時代であったせいだろうか。
 そんな中でキャナル王国は成長を続け、サイラス帝国と平等の友好条約を結んだ。
 
 当時の大国の一つと平等条約を結んだという事実はキャナル王国の新たな大国としての存在を確定させ、この騒乱の儀式は終了した。
 しかし安定は同時に腐敗を生む。
 キャナル王国が確固たる地位を得たことで、その動きは急激に加速する。
 そしてそれは、「王位」や「王族」といった称号すら対象外とはならなかったのである。
 
「新たな国の王族は当然歴史が無く、それ故に「王家の血」といった感覚が薄い。そういうことか」
「そういうことじゃのう。まあ、上手くネルの掲げた「平等」を腐らせたというのもあるが」

 平等。
 美しいはずの言葉は、よこしまな考えを持つ者の暗躍を可能とした。
 初代王のネルの没後、この国の主役であったはずの獣人達を特権階級と称し、攻撃する者が現れたのだ。
 最初は異常な暴論として扱われていたそれも、長い時間の中で「一つの意見」として市民権を得ていく。
 全てを守る「盾」であったはずの理念はいつしか敵を斬る為の「剣」となり、キャナル王国の中は荒れに荒れた。
 熾烈な権力争いの中で光槍騎士団も幾つかの騎士団に分割され、ネルの遺産たるライドルグの神器を分割所有する形となった。
 じわじわと要職から獣人の姿も減り、王族からもネルの面影は消えていく。
 そうして、いつしか獣人の特徴を残さぬ王が玉座に着くようになった。
 それでも、一部の心ある者達はネルの理念を正しく実行しようと団結し……やがて、排除されていった。
 すでに四大国の一角となっていたキャナル王国の不安定は他の国にも波及し、洗脳を得意とする魔王シュクロウスの登場による混乱がそれに拍車をかけた。
 いや、全ては魔王シュクロウスのせいであるとされたのだ。
 全ての醜さと罪はシュクロウスに押し付けられ、「二度と繰り返すまい」という美しい言葉の元に人々は団結した。
 勇者リューヤを旗印に人々は「人類の敵たる魔族」と堂々と戦い、輝く未来を勝ち取ったのだ。
 都合の良いように書き換えられ続けた、キャナル王国の真実を……全て過去の彼方に忘れ去って。
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