勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
上 下
283 / 681
連載

いつか夢見た光7

しおりを挟む

「うわあっ!?」
「むっ……!?」

 扉の向こうから、光が流れ込む。
 扉の向こうから、光が溢れ出す。
 光の奔流は通路を流れ、光に触れた通路は自ら輝き始める。
 そうして輝きに染まっていく「薄暗い迷宮だったもの」は、いまや輝く宮殿のような様相となっている。
 
「こ、これって……?」
「これが真の姿といったところなのだろうな。となると、この探索も終わりということか」

 ヴェルムドールはそう呟くと、辺りを驚いたように見回すカインの横を通って扉の向こうへと進む。
 そうするとカインも慌てて追うように入ってくるが……そうして出た場所は、神殿の大広間のような空間であった。
 ひたすらに高い天井と、部屋の周りを囲む壁。
 天井にも壁にも無数の窓が等間隔で配置されており、どこから流れ込むのかは不明だが燦々と光が降り注いでいる。
 しかしながら、窓から見えるのは差し込む光の眩さのみで風景などは一切無い。
 この場所が何かしらの特殊な空間であるということを再認識させる光景ではあるが……この場所をさらに異質足らしめているのは、天井から光の降り注ぐ中央の祭壇であろう。
 四方を階段に囲まれたその祭壇はしかし、この場においては台座と言い換えてもいいだろう。
 何故なら、その中央にあるのは一本の剣。
 柄に白い魔法石の嵌ったそれは祭壇に突き刺さり、光を受けて静かに輝いている。

「ふん、まるで英雄譚の序章でも見せられているような気分だな?」

 ヴェルムドールは皮肉交じりに呟いて剣を眺める。
 近づいて確かめずとも分かる。
 あれは恐らくは、ウインドソードと同じ類のものだ。
 ウインドソードに倣うのであれば「ライトソード」といったところだろうか。
 そして同時に、理解する。
 あれこそが試練であると。
 此処まで辿り着きすらしない者に、その権利はないのだと。

「……どうした、行かんのか」
「いいんですか?」

 ヴェルムドールが問うと、ライトソードをじっと見つめていたカインが意外そうな顔で振り向く。

「貴方は多分、反対すると思ってました」
「反対してどうなる。アレはお前の試練であって、俺に関係のあるものじゃあない」
「え、でも……」
「加えて言うのであれば、恐らく他の連中も似たような場所で似たような試練を受けているはずだぞ」

 カインに答えて、ヴェルムドールは溜息をつく。
 そう、この場所が終点だというのであれば……ヴェルムドールとカインしか居ないというのはおかしい。
 思い返せば、風の神ウィルムの時に気づくべきことでもあった。
「ウインドソード」が聖剣を造る為のものだとすれば、そもそもこの世界にはすでに一本の聖剣が存在するはずなのだ。
 役目を終えて元の神の元へ帰ったというのでなければ、サンクリードに渡されたのは「二本目」ということになる。
 更に言えば、いくら「試練」を超えたといえサンクリードに「ウインドソード」を渡すまでの流れに躊躇いが無さすぎる。
 そう、そうだ。
 あの時、ウィルムはこうも言っていた。
 昔勇者リューヤに渡したのと同じものだ……と。
「同じもの」というのは、決して同一の個体を示すものではない。
 そうであればあの時ウィルムは「勇者リューヤに渡したもの」と言ったはずだろう。
 つまり、ウインドソードは二本以上存在し、それはこのライトソードにも同じ可能性がある。
 そして試練に使ってくるということは、間違いなく複数本存在するはずだ。
 ならばこれは、カインに渡すか否かを試しているのだ。
 そこにヴェルムドールが何かをすれば、それは光の神ライドルグの不興を招く結果になるだろう。
 ついでに言えば、恐らくはこの試練を突破せねばライドルグは姿を見せないだろう。
 となれば、カインにはこの試練を突破してもらわなければならないのだ。

「いいから行ってこい。俺の今回の目的は、あれの先にあるのだからな」
「は、はい」

 ヴェルムドールの言葉にようやく納得したか、カインは部屋の中央の祭壇へと走っていく。
 階段を上り、剣の前に辿り着いたカインは、ごくっと喉を鳴らす。
 こうして近づいてみると、よく理解できる。
 この部屋を包む膨大な光の魔力を全て濃縮したかのような、圧倒的な力。
 まさに神器と呼ぶに相応しい力を放つソレに、カインは触れる。
 拒絶するような反応は無かったことから、カインは一気に引き抜くべくぎゅっと握り……そしてその瞬間、部屋に低く響く声が聞こえてくる。

「安堵せよ。全ての闇は光の中に消え去る。されど、心せよ。全ての闇祓われし世界は、安らぎに満ちているとは限らない。故に、知るべきである。誰の内にもまた、闇に守られしものがあるということを……」

 祭壇の剣が、光を放つ。

「う、あ……!」

 パキッ、と。
 何かがひび割れるような音が聞こえる。
 バキン、と。
 何かが砕けるような音が聞こえる。
 バキンバキンと、連続で何かが砕けていく。
 それは間違いなく、カインの内から発生していて。

「あ、うう……!」

 何かに抵抗するように、カインは歯を食いしばる。
 されど、その抵抗は無であると言わんばかりに破砕音は響いていく。
 
「う、うわあああ!」

 ギイン、と。
 何かがはじけ飛ぶような音が響いた、その時。
 ヴェルムドールは、ぞくりとするような感覚がカインから溢れ出すのを感じる。
 その瞬間……ほぼ反射的に、ヴェルムドールはステータス確認魔法を起動していた。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。