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連載
いつか夢見た光
しおりを挟むフィブリス城、玉座の間。
そこに転移したヴェルムドールを待っていたのはセリス、レイナ。
そしてサンクリード、カイン、アインの五人であった。
何かを話していたらしい五人は転移してきたヴェルムドールとイクスラースに気付くと、一斉に振り向いた。
「シオンさん……いえ、ヴェルムドール様、でしたか」
「ほう」
カインの言葉に、ヴェルムドールは面白そうに声をあげる。
「俺が魔王だと知って「様」付けをするか」
「貴方はザダーク王国という一国の王です。僕は、それに対し敬意を払う義務があります」
「お前のいる国と俺の国は国交が無いが、それでもか」
「それは理由になりません。国交が無ければ礼儀も無くてよいとは教わっていませんから」
「なるほどな」
頷き、ヴェルムドールはカインから視線を外す。
「大変長らくお待たせして申し訳ない、セリス殿。こちらの事情を言い訳とする気はない……謝罪させて頂こう」
「いえ、謝らねばならないのはこちらです。事前予告無しで大魔法を放ったのですから」
「ああ、この街を覆ったという光の魔法か。敵味方を区別する魔法であったらしいが」
ヴェルムドールの言葉にセリスは頷き、手の中のアルトルワンドをぎゅっと握る。
「……はい。使わずに済めばそれが一番ではあったのですが……私の未熟ゆえに、使わざるを得ないところまで追い込まれてしまいました」
「そうか」
懺悔のように言うセリスに、ヴェルムドールは短く答える。
それはセリスの言葉に是非を問うつもりも無ければ、称賛も非難もするつもりがないからだ。
互いに一国の指導者として対面している以上、その決断に何かを問うのは外交である。
そして、それについてとやかく言うつもりは今のヴェルムドールには無い。
今この場に立っているのは、そんなことの為ではないのだ。
「まずは、内戦の勝利をお祝いしよう。これで貴女はこの国の国主たる権利を得た」
「ありがとうございます、ヴェルムドール様」
「これで、ザダーク王国とキャナル王国は正式な友好条約を結ぶ事も出来るだろう。まあ、今すぐどうこうというわけにもいかないだろうが……」
ヴェルムドールの言葉にセリスはそうですね、と言って力無く笑う。
どうやらマゼンダの手先は想像よりもずっと奥深く潜んでいたようで、極光殲陣発動時に黒い霧のようものを発しながら光の中に消える光剣騎士やエルアーク守備騎士達の姿も確認されていた。
それだけではなく、単純にエルアークの戦いで傷つき、あるいは死んでしまった騎士達もいる。
人間離れした力を持っていたというナリカの騎士団の正体は不明で、ナリカ自身も行方不明。
キャナル王国の建て直しが困難なものとなるのは確実であった。
「……まあ、復興については今まで以上の支援を約束しよう。そちらが受けるならば、だがな」
「それは……」
「こちらの支援を大々的に受ける事で、貴国はいわばジオル森王国と同じ立場になる。いや、場合によってはそれ以上か。人類領域においては、少々難しい立場になるのは確実だ」
そう、元々国力がしっかりしているジオル森王国と違いキャナル王国はボロボロだ。
国境警備騎士団こそ無傷に近いが、国内の騎士団は地方騎士団を含め内乱の影響を強く受けている。
特に国の象徴たる四騎士団のうち近衛、光盾、光杖の三つが団長を失い騎士団自体もボロボロである。
ほぼ二つに分かれていたといってもいい国内の掌握も急務であり、これにあたってナリカ側についた国内の貴族が今後どう出てくるかという問題もある。
この状態で建て直しをしっかり出来るほどの支援をザダーク王国から受けるとなると……まあ、間違いなく「魔族の傀儡」と言い出す者が出てくるだろう。
何しろ、現状ではキャナル王国から返せるものなど何も無い。
属国となったから支援されているのだと主張する者がいるのは簡単に予想できる。
これが国内でも押さえるのに手間取るだろうが、国外であれば更に面倒な話になってしまう。
「それでも受けるというのであれば、支援は惜しまないことを約束しよう」
少しの逡巡の後、セリスは首を縦に振る。
「……はい。よろしくお願いいたします、ヴェルムドール殿」
「ああ。ではそれについては後程」
頷くと、ヴェルムドールは先程から黙って立っているレイナへと視線を向ける。
「……さて、次はお前だレイナ。アクリアに引き会わせると言ったな。その時とやらは、いつ来るんだ?」
「私としては、会って頂いても構わないのです、がね」
「ほう? ならば」
言いかけたヴェルムドールの口を、レイナはすっと手で押さえる。
「ですが、貴方達にはアクリアより先に会うべき相手が居ます。どうせこの場ではアクリアには会えないのです。先にあの爺に会っておくべきでしょう」
「……爺だと?」
ヴェルムドールが訝しげに返した、その瞬間。
「……!」
サンクリードとカイン、そしてセリスが、玉座の間の奥へと視線を向ける。
それに一瞬遅れヴェルムドールとイクスラースも、それに気付き。
更に遅れてアインが気付き、玉座の間の奥……その階段の先の祈りの間の方角へと、視線を向ける。
「今、何かが……いや、これは」
「この感覚は……まさか!」
サンクリードとセリスが階段へ向けて歩き出し……階段に足を踏み入れると同時に、その姿が掻き消える。
続けて、消えたセリスを追いかけるようにカインの姿が消える。
「おい、カイン……ええい、くそっ! 魔王様、任務を続行して参ります!」
「ああ」
そのカインを追ってアインが消えると、ヴェルムドールはレイナへと視線を向ける。
「……俺は、これと同じようなものを知っている」
「それは、ジオル大森林で……ですか?」
「フン、やはりか。お前が呼んだのか?」
「まさか。私にはそんな事は出来ません」
首を横に振って否定するレイナから階段の方へと視線を移し、ヴェルムドールはレイナに問いかける。
「ならば、何故このタイミングで来た」
「極光殲陣のせいでしょうね。あれだけ莫大な光の魔力が動けば、嫌でも気付きます」
「……後で、話を聞かせてもらうぞ」
「私ではなく、あの爺に聞いてください」
そんな返答にヴェルムドールは軽く舌打ちすると、イクスラースの手をとる。
「行くぞ」
「ええ、そうね」
そうして、ヴェルムドール達が掻き消えた後。
レイナは、背負っていた盾を構えると……鈍い音を響かせ床に突き立てる。
「……キザ野郎から話は伝わっています。無駄ですから出てきなさい」
その言葉と同時に、空間がパキンとひび割れる。
現れた極彩色の空間から現れたソレは、レイナから少し離れた場所に立つ。
ソレは、深緑の衣を纏った何か。
姿形を見れば、狩人のようだと評する者もいるだろう。
だが、頭部を覆う覆面の奥は闇に包まれ、僅かに見える目の部分からは赤い二つの光が見えている。
抱えた弓は鈍い赤銅色に輝き、しかし放つ強烈な魔力がただの弓ではないと主張する。
「やあ、こんにちは。僕は弓魔っていう……まあ、普通の魔族さ。悪いんだけど、ちょっと其処……通してくれないかな?」
「お断りします。諦めて帰りなさい」
悩む様子すら見せずに言い切るレイナに、弓魔と名乗った魔族は肩をすくめてみせる。
「わざわざ声かけたくせに、それはないんじゃない? ていうか、どうして気付いたの?」
「空間にほんの少しだけ穴を開けて覗くような真似が、私に通用するわけがないでしょう」
「……いやいや、まさか。穴って、声がようやく聞けるような極小だよ? 魔力だって漏れやしないってのに。現にあの場の誰一人気付いてなかったってのに」
「ヴェルムドールは気付いていましたよ?」
くすりと笑い、レイナは剣を抜く。
「そもそも、部屋の違和感に気付かぬメイドが居ないはずが無いでしょう。私を誰だと思っているのですか?」
「……知ってるさ。伝説のメイドナイトとかいうオバサンだ。なんでまだ生きてんだよアンタ」
「その軽口も久々ですね、弓魔。いつだったか、私を狙撃して以来ですか?」
弓魔は忌々しそうに舌打ちすると、片手をあげる。
すると、空間が再びパキリと割れ……中から無数のアルヴァが溢れ出して来る。
「そうかいそうかい、この先に進めないのは分かったよ。でも悪いけど、徹底的に遊んで来いって言われてるんだ。何もせずに帰るのは、ちょっとばかり都合が悪い」
「そうですか。なら遊んで差し上げましょうか?」
四方八方から飛び掛ってくるアルヴァ達に、レイナの一閃が振るわれる。
黒い粒子となって飛び散るアルヴァ達の向こうに弓魔が見たものは……超然とした笑みを浮かべて立つ、レイナの姿であった。
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