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その光は、きっと私の4
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活動報告にてお知らせがあります。
********************************************
「条件……?」
「ええ。この魔法はその条件には合いません」
話す気はない、と言外に語るアルテジオ。
ちなみにであるが、何の誇張もなく事実である。
アルテジオの光葬剣アウラールは、光属性の魔力を一定レベルではあるが「迎撃」することが出来る。
この「迎撃」というものは魔力耐性の派生系ではあるのだが、その内容は全く異なる。
一般的な「耐性」というものは、簡単に言えば「防御」である。
平たく言えば普通は致命傷になる攻撃でも生き残る可能性のある能力である。
これに比べて「迎撃」は、これに多少攻撃的な面を加えたものである。
具体的には、「自分に向かう魔力を消滅させる」ことが出来る。
文字通りの迎撃であり、偶然「光耐性」が変化して出来た、光葬剣アウラールのみが持つ固有能力でもある。
……さて、ここで問題なのは、この「自分に向かう魔力」という点である。
今現在アルテジオの光の魔法障壁に対抗しようとしている光魔法は、正確にはアルテジオを攻撃しようとしているわけではない。
マーロゥを対象とする魔法であり、アルテジオ自身には何の影響も及ぼさない。
光の魔法障壁という「壁」に防がれて通れないだけであって、アルテジオ自身には全く無害であるこの魔法を、光葬剣は「迎撃」するべきものと見做さない。
それ故に、光葬剣での迎撃が不可能となってしまうのである。
「な、ならどうしたらいいんですかい!?」
「どうもしません。永遠に発動する魔法など無い以上、このまま防ぎきればいいだけです」
淡々と告げるアルテジオに、アウロックはほっとした顔をして腕の中のマーロゥを見る。
気絶したマーロゥを見下ろして……そこで、はっとしたようにその怪我の事を思い出す。
「お、おいマリン……」
「分かっています」
多少疲れた顔を見せながらもマリンは、マーロゥの傷を魔法で癒す。
命に影響するレベルでこそないが、だから放置していいと言えるほど浅い付き合いでもない。
マーロゥの傷を癒し終わると、マリンはふらりと揺れ……背後に回っていたクリムに支えられる。
「おつかれさま、マリン」
「……この程度、大したことではありません。それに、まだ状況は続いているのです」
そう言って……しかし、クリムから離れるほどの元気はないままにマリンはアルテジオへと振り向く。
「アルテジオ様。お任せして大丈夫、なのでしょうか」
人によっては不敬ととるかもしれない質問をあえてするマリンに、アルテジオは咎めることなく答える。
マーロゥをアルテジオが来るまで守り切ったのが、マリン達の功績だと分かっているが故でもあるが……「友人」を案ずるが故の言葉を咎めるつもりなど、アルテジオにはそもそも無かった。
「ええ、問題ありません。流石にこの規模の魔法を最初から最後まで防ぎきるのは難しいかもしれませんが……多少弱くなってきています。そろそろ周囲の魔力も枯渇するのでしょう」
そう、この魔法は疑いようもなく「大魔法」に分類されるものである。
大魔法が大魔法と呼ばれる所以は個人の魔力を起点に周囲の魔力をも変換することにあるが、これとて当然限界というものはある。
魔力が切れれば、魔法の効果も終了するのは当然の摂理だ。
攻勢障壁とでも呼ぶべきこの大魔法も、魔力が切れれば当然消滅する。
それであるが故に、感じる威力の弱まりは間違いなく魔法の効果終了のサインでもあった。
「そうですか……」
明らかにほっとした様子のマリンを、クリムが後ろからぎゅっと抱きしめる。
「……なんですか、クリム」
「んーん、おつかれさまって思ったんですよー」
「そうですか」
ふうと仕方なさそうに溜息をつくマリンをじっと見ていたレモンが小走りで駆けていき、マリンを正面から抱きしめる。
「……一応聞きますがレモン、貴女は?」
「二人だけ仲良さそうでズルい、です」
呆れたような顔をしつつもされるがままのマリンに、アルテジオは苦笑し……アウロックは、腕の中のマーロゥの髪を軽く撫ぜる。
「……大丈夫だ。もうすぐ、全部終わるからな」
小さく呻くマーロゥを見て、アウロックはほっと溜息をつく。
そしてエルアークを覆っていた極光はアルテジオの言葉通りにその力を弱めていき……天空と地上の魔法陣も、静かに消えていく。
エルアークを襲った邪悪を消し飛ばした後の空はただ、青く。
全てが終わった事を喜ぶ民衆の歓声が、あちらこちらから響いてくる。
念の為何もないことを確かめ、アルテジオは光の魔法障壁を解除する。
「お、終わったんですか?」
光の魔法障壁が解除されたのを見たアウロックが不安そうに問い、アルテジオは頷く。
「ええ、終わりました。恐らくは、外の状況もほぼ全て終了したことでしょう。これで、全て終わりです」
「そ、そう……です、か」
ほっとしたような顔で、アウロックは腕の中のマーロゥをぎゅっと抱きしめる。
「う……」
小さく呻くマーロゥに、アウロックは途端に表情を引き締める。
「おい、気が付いたのか! マーロゥ、全部終わったぞ……もう大丈夫だ!」
ぼうっとした表情を浮かべていたマーロゥはアウロックの顔を見上げ……その腕の中から、ゆっくりと離れる。
「終わった……?」
ぽつりと、呟く。
辺りを見回し、マーロゥはゆらりと立つ。
「……嫌です」
マーロゥは、小さな声で……しかし、ハッキリとそう呟いた。
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「条件……?」
「ええ。この魔法はその条件には合いません」
話す気はない、と言外に語るアルテジオ。
ちなみにであるが、何の誇張もなく事実である。
アルテジオの光葬剣アウラールは、光属性の魔力を一定レベルではあるが「迎撃」することが出来る。
この「迎撃」というものは魔力耐性の派生系ではあるのだが、その内容は全く異なる。
一般的な「耐性」というものは、簡単に言えば「防御」である。
平たく言えば普通は致命傷になる攻撃でも生き残る可能性のある能力である。
これに比べて「迎撃」は、これに多少攻撃的な面を加えたものである。
具体的には、「自分に向かう魔力を消滅させる」ことが出来る。
文字通りの迎撃であり、偶然「光耐性」が変化して出来た、光葬剣アウラールのみが持つ固有能力でもある。
……さて、ここで問題なのは、この「自分に向かう魔力」という点である。
今現在アルテジオの光の魔法障壁に対抗しようとしている光魔法は、正確にはアルテジオを攻撃しようとしているわけではない。
マーロゥを対象とする魔法であり、アルテジオ自身には何の影響も及ぼさない。
光の魔法障壁という「壁」に防がれて通れないだけであって、アルテジオ自身には全く無害であるこの魔法を、光葬剣は「迎撃」するべきものと見做さない。
それ故に、光葬剣での迎撃が不可能となってしまうのである。
「な、ならどうしたらいいんですかい!?」
「どうもしません。永遠に発動する魔法など無い以上、このまま防ぎきればいいだけです」
淡々と告げるアルテジオに、アウロックはほっとした顔をして腕の中のマーロゥを見る。
気絶したマーロゥを見下ろして……そこで、はっとしたようにその怪我の事を思い出す。
「お、おいマリン……」
「分かっています」
多少疲れた顔を見せながらもマリンは、マーロゥの傷を魔法で癒す。
命に影響するレベルでこそないが、だから放置していいと言えるほど浅い付き合いでもない。
マーロゥの傷を癒し終わると、マリンはふらりと揺れ……背後に回っていたクリムに支えられる。
「おつかれさま、マリン」
「……この程度、大したことではありません。それに、まだ状況は続いているのです」
そう言って……しかし、クリムから離れるほどの元気はないままにマリンはアルテジオへと振り向く。
「アルテジオ様。お任せして大丈夫、なのでしょうか」
人によっては不敬ととるかもしれない質問をあえてするマリンに、アルテジオは咎めることなく答える。
マーロゥをアルテジオが来るまで守り切ったのが、マリン達の功績だと分かっているが故でもあるが……「友人」を案ずるが故の言葉を咎めるつもりなど、アルテジオにはそもそも無かった。
「ええ、問題ありません。流石にこの規模の魔法を最初から最後まで防ぎきるのは難しいかもしれませんが……多少弱くなってきています。そろそろ周囲の魔力も枯渇するのでしょう」
そう、この魔法は疑いようもなく「大魔法」に分類されるものである。
大魔法が大魔法と呼ばれる所以は個人の魔力を起点に周囲の魔力をも変換することにあるが、これとて当然限界というものはある。
魔力が切れれば、魔法の効果も終了するのは当然の摂理だ。
攻勢障壁とでも呼ぶべきこの大魔法も、魔力が切れれば当然消滅する。
それであるが故に、感じる威力の弱まりは間違いなく魔法の効果終了のサインでもあった。
「そうですか……」
明らかにほっとした様子のマリンを、クリムが後ろからぎゅっと抱きしめる。
「……なんですか、クリム」
「んーん、おつかれさまって思ったんですよー」
「そうですか」
ふうと仕方なさそうに溜息をつくマリンをじっと見ていたレモンが小走りで駆けていき、マリンを正面から抱きしめる。
「……一応聞きますがレモン、貴女は?」
「二人だけ仲良さそうでズルい、です」
呆れたような顔をしつつもされるがままのマリンに、アルテジオは苦笑し……アウロックは、腕の中のマーロゥの髪を軽く撫ぜる。
「……大丈夫だ。もうすぐ、全部終わるからな」
小さく呻くマーロゥを見て、アウロックはほっと溜息をつく。
そしてエルアークを覆っていた極光はアルテジオの言葉通りにその力を弱めていき……天空と地上の魔法陣も、静かに消えていく。
エルアークを襲った邪悪を消し飛ばした後の空はただ、青く。
全てが終わった事を喜ぶ民衆の歓声が、あちらこちらから響いてくる。
念の為何もないことを確かめ、アルテジオは光の魔法障壁を解除する。
「お、終わったんですか?」
光の魔法障壁が解除されたのを見たアウロックが不安そうに問い、アルテジオは頷く。
「ええ、終わりました。恐らくは、外の状況もほぼ全て終了したことでしょう。これで、全て終わりです」
「そ、そう……です、か」
ほっとしたような顔で、アウロックは腕の中のマーロゥをぎゅっと抱きしめる。
「う……」
小さく呻くマーロゥに、アウロックは途端に表情を引き締める。
「おい、気が付いたのか! マーロゥ、全部終わったぞ……もう大丈夫だ!」
ぼうっとした表情を浮かべていたマーロゥはアウロックの顔を見上げ……その腕の中から、ゆっくりと離れる。
「終わった……?」
ぽつりと、呟く。
辺りを見回し、マーロゥはゆらりと立つ。
「……嫌です」
マーロゥは、小さな声で……しかし、ハッキリとそう呟いた。
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