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その光は、きっと私の3
しおりを挟む「う、おおお!?」
「あ、ぎい……うあああ!」
「……光の魔法障壁!」
アウロックの光の魔法障壁が、強烈な攻撃で打ち消される。
それとほぼ同時に張られたマリンの光の魔法障壁が同じように攻撃を受け……しかし、なんとか持ちこたえる。
だが、それでも完全ではなかった。
一瞬光に灼かれかけたマーロゥの身体から力が抜け、慌ててアウロックがその身体を支える。
「クリム、レモン! 貴方達も来なさい! 私では……耐え切れない!」
「え、ええ!?」
「分かり……ましたっ!」
光は相変わらず、クリムにもレモンにも、モカにも反応していない。
ただ光の出る方向が増えただけという印象なのだが……それでも実際にアウロックの光の魔法障壁は打ち消され、マリンの光の魔法障壁が攻撃を受けている。
一体どういうことなのかも分からないままに、クリムとレモンはマリンの隣へと飛び込む。
「光の魔法障壁!」
「光の魔法障壁」
クリムとレモンの光の魔法障壁が張られ……しかし、一番外側に張られたクリムの光の魔法障壁は一瞬で打ち砕かれる。
「え、うええ!? ま、光の魔法障壁!」
続けてクリムの展開する光の魔法障壁も打ち砕かれ、クリムはぽかんとした顔をする。
「え、ええ? なに、どういうことなの?」
クリムは魔王城メイド部隊の中では一番魔法が苦手だが、それでも魔王城勤務に相応しいだけの魔法は使える。
平たく言えば、あっさりと魔法障壁を砕かれるような実力ではないのだ。
それでも、砕かれた。
これが意味するのは……それすら超える魔法攻撃が今この瞬間に行われており、それはクリムにダメージを与えないものであるということだ。
そして一番得意なのはレモンであり、レモンの魔法障壁は謎の攻撃を受け続け……その間に、マリンは息を整えている。
モカが全力であれば心強いところなのだが……残念ながらモカは、この魔法に対抗できるほどの魔法障壁を使うほどの魔力が残っていない。
「……貴女がいてよかった、レモン。私では支えきれませんでした」
「それより、マーロゥさんを……移動させるのが先決、です」
そう、この場で「光」に脅えていたのはマーロゥだけ。
ならば、この攻撃がマーロゥを対象に数えているのは明らかだ。
そして勿論のことだが、マーロゥを見捨てるという選択肢は無い。
故に、レモンの要求しているものは……空間転移による、マーロゥの影響範囲外への移動である。
「……出来ません」
だが、マリンはそれを首を横に振って否定する。
「先程気付きましたが、空間転移を阻害する何かがあります。恐らくは、この光の魔法の効果なのでしょうが……」
「……そう」
正常ではない状況での空間転移の強行は、もっとも避けるべきものだ。
それは予測できない状況を招き、マーロゥの保護という目的からも遠いものだ。
「でも、私でもこれを支えきるのは無理……です」
「そ、そうか? 支えられてるように見えるけどよ」
顔面を蒼白にしたマーロゥを支えるアウロックに、レモンは振り返らぬまま光の魔法障壁に魔力を注ぎ続ける。
「……先程から、攻撃が強まってきています。たぶん……相手の実力に合わせて局所的に威力の上限……が」
そうレモンが答えるのとほぼ同時に、光がマーロゥを目指すかのように収束を始め……レモンの光の魔法障壁と激しくぶつかり始める。
「……く……うっ……あっ」
レモンの光の魔法障壁の輝きが「光」の前に弱くなり始め、アウロックが焦ったように叫ぶ。
「そうだ、アルテジオ様だ! あの方の光葬剣なら、こんなもんくらいよぉ!」
「……残念ですが、無理です」
「あ、アルテジオ様!」
クリムが喜びの声をあげ、入り口に向けて走り出す。
そこに立っていたのは間違いようも無くアルテジオの姿であり……しかし、アルテジオは忌々しげな顔で玄関ホールの中を見回した。
「とにかく、まずは……光の魔法障壁」
アルテジオの詠唱と共に玄関ホール全体を包もうかという大きさの光の魔法障壁が展開され、その中から「光」が追い出される。
それを見てレモンは小さく息を吐くと崩れ落ちるように座り込み、ゆっくりと歩いてきたアルテジオがレモンの頭を軽く撫ぜる。
「よかった……アルテジオ様、お戻りになったのですね」
「ええ。しかし、どうやら何か別の問題が発生しているようですね」
アルテジオはそう言って、怪我のせいか恐怖で震えているマーロゥへと視線を向ける。
「は、はい。今発動されている謎の魔法が、マーロゥさんを対象としているようで」
マリンの報告にそうですかと答え、アルテジオは思考を巡らせる。
先程アルテジオと戦っていた謎の骸骨剣士だが、あれは結果から言うとエルアーク全体を包む「光の魔法」によって消滅した。
他にも街のあちこちで戦っていた襲撃者と思われる人間達が消えていくのを見るに、恐らくは「敵」のみを攻撃する魔法であり……アルテジオ達がその対象でないことは理解できていた。
しかし、それならば何故マーロゥは対象となったのか。
その原因さえ取り除くことが出来れば解決するのだが……。
「アルテジオ様。そのう、光葬剣でなんとかできねえっていうのは……?」
安全地帯が出来たことで心に余裕が出来たのか、そんなことを問いかけてくるアウロックにアルテジオは少しの沈黙の後に答える。
「……私の光葬剣は無制限に光の魔力を消すわけではありません。そこには条件があり、制限がある。つまりは、そういうことです」
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