勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
上 下
271 / 681
連載

その光は、きっと私の3

しおりを挟む

「う、おおお!?」
「あ、ぎい……うあああ!」
「……光の魔法障壁マジックガード・ライト!」

 アウロックの光の魔法障壁マジックガード・ライトが、強烈な攻撃で打ち消される。
 それとほぼ同時に張られたマリンの光の魔法障壁マジックガード・ライトが同じように攻撃を受け……しかし、なんとか持ちこたえる。
 だが、それでも完全ではなかった。
 一瞬光に灼かれかけたマーロゥの身体から力が抜け、慌ててアウロックがその身体を支える。

「クリム、レモン! 貴方達も来なさい! 私では……耐え切れない!」
「え、ええ!?」
「分かり……ましたっ!」

 光は相変わらず、クリムにもレモンにも、モカにも反応していない。
 ただ光の出る方向が増えただけという印象なのだが……それでも実際にアウロックの光の魔法障壁マジックガード・ライトは打ち消され、マリンの光の魔法障壁マジックガード・ライトが攻撃を受けている。
 一体どういうことなのかも分からないままに、クリムとレモンはマリンの隣へと飛び込む。

光の魔法障壁マジックガード・ライト!」
光の魔法障壁マジックガード・ライト

 クリムとレモンの光の魔法障壁マジックガード・ライトが張られ……しかし、一番外側に張られたクリムの光の魔法障壁マジックガード・ライトは一瞬で打ち砕かれる。
 
「え、うええ!? ま、光の魔法障壁マジックガード・ライト!」

 続けてクリムの展開する光の魔法障壁マジックガード・ライトも打ち砕かれ、クリムはぽかんとした顔をする。

「え、ええ? なに、どういうことなの?」

 クリムは魔王城メイド部隊の中では一番魔法が苦手だが、それでも魔王城勤務に相応しいだけの魔法は使える。
 平たく言えば、あっさりと魔法障壁を砕かれるような実力ではないのだ。
 それでも、砕かれた。
 これが意味するのは……それすら超える魔法攻撃が今この瞬間に行われており、それはクリムにダメージを与えないものであるということだ。
 そして一番得意なのはレモンであり、レモンの魔法障壁は謎の攻撃を受け続け……その間に、マリンは息を整えている。
 モカが全力であれば心強いところなのだが……残念ながらモカは、この魔法に対抗できるほどの魔法障壁を使うほどの魔力が残っていない。

「……貴女がいてよかった、レモン。私では支えきれませんでした」
「それより、マーロゥさんを……移動させるのが先決、です」

 そう、この場で「光」に脅えていたのはマーロゥだけ。
 ならば、この攻撃がマーロゥを対象に数えているのは明らかだ。
 そして勿論のことだが、マーロゥを見捨てるという選択肢は無い。
 故に、レモンの要求しているものは……空間転移による、マーロゥの影響範囲外への移動である。
 
「……出来ません」

 だが、マリンはそれを首を横に振って否定する。

「先程気付きましたが、空間転移を阻害する何かがあります。恐らくは、この光の魔法の効果なのでしょうが……」
「……そう」
 
 正常ではない状況での空間転移の強行は、もっとも避けるべきものだ。
 それは予測できない状況を招き、マーロゥの保護という目的からも遠いものだ。

「でも、私でもこれを支えきるのは無理……です」
「そ、そうか? 支えられてるように見えるけどよ」

 顔面を蒼白にしたマーロゥを支えるアウロックに、レモンは振り返らぬまま光の魔法障壁マジックガード・ライトに魔力を注ぎ続ける。

「……先程から、攻撃が強まってきています。たぶん……相手の実力に合わせて局所的に威力の上限……が」

 そうレモンが答えるのとほぼ同時に、光がマーロゥを目指すかのように収束を始め……レモンの光の魔法障壁マジックガード・ライトと激しくぶつかり始める。

「……く……うっ……あっ」

 レモンの光の魔法障壁マジックガード・ライトの輝きが「光」の前に弱くなり始め、アウロックが焦ったように叫ぶ。

「そうだ、アルテジオ様だ! あの方の光葬剣なら、こんなもんくらいよぉ!」
「……残念ですが、無理です」
「あ、アルテジオ様!」

 クリムが喜びの声をあげ、入り口に向けて走り出す。
 そこに立っていたのは間違いようも無くアルテジオの姿であり……しかし、アルテジオは忌々しげな顔で玄関ホールの中を見回した。

「とにかく、まずは……光の魔法障壁マジックガード・ライト

 アルテジオの詠唱と共に玄関ホール全体を包もうかという大きさの光の魔法障壁マジックガード・ライトが展開され、その中から「光」が追い出される。
 それを見てレモンは小さく息を吐くと崩れ落ちるように座り込み、ゆっくりと歩いてきたアルテジオがレモンの頭を軽く撫ぜる。

「よかった……アルテジオ様、お戻りになったのですね」
「ええ。しかし、どうやら何か別の問題が発生しているようですね」

 アルテジオはそう言って、怪我のせいか恐怖で震えているマーロゥへと視線を向ける。

「は、はい。今発動されている謎の魔法が、マーロゥさんを対象としているようで」

 マリンの報告にそうですかと答え、アルテジオは思考を巡らせる。
 先程アルテジオと戦っていた謎の骸骨剣士だが、あれは結果から言うとエルアーク全体を包む「光の魔法」によって消滅した。
 他にも街のあちこちで戦っていた襲撃者と思われる人間達が消えていくのを見るに、恐らくは「敵」のみを攻撃する魔法であり……アルテジオ達がその対象でないことは理解できていた。
 しかし、それならば何故マーロゥは対象となったのか。
 その原因さえ取り除くことが出来れば解決するのだが……。

「アルテジオ様。そのう、光葬剣でなんとかできねえっていうのは……?」
 
 安全地帯が出来たことで心に余裕が出来たのか、そんなことを問いかけてくるアウロックにアルテジオは少しの沈黙の後に答える。

「……私の光葬剣は無制限に光の魔力を消すわけではありません。そこには条件があり、制限がある。つまりは、そういうことです」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】 「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」 メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲 しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた! しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。 使用人としてのスキルなんて咲にはない。 でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。 そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。