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その光は、きっと私の2
しおりを挟む復興計画本部。
ザダーク王国の魔族達が集うこの場所にも、光は容赦なく降り注ぐ。
流石に屋根を突き抜けてくることはないようだが……窓からも、壊れた入り口からも容赦なく光は飛び込んでくる。
更に言えば輝く床の件もあり……非常に眩しい状況にアウロック達は閉口していた。
「しっかし、なんだってんだ……こりゃあ、何の魔法だ?」
「強烈な魔力は感じますが……私達を害するものではないようですね」
この場に残っている面々……マリンにも、アウロックにも、クリムにも、レモンにも……その誰もが、それを「なんか眩しい光」以外には認識していなかった。
ただ一人……マーロゥのみが、外からの光の届かぬ場所で微かに震えている。
「おい、マーロゥ?」
その様子にアウロックはおかしいものを感じるが……考えてみれば、こんな強烈な光はどう考えても只事ではない。
落ち着いて対処してしまっている自分達の感覚がおかしいのかもしれないと思い直す。
だが……それでも気になってアウロックはマリンをつつき……マリンは、つつかれた箇所を手で払いながらマーロゥへと近づく。
「……どうされました、マーロゥさん?」
「や、やだ……」
「え?」
脅えたマーロゥの言葉に、マリンは切羽詰ったものを感じ思わず聞き返す。
「やだ、やだ! 私が何をしたっていうんですか! 私を嫌ったくせに、排除しようとしたくせに! 何がいけないっていうんですか!」
「マーロゥさん……!?」
「おい、マーロゥ!?」
壊れたように頭をぶんぶんと振るマーロゥの肩をマリンが掴み、アウロックも駆け寄る。
クリムとレモンは状況が分からず呆然としているが……只事ではないことは理解できた。
「滅びちゃえばいいじゃないですか、こんな街! 全部壊れて、皆思い知ればいいのに……そう思うことの、何が悪いっていうんですか!」
脅えた瞳で、涙を浮かべて。
扉から、窓から差し込む光をマーロゥは睨み付ける。
しかし一瞬強くなったように見えたその輝きにびくりと大きく震えると、マーロゥは再び頭を抱えてぶるぶると震えだす。
それにどう対処するべきかと考え……アウロックは、マーロゥの目線にあわせて語りかける。
「……マーロゥ。よく分からんが、大丈夫だ。落ちつけ、な?」
優しく笑いかけるアウロックへとマーロゥは振り向いて……脅えたように、光の届かぬ場所へと身を寄せる。
「あ、アウロックさんは……あの光が、怖くないんですか?」
「光……?」
言われて、アウロックは差し込む光を振り返る。
確かに強烈な魔力を纏った光ではあるが、害が無いことは証明されている。
「平気だぞ。あたっても特に何も無いからな」
「私は……」
マーロゥは、光へと視線を向けて……自分の身体を、ぎゅっと抱きしめる。
「私は、だめです。あの光にきっと、殺されちゃいます」
「お前が? いや、なんでだよ。俺等が平気なんだぞ?」
「分かるんです。あの光は私を拒絶してるんです。私がこの街の……敵だから」
「敵……?」
何言っているんだ……という言葉が出そうになりながらも、アウロックはマーロゥの言葉の意味を考える。
敵。
争いの苦手なマーロゥから出てきた、暴力を肯定する言葉と異形への変身。
そして、この強力な魔力を内包した魔法。
そう、この魔法だ。
この魔法は、一体なんだというのか。
ただ眩しいだけの魔法でなどあるわけがない。
「おい、マリン。何かわからねえのか?」
「こういうのは私よりも……レモン。いかがですか?」
話を振られたレモンは扉の外を見ると、すっと目を細める。
差し込む光に目を向け……床の一部を眩く照らしている光にも目を向ける。
「……たぶん、超大規模の攻撃魔法です。私達が影響下にない理由は分かりませんが、そうした何かしらの判定機能が存在しているんだと思います」
「つまり、マーロゥさんは私達に適用されている「判定」の適用外である、と?」
「……」
レモンは、それには答えない。
そこまで解析するには何もかもが足りないし、何かが違うような気がしたからだ。
しかし具体的に言葉にするほど確証があるわけでもなく……仕方なく、レモンは沈黙を選んでいた。
「だけどよ。するってえと、このまま光の届かない場所にいれば問題ないってことだろ?」
「そう、なるのでしょうか……」
「なんならアレだ。あー……光の魔法障壁」
アウロックの詠唱と共に、アウロックとマリン……そしてマーロゥを光の魔法障壁が包む。
「ほら、これで安心だろ?」
どうだよ、などと言ってマーロゥのウサギ耳を指で撫ぜてみせると、マーロゥはアウロックの顔をじっと見上げる。
「……アウロックさん」
「おう」
「……くすぐったい、です」
「おう、そうか」
「はい」
そう言って、マーロゥは浮かんだ涙を拭きながら微笑む。
アウロックもそれを見て悪戯っぽく笑ってみせ……マーロゥのウサギ耳から指を離す。
それをちらりと視線で追いかけて、マーロゥは少しだけ寂しそうな顔をする。
その様子は、いつも通りのマーロゥそのもので……アウロックはなんとなく安心する。
「……アウロック、さん」
そんなアウロックの袖を、マーロゥが軽く掴む。
ちょっと腕を動かすだけで振り払えそうなそれを、アウロックは動かない事で肯定してみせる。
「あの、ですね。アウロックさん。私、は」
その言葉が最後まで紡がれる、その前に。
エルアーク中の地面から、床から……天から受け取り続ける光を再び返そうというかのような、光の柱が立ち上った。
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