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光、見えなくても8
しおりを挟むマーロゥの純粋な憧れに満ちた言葉に、アルテジオはどう答えたものかと沈黙し……しばらくの後に、そうですねと言って切り出す。
「魔法は才能に左右される部分が根幹にありますが、ある程度は努力でどうにか出来る部分があります。貴女にこの魔法について教えるというのは無理ですが、やがて貴女も自分に合った魔法の運用法を身に付けることはできるでしょう」
「はい! 私、頑張ります!」
マーロゥの元気な返答にアルテジオは優しく微笑んでみせる。
クリムも楽しそうに微笑み……レモンは、自分の方が役に立つのにとでも言いたげな表情を浮かべている。
そこだけ見れば、実に微笑ましい光景なのだが……アウロックとマリンの二人だけは、複雑な表情で顔を見合わせる。
「なあ、やっぱりアレ……変だよな」
「性格が変わっていますね。明らかに好戦的になっています」
アウロックとマリンの脳内に浮かぶのは、此処に戻ってきた時のマーロゥの姿だ。
あの化け物じみた姿は、魔獣のようでもビスティアのようでもあって、しかしどれとも違っていた。
あえて言うのであれば、魔獣を無理矢理人のような形に整えたもの……といったような歪さをもっていた。
しかし、あんな能力をマーロゥは持っていたのだろうか。
魔王であるヴェルムドールはマーロゥを見た時に何か思うところがあるような顔をしていたが……到着した時に、多少なりとも時間をとってもらったほうが良いのかもしれないと二人は頷きあう。
ひょっとすると、その能力の影響であるかもしれないからだと考えたからだが……実のところ、その予想は当たっていた。
マーロゥを変身させたのは、マーロゥの中に動かず眠っていた混転身の能力によるものである。
それ自体は魔獣の獣転身に似たようなものなのだが……攻撃的な感情に対するリミッターの解除と増幅という、より戦闘に特化する「狂化」の能力が組み込まれていた。
いわば、先程のマーロゥの初戦闘においてマーロゥが自我を保っていたのは強固に過ぎるマーロゥの自制心と、争いを嫌い恐れる性格による奇跡的な「狂化」との打ち消しあいによるものであったのだ。
しかしながら、それでもマーロゥの心は「狂化」にのまれかけ、侵されかけた。
その半端な「狂化」の発動の結果マーロゥに残ったものは……心の奥底に鍵をかけて閉じ込めていた暗い感情の発現でもあった。
更に大きく違うのは獣転身と違い任意発動ではなく常時発動能力という点であり……混転身が起動したことによって、マーロゥの中には常に「狂化」が発動した状態にもなったのである。
恨み、怒り……様々な感情とマーロゥの元々の心はせめぎ合い、やがてマーロゥの中に「敵」というカテゴリを作り出した。
それが今のマーロゥに対するアウロックとマリンの違和感であり、マーロゥが表面上は変わっていないようにも見える理由でもある。
何しろ、生物としては何も間違っていないのだ。
自分を害する者を敵と看做すのは当然であり、それが正当な理由無きものであれば撃滅したいと願うのもまた当然である。
そういった感情に欠けていた今までのマーロゥこそが違和感のある存在であり、その辺りがアルテジオ達が違和感を感じない理由でもある。
しかしながら、アウロック達にそんなことが分かるはずもない。
ただ、キラキラとした憧れの目でアルテジオを見つめるマーロゥを心配そうに見るだけだ。
「あ、アウロックさん!」
「お、おう」
笑顔で振り返ったマーロゥに、アウロックはどもりながらも答える。
その笑顔に、今までのような辛そうな……我慢したような色は無い。
「私、頑張りますから!」
「……おう」
だからこそ、アウロックはそれでもいいのかもしれないな……とちらりと思う。
あの辛そうな笑顔よりも、今のほうがずっと幸せそうだからだ。
「ギ、ゲガ……」
そして。
聞こえてきた声に、全員が氷結大樹へと視線を向ける。
声をあげたのは、あの指揮役の騎士であり……僅かに身じろぎを続けているのが見える。
「ガ……オ、オオ……ゲ、ゲアアアアア!」
「む!?」
指揮役の騎士の姿が鎧ごと、ざらりと黒い砂になって崩れる。
それと同時に、他の騎士達の姿もざらりと崩れ……指揮役の騎士の身体があった場所へと集まっていく。
「え、ええ!? な、なんですかアレ! アレなんですかアルテジオ様!」
「崩れて……集まって……?」
混乱したような様子を見せるクリムとレモンだが、それも仕方の無い事だ。
少なくとも彼女達の理解では、人間はいきなり砂となって崩れるような生き物ではない。
いや、人間どころか他の人類を見渡したところでそんな生き物は居ない。
魔族に範囲を広げたところで、精々アメイヴァがどろどろになるかどうかといったところだろう。
……ならば、これはなんだというのだろう。
目の前で集まり、形を成していくこの「何か」は。
不気味な音を立てながら集い形を成していく「何か」は、輝きと共に小規模な魔力爆発を起こす。
破砕音と共に氷結大樹が吹き飛び、しかしアルテジオ達はとっさに展開した魔法障壁でダメージを防ぐ。
そうして、爆発による光と粉塵の収まった先。
その中心には……その全身のあちこちに顔を模した気味の悪い装飾を施した鎧を纏う骨の姿があった。
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