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黒翼は蒼天に羽ばたく7
しおりを挟む「で、カイン。なんで二階壊れてるの?」
「うっ、えーと……色々あったんだよ」
「ふーん?」
一階の居間で椅子に優雅に腰掛けたリースは、カインのそんな誤魔化しに頷いてみせる。
カインとしても「暗殺者を魔法で吹っ飛ばした」などとは言えないのでそう誤魔化すしかないのだが、リースはそれ以上何も言ってはこない。
「んっと……」
「なにかしら」
「今のでいいんだ?」
思わずカインがそう聞き返してしまうと、リースはきょとんとした顔をする。
「あら、聞いて欲しく無さそうだったからそうしたんだけど。実は聞いて欲しかったの?」
「え? い、いや。そんなことはないけど」
「でしょう? ところでカイン、朝食はもう食べた?」
言われて、カインは首を横に振って否定する。
そう言われてみれば、まだ何も食べていない。
というよりも、起きてすぐにツヴァイの一件があったのとリースの来訪があったからではあるのだが。
「い、いや……まだだけど」
「そう、やっぱりね。そうだと思って朝早くから来たんだもの」
「えっと」
リースは笑みを浮かべると、カインをじっと見る。
「ねえ、カイン。私と朝市に行きましょうよ。楽しいわよ?」
「ダメだ」
「あら、アイン。いたの?」
カインが答える前に、アインが階段から降りてきて答える。
アインはリースを軽く睨み付けるように見ると、扉をすっと指差す。
「見ての通り、そこの馬鹿が寝ぼけて二階を壊したんでな。明日は試合もあることだし、色々とやらねばならんことがある……お引取り願おうか?」
「なによ。アインてば、カインを独り占めする気なの? 別に朝市くらいいいじゃない」
「ダメだ」
即座に却下するアインとこれ以上交渉しても無駄だと悟ったのか、リースはカインに視線を向ける……が、カインがごめんね、と言うのを聞くと不満そうに立ち上がる。
「もう、せっかく今日は試合休みだって聞いて遊びに来たのに……仕方ないわね。また今度遊びましょ?」
そう言うと、リースは立ち上がって扉に手をかける。
「ね、カイン。いいでしょ?」
「うーん……約束は出来そうに無いかな」
「……本当に冷たいのね。どうしてカインは私にそんなに冷たいのかしら……なんてね。それじゃ、またね?」
冗談めかしてリースが出て行くのを見ると、カインはふうと息を吐く。
「……確かに、女と見れば無制限に甘いお前らしくは無いな?」
「え? 僕、そんな風に見られてたの……?」
「冗談だ。一割くらいはな」
アインの言葉に、カインががくりと肩を落とす。
「いや、まあ……警戒するのは当たり前じゃないか」
「まあな。普通はそうだ」
「僕が普通じゃないと言われてるみたいだけど……まあ、いいや。それより今朝の食事はどうする?」
そう言いながら、カインは食材庫をちらりと見る。
色々と放り込んではあるが、なにしろ昨日暗殺者が来たばかりだ。
なにかしら毒が仕込まれていないとも限らないし、わざわざそれを確かめるのも時間がかかってしまう。
となると、食材に関しては全て処分するのが正しい対応となってしまう。
そしてそうなると、今朝の食事に使う食材が無いのだ。
「……そうだな。何処かの食堂が開くまで待つという手もあるが」
「ん、そうだね……この近くだと……」
カインはそう言って黙り込み、少ししてから思いついたように席を立つ。
「そうだ、さっきリースが言ってた朝市に行くってのはどう?」
「朝市か……」
朝市というのは、何処の街でも朝一番にやっている郊外に立つ露店の群れのことである。
店舗を持たない農業従事者の作物や鍛冶師が趣味で作った物、あるいは外からやってきた行商人の品物などが並び、それに混ざって見物客狙いの食事を出す露店が並んでいたりするのである。
時間潰しにも食糧補充にも最適である為、それ自体にはアインも異存はない。
ない、のだが。
「いいのか?」
「なにが?」
「リースに出くわすんじゃないのか?」
言われてカインは一瞬うっ……と呻くが、すぐに元の表情に戻る。
「ん、んー……大丈夫じゃないかな?」
「何を根拠に言っている?」
「根拠っていうか……まあ、勘だけど。彼女、朝市自体にはそんなに興味ないように見えたし」
そんなカインの返答にアインはなるほどな、と頷く。
確かに何かと理由をつけてリースはやってくるが、カインが目当てであると考えて間違いは無い。
そこまでカインにこだわる理由は不明だが……まあ、カインに女関係のトラブルが付きまとうのは「いつものこと」ではある。
それに、情報を仕入れるのにも朝市という場は最適だ。
色々と報告すべき面白い情報が入る可能性もある。
「……そうだな。行ってみるか」
「そっか。じゃあ、すぐ行こう!」
「すぐ……ん?」
言われて、アインはカインの腰に剣が吊り下げられている事に気付く。
流石に鎧は着ていないようだが、職業病というものなのだろうか?
まあ、アインとて腰に短刀と短杖を着け、あちこちに投げナイフを仕込んでいるのだから人の事は言えないのだが。
「鎧は着なくていいのか?」
そう冗談を投げかけてみると、カインは真面目な顔で悩み始める。
「そっか。着てたほうがいいかな? またいつ襲撃があるかも分からないしね」
「……好きにしたらいいんじゃないか?」
そう言って、アインは溜息をつく。
早速鎧を着ようと思ったのか階段を上ろうとするカインに、アインは思い出したように声をかける。
「ん? そういえばお前の部屋……荷物は無事なのか?」
「あ、うん。ドア近くに置いてたからね。無事だよ?」
その辺りは気をつけてるよ、と自慢気に言うカインにアインは近づき、その頭をパンと音を立てて叩く。
「気をつける奴は部屋を魔法で吹き飛ばしたりしないんだ。このバカが」
「うっ……」
「まあ、死なれるよりは大分マシだ。だから次は吹き飛ばすな……とは言わん。必要なら次も吹き飛ばせ」
アインの言葉の意味を理解すると、カインはパッと笑顔を浮かべる。
「……分かった。次も遠慮せず……いったあ!?」
「積極的にはやるんじゃないぞ。分かったな?」
カインの足の脛に的確な蹴りを入れると、アインはさっさと用意をしてこいと二階を指差した。
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