226 / 681
連載
黒翼は蒼天に羽ばたく
しおりを挟む
選考会編、開幕です。
********************************************
闘技場。
文字通り、闘いの技を見せ合う場である。
されど、何と何が戦うのか。
それは想像するまでもなく、人である。
人と人が闘う場を見る為のこの場所は実は、エルアークには無い。
というのも、人同士の闘いを娯楽とするのに抵抗のある者がいるからだ。
しかしそれは、このカシナートに闘技場があるのと矛盾する。
いや、闘技場だけではない。
このカシナートはエルアークよりも遥かに多くの娯楽……というよりも享楽がある。
闘技場、娼館、各種の賭博場。
首都であるエルアークよりもそれらが多い理由は、このカシナートという街が何故存在するのか……という点に繋がる。
この副都カシナートは、王ではない王族……具体的には王が即位した後に残った「次に尊い王族」が治める街である。
平たく言えば、王になれなかった王族が王の予備としての役割を務める為に存在する街なのだ。
しかしながら王に息子が出来れば当然次の王はその息子になるわけであり、実質王都から追いやられた王族の行き先と言い換えてもいい。
そんな王族を慰めるために闘技場が出来て、その闘技場で名を上げるために様々な者が集まった。
その者達を客層とした娼館や、闘技場での賭けの容認により規制や心理的壁が緩くなった隙をついて賭博場が出来上がった。
そうして完成したのが、今のカシナートである。
エルアークが光の都であるならば、カシナートは影。
光の輝く裏に出来た、影の都なのだ。
そして、そのカシナートの象徴ともいえる闘技場には今日、多くの人が集まっていた。
それはカシナートに集った一般人達であり、今日この闘技場に刺激を求めて来た者達である。
希望を求めてカシナートへとやってきて、確かに安全は手に入った。
しかし内乱が終わったわけではない。
その不満は知らず知らずのうちに鬱積しており……それを晴らせるのではないかという期待もあったのだろう。
実際、原始的な娯楽はより多くのストレスを発散させることが出来る。
そういう意味でも、この騎士団員選考会の開催は成功であるとも言える。
さて、その選考会のルールであるが……これは実に簡単だ。
ルールはシンプルな勝ち抜き戦。
防具は持込で使用可能だが、武器は死亡事故回避の為に刃を落としたものが使用される。
とはいえ金属製の刃物が鈍器になったという違いしかないので、そこは配慮が要求される。
白熱していれば難しいが、それもまた騎士に要求される資質ということで片付けられている。
そして此処がポイントなのだが、大魔法を除く魔法も使用可能である。
これは魔法使いである光杖騎士団が現在そのほとんどがナリカに従っていることに起因するが、最先端の魔法国家とも言われるキャナル王国ならではともいえる。
……いえる、のだが。
これは当然ではあるのだが、戦闘に使える魔法とは大魔法でなくともそれなりの殺傷力を持っている。
平たく言えば簡単に相手を殺せる技術であり、武器のように刃を落とすなどといったようなことも出来ない。
そこで、魔法に関しては「相手を殺さないように留意する」とされている。
どういうことかというと、まあ……狙って頭を消し飛ばすような真似はするなということだ。
そして死にさえしなければ、ある程度の損傷は魔法でどうにかなる。
ならば武器もわざわざ刃を落とさなくてもよいのではないか、という意見も当然ある。
「随分昔に、奥義だかなんだかで相手を真っ二つにしちゃった人がいるみたいで。それに武器での斬り合いはグロくて見たくないとかいう人もいるらしいよ」
「くだらん。ならば見なければよかろうに」
「あ、あはは……」
この辺りについては対人の試合の国際ルールなので仕方の無い面がある。
適宜改正されているので色々と理屈の合わない部分もあるのだが……まあ、それは今は特に関係の無いことである。
まあ、ともかく武器は刃を落としたものを貸し出されるということでアインとカインは他の参加者達と一緒に武器庫に来ているところであった。
色々と並んではいる。
片手剣だけでも片刃、両刃、直剣に曲刀にその他諸々。
普段から盛り上げるために様々な工夫を凝らしているのであろうことが伺えるラインナップである。
しかしながらカインが選んだのは一般的なロングソード。
アインが選んだのもまた、同じくロングソードである。
「え、短剣じゃなくていいの?」
驚いたように言うカインの頭を、アインはゴツンと叩く。
そのままアインはカインの耳を引っ張ると、小さな声で囁く。
「阿呆か、お前は。私の投擲術も短剣術も、どちらも見る奴が見れば隠密用の技能だと分かる。そんなものを騎士団員の選考会で披露してどうする気だ」
「え、どうするって……」
「分からん奴だな。そんな怪しい奴、私なら即座に何処かの諜報部隊員だと見抜くぞ。だからこそ一般的な武器を選んでいるんだろうが」
これは当然の話なのだが、武器術というものは歴史の積み重ねである。
武器には生まれた経緯があり、また武器術にも生まれた経緯がある。
更に言えば武器にも武器術にも「お国柄」とでも言うべき流行や伝統があり、それによってある程度の個人に対する推測を立てることも可能だ。
アインが言っているのはつまり、そういうことだ。
「へえー」
「へえ、じゃない。お前も一端の剣士ならそういう所から相手の手札を予測する癖をつけろ」
「ん、分かったよ」
カインはそう言うと、手に持ったロングソードの握り心地を確かめる。
「本当に分かってるんだろうな」
「分かってるよ。んー、剣の良し悪しならある程度分かるんだけどな」
「フン、そんなもの。見て分からんのなら手にとって見ればいいというだけの話だろうが」
勿論その域に至るまでに結構な熟練が必要なのだが、わざわざ突っ込む者は居ない。
「ん、これかな」
カインは選び出した剣を手に取り、武器庫の出口へと向かう。
そこには一人の騎士がいて、要はそこで選んだ武器を知らせる形になっている。
「カイン選手とアイン選手……二人ともロングソードですか。了解しました」
何かをサラサラと書き込むと、騎士はアインとカインへと順番に視線を送る。
「分かっているとは思いますが、これは貸し出し武器です。他人への譲渡、販売は禁止されています。破損については試合中のことであれば、この責任を問いません。この破損の場合はこちらで破損武器の返却と新たな武器の貸し出しを行うことになります」
「はい」
「ああ」
カインとアインの返事に満足した顔を浮かべると、騎士は出口の扉を指し示す。
「それでは、健闘をお祈りします」
試合開始までは、まだ時間がある。
しかし、闘技場はすでに試合中であるかのような熱気で溢れていた。
********************************************
闘技場。
文字通り、闘いの技を見せ合う場である。
されど、何と何が戦うのか。
それは想像するまでもなく、人である。
人と人が闘う場を見る為のこの場所は実は、エルアークには無い。
というのも、人同士の闘いを娯楽とするのに抵抗のある者がいるからだ。
しかしそれは、このカシナートに闘技場があるのと矛盾する。
いや、闘技場だけではない。
このカシナートはエルアークよりも遥かに多くの娯楽……というよりも享楽がある。
闘技場、娼館、各種の賭博場。
首都であるエルアークよりもそれらが多い理由は、このカシナートという街が何故存在するのか……という点に繋がる。
この副都カシナートは、王ではない王族……具体的には王が即位した後に残った「次に尊い王族」が治める街である。
平たく言えば、王になれなかった王族が王の予備としての役割を務める為に存在する街なのだ。
しかしながら王に息子が出来れば当然次の王はその息子になるわけであり、実質王都から追いやられた王族の行き先と言い換えてもいい。
そんな王族を慰めるために闘技場が出来て、その闘技場で名を上げるために様々な者が集まった。
その者達を客層とした娼館や、闘技場での賭けの容認により規制や心理的壁が緩くなった隙をついて賭博場が出来上がった。
そうして完成したのが、今のカシナートである。
エルアークが光の都であるならば、カシナートは影。
光の輝く裏に出来た、影の都なのだ。
そして、そのカシナートの象徴ともいえる闘技場には今日、多くの人が集まっていた。
それはカシナートに集った一般人達であり、今日この闘技場に刺激を求めて来た者達である。
希望を求めてカシナートへとやってきて、確かに安全は手に入った。
しかし内乱が終わったわけではない。
その不満は知らず知らずのうちに鬱積しており……それを晴らせるのではないかという期待もあったのだろう。
実際、原始的な娯楽はより多くのストレスを発散させることが出来る。
そういう意味でも、この騎士団員選考会の開催は成功であるとも言える。
さて、その選考会のルールであるが……これは実に簡単だ。
ルールはシンプルな勝ち抜き戦。
防具は持込で使用可能だが、武器は死亡事故回避の為に刃を落としたものが使用される。
とはいえ金属製の刃物が鈍器になったという違いしかないので、そこは配慮が要求される。
白熱していれば難しいが、それもまた騎士に要求される資質ということで片付けられている。
そして此処がポイントなのだが、大魔法を除く魔法も使用可能である。
これは魔法使いである光杖騎士団が現在そのほとんどがナリカに従っていることに起因するが、最先端の魔法国家とも言われるキャナル王国ならではともいえる。
……いえる、のだが。
これは当然ではあるのだが、戦闘に使える魔法とは大魔法でなくともそれなりの殺傷力を持っている。
平たく言えば簡単に相手を殺せる技術であり、武器のように刃を落とすなどといったようなことも出来ない。
そこで、魔法に関しては「相手を殺さないように留意する」とされている。
どういうことかというと、まあ……狙って頭を消し飛ばすような真似はするなということだ。
そして死にさえしなければ、ある程度の損傷は魔法でどうにかなる。
ならば武器もわざわざ刃を落とさなくてもよいのではないか、という意見も当然ある。
「随分昔に、奥義だかなんだかで相手を真っ二つにしちゃった人がいるみたいで。それに武器での斬り合いはグロくて見たくないとかいう人もいるらしいよ」
「くだらん。ならば見なければよかろうに」
「あ、あはは……」
この辺りについては対人の試合の国際ルールなので仕方の無い面がある。
適宜改正されているので色々と理屈の合わない部分もあるのだが……まあ、それは今は特に関係の無いことである。
まあ、ともかく武器は刃を落としたものを貸し出されるということでアインとカインは他の参加者達と一緒に武器庫に来ているところであった。
色々と並んではいる。
片手剣だけでも片刃、両刃、直剣に曲刀にその他諸々。
普段から盛り上げるために様々な工夫を凝らしているのであろうことが伺えるラインナップである。
しかしながらカインが選んだのは一般的なロングソード。
アインが選んだのもまた、同じくロングソードである。
「え、短剣じゃなくていいの?」
驚いたように言うカインの頭を、アインはゴツンと叩く。
そのままアインはカインの耳を引っ張ると、小さな声で囁く。
「阿呆か、お前は。私の投擲術も短剣術も、どちらも見る奴が見れば隠密用の技能だと分かる。そんなものを騎士団員の選考会で披露してどうする気だ」
「え、どうするって……」
「分からん奴だな。そんな怪しい奴、私なら即座に何処かの諜報部隊員だと見抜くぞ。だからこそ一般的な武器を選んでいるんだろうが」
これは当然の話なのだが、武器術というものは歴史の積み重ねである。
武器には生まれた経緯があり、また武器術にも生まれた経緯がある。
更に言えば武器にも武器術にも「お国柄」とでも言うべき流行や伝統があり、それによってある程度の個人に対する推測を立てることも可能だ。
アインが言っているのはつまり、そういうことだ。
「へえー」
「へえ、じゃない。お前も一端の剣士ならそういう所から相手の手札を予測する癖をつけろ」
「ん、分かったよ」
カインはそう言うと、手に持ったロングソードの握り心地を確かめる。
「本当に分かってるんだろうな」
「分かってるよ。んー、剣の良し悪しならある程度分かるんだけどな」
「フン、そんなもの。見て分からんのなら手にとって見ればいいというだけの話だろうが」
勿論その域に至るまでに結構な熟練が必要なのだが、わざわざ突っ込む者は居ない。
「ん、これかな」
カインは選び出した剣を手に取り、武器庫の出口へと向かう。
そこには一人の騎士がいて、要はそこで選んだ武器を知らせる形になっている。
「カイン選手とアイン選手……二人ともロングソードですか。了解しました」
何かをサラサラと書き込むと、騎士はアインとカインへと順番に視線を送る。
「分かっているとは思いますが、これは貸し出し武器です。他人への譲渡、販売は禁止されています。破損については試合中のことであれば、この責任を問いません。この破損の場合はこちらで破損武器の返却と新たな武器の貸し出しを行うことになります」
「はい」
「ああ」
カインとアインの返事に満足した顔を浮かべると、騎士は出口の扉を指し示す。
「それでは、健闘をお祈りします」
試合開始までは、まだ時間がある。
しかし、闘技場はすでに試合中であるかのような熱気で溢れていた。
1
お気に入りに追加
1,741
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。


お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。