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連載
エルレイム城にて
しおりを挟むエルレイム城。
副都カシナートの中心部に存在する城であり、王弟などの「王の次に位置する王族」が本来は住む城である。
しかしながら、現在は住むべき王族は存在しない。
故に派遣された代官が管理していた城であったのだが……そこに第一王女ナリカの軍がやってきて、占拠したというわけである。
そういう事情でエルレイム城はエルアークのフィブリス城程ではないものの、王族が住むに相応しい立派な造りとなっている。
その玉座に座るのは、一人の女。
黄金の髪にきつめにカールさせた女は美しく、しかし一目見て後ろに下がりたくなるような威圧感をも持っている。
その女の名は、ナリカ。
キャナル王国の第一王女にして、このカシナートに駐留する軍の実質的な指揮官である。
いつも不機嫌そうなナリカは今日は珍しく機嫌がよく、しかしその正面では宮廷魔法使いのマゼンダが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「……ナリカ様。この騎士募集とやらはなんですか?」
あちこち飛び回っているマゼンダが帰ってきたのは、今朝のこと。
すでに街中に伝えられた「騎士募集」の触れは今更取り消すわけにもいかない。
そのあたりに貼ってあった触れ書きを剥がしたものをマゼンダはナリカへと突きつける。
怒気すら込めたマゼンダの問いに、玉座のナリカは手の中の黄金の杖を弄びながら笑う。
「見ての通りじゃない。騎士団員募集の触れ書きよ」
「何故、そんなものを募集する必要が?」
「説明する必要があるのかしら」
ナリカとマゼンダは睨みあい……やがて、ナリカが仕方ないという風に肩をすくめる。
「戦争やっている以上、騎士は消耗品よ。あの出来損ないとの決戦に備えて、優秀な人材を確保する義務が私にはあるわ」
「ただの戦争ならともかく、内乱だということにご理解は? 間諜が混ざっていたらどうするのです」
「ありえないわ」
マゼンダに、ナリカは呆れたように手をひらひらとさせる。
「いいかしら、マゼンダ。私は誰?」
「キャナル王国第一王女、ナリカ様です」
「そうよ。私は継承権一位、ナリカ……正統なるこの国の後継者よ。お父様も、私の正当性を保証してくれていることは貴女も知っているでしょう?」
「……ええ、よく知っています」
無表情になったマゼンダに、ナリカは自分の手の平を黄金杖でパシパシと叩きながら自信に満ちた顔をする。
「そうよ、誰もが知っているのよ。私が……この私こそが正統であることをね。それに従わない愚か者なんて、いるわけないじゃない」
そのあまりにも愚かしい言葉に、マゼンダは無表情を貫き通す。
ソレでは従わない奴が大勢いるから内乱が発生しているのだ。
何故自分に従ったのが「全ての騎士団」では無かったのか、ナリカは考えたことすらないのだろう。
このカシナートに集めたのは「ナリカを崇める者」あるいは「セリスに反発する者」であるが、そこにそれを装う者が居ないという保証は何処にも無い。
平時ならともかく、この内乱という状況下において権威など正当性を主張する道具の一つでしかないというのに。
「……ええ、その通りでございますね」
しかし、マゼンダは同意して頭を下げてみせる。
そうすると、ナリカは満足したようにフンと鼻を鳴らす。
「分かればいいのよ。マゼンダ、アンタは所詮魔法使いなんだから。政治のことなんか分かんなくたって仕方ないわよ」
「恥じ入るばかりでございます……ところでナリカ様、この触れ書きには武闘大会とありますが……?」
「そうよ。弱い奴雇っても仕方ないでしょう?」
「なるほど、なるほど。それではこの書類審査というのは……?」
「騎士には教養も必要よ。馬鹿なんかいらないの」
左様でございますか、と言ってマゼンダは頷く。
思いつきかと思ったが、一応考えてはいるらしい。
「じゃあマゼンダ、運営は任せたわよ」
「は?」
「仕事を任せてあげようって言ってるのよ。そのくらいなら出来るでしょ?」
「……御意に」
マゼンダは礼をすると、玉座の間から出ていく。
扉を閉め、廊下を進み。
自室に入ると、マゼンダはプッと吹き出す。
「やれやれ……困った方だ。愚かなのは知っていましたが、まさかあそこまでとは。私がいなかったら、どうするつもりだったのやら」
「よろしいのですか。ご命令さえ頂ければすぐにでも……」
「ダメです」
背後に現れた男に、マゼンダは振り返らぬまま答える。
「ナリカ様には、あのままでいてもらわねば困ります」
「しかし……」
「セリス様が現時点で使えない以上、ナリカ様の替えはないのです」
「そ、それこそご命令頂ければすぐにでも!」
コン、と。
マゼンダが杖で床を叩く音に男はビクリと反応して黙り込む。
「貴方があのレイナに勝てるというなら送り込んでもよいのですがね。セリス様をさらってくるのでは意味がないということから説明しなければいけませんか?」
「え、あ……」
「馬鹿は黙っていなさい。計画の内にある馬鹿はともかく、手足が馬鹿だとイラつくんですよ」
口を噤んだ男へと、マゼンダは振り返る。
そこにあるのは……光杖騎士団長の地位にある男の姿だ。
顔を真っ青にしながら片膝をつく敬礼の形をとる男を、マゼンダは冷たい瞳で見下ろす。
「いいですか、よく聞きなさい。ナリカ様が思いついた騎士団員募集とやらですが……適当にこちらの手駒を混ぜなさい」
「はっ!? そ、それはどのようにして」
「チッ、無能が……そうですね、消えても問題なさそうな屑……できれば冒険者辺りなら問題ないかと思いますよ? 治安の維持にも役立ちます」
マゼンダの言葉を受け、男は立ち上がって敬礼する。
「了解いたしました。二、三人ほど用意しておきます」
「そうしてください……ああ、目的は分かっていますよね?」
「はい。こちらの手駒をより浸透させる為でございますね!?」
「……もういいです。後で指示しますから、とにかく用意なさい」
「ハッ」
部屋から出ていく男を溜息交じりに見送り、マゼンダは髪をかきあげる。
まったくままならない。
馬鹿は普通に使えないし、かといって頭の回る奴は余計な事を考える。
中間くらいの奴が一番いいのだが、そういう者は中々いない。
そう、居ないのだ。
少なくとも、ナリカの陣営に居ないことは誰よりもマゼンダが知っている。
「すでに末期。私が何をせずとも、いずれ崩れ落ちる砂の城だったのやもしれませんね」
くつくつと、暗い笑顔を浮かべてマゼンダは哂う。
その崩れ落ちる砂の城に毒の川を流し、針の大地を敷いた。
傷つき疑心に惑う人々の醜態の、なんと甘美なことだろうか。
もう一押し。
あと一押しで全てが絶望に塗れ崩れ落ちるというのに、どうにもこうにも余計な茶々があちこちから入る。
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これのせいで、計画はある程度の修正を迫られている。
しかし、大局的な視点で見れば問題はない。
いや、むしろ……より面白い方向へと転がっているようにすら思える。
「ふふ、ふふふ。楽しみですね」
誰もいない部屋の中でマゼンダは、一人哂う。
邪悪に歪んだその笑みを見る者は此処には……居ない。
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