勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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ギリザリス地下神殿6

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 カツン、カツンと。
 コツン、コツンと。
 二つの足音がギリザリス地下神殿の通路に響く。
 何処まで行っても似たような意匠の、似たような通路と似たような部屋。
 実に芸がないと言わざるを得ないが、それが魔人ギリザリスの美的感覚か……あるいは、限界だったのかもしれない。

「……この内装は変えたほうがいいわね。気が滅入るわ」
「そうしよう」
「というよりも根本的な問題として、やっぱり地下ってどうなのかしら。それとも私の感覚がおかしいのかしら」
「どうだろうな。俺もあまり好きではないが」

 そんな会話を淡々と続けながら、サンクリードとイクスラースは通路を歩く。
 通路を進み、階段を降りて。
 そうして進んだ先に、少し広い小ホールのような空間が現れる。
 やはり同じような意匠だが……その中央には、埃の積もった石像があるのが分かる。
 その奥にあるのは豪奢な扉で、恐らくはその先がこのダンジョンの最深部なのだろう。
 こういう場合、「人類の英雄譚」であるならば石像がゴーレムだったり……というところだろうか。
 実際、石像は如何にもな剣と盾を構えており、しかも「如何にもさ」を増すためなのか、それだけはしっかりとした金属製であったりする。
 ……とはいえ、金属部分が錆びてしまっているのでは台無しではある。

「なるほどな。入り口のものと同じ、こけおどしか」

 サンクリードは躊躇いもなく石像に近づくと、石像の首を一撃で斬り飛ばす。
 床に落ちる前にその首を掴み取ると、その石像の顔を眺める。
 どうやら若い魔人の男のようだが、なんとも軽薄そうな顔をしている。
 何が嬉しいのか分からないが、自信満々の笑顔である。

「……何してるのよ、もう」
「特に意味は無いが……まあ、念のためだな」

 魔力を感じない以上、ゴーレムではないが……念には念を入れておく必要がある。
 とりあえず首を斬り飛ばしておけば、本当にゴーレムだったとしても安心だろう。

「恐らくだが、魔人ギリザリスの石像だな……見るか?」

 そう言って石像の首を放り投げると、イクスラースは嫌そうに……しかし、とりあえず受け止めようとして両手で石像の首を……なんとかキャッチする。
 そのまま受け止めた石像の首を手の中でクルリと回し、イクスラースは嫌そうな顔をする。

「……いかにも自分に自信がありますって顔ね。こんなもの投げないでくれるかしら」

 イクスラースはそう言って投げ返そうとして……自信がなかったのか、そのまま石像の首を床に置く。
 そうすると、まるで「地面から生える魔人ギリザリスの首」像といったところだが……すでに興味をなくした二人は、それに目を向けもしない。
 二人は、そのまま最奥の扉の前に立ち……それを鈍い音と共に開く。
 そうすると、今までの部屋とは違う……眩しすぎる程の光が二人の目に飛び込んでくる。
 
「ぬ……」
「照明魔法……?」

 思わぬ眩さに目が眩みそうになる二人の耳に声が飛び込んでくるのは、次の瞬間だ。

「よぉーこそ! ようこそ、ようこそ! このギリザリス地下神殿へようこそ客人よ!」

 目が慣れてくると、部屋の内装が目に入ってくる。
 意匠自体は他の部屋と変わりは無いが、強いて言うならば格段に悪趣味になっている。
 金と銀、そして宝石の数々。
 分かりやすい「財宝」をあちこちに散りばめ、あるいは埋め込んだ部屋。
 同じく黄金で作ったと思われる椅子の前に立つ、先程の石像とそっくりの顔の男の纏う服もまた、悪趣味にギラギラと輝いている。
 まるでキラキラと光るほど偉いと思っているかのようで、実に頭が悪そうだというのが二人の共通した感想だ。
 とはいえ……ここにきて初めて話の通じそうな相手でもある。

「客人、か。その割には手酷い歓迎のようだが」
「ハハハ、ハハ! 僕は魔人ギリザリス! 今はまだただの魔人という地位に甘んじているが……やがて魔王に……いや、それをも超え神と呼ばれる男さ!」
「そんな事聞いてないわよ。あのゴブリン共は何? いいえ、ビスティアもね。どう見ても普通じゃないわよ?」

 サンクリードを無視して傲慢な自己紹介を始めるギリザリスに、イクスラースは舌打ちをしながら問いかける。
 しかし、ギリザリスはそれを完全に無視すると二人の間の空間に視線を向け……パチンとウインクなどをしてみせる。

「で、君は何かな、緑色のお嬢さん。見たところメイドナイトのようだが?」

 その言葉に、サンクリードとイクスラースは周辺を見回し……しかし、自分達以外には誰も居ない事を再確認する。

「ちょっと、貴方何を……」
「待て、様子がおかしい」

 ギリザリスに詰め寄ろうとしたイクスラースをサンクリードが押し留めると、ギリザリスはまるで驚いたような、呆けたような……そんな顔へと変わる。

「おお、おお! 僕を殺すだって? なんて怖いお嬢さんだろうね。それなりにやるようだが、このギリザリスの魔法を受けて無事でいられるとでも思うのかい?」
「何アイツ……一人で会話してるの?」

 気味悪そうに呟くイクスラースをそのままに、サンクリードはステータス確認魔法を起動する。

名前:ギリザリス
種族:魔人(変異体)
ランク:D
職業:なし
装備:なし
技能:
変形
捕食

「いいだろう! ならば僕の華麗なる魔法を見せてあげようじゃないか! ふふふ、安心するといい。殺しはギャアアア!」
「ひゃっ!?」

 驚くイクスラースの前で、ギリザリスはまるで斬られでもしたかのように後ろへと倒れ……黄金の椅子にぶつかり、そのまま床へと倒れる。
 ……そして。
 その身体がどろりと溶けて、黒い塊のようになって広がっていく。

「何アレ……アメイヴァ!?」
「分からん……下がれ!」

 叫ぶサンクリードの前で、黒い塊は薄く、広く広がり……二人を飲み込もうとする。

「火よ……高まれ、猛れ、焼き尽くせ! 炎波ファイアウェイブ!」

 サンクリードが即座に放った炎が黒い塊を押し返し、先程までギリザリスだったはずの黒い塊は声にもならない声で叫ぶ。

「ヴォヴォヴォヴォ!」
「ちいっ……なんだこいつは! 確かに先程までは魔人だったはずだぞ!」
「まさかアメイヴァの魔人……? それとも、ギリザリスにアメイヴァが化けていたの!?」

 イクスラースの言葉に、サンクリードは違うと思う。
 ギリザリスにアメイヴァが化けていたわけではない。
 このアメイヴァのような怪物は、確かにギリザリスなのだ。
 すると、アメイヴァの魔人という線が濃厚ではあるが……。

「だが、アメイヴァはこれ程厄介そうな魔物ではなかったはずだがな!」
「ヴェー……ヴァーヴェオー」

 滝のような水の流れが生まれ、サンクリードの炎と相殺し合って消える。
 しかし、ほぼ同時に発動した再度の炎波ファイアウェイブにより、再び黒い塊はうねうねとしながら魔力を練り始め……その間にサンクリードは、再度ステータス確認魔法を起動する。

名前:ギリザリス
種族:魔人(変異体)
ランク:D
職業:なし
装備:なし
技能:
変形
捕食

 やはり、先程と変わらない。
 だが、これの何処が魔人だというのか。
 言葉すら通じず、人の形も失い。
 同族に向かって襲い来る「化け物」そのもののアレの、一体何処が。

「イクスラース。頼みがある」
「……何かしら」

 サンクリードは硬剣ライザノークを握り締め、目の前の黒い塊を見上げる。

「魔族の誇りを穢しかねないアレを滅ぼす。協力してくれ」

 振り向きもせず放たれたサンクリードの言葉を受け、イクスラースは黒薔薇の剣を引き抜く。
 はい、とも……いいえ、とも言わず。
 ただ、こう問いかける。

「作戦は? ……魔族の、勇者さん?」
「決まっている。このダンジョンを壊さない程度の力で殲滅……だ!」
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