勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アインの監視レポート12

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キャナル王国第三王女を、第二王女と記載している箇所があり修正しました。
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 トッドネスの街。
 かつて、この宿場町はそう呼ばれていたそうである。
 その中央付近の広場に、カインとアインはテントを張っていた。
 ちなみにこれは、カインの主張によるものだ。
 そんな二人は今、焚き火を囲んで食事をとっているところだった。

「まったく。もう主人は戻ってこないのだから使えばよかろうに」
「いや、それはよくないよアイン。大体この街の人達が此処を捨てたのは、キャナル王国の問題が大きいんだから。それが何とかなれば、戻ってくるかもしれないだろ?」

 カインがそう言って苦笑すると、焚き火を弄っていたアインが枝でビシリとカインを指す。

「お前は、まさにその問題とやらに首を突っ込もうとしている人間だろうが。ならば、捨てられた街で一晩の宿を借りるくらいに何の問題がある。むしろ、解決できるならどうぞ使ってくださいと言うと思うが?」
「う、うーん。そこに関しては自己満足って答えるしかないんだけど」
「フン、最初からそう言えばいいんだ。くだらん理由を混ぜるな」

 アインは再び焚き火を弄り始め、その手をぴたりと止める。

「そういえばカイン。あの男の言っていた件……どう思う」

 あの男。
 お騒がせ男のザガンのことである。
 ザガンはどうにも、傭兵としてキャナル王国に向かうつもりだったのがゴブリンに阻まれて、この街で燻っていたようだった。

「どうって?」
「あのザガンとかいう男は、ゴブリンに勝てないくらい弱いのか?」

 そう、たとえ集落といえどゴブリンは所詮ゴブリンだ。
 一般的な集落であれば、ピカピカ光る金属の武器を持って突貫するだけで慌てて統率を失うのがシュタイア大陸のゴブリン達だ。
 だが、そうでない場合。
 たとえば、あのザガンという男が一般的な冒険者並みの実力をもっていて、それでも突破を諦めざるを得なかった場合。
 それはたとえば、三役に相応しい者が現れることでゴブリンの大集落などに発展している場合だ。
 導き手の村長、そして怪しげな助言を囁き儀式を行う狡賢いシャーマン、そして村で一番強いファイター。
 これ等強固な精神的支柱を手にした時、ゴブリンは「迎撃」という戦法と集落への愛着を手に入れる。
 こうなった場合のゴブリンは、少々厄介だ。
 数の多さに押しつぶされてしまうことだって、あるだろう。

「んー……戦ってるところを見たことは無いけど、普通の強さのはずだよ。それなりに依頼もこなしてるみたいだし」
「そうか。すると、大集落か……少々面倒だな」

 それでも面倒か、で済ませてしまうアインにカインも頷く。
 面倒だが、突破できないレベルではない。
 この二人にとっては、その程度のことだ。

「でもさ、アイン」
「なんだ?」
「アインは……抵抗ないの? 一応魔族の仲間なんだろ?」

 そう、アインはザダーク王国の魔族だ。
 カインも本人から改めてそれを聞いたからこそ、こうして聞かざるを得ない。
 ゴブリンとて、頭は悪いが魔族の一員だ。
 それを殺すというのは、抵抗があるのではないだろうか?
 そんなことを考えるカインの心配そうな顔を見て、アインは鼻で笑う。

「くだらん。いいか、カイン。この国の魔族はお前等流に言えば他国の魔族だ。しかも至上たる魔王様の命令を邪魔するのであれば敵以外の何者でもない。お前とて、盗賊と敵対すれば戦うだろう?」
「そ、そりゃあ……そうだけど」
「魔族の事情に首を突っ込むのもいいが、お前の場合は悩みすぎると妙な方向にいくからな。自重しておけ。そして寝ろ」
「うっ……」

 アインにそっけなく言われて、カインは言葉に詰まる。
 木の上にとまっていた黒鳥が馬鹿にするように鳴き……それを一睨みすると、カインは小さく溜息をつく。

「……分かったよ。おやすみ、アイン」
「ああ。おやすみ、カイン」

 カインがテントの中に消え……眠った頃を見計らうと、木の上にいた黒鳥がアインの側に舞い降り人型に変化する。

「アイン、お前も休め。見張りは俺がやっておく」
「ツヴァイ」

 アインはツヴァイには答えず、ただ短く呟く。
 その呟きに含まれる咎めるような響きに、ツヴァイは一瞬黙り込む。

「気のせいかと思っていたが……お前、さっきの態度はあからさまだったぞ」
「チッ」

 アインは鈍いから気付かないと思ったんだがな……などと呟くツヴァイを、アインは黙って睨み付ける。
 カインに同行する以上、カインとのある程度の関係構築も任務の一環だ。
 それを何故ツヴァイが妨害するのか、アインには理解できない。

「ツヴァイ。カインに同行するのは魔王様のご命令だ。分かっているだろう?」
「ああ、分かっているさ。だが、あいつのご機嫌伺いは含まれて居ないぞ」

 それを聞いて、アインはハアと小さく溜息をつく。
 冷静沈着だと思っていたが、自分の勘違いだったのだろうか?
 そう考え、諭すような口調でアインは口を開く。

「いいか、ツヴァイ。カインの何処がそんなに気に入らんのか知らんが、そんなに悪い奴ではないぞ。それに、アイツは意外に重要人物だ。魔王様の大願を果たす為にもアイツとの関係はある程度」
「そんな事は知っている」
「なら、何がそんなに気に入らない」

 困ったような顔をするアインの耳元に、ツヴァイは口を寄せて。
 小さく……万が一にでもテントの中のカインに聞こえないように、小さく呟く。

「お前……まだ魔獣化が出来なくなったままだろう」
「なっ」
「いや、俺達の元の姿を思えばむしろ、魔人化から戻れなくなったというほうが正しいか? まあ、どちらでもいいが出来ないはずだ。違うか?」
「それは……」

 アインは答えられず、黙り込む。
 確かに、ツヴァイの言うとおりだ。
 そしてそれは、ツヴァイではない連絡員に報告済のことでもある。
 なんらかの大きな怪我をした後に一時的にそうなることは、たまにあることだ。
 故に、報告当初は心配していなかったのだが……今のところ、それが元に戻る兆候は無い。
 
「それは……すでに報告済のことだ。結構深い傷だったからな。過去にも例があることだ」
「そうだな。今回の任務でも支障は無いだろう」

 ツヴァイは一端頷いて見せると……だがな、と続ける。

「いくらなんでも長引きすぎだ。過去の事例を考えても、最長で三日……すでに最長記録を更新中だ。つまり、過去の事例を遥かに超えるような……それこそ命に関わる怪我をしてたということだぞ」
「そんなことは分かっている。だが、それとカインに何の関係がある。あいつはむしろ、私の命を救った側だろう」

 アインに、ツヴァイは舌打ちで返す。

「確かにな。だが、あの時の襲撃事件の裏にいたと思われる神殿関係者は、カインの知己だ」

 クゥエリア・ルイステイル。
 その名前を思い出し、アインは黙って頷く。
 確かに、彼女はカインと親しかったはずだ。

「どの段階で襲撃が計画されたかは分からん。だが、ザダーク王国に複数いる諜報員の中でアインが狙われたのは……間違いなく、カインとの繋がりによって情報があの女に流れていたせいだろう」
「それは……無いとは言わんが、その責任をカインに問うのは酷というものだろう」
「フン。アインが魔族ということに気付かずとも、少なくとも闇を飛び回る存在であることには気付いてはいたんだ。権力者にその存在を知らせる危険性を、貴族の息子が知らなかったとは言わせん」

 まあ、それは確かにそうだろう。
 アイン……というよりもザダーク王国に限らず、どの国の諜報員も闇を飛び回る秘密の存在だ。
 ジオル森王国の諜報員とは友好関係にある以上、互いにある程度の情報交換はしているが、逆に言えばその程度のものだ。
 基本的には「諜報員だと知られてはいけない」のが諜報員なのだ。
 カインがアインを他のカインの仲間達に紹介することでアインが街を飛び回っていても怪しまれることは無くなったが、同時に気付かれた際の危険性も高まったということでもあった。
 仕方が無いとはいえ、相当の綱渡りをしていたことは承知している。
 結果的に神殿は襲撃を仕掛け、アインは怪我をした。
 ただ、それだけの話だ。

「……貴族の息子にも色々いる。それに最終的に怪我をしたのは、私があの仮面男の力を測り損ねたからだ」

 そう言うアインに、ツヴァイは苛立たしげに再度の舌打ちをする。

「フン、まあいい。明日はゴブリン集落とやらを抜けるのだろう? どうする。ゴブリン程度に必要とは思えんが、偵察をしてくるか?」
「……いや、特に必要ないだろう。所詮ゴブリンだからな。どうにでもなる話だ」
「ならば、寝ろ。さっきも言ったが、見張りならしといてやる」

 そう言って腰を下ろすツヴァイに頷くと、アインは立ち上がり……その瞬間に、ツヴァイの頭をわしわしと撫でる。

「すまんな、気を使ってくれて」
「……気を使わせてる自覚があるなら、さっさと寝てくれ」
「ああ、おやすみ」

 もう一つのテントの中に消えるアインを視線で見送ると、ツヴァイは焚き火をじっと見つめる。

「……フン」

 ただ一言、そう呟いて。
 パチパチと鳴る焚き火に、ツヴァイは追加の枯れ枝を放り込んだ。
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