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ロクナがあらわれた
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東方から転移魔法で魔王城の玉座の間へと戻ってきたヴェルムドール達を、警備していた魔操鎧達が敬礼で迎える。
それにヴェルムドールは手を振って応え、一体の魔操鎧に声をかける。
「俺達が居ない間に何かあったか?」
「いえ、特にありません」
「そうか、ご苦労」
魔操鎧の返答に満足したヴェルムドールに、イチカが一礼をする。
「ではヴェルムドール様、私も城での業務に戻ります」
「ああ、頼む」
「ニノも出かけてくるね」
「ん、ああ。早めに帰ってこいよ」
イチカとニノにそれぞれの返事を返すと、ヴェルムドールは自分はどうしようかと考え始める。
結局タケノコはその場では調理せず、イチカが持って帰ってきている。
恐らくは今晩の食事に出るのだろうが……あまり深く考えたくはない。
今日の分の仕事は終わっているが、まだ明日以降の処理を予定している仕事がないわけではない。
「ふ……む。どうするかな」
要は、久々の空き時間である。
先程考えた通り他の地方に足をのばしてみるのもいいが、出かけたばかりでまた出かけようという気分にもならない。
「今日の謁見の予定はもう無かったよな?」
「はい、ございません」
近くの魔操鎧に聞くと、そんな返答が返ってくる。
となると、ますますやる事がない。
近頃色々ありすぎたせいか、こうした暇な時間をなんとなく持て余してしまうのだ。
「まあ、部屋に行ってから考えるか」
そんな事を呟きながら、ヴェルムドールは自分の部屋へと転移する。
こんな近距離で転移魔法を使うこともないのだが、タケノコ騒動で色々と面倒になっていたのである。
そうして転移魔法で戻ったヴェルムドールは、自分のベッドがふくらんでいるのを見つける。
こういうことをするのはニノだな、と考えヴェルムドールは苦笑する。
気が付くと布団に潜り込んでいるニノだが、大抵は察知したイチカに排除されている。
今日もそうだろうと考え、ヴェルムドールはベッドへと近づいて布団を捲り……絶句する。
そこにいたのは、ゆったりとした厚手のローブを着た茶色の髪の女性の姿。
「ロクナか……? 何やってるんだ?」
枕を抱え込んで何やらむにゃむにゃと寝言を呟くロクナはそのまま寝返りをうつと、再び寝息をたてはじめる。
「おい、ロクナ」
ロクナの頬を突くと唸った後に、抱え込んでいた枕に顔を埋めてしまう。
「ぐぃー……むぅ、ぐぅえへへへ」
「どんな夢見てんだ……」
ロクナを起こすのを諦めると、ヴェルムドールはロクナに布団をかけなおす。
無理矢理起こすのは簡単だが、ロクナには普段色々な仕事を押し付けている負い目もあるし、この場で起こさなければならない程に緊急の用事があるわけでもない。
普段のロクナの忙しさを考えれば、ヴェルムドールのベッドで寝ているくらいはロクナの権利だろう。
しかし寝ているロクナの横で何かをするというのも、幸せそうな寝顔を見ていると躊躇われた。
まずは、この部屋から静かに去るのが先決だろう。
「……何処か散歩でも行くか……?」
そんな事を呟いていると、目の前で布団が思い切りはねのけられる。
布団の下から現れたのは、無論ロクナだ。
ロクナはキョロキョロと辺りを見回すと、ヴェルムドールを見つけてビシリと指を指す。
「やっべ、寝てた! 超寝てた! あ、ヴェルっち発見!」
「おはよう。よく寝てたな」
「そーさね。久々にベッドで寝た気がするわ」
言われて、ヴェルムドールはサッと顔をそらす。
ロクナが図書館で爆睡しているのはいつもの事だが、一応部屋もちゃんと用意されている。
そのベッドで中々寝ないのは、ヴェルムドールがロクナに色々と仕事をさせているのにも一因がある。
それを考えると、あまり強く言える立場でもなかった。
「なあ、ロクナ」
「なにかしら、ヴェルっち」
ロクナは最近、地下図書館に篭りきりだった。
だから、実は顔を合わせるのは久しぶりだ。
「あー……なんだ。その、元気か?」
「うーん、そうねえ。どこぞの魔王様がトンでもねー相手に会わせてくれたせいで色々大変だったけど、概ね元気よ?」
「ぐっ……それはまあ、すまなかったとは思っている」
魔神のいる領域にロクナを引きずり込んでしまったのは、正直に言えば計算外だった。
しかし、ロクナが居なければそこまですらも辿り着くことが出来なかったであろうことを考えると、やはりヴェルムドールのせいであると言う事もできる。
ニヤニヤと笑っていたロクナはベッドから立ち上がる。
「それよりさ、ヴェルっち」
「ん?」
ロクナはヴェルムドールの手を取り、満面の笑みを浮かべる。
「どっか遊びに行こう、ぜっ」
「遊び、か?」
ロクナの提案を、ヴェルムドールは吟味する。
確かに、ロクナには普段から色々と仕事を任せ過ぎている。
魔神召喚に関する大きな進展も、ロクナが居なければ出来なかった。
そのロクナの希望であれば、叶えるべきだろう。
「うおーい、ヴェルっち。難しい事考えてんじゃねえわよ」
眉間を指で押されて、ヴェルムドールは小さくのけぞる。
ロクナは分かりやすく溜息をついてみせると、眉間を突いていた指をヴェルムドールの胸元へと移動させる。
「いいかしら、ヴェルっち。遊びに行こうぜって誘われたらね、答えはイエスのみなのよ。やっほー、とかロクナ様最高です、とかってつけるのはアリよ」
「……そういうものか?」
「そういうものよ。はい、どうぞ」
ロクナがパン、と手を叩くとヴェルムドールはふむ、と頷く。
そうして少し考えた後、ロクナの頭に手をのせる。
「じゃあ、遊びに行くか」
「ええい、人の頭を撫でるんじゃねーわよ」
言いながらもされるままになっていたロクナは、ヴェルムドールの服をジロジロと見始める。
「とりあえず、その如何にも魔王様です、っていう服は着替えなさいよね」
「む、そうか?」
「そうよ。行く先々で相手を平伏させるつもり?」
東方での光景を思い出したヴェルムドールはなるほど、と苦笑する。
確かに行く先々でそれでは、気が休まらない。
「しかし、そうなると……どうすればいいんだ?」
「どうもこうもねーわよ。なんかこう、サッパリした印象の服とかあるでしょうがよ」
言われて、ヴェルムドールは明らかに狼狽する。
そんなことを言われても、服のことなど分からないのだ。
サッパリした印象と言われても、それこそサッパリである。
「サッパリした印象……? どういうのがサッパリした印象なんだ?」
「ええい、これだから仕事服しか着ないタイプの男は! オルエルのほうがよっぽどオシャレ楽しんでるわよ!」
「ぐっ!」
オルエル以下だと言われて、ヴェルムドールは胸にグサリとくるものを感じる。
ちょっとファイネルの気持ちが分かったりしたヴェルムドールではあるが、それでも分からないものは分からない。
「す、すまない……が、選ぶのを手伝ってくれないか?」
「仕方ないわねえ……言っておくけど、アウロックも最近はお洒落に目覚め始めてるわよ? 方向性は激しく間違ってるけど」
「ど、努力は……しよう」
「期待してるわ」
ニヤニヤと笑いながら、ロクナはヴェルムドールの肩を叩く。
「あ、でも。ヴェルっちの服はあたしが着替えた後にしたほうがいいわね」
「どうしてだ?」
ヴェルムドールの純粋な疑問に、ロクナは肩をすくめてみせる。
何を当然のことを、と言いたげだ。
「決まってるじゃない。ヴェルっちが出かけるって聞いたら、確実についてくるのがいるでしょうが」
「あー……まあ、な」
ニノの姿を思い浮かべ、ヴェルムドールは頷く。
確かにニノならば、確実についてくるだろう。
「いいかしら、ヴェルっち。今日はね、あたしとヴェルっちが二人で遊ぶ日なのよ。そこら辺をちゃんと認識して、出かけるまでバレないようにしときなさい」
そう言うと、ロクナは転移魔法を発動させて自室へと転移していく。
部屋の移動手段に転移魔法を発動するのはどうかと思うのだが、ヴェルムドール自身も先程やった手前、何も言えない。
「ロクナと遊びに、か」
そういえばそんなことはしたことがなかったな、とヴェルムドールは思い返す。
人類領域にいた頃はニノと食べ歩きも何度かしたが、何の目的も無く遊びに行った経験といえば、そのくらいだろう。
とはいえ、ロクナもそんなに何処かに遊びに行っている印象は無い。
そんなロクナからの遊びの誘いというのは意外ではあった。
「しかし、遊びに行くといってもな……城下町でいいのか?」
城下町であり首都であるアークヴェルムは、ザダーク王国の文化の中心地でもある。
遊ぶというのであれば、その要求には完璧に応えてくれるだろう。
しかし、流石に城下町ではヴェルムドールは一発でバレてしまうだろう。
それでは、先程ロクナが言ったように行く先々で相手を平伏させることになりかねないのではないだろうか、と思う。
「難しいものだな、遊びっていうのは……」
言いながら、ヴェルムドールは机の上のゲーム盤を見る。
最近すっかり浸透したらしいこのゲームだが、色々と新しい駒や盤の要望も出ているらしい。
ちなみに、この盤の上にはヴェルムドールの駒が置かれ、日によって隣にいる駒がニノだったりイチカだったりと変わっている。
一度三人の駒を仲良く並べてみたこともあるのだが、気が付くと変わっていたりするので最近では諦めている。
「……ん?」
しかし、盤の上を見てみるとヴェルムドールの駒の隣に置かれているのは、イチカでもニノでもなく……そこにあったのは、ロクナの駒であった。
ヴェルムドールはそれを見て小さく笑うと、少し考えて……駒入れの中からイチカとニノの駒を取り出して並べる。
ついでにゴーディやアウロック達の駒も取り出して、近くに置く。
「皆仲良く、な」
「何の話よ」
満足気に呟くヴェルムドールの背後に現れたロクナが、盤を覗き込む。
ロクナはゆったりとした印象なのは変わらないが、いつもの厚手のローブではなく、薄手のワンピースの上に上着を羽織っている。
しかし、ロクナは盤とヴェルムドールの顔を見比べると、黙ってアウロックの駒を盤からはじき出す。
「まあ、そうよね。ヴェルっちはそういう奴だわ」
「何の話だ?」
なんでもないわよ、と言うとロクナはヴェルムドールの服を選びだすのだった。
それにヴェルムドールは手を振って応え、一体の魔操鎧に声をかける。
「俺達が居ない間に何かあったか?」
「いえ、特にありません」
「そうか、ご苦労」
魔操鎧の返答に満足したヴェルムドールに、イチカが一礼をする。
「ではヴェルムドール様、私も城での業務に戻ります」
「ああ、頼む」
「ニノも出かけてくるね」
「ん、ああ。早めに帰ってこいよ」
イチカとニノにそれぞれの返事を返すと、ヴェルムドールは自分はどうしようかと考え始める。
結局タケノコはその場では調理せず、イチカが持って帰ってきている。
恐らくは今晩の食事に出るのだろうが……あまり深く考えたくはない。
今日の分の仕事は終わっているが、まだ明日以降の処理を予定している仕事がないわけではない。
「ふ……む。どうするかな」
要は、久々の空き時間である。
先程考えた通り他の地方に足をのばしてみるのもいいが、出かけたばかりでまた出かけようという気分にもならない。
「今日の謁見の予定はもう無かったよな?」
「はい、ございません」
近くの魔操鎧に聞くと、そんな返答が返ってくる。
となると、ますますやる事がない。
近頃色々ありすぎたせいか、こうした暇な時間をなんとなく持て余してしまうのだ。
「まあ、部屋に行ってから考えるか」
そんな事を呟きながら、ヴェルムドールは自分の部屋へと転移する。
こんな近距離で転移魔法を使うこともないのだが、タケノコ騒動で色々と面倒になっていたのである。
そうして転移魔法で戻ったヴェルムドールは、自分のベッドがふくらんでいるのを見つける。
こういうことをするのはニノだな、と考えヴェルムドールは苦笑する。
気が付くと布団に潜り込んでいるニノだが、大抵は察知したイチカに排除されている。
今日もそうだろうと考え、ヴェルムドールはベッドへと近づいて布団を捲り……絶句する。
そこにいたのは、ゆったりとした厚手のローブを着た茶色の髪の女性の姿。
「ロクナか……? 何やってるんだ?」
枕を抱え込んで何やらむにゃむにゃと寝言を呟くロクナはそのまま寝返りをうつと、再び寝息をたてはじめる。
「おい、ロクナ」
ロクナの頬を突くと唸った後に、抱え込んでいた枕に顔を埋めてしまう。
「ぐぃー……むぅ、ぐぅえへへへ」
「どんな夢見てんだ……」
ロクナを起こすのを諦めると、ヴェルムドールはロクナに布団をかけなおす。
無理矢理起こすのは簡単だが、ロクナには普段色々な仕事を押し付けている負い目もあるし、この場で起こさなければならない程に緊急の用事があるわけでもない。
普段のロクナの忙しさを考えれば、ヴェルムドールのベッドで寝ているくらいはロクナの権利だろう。
しかし寝ているロクナの横で何かをするというのも、幸せそうな寝顔を見ていると躊躇われた。
まずは、この部屋から静かに去るのが先決だろう。
「……何処か散歩でも行くか……?」
そんな事を呟いていると、目の前で布団が思い切りはねのけられる。
布団の下から現れたのは、無論ロクナだ。
ロクナはキョロキョロと辺りを見回すと、ヴェルムドールを見つけてビシリと指を指す。
「やっべ、寝てた! 超寝てた! あ、ヴェルっち発見!」
「おはよう。よく寝てたな」
「そーさね。久々にベッドで寝た気がするわ」
言われて、ヴェルムドールはサッと顔をそらす。
ロクナが図書館で爆睡しているのはいつもの事だが、一応部屋もちゃんと用意されている。
そのベッドで中々寝ないのは、ヴェルムドールがロクナに色々と仕事をさせているのにも一因がある。
それを考えると、あまり強く言える立場でもなかった。
「なあ、ロクナ」
「なにかしら、ヴェルっち」
ロクナは最近、地下図書館に篭りきりだった。
だから、実は顔を合わせるのは久しぶりだ。
「あー……なんだ。その、元気か?」
「うーん、そうねえ。どこぞの魔王様がトンでもねー相手に会わせてくれたせいで色々大変だったけど、概ね元気よ?」
「ぐっ……それはまあ、すまなかったとは思っている」
魔神のいる領域にロクナを引きずり込んでしまったのは、正直に言えば計算外だった。
しかし、ロクナが居なければそこまですらも辿り着くことが出来なかったであろうことを考えると、やはりヴェルムドールのせいであると言う事もできる。
ニヤニヤと笑っていたロクナはベッドから立ち上がる。
「それよりさ、ヴェルっち」
「ん?」
ロクナはヴェルムドールの手を取り、満面の笑みを浮かべる。
「どっか遊びに行こう、ぜっ」
「遊び、か?」
ロクナの提案を、ヴェルムドールは吟味する。
確かに、ロクナには普段から色々と仕事を任せ過ぎている。
魔神召喚に関する大きな進展も、ロクナが居なければ出来なかった。
そのロクナの希望であれば、叶えるべきだろう。
「うおーい、ヴェルっち。難しい事考えてんじゃねえわよ」
眉間を指で押されて、ヴェルムドールは小さくのけぞる。
ロクナは分かりやすく溜息をついてみせると、眉間を突いていた指をヴェルムドールの胸元へと移動させる。
「いいかしら、ヴェルっち。遊びに行こうぜって誘われたらね、答えはイエスのみなのよ。やっほー、とかロクナ様最高です、とかってつけるのはアリよ」
「……そういうものか?」
「そういうものよ。はい、どうぞ」
ロクナがパン、と手を叩くとヴェルムドールはふむ、と頷く。
そうして少し考えた後、ロクナの頭に手をのせる。
「じゃあ、遊びに行くか」
「ええい、人の頭を撫でるんじゃねーわよ」
言いながらもされるままになっていたロクナは、ヴェルムドールの服をジロジロと見始める。
「とりあえず、その如何にも魔王様です、っていう服は着替えなさいよね」
「む、そうか?」
「そうよ。行く先々で相手を平伏させるつもり?」
東方での光景を思い出したヴェルムドールはなるほど、と苦笑する。
確かに行く先々でそれでは、気が休まらない。
「しかし、そうなると……どうすればいいんだ?」
「どうもこうもねーわよ。なんかこう、サッパリした印象の服とかあるでしょうがよ」
言われて、ヴェルムドールは明らかに狼狽する。
そんなことを言われても、服のことなど分からないのだ。
サッパリした印象と言われても、それこそサッパリである。
「サッパリした印象……? どういうのがサッパリした印象なんだ?」
「ええい、これだから仕事服しか着ないタイプの男は! オルエルのほうがよっぽどオシャレ楽しんでるわよ!」
「ぐっ!」
オルエル以下だと言われて、ヴェルムドールは胸にグサリとくるものを感じる。
ちょっとファイネルの気持ちが分かったりしたヴェルムドールではあるが、それでも分からないものは分からない。
「す、すまない……が、選ぶのを手伝ってくれないか?」
「仕方ないわねえ……言っておくけど、アウロックも最近はお洒落に目覚め始めてるわよ? 方向性は激しく間違ってるけど」
「ど、努力は……しよう」
「期待してるわ」
ニヤニヤと笑いながら、ロクナはヴェルムドールの肩を叩く。
「あ、でも。ヴェルっちの服はあたしが着替えた後にしたほうがいいわね」
「どうしてだ?」
ヴェルムドールの純粋な疑問に、ロクナは肩をすくめてみせる。
何を当然のことを、と言いたげだ。
「決まってるじゃない。ヴェルっちが出かけるって聞いたら、確実についてくるのがいるでしょうが」
「あー……まあ、な」
ニノの姿を思い浮かべ、ヴェルムドールは頷く。
確かにニノならば、確実についてくるだろう。
「いいかしら、ヴェルっち。今日はね、あたしとヴェルっちが二人で遊ぶ日なのよ。そこら辺をちゃんと認識して、出かけるまでバレないようにしときなさい」
そう言うと、ロクナは転移魔法を発動させて自室へと転移していく。
部屋の移動手段に転移魔法を発動するのはどうかと思うのだが、ヴェルムドール自身も先程やった手前、何も言えない。
「ロクナと遊びに、か」
そういえばそんなことはしたことがなかったな、とヴェルムドールは思い返す。
人類領域にいた頃はニノと食べ歩きも何度かしたが、何の目的も無く遊びに行った経験といえば、そのくらいだろう。
とはいえ、ロクナもそんなに何処かに遊びに行っている印象は無い。
そんなロクナからの遊びの誘いというのは意外ではあった。
「しかし、遊びに行くといってもな……城下町でいいのか?」
城下町であり首都であるアークヴェルムは、ザダーク王国の文化の中心地でもある。
遊ぶというのであれば、その要求には完璧に応えてくれるだろう。
しかし、流石に城下町ではヴェルムドールは一発でバレてしまうだろう。
それでは、先程ロクナが言ったように行く先々で相手を平伏させることになりかねないのではないだろうか、と思う。
「難しいものだな、遊びっていうのは……」
言いながら、ヴェルムドールは机の上のゲーム盤を見る。
最近すっかり浸透したらしいこのゲームだが、色々と新しい駒や盤の要望も出ているらしい。
ちなみに、この盤の上にはヴェルムドールの駒が置かれ、日によって隣にいる駒がニノだったりイチカだったりと変わっている。
一度三人の駒を仲良く並べてみたこともあるのだが、気が付くと変わっていたりするので最近では諦めている。
「……ん?」
しかし、盤の上を見てみるとヴェルムドールの駒の隣に置かれているのは、イチカでもニノでもなく……そこにあったのは、ロクナの駒であった。
ヴェルムドールはそれを見て小さく笑うと、少し考えて……駒入れの中からイチカとニノの駒を取り出して並べる。
ついでにゴーディやアウロック達の駒も取り出して、近くに置く。
「皆仲良く、な」
「何の話よ」
満足気に呟くヴェルムドールの背後に現れたロクナが、盤を覗き込む。
ロクナはゆったりとした印象なのは変わらないが、いつもの厚手のローブではなく、薄手のワンピースの上に上着を羽織っている。
しかし、ロクナは盤とヴェルムドールの顔を見比べると、黙ってアウロックの駒を盤からはじき出す。
「まあ、そうよね。ヴェルっちはそういう奴だわ」
「何の話だ?」
なんでもないわよ、と言うとロクナはヴェルムドールの服を選びだすのだった。
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