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異界の国のアリス
異界の国のアリス
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タイラントを撃破した後は、どうやら姿を消していただけだったらしいアルヴァの独壇場だった。
アルヴァは鉤鼻の魔女が残していた資料をあっという間に見つけてきて、各種の悪事の証拠を揃えてしまったのだ。
うーん、悪人は悪人を理解するってやつなのかしら。ともかく、そうした資料はすでにハーヴェイに提出されて、あとは偉い人の仕事ってやつになってる。
ていうか「私の仕事」に関しては銅貨1枚も出やしないんだけどね。目立ちたくないから名前出すなって言ったのは私なんだから仕方ない。
「何をぼうっとしている」
「あー? 思い返してたのよ、あの忙しかった数日をね」
ほんと、事後処理の方が手間がかかるってどういうことなの?
あ、手間がかかるっていえば……もう1つあったっけ。
「アリス! アリス! あっちの開かない扉はどうなってるんですの⁉」
そう、こいつだ。リーゼロッテ。どうにも鉤鼻の魔女の魔法による怪我の治療と、一応の護衛の為に拠点に運び込んだんだけど……失敗だったなあ。
「だからあ。私の許可がないと開かないところが多いんだってば」
「なら開けてくださいまし!」
「やだ」
「何故ですの⁉」
「大人しくしてなよ怪我人」
魔法の怪我を魔法で治すのは最低限にしなきゃいけないとかで、リーゼロッテはまだ療養中なのだ。元気だなあ、怪我人。
「ていうか、あの畑! アレ私も外で育てたいですわ!」
「たぶん無理」
「何故ですの⁉」
「そういうもんなの」
たぶんアルヴァならそれっぽく説明できるんだろうけど、私は無理だぞ。馬鹿だもん。
ていうかアルヴァ何処行ったのさ。さては面倒だと思って消えたな? 許さん。
「このクッキーも美味しいし不思議ですわ! どういう理屈で補充されてるのかしら!」
「不思議パワー」
「それで納得すると思ったら大間違いですわよ⁉」
「納得しなよ」
「いいから教えてくださいな! 私たち親友でしょう⁉」
「いつの間に親友になったのよ」
「さっきですわ!」
そこはせめて死線を潜った直後にしときなよ……こいつはもう。
「ていうかこの家の不思議は私も分かんないからね」
「まあ、もったいない! 未知の神秘が此処にありますのよ⁉」
「言っとくけどアルヴァも数日で諦めてるからね?」
「そう、それでしてよ!」
「どれ?」
「アルヴァ! あのブラックメイガスがどうして貴方と一緒にいるんですの⁉」
「成り行き」
「少しくらい真面目に答えなさいな!」
「やだー」
言いながら私はソファーに転がって、そんな私をリーゼロッテが揺さぶる。
やめろー、本当に面倒なんだぞ。やめろー。
「あー、もう! あんなに才能に溢れてるのに、どうしてこんなに怠惰なのかしら!」
「それでいいのよ」
「何処がですの」
「強い奴が目立たなきゃいけないなんて法律はないし。むしろ普段は人の話題にも上らない方がいいのよ」
それで全て世はこともなし、ってね。世の中が上手く回ってて私が何一つ不自由してないなら、それが一番世界平和の為の貢献ってやつなのよ。
「むー……」
あ、納得してない顔。でもそんなもんだと思うなー。
「それよりグレイたちが心配よね。信じてたミニミが裏切り者だったんだもの」
冒険者ギルドを通じて、グレイたちにはすでに簡単な経緯を記した手紙を出してある。
依頼の褒賞の一部も支払われるようにしたらしいけど……お金の問題じゃないわよね、こういうのは。
「大丈夫ですわよ。冒険者ってのは強かですもの。すぐに立ち直りますわ」
「私もその冒険者なんだけどー?」
「なんちゃって冒険者が何を言ってますの」
「フ、違いない」
あ、こういう時だけ出てきたわねアルヴァこのやろう。
「何言ってるの。しっかり依頼はこなしてるわよ?」
「貴様のは能力の無駄遣いというのだ」
「ランク通りの仕事して何が悪いってのよ」
別に私は悪いドラゴン倒したりお姫様救ったりしたいわけじゃないのだ。
そんな私に似合う仕事はペット探しとかで、似合うランクはやっぱりE級なんだと思う。
「だから私がランクアップの推薦するって言ってるでしょうに」
「要らないってば。目立ちたくないのよ」
「理解できませんわ……あの鉤鼻の魔女を倒したなんて、一躍ヒーローですのに」
「そんなのやらなくても私はウルトラヒロインだからいいの」
「……実は貴方、やっぱり魔女とかじゃありませんわよね?」
ええい、眼を覗くんじゃない。私の瞳に星はないぞ!
「それにハーヴェイも言ってたじゃない。しばらく王都も騒がしくなるかもーって」
「まあ、仰ってましたわね」
そう、鉤鼻の魔女に与していたオウガたちの問題が残っている。
違法奴隷商の問題もそのままで、ハーヴェイたちの手腕が問われる問題……らしい。
私はそんなものに首を突っ込むつもりは、勿論ない。
「だから、私たちはそのしばらくの間、こうやってゴロゴロしてるべきなのよ」
「今こそ率先して協力しようとかって気持ちは」
「ないわ!」
「断言しましたわね……!」
「だから、それでいいんだってば」
強いからって、率先して目立とうなんてしなくていい。
強さに責任なんて伴わない。
強いなら、強いなりに日常を過ごしていく。
「それが平和ってやつなのよ」
私はそう思う。反論は、認めない。
アルヴァは鉤鼻の魔女が残していた資料をあっという間に見つけてきて、各種の悪事の証拠を揃えてしまったのだ。
うーん、悪人は悪人を理解するってやつなのかしら。ともかく、そうした資料はすでにハーヴェイに提出されて、あとは偉い人の仕事ってやつになってる。
ていうか「私の仕事」に関しては銅貨1枚も出やしないんだけどね。目立ちたくないから名前出すなって言ったのは私なんだから仕方ない。
「何をぼうっとしている」
「あー? 思い返してたのよ、あの忙しかった数日をね」
ほんと、事後処理の方が手間がかかるってどういうことなの?
あ、手間がかかるっていえば……もう1つあったっけ。
「アリス! アリス! あっちの開かない扉はどうなってるんですの⁉」
そう、こいつだ。リーゼロッテ。どうにも鉤鼻の魔女の魔法による怪我の治療と、一応の護衛の為に拠点に運び込んだんだけど……失敗だったなあ。
「だからあ。私の許可がないと開かないところが多いんだってば」
「なら開けてくださいまし!」
「やだ」
「何故ですの⁉」
「大人しくしてなよ怪我人」
魔法の怪我を魔法で治すのは最低限にしなきゃいけないとかで、リーゼロッテはまだ療養中なのだ。元気だなあ、怪我人。
「ていうか、あの畑! アレ私も外で育てたいですわ!」
「たぶん無理」
「何故ですの⁉」
「そういうもんなの」
たぶんアルヴァならそれっぽく説明できるんだろうけど、私は無理だぞ。馬鹿だもん。
ていうかアルヴァ何処行ったのさ。さては面倒だと思って消えたな? 許さん。
「このクッキーも美味しいし不思議ですわ! どういう理屈で補充されてるのかしら!」
「不思議パワー」
「それで納得すると思ったら大間違いですわよ⁉」
「納得しなよ」
「いいから教えてくださいな! 私たち親友でしょう⁉」
「いつの間に親友になったのよ」
「さっきですわ!」
そこはせめて死線を潜った直後にしときなよ……こいつはもう。
「ていうかこの家の不思議は私も分かんないからね」
「まあ、もったいない! 未知の神秘が此処にありますのよ⁉」
「言っとくけどアルヴァも数日で諦めてるからね?」
「そう、それでしてよ!」
「どれ?」
「アルヴァ! あのブラックメイガスがどうして貴方と一緒にいるんですの⁉」
「成り行き」
「少しくらい真面目に答えなさいな!」
「やだー」
言いながら私はソファーに転がって、そんな私をリーゼロッテが揺さぶる。
やめろー、本当に面倒なんだぞ。やめろー。
「あー、もう! あんなに才能に溢れてるのに、どうしてこんなに怠惰なのかしら!」
「それでいいのよ」
「何処がですの」
「強い奴が目立たなきゃいけないなんて法律はないし。むしろ普段は人の話題にも上らない方がいいのよ」
それで全て世はこともなし、ってね。世の中が上手く回ってて私が何一つ不自由してないなら、それが一番世界平和の為の貢献ってやつなのよ。
「むー……」
あ、納得してない顔。でもそんなもんだと思うなー。
「それよりグレイたちが心配よね。信じてたミニミが裏切り者だったんだもの」
冒険者ギルドを通じて、グレイたちにはすでに簡単な経緯を記した手紙を出してある。
依頼の褒賞の一部も支払われるようにしたらしいけど……お金の問題じゃないわよね、こういうのは。
「大丈夫ですわよ。冒険者ってのは強かですもの。すぐに立ち直りますわ」
「私もその冒険者なんだけどー?」
「なんちゃって冒険者が何を言ってますの」
「フ、違いない」
あ、こういう時だけ出てきたわねアルヴァこのやろう。
「何言ってるの。しっかり依頼はこなしてるわよ?」
「貴様のは能力の無駄遣いというのだ」
「ランク通りの仕事して何が悪いってのよ」
別に私は悪いドラゴン倒したりお姫様救ったりしたいわけじゃないのだ。
そんな私に似合う仕事はペット探しとかで、似合うランクはやっぱりE級なんだと思う。
「だから私がランクアップの推薦するって言ってるでしょうに」
「要らないってば。目立ちたくないのよ」
「理解できませんわ……あの鉤鼻の魔女を倒したなんて、一躍ヒーローですのに」
「そんなのやらなくても私はウルトラヒロインだからいいの」
「……実は貴方、やっぱり魔女とかじゃありませんわよね?」
ええい、眼を覗くんじゃない。私の瞳に星はないぞ!
「それにハーヴェイも言ってたじゃない。しばらく王都も騒がしくなるかもーって」
「まあ、仰ってましたわね」
そう、鉤鼻の魔女に与していたオウガたちの問題が残っている。
違法奴隷商の問題もそのままで、ハーヴェイたちの手腕が問われる問題……らしい。
私はそんなものに首を突っ込むつもりは、勿論ない。
「だから、私たちはそのしばらくの間、こうやってゴロゴロしてるべきなのよ」
「今こそ率先して協力しようとかって気持ちは」
「ないわ!」
「断言しましたわね……!」
「だから、それでいいんだってば」
強いからって、率先して目立とうなんてしなくていい。
強さに責任なんて伴わない。
強いなら、強いなりに日常を過ごしていく。
「それが平和ってやつなのよ」
私はそう思う。反論は、認めない。
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