44 / 58
異界の国のアリス
ぐぅの音
しおりを挟む
「まあ、いいか。そうなるとグレイたちに話を聞くのが先決ってことよね」
「そういうことだな。ジョゴダの町、だったか?」
「うん。そこの魔女の鉤鼻亭。まあ、今も居るかは分かんないけど」
アレもそれなりに前の話だしね。もうとっくに引き払っててもおかしくない。
そう考えながら私が言えば、アルヴァは「いや」と否定する。
「丁度居るかどうかはさておいて、引き払っている可能性は低いだろう」
「どうして?」
「決まっている。そいつらが奴隷取引を追っているからだ」
それがどうして理由になるのよ。全く分かんない。
「むしろ移動するんじゃないの? 証拠とかを探してさ」
「馬鹿め。奴隷取引を追う者が拠点を定め、周囲を探索している。それはつまり、何らかの確たる情報を掴んでいるからと考えるべきだ」
「そう、なのかな……?」
確か私とグレイたちが会ったのは「ヴェイリア魔国の東方領、カミッツの森」だったはず。
そこに奴隷商人に関する何かがあった……ってこと?
「うーん……カミッツの森にも行ってみるべきなのかな?」
「ダメだ」
「なんでよ」
「貴様が暴れる事で証拠が消えたらどうする」
「だから私を何だと思ってんのよ」
「制御不能の暴れん坊だ。俺を倒せる力を持ってるのが更にタチが悪い」
「貴方が倒されたのは自業自得でしょうが」
ていうか、そのおかげで綺麗なアルヴァになったんでしょうが。まったくもう。
ん……綺麗なアルヴァ? 綺麗なアルヴァ、ねえ……。
「なんだ。また何か余計な事を考えてるな?」
「そうじゃないわよ。私のクローバーボム、あるでしょ?」
「ああ」
「コレを上手い事解析できれば、相手の悪い心的なものだけを滅ぼせる武器になるんじゃないかなーって」
それが出来たなら、きっと凄いことになるだろうと思う。完全非殺傷で、相手の悪い心を滅して善人にする武器。悪用しようにもできない完璧な武器じゃなかろうか?
魔法に長けている『綺麗なアルヴァ』が居るなら、夢物語でもないはず。そう考える私に……アルヴァは、大きなため息で答えた。
「いいか。確かに貴様の『クローバーボム』はボムマテリアルとかいう核があり、それを中心に発生する理不尽な武器だ」
「うん」
「だが聞くが……貴様、それを制御できるのか?」
「どういうこと?」
「貴様すら知っているかも分からぬ『何処か』から取り出したボムマテリアルを、非活性状態のまま長時間留め置けるのかということだ」
……ん、んんー……。たぶん無理、かなあ。アレ、ボムマテリアルを取り出してから一定時間使わなければ元に戻る仕様だった気がするし。
「ついでに言えば、いつ爆発して自分が死ぬかもしれないモノを解析したい奴が居るものか。俺含めてな」
「むー」
「大体の話だ。そんな物好きが居たとして、一番簡単な研究成果は何だと思う」
「簡単な……? 『何も分からない事が分かりました』とか?」
「チッ、その脳には何が詰まってるんだ。クッキーと紅茶か?」
「可愛さに決まってるでしょうが」
「なるほど知能が詰まっていないのは自覚してたか」
「うーわ腹立つわー」
私なりに真面目に考えてるんだから、褒めて伸ばしなさいよね。
あ、でも褒めてくるアルヴァとか想像すると怖いな……うん、ないなー。
「またバカな事を考えている顔をしているから教えるが、答えは『模倣する事』だ」
「模倣ってなんだっけ」
「そっくりのモノを作ることだ」
「それはそれで凄くない?」
ボムマテリアルが使い放題になるってことでしょ? それはかなり凄いと思うけど。
「この場合の模倣とは、劣化品としての話になる。ボムマテリアルがどういう理屈で生成されているか分からんが、再現できたとして、相当に威力が下がり効能が限定されたものになるだろう」
「話がムズい」
「要は殺りく兵器としての側面のみが強調されたものに仕上がるだろうということだ」
あー、ボムじゃなくて本気の爆弾ってことかあ。それはちょっとなあ。
ボムは敵のみを消し去るから美しいんであって、爆弾になるのは良くない。非常に良くない。
「つまり、解析するのは無し……と」
「そういうことだ。さて、では元の話に戻ろう。ジョゴダの町に行くにあたり、一応魔王に話は通すが……基本的には俺達、いや。表向きにはお前だけが動くことになる」
「一応聞くけど、どうして?」
「お前の世間的な身分は何だ。言ってみろ」
「世界にとどろく超級美少女。奴隷商人もまっしぐら」
「E級冒険者だ。誘拐も口止めも思いのまま、特に警戒する必要のないザコだ」
否定はしないけど。最底辺のE級冒険者だけど。言いたい事は何となく分かるだけに、反論も憚られてしまう。
「私如きが何やっても、誰もたいして警戒しないってことでしょ?」
「そういうことだ。貴様が冒険者ギルドで目立たなかった事が、此処で活きてくる」
「いいけどさー……それって最終的に私が目立つ話にならないでしょうね」
「ああ、平穏に生きたいとかいう戯言か?」
「戯言じゃないもん」
抗議する私に、アルヴァは鼻で笑ってみせる。
「奴隷商人のアジトに乗り込もうとした奴が言うと、中々の漫才だな」
「ぐぅ」
ぐぅの音も出ないわ……出たけど。
「そういうことだな。ジョゴダの町、だったか?」
「うん。そこの魔女の鉤鼻亭。まあ、今も居るかは分かんないけど」
アレもそれなりに前の話だしね。もうとっくに引き払っててもおかしくない。
そう考えながら私が言えば、アルヴァは「いや」と否定する。
「丁度居るかどうかはさておいて、引き払っている可能性は低いだろう」
「どうして?」
「決まっている。そいつらが奴隷取引を追っているからだ」
それがどうして理由になるのよ。全く分かんない。
「むしろ移動するんじゃないの? 証拠とかを探してさ」
「馬鹿め。奴隷取引を追う者が拠点を定め、周囲を探索している。それはつまり、何らかの確たる情報を掴んでいるからと考えるべきだ」
「そう、なのかな……?」
確か私とグレイたちが会ったのは「ヴェイリア魔国の東方領、カミッツの森」だったはず。
そこに奴隷商人に関する何かがあった……ってこと?
「うーん……カミッツの森にも行ってみるべきなのかな?」
「ダメだ」
「なんでよ」
「貴様が暴れる事で証拠が消えたらどうする」
「だから私を何だと思ってんのよ」
「制御不能の暴れん坊だ。俺を倒せる力を持ってるのが更にタチが悪い」
「貴方が倒されたのは自業自得でしょうが」
ていうか、そのおかげで綺麗なアルヴァになったんでしょうが。まったくもう。
ん……綺麗なアルヴァ? 綺麗なアルヴァ、ねえ……。
「なんだ。また何か余計な事を考えてるな?」
「そうじゃないわよ。私のクローバーボム、あるでしょ?」
「ああ」
「コレを上手い事解析できれば、相手の悪い心的なものだけを滅ぼせる武器になるんじゃないかなーって」
それが出来たなら、きっと凄いことになるだろうと思う。完全非殺傷で、相手の悪い心を滅して善人にする武器。悪用しようにもできない完璧な武器じゃなかろうか?
魔法に長けている『綺麗なアルヴァ』が居るなら、夢物語でもないはず。そう考える私に……アルヴァは、大きなため息で答えた。
「いいか。確かに貴様の『クローバーボム』はボムマテリアルとかいう核があり、それを中心に発生する理不尽な武器だ」
「うん」
「だが聞くが……貴様、それを制御できるのか?」
「どういうこと?」
「貴様すら知っているかも分からぬ『何処か』から取り出したボムマテリアルを、非活性状態のまま長時間留め置けるのかということだ」
……ん、んんー……。たぶん無理、かなあ。アレ、ボムマテリアルを取り出してから一定時間使わなければ元に戻る仕様だった気がするし。
「ついでに言えば、いつ爆発して自分が死ぬかもしれないモノを解析したい奴が居るものか。俺含めてな」
「むー」
「大体の話だ。そんな物好きが居たとして、一番簡単な研究成果は何だと思う」
「簡単な……? 『何も分からない事が分かりました』とか?」
「チッ、その脳には何が詰まってるんだ。クッキーと紅茶か?」
「可愛さに決まってるでしょうが」
「なるほど知能が詰まっていないのは自覚してたか」
「うーわ腹立つわー」
私なりに真面目に考えてるんだから、褒めて伸ばしなさいよね。
あ、でも褒めてくるアルヴァとか想像すると怖いな……うん、ないなー。
「またバカな事を考えている顔をしているから教えるが、答えは『模倣する事』だ」
「模倣ってなんだっけ」
「そっくりのモノを作ることだ」
「それはそれで凄くない?」
ボムマテリアルが使い放題になるってことでしょ? それはかなり凄いと思うけど。
「この場合の模倣とは、劣化品としての話になる。ボムマテリアルがどういう理屈で生成されているか分からんが、再現できたとして、相当に威力が下がり効能が限定されたものになるだろう」
「話がムズい」
「要は殺りく兵器としての側面のみが強調されたものに仕上がるだろうということだ」
あー、ボムじゃなくて本気の爆弾ってことかあ。それはちょっとなあ。
ボムは敵のみを消し去るから美しいんであって、爆弾になるのは良くない。非常に良くない。
「つまり、解析するのは無し……と」
「そういうことだ。さて、では元の話に戻ろう。ジョゴダの町に行くにあたり、一応魔王に話は通すが……基本的には俺達、いや。表向きにはお前だけが動くことになる」
「一応聞くけど、どうして?」
「お前の世間的な身分は何だ。言ってみろ」
「世界にとどろく超級美少女。奴隷商人もまっしぐら」
「E級冒険者だ。誘拐も口止めも思いのまま、特に警戒する必要のないザコだ」
否定はしないけど。最底辺のE級冒険者だけど。言いたい事は何となく分かるだけに、反論も憚られてしまう。
「私如きが何やっても、誰もたいして警戒しないってことでしょ?」
「そういうことだ。貴様が冒険者ギルドで目立たなかった事が、此処で活きてくる」
「いいけどさー……それって最終的に私が目立つ話にならないでしょうね」
「ああ、平穏に生きたいとかいう戯言か?」
「戯言じゃないもん」
抗議する私に、アルヴァは鼻で笑ってみせる。
「奴隷商人のアジトに乗り込もうとした奴が言うと、中々の漫才だな」
「ぐぅ」
ぐぅの音も出ないわ……出たけど。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる