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異界の国のアリス
ぐぅの音
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「まあ、いいか。そうなるとグレイたちに話を聞くのが先決ってことよね」
「そういうことだな。ジョゴダの町、だったか?」
「うん。そこの魔女の鉤鼻亭。まあ、今も居るかは分かんないけど」
アレもそれなりに前の話だしね。もうとっくに引き払っててもおかしくない。
そう考えながら私が言えば、アルヴァは「いや」と否定する。
「丁度居るかどうかはさておいて、引き払っている可能性は低いだろう」
「どうして?」
「決まっている。そいつらが奴隷取引を追っているからだ」
それがどうして理由になるのよ。全く分かんない。
「むしろ移動するんじゃないの? 証拠とかを探してさ」
「馬鹿め。奴隷取引を追う者が拠点を定め、周囲を探索している。それはつまり、何らかの確たる情報を掴んでいるからと考えるべきだ」
「そう、なのかな……?」
確か私とグレイたちが会ったのは「ヴェイリア魔国の東方領、カミッツの森」だったはず。
そこに奴隷商人に関する何かがあった……ってこと?
「うーん……カミッツの森にも行ってみるべきなのかな?」
「ダメだ」
「なんでよ」
「貴様が暴れる事で証拠が消えたらどうする」
「だから私を何だと思ってんのよ」
「制御不能の暴れん坊だ。俺を倒せる力を持ってるのが更にタチが悪い」
「貴方が倒されたのは自業自得でしょうが」
ていうか、そのおかげで綺麗なアルヴァになったんでしょうが。まったくもう。
ん……綺麗なアルヴァ? 綺麗なアルヴァ、ねえ……。
「なんだ。また何か余計な事を考えてるな?」
「そうじゃないわよ。私のクローバーボム、あるでしょ?」
「ああ」
「コレを上手い事解析できれば、相手の悪い心的なものだけを滅ぼせる武器になるんじゃないかなーって」
それが出来たなら、きっと凄いことになるだろうと思う。完全非殺傷で、相手の悪い心を滅して善人にする武器。悪用しようにもできない完璧な武器じゃなかろうか?
魔法に長けている『綺麗なアルヴァ』が居るなら、夢物語でもないはず。そう考える私に……アルヴァは、大きなため息で答えた。
「いいか。確かに貴様の『クローバーボム』はボムマテリアルとかいう核があり、それを中心に発生する理不尽な武器だ」
「うん」
「だが聞くが……貴様、それを制御できるのか?」
「どういうこと?」
「貴様すら知っているかも分からぬ『何処か』から取り出したボムマテリアルを、非活性状態のまま長時間留め置けるのかということだ」
……ん、んんー……。たぶん無理、かなあ。アレ、ボムマテリアルを取り出してから一定時間使わなければ元に戻る仕様だった気がするし。
「ついでに言えば、いつ爆発して自分が死ぬかもしれないモノを解析したい奴が居るものか。俺含めてな」
「むー」
「大体の話だ。そんな物好きが居たとして、一番簡単な研究成果は何だと思う」
「簡単な……? 『何も分からない事が分かりました』とか?」
「チッ、その脳には何が詰まってるんだ。クッキーと紅茶か?」
「可愛さに決まってるでしょうが」
「なるほど知能が詰まっていないのは自覚してたか」
「うーわ腹立つわー」
私なりに真面目に考えてるんだから、褒めて伸ばしなさいよね。
あ、でも褒めてくるアルヴァとか想像すると怖いな……うん、ないなー。
「またバカな事を考えている顔をしているから教えるが、答えは『模倣する事』だ」
「模倣ってなんだっけ」
「そっくりのモノを作ることだ」
「それはそれで凄くない?」
ボムマテリアルが使い放題になるってことでしょ? それはかなり凄いと思うけど。
「この場合の模倣とは、劣化品としての話になる。ボムマテリアルがどういう理屈で生成されているか分からんが、再現できたとして、相当に威力が下がり効能が限定されたものになるだろう」
「話がムズい」
「要は殺りく兵器としての側面のみが強調されたものに仕上がるだろうということだ」
あー、ボムじゃなくて本気の爆弾ってことかあ。それはちょっとなあ。
ボムは敵のみを消し去るから美しいんであって、爆弾になるのは良くない。非常に良くない。
「つまり、解析するのは無し……と」
「そういうことだ。さて、では元の話に戻ろう。ジョゴダの町に行くにあたり、一応魔王に話は通すが……基本的には俺達、いや。表向きにはお前だけが動くことになる」
「一応聞くけど、どうして?」
「お前の世間的な身分は何だ。言ってみろ」
「世界にとどろく超級美少女。奴隷商人もまっしぐら」
「E級冒険者だ。誘拐も口止めも思いのまま、特に警戒する必要のないザコだ」
否定はしないけど。最底辺のE級冒険者だけど。言いたい事は何となく分かるだけに、反論も憚られてしまう。
「私如きが何やっても、誰もたいして警戒しないってことでしょ?」
「そういうことだ。貴様が冒険者ギルドで目立たなかった事が、此処で活きてくる」
「いいけどさー……それって最終的に私が目立つ話にならないでしょうね」
「ああ、平穏に生きたいとかいう戯言か?」
「戯言じゃないもん」
抗議する私に、アルヴァは鼻で笑ってみせる。
「奴隷商人のアジトに乗り込もうとした奴が言うと、中々の漫才だな」
「ぐぅ」
ぐぅの音も出ないわ……出たけど。
「そういうことだな。ジョゴダの町、だったか?」
「うん。そこの魔女の鉤鼻亭。まあ、今も居るかは分かんないけど」
アレもそれなりに前の話だしね。もうとっくに引き払っててもおかしくない。
そう考えながら私が言えば、アルヴァは「いや」と否定する。
「丁度居るかどうかはさておいて、引き払っている可能性は低いだろう」
「どうして?」
「決まっている。そいつらが奴隷取引を追っているからだ」
それがどうして理由になるのよ。全く分かんない。
「むしろ移動するんじゃないの? 証拠とかを探してさ」
「馬鹿め。奴隷取引を追う者が拠点を定め、周囲を探索している。それはつまり、何らかの確たる情報を掴んでいるからと考えるべきだ」
「そう、なのかな……?」
確か私とグレイたちが会ったのは「ヴェイリア魔国の東方領、カミッツの森」だったはず。
そこに奴隷商人に関する何かがあった……ってこと?
「うーん……カミッツの森にも行ってみるべきなのかな?」
「ダメだ」
「なんでよ」
「貴様が暴れる事で証拠が消えたらどうする」
「だから私を何だと思ってんのよ」
「制御不能の暴れん坊だ。俺を倒せる力を持ってるのが更にタチが悪い」
「貴方が倒されたのは自業自得でしょうが」
ていうか、そのおかげで綺麗なアルヴァになったんでしょうが。まったくもう。
ん……綺麗なアルヴァ? 綺麗なアルヴァ、ねえ……。
「なんだ。また何か余計な事を考えてるな?」
「そうじゃないわよ。私のクローバーボム、あるでしょ?」
「ああ」
「コレを上手い事解析できれば、相手の悪い心的なものだけを滅ぼせる武器になるんじゃないかなーって」
それが出来たなら、きっと凄いことになるだろうと思う。完全非殺傷で、相手の悪い心を滅して善人にする武器。悪用しようにもできない完璧な武器じゃなかろうか?
魔法に長けている『綺麗なアルヴァ』が居るなら、夢物語でもないはず。そう考える私に……アルヴァは、大きなため息で答えた。
「いいか。確かに貴様の『クローバーボム』はボムマテリアルとかいう核があり、それを中心に発生する理不尽な武器だ」
「うん」
「だが聞くが……貴様、それを制御できるのか?」
「どういうこと?」
「貴様すら知っているかも分からぬ『何処か』から取り出したボムマテリアルを、非活性状態のまま長時間留め置けるのかということだ」
……ん、んんー……。たぶん無理、かなあ。アレ、ボムマテリアルを取り出してから一定時間使わなければ元に戻る仕様だった気がするし。
「ついでに言えば、いつ爆発して自分が死ぬかもしれないモノを解析したい奴が居るものか。俺含めてな」
「むー」
「大体の話だ。そんな物好きが居たとして、一番簡単な研究成果は何だと思う」
「簡単な……? 『何も分からない事が分かりました』とか?」
「チッ、その脳には何が詰まってるんだ。クッキーと紅茶か?」
「可愛さに決まってるでしょうが」
「なるほど知能が詰まっていないのは自覚してたか」
「うーわ腹立つわー」
私なりに真面目に考えてるんだから、褒めて伸ばしなさいよね。
あ、でも褒めてくるアルヴァとか想像すると怖いな……うん、ないなー。
「またバカな事を考えている顔をしているから教えるが、答えは『模倣する事』だ」
「模倣ってなんだっけ」
「そっくりのモノを作ることだ」
「それはそれで凄くない?」
ボムマテリアルが使い放題になるってことでしょ? それはかなり凄いと思うけど。
「この場合の模倣とは、劣化品としての話になる。ボムマテリアルがどういう理屈で生成されているか分からんが、再現できたとして、相当に威力が下がり効能が限定されたものになるだろう」
「話がムズい」
「要は殺りく兵器としての側面のみが強調されたものに仕上がるだろうということだ」
あー、ボムじゃなくて本気の爆弾ってことかあ。それはちょっとなあ。
ボムは敵のみを消し去るから美しいんであって、爆弾になるのは良くない。非常に良くない。
「つまり、解析するのは無し……と」
「そういうことだ。さて、では元の話に戻ろう。ジョゴダの町に行くにあたり、一応魔王に話は通すが……基本的には俺達、いや。表向きにはお前だけが動くことになる」
「一応聞くけど、どうして?」
「お前の世間的な身分は何だ。言ってみろ」
「世界にとどろく超級美少女。奴隷商人もまっしぐら」
「E級冒険者だ。誘拐も口止めも思いのまま、特に警戒する必要のないザコだ」
否定はしないけど。最底辺のE級冒険者だけど。言いたい事は何となく分かるだけに、反論も憚られてしまう。
「私如きが何やっても、誰もたいして警戒しないってことでしょ?」
「そういうことだ。貴様が冒険者ギルドで目立たなかった事が、此処で活きてくる」
「いいけどさー……それって最終的に私が目立つ話にならないでしょうね」
「ああ、平穏に生きたいとかいう戯言か?」
「戯言じゃないもん」
抗議する私に、アルヴァは鼻で笑ってみせる。
「奴隷商人のアジトに乗り込もうとした奴が言うと、中々の漫才だな」
「ぐぅ」
ぐぅの音も出ないわ……出たけど。
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