33 / 58
異界の国のアリス
魔王4
しおりを挟む
「……余は、やめろと言ったはずだが?」
振り返った先に居たのは、今までの緩い雰囲気とは全く違うハーヴェイ。
怒気が具現化したかのようにゆらりと景色が歪むのは、魔力のせいなんだろうか?
「ぐ、くっ……し、しかし」
「しかし、ではない。余の配下が余の決定に逆らう。これが何を意味するか理解できないか」
ミシミシと響く音と、苦悶の声。
怖い。正直、そう思う。
「魔王の部下は命令に従わず独自の判断で動く。これが『魔王』に対しどういうイメージを加える事になるか。お前は理解できていないのだな?」
「ま、魔王さま……っ!」
「逆らう奴に限って余の為を口にする。それが『悪しき魔王』のイメージを作り出すと理解しないからだ。暴走する忠義ほど厄介なものはないし、余はそれを矯正できるものではないとも考えている」
魔力が強まっていく。黒ずくめが、血を吐く。
「……故にな。余はこう思う。お前はここで処分するべきだと。此処から先、お前は高い確率で再度の暴走をする。その時、余がお前を事前に処分できる場所にいるとは限らんからだ」
ハーヴェイが、死刑宣告と共に手を下ろそうとする。
「死ね」と、そんな言葉と共に下げられる手を、私は思わず止めていた。
「何故止める?」
「何故って……目の前で死刑とかやり始めたら、そりゃ止めるでしょ!」
「この件に関しては、お前は被害者だ。むしろ殺されかけた事を加味すれば『そんな奴殺してやれ』と言うべきところではないか?」
「そんなハードな生き方してないわよ!」
なんで修羅みたいな事言わなきゃいけないのよ。別に目には目を、歯には歯をみたいな考えも持ってないし。
「ふむ」
私をじっと見ていたハーヴェイは、やがてポツリと「甘いな」と呟く。
「持っている力の割には、随分と甘い。まるで苦労知らずの子供だ」
「……殺意には死で報いを、みたいな単純論よりはいいと思うけど?」
「くくっ、そうかもしれんな。殺そうとしたから殺す。これは汚泥の道を自ら選ぶ行為だ。もっとも、余はそれを厭うつもりはないが」
「言ってる意味がよく分からないんだけど」
「玉座とは血の山河の上に安置されるもの、ということだ」
そう言うと、周囲に満ちていた魔力がフッと消え去る。
黒ずくめは……うん。動けないみたいだけど死んでない。
「だがまあ、お前にそれを強制する趣味もない。その道にいずれ来るとしても、猶予を与えられるべきではあるだろうしな」
「なんで私がそういう道に行く前提なのよ」
「決まっている。力は意味なく与えられるものではなく、役目無く生きる者は居ない。力ある者は、その力によって、いずれ何かを為さねばならない定めにある」
「……定めなんてフワッとしたものなんか、知らないわよ。私は自分で生き方を決めるわ」
「それもまた定めだ。いずれお前の運命には、他の力ある何かが交差する。余が、今此処にいるようにな」
……むう。確かにハーヴェイ……もそうだけど、アルヴァもいるし。
完全には否定できない部分はあるけど。
「運命は切り開くものよ」
「然り。故にぶつかり合うのだ。たとえ知恵を手に入れ文明を謳おうと、こればかりは変えられん。争わずには何者も生きられん。違うのは、流れる血の量だけだ」
「革命にだって無血革命みたいなのはあるのよ」
「たとえ無血であったとしても、それは革命という争いの結末だろう。既存の何かを倒したという事実はどれ程化粧しようと変えられん」
そこまで言って、ハーヴェイは暗い笑みを浮かべる。
「いや、むしろ……より醜悪かもしれんな? それを善であると誇る事で、何を守ろうというのか。いっそ悪であると誇ればまだ潔いものを」
「……そんな難しい事は分かんないわ。でも生きてこそ咲く花もあるって言葉もあるわよ」
「それを否定する気はない。肯定する気も無いが」
むー、なるほど。確かにアルヴァの言う通りこいつ、ただの馬鹿じゃないわ。
振り返った先に居たのは、今までの緩い雰囲気とは全く違うハーヴェイ。
怒気が具現化したかのようにゆらりと景色が歪むのは、魔力のせいなんだろうか?
「ぐ、くっ……し、しかし」
「しかし、ではない。余の配下が余の決定に逆らう。これが何を意味するか理解できないか」
ミシミシと響く音と、苦悶の声。
怖い。正直、そう思う。
「魔王の部下は命令に従わず独自の判断で動く。これが『魔王』に対しどういうイメージを加える事になるか。お前は理解できていないのだな?」
「ま、魔王さま……っ!」
「逆らう奴に限って余の為を口にする。それが『悪しき魔王』のイメージを作り出すと理解しないからだ。暴走する忠義ほど厄介なものはないし、余はそれを矯正できるものではないとも考えている」
魔力が強まっていく。黒ずくめが、血を吐く。
「……故にな。余はこう思う。お前はここで処分するべきだと。此処から先、お前は高い確率で再度の暴走をする。その時、余がお前を事前に処分できる場所にいるとは限らんからだ」
ハーヴェイが、死刑宣告と共に手を下ろそうとする。
「死ね」と、そんな言葉と共に下げられる手を、私は思わず止めていた。
「何故止める?」
「何故って……目の前で死刑とかやり始めたら、そりゃ止めるでしょ!」
「この件に関しては、お前は被害者だ。むしろ殺されかけた事を加味すれば『そんな奴殺してやれ』と言うべきところではないか?」
「そんなハードな生き方してないわよ!」
なんで修羅みたいな事言わなきゃいけないのよ。別に目には目を、歯には歯をみたいな考えも持ってないし。
「ふむ」
私をじっと見ていたハーヴェイは、やがてポツリと「甘いな」と呟く。
「持っている力の割には、随分と甘い。まるで苦労知らずの子供だ」
「……殺意には死で報いを、みたいな単純論よりはいいと思うけど?」
「くくっ、そうかもしれんな。殺そうとしたから殺す。これは汚泥の道を自ら選ぶ行為だ。もっとも、余はそれを厭うつもりはないが」
「言ってる意味がよく分からないんだけど」
「玉座とは血の山河の上に安置されるもの、ということだ」
そう言うと、周囲に満ちていた魔力がフッと消え去る。
黒ずくめは……うん。動けないみたいだけど死んでない。
「だがまあ、お前にそれを強制する趣味もない。その道にいずれ来るとしても、猶予を与えられるべきではあるだろうしな」
「なんで私がそういう道に行く前提なのよ」
「決まっている。力は意味なく与えられるものではなく、役目無く生きる者は居ない。力ある者は、その力によって、いずれ何かを為さねばならない定めにある」
「……定めなんてフワッとしたものなんか、知らないわよ。私は自分で生き方を決めるわ」
「それもまた定めだ。いずれお前の運命には、他の力ある何かが交差する。余が、今此処にいるようにな」
……むう。確かにハーヴェイ……もそうだけど、アルヴァもいるし。
完全には否定できない部分はあるけど。
「運命は切り開くものよ」
「然り。故にぶつかり合うのだ。たとえ知恵を手に入れ文明を謳おうと、こればかりは変えられん。争わずには何者も生きられん。違うのは、流れる血の量だけだ」
「革命にだって無血革命みたいなのはあるのよ」
「たとえ無血であったとしても、それは革命という争いの結末だろう。既存の何かを倒したという事実はどれ程化粧しようと変えられん」
そこまで言って、ハーヴェイは暗い笑みを浮かべる。
「いや、むしろ……より醜悪かもしれんな? それを善であると誇る事で、何を守ろうというのか。いっそ悪であると誇ればまだ潔いものを」
「……そんな難しい事は分かんないわ。でも生きてこそ咲く花もあるって言葉もあるわよ」
「それを否定する気はない。肯定する気も無いが」
むー、なるほど。確かにアルヴァの言う通りこいつ、ただの馬鹿じゃないわ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる