9 / 58
異界の国のアリス
リターンホーム
しおりを挟む
それから、数時間後。
「うーん……」
雑貨屋の依頼をこなして、時刻はもう夕方。
依頼主の雑貨屋の店主さんはゴブリンの女の人で、凄く親切な人だった。
これで依頼料が高ければ言う事なし……だったんだけど。
手の中にあるのは銅貨数枚で、グレイ達に教わった通りなら……これで安い宿に一晩泊れるくらいらしい。
くー、とお腹が鳴って空腹を訴えてくるけど、たぶんご飯買ったら宿に泊まれないわよね。
……となると、アレを試してみるしかないかしら。
「リターンホーム」
そう唱えると、一瞬の後に私の身体は何処かの室内に移動していた。
「あー、やっぱりコレ……そういうスキルなのね」
リターンホーム。一般的なゲームで言えば最初に戻るコマンド。
「破滅世界のファンタジア」でいえば、「拠点」に戻るコマンド……つまり、操作方法を学んだり出撃する為の、大きめの洋館のような場所に戻る事の出来る機能だった。
運営が何を考えていたのかは分からないけど、無駄に充実した課金家具の購入によって、ゲーム内の私の拠点は可愛らしくも贅沢なものになっていたけど……どうにも見回した感じ、それが完全再現されているように見える。
具体的には、柔らかそうなソファーに紅茶セットやクッキーのお皿の載ったテーブル。
そして、ファンシーな家具の数々。キッチンや冷蔵庫まであるからビックリだけど……使えるのかしら?
「んー……」
振り返ると、そこにはドア。これを開けたら、元の場所に戻ったりするのかしらね?
ちょっと考えて、アクビを1つ。
まあ、明日でもいいか……と、そんな事を呟きながらソファーに座って湯気をたてている紅茶を一口。
クッキーをサクサクと頬張って、紅茶をもう一口。ソーサーにカップを置くと、飲んだはずの紅茶は元に戻っていて、クッキーもお皿いっぱいになっている。
「はー……幸せ……」
窓の外は何処の風景かも分からない綺麗な草原。夕日に染まるその光景にチラリと視線を向けると、私はクッキーをもう1枚サクッと食べる。
そうしてクッキーと紅茶だけでお腹いっぱいになった私は、そのままソファーに身を横たえる。
ベッドもあった気がするけど……お腹いっぱいになったらなんだか眠い。
「おやすみなさい……むにゃ」
フワフワのソファーでぐっすりと寝て……窓から朝日が差し込み始めてきた頃、私はゆっくりと目を開ける。
「んー……ふわあー……」
フラフラと起き上がって、洗面台の蛇口を捻って顔を水で洗う。
鏡の中にいる自分を見て……私は思わず「あっ」と声をあげる。
あ、そうか……そうだった。私、違う世界に来てたんだった。
頭の中に部屋の間取りが完璧に入ってたから、自然に動け過ぎて気付かなかった。
なんだか自宅って感覚がするっていうか……いや、アリスの自宅なんだろうから間違ってはいないんだけど。
「どういう理屈でお水出てるのかしら、これ……」
そんな答えの出ない疑問に「ま、いいか」と区切りをつけると、私は拠点の中を探索していく。
私の中にある「記憶」の通りに、私が居たリビング、お風呂のある洗面所、トイレ……台所にベッドルーム、そして地下へと繋がる扉があった。
「む、開かない……」
―機能が解放されていません!―
そんな声が頭の中に聞こえてきて、どうやら「機能の解放」とやらをしないと開けられないのだと無理矢理分からせてくる。
私の記憶だと、この先はトレーニングルームのはずだけど……今は使えないみたいだ。
それだけじゃなくて、あといくつか機能があるんだけど、其処に繋がる扉も機能が解放されていなくて使えないみたい。むー、残念。ショップ機能とかは便利そうなんだけどな。
部屋の隅に置いてあるアイテム保管用の「宝箱」も、箱庭ゲーム的要素であった「農園」も今は使えない。
……しかし、「破滅世界のファンタジア」の開発は何考えてたんだろ。肝心のアクションゲームじゃなくて、こんな機能ばっかりアップデートしてどうするんだか。
だから「アクションゲームはおまけ」とかレビューに書かれるのよ。
……まあ、それはともかく。機能の解放をする為にはどうすればいいのかな?
「確か……ゲームだと……」
本棚に近づいて「ヘルプ」と背表紙に書かれた一冊の本を抜き出して開くと、表紙が自動的に開く。
そこに書かれていたのは、目次でもタイトルでも何でもない……とても簡単なメッセージ。
知りたい事を「検索」の次に入力してください、だ。
だから私はその指示通りに音声入力する。
「検索、『機能の解放』」
私の声に答えるように本のページはせわしなく捲れていき、やがてピタリと停止する。
そしてそれは、確かに『機能の解放』についてのページだった。
「経験値を溜めて……トータルレベルを上げる、と。宝箱の解放はトータルレベル15……」
確か今の私はソードマンのレベル10。ということは、あと5上げてレベル15になれば宝箱を使えるって事よね。
うん、目標があるとやる気が出るわ! レベル上げが必要って事は、あのクラーケンみたいなのを倒していけばいいってことよね。となると……行くべきは外、ね。
「よーしっ、やるわよ!」
私は天井に向かって拳を突き上げると、モンスター退治をするべく気合を入れるのだった。
「うーん……」
雑貨屋の依頼をこなして、時刻はもう夕方。
依頼主の雑貨屋の店主さんはゴブリンの女の人で、凄く親切な人だった。
これで依頼料が高ければ言う事なし……だったんだけど。
手の中にあるのは銅貨数枚で、グレイ達に教わった通りなら……これで安い宿に一晩泊れるくらいらしい。
くー、とお腹が鳴って空腹を訴えてくるけど、たぶんご飯買ったら宿に泊まれないわよね。
……となると、アレを試してみるしかないかしら。
「リターンホーム」
そう唱えると、一瞬の後に私の身体は何処かの室内に移動していた。
「あー、やっぱりコレ……そういうスキルなのね」
リターンホーム。一般的なゲームで言えば最初に戻るコマンド。
「破滅世界のファンタジア」でいえば、「拠点」に戻るコマンド……つまり、操作方法を学んだり出撃する為の、大きめの洋館のような場所に戻る事の出来る機能だった。
運営が何を考えていたのかは分からないけど、無駄に充実した課金家具の購入によって、ゲーム内の私の拠点は可愛らしくも贅沢なものになっていたけど……どうにも見回した感じ、それが完全再現されているように見える。
具体的には、柔らかそうなソファーに紅茶セットやクッキーのお皿の載ったテーブル。
そして、ファンシーな家具の数々。キッチンや冷蔵庫まであるからビックリだけど……使えるのかしら?
「んー……」
振り返ると、そこにはドア。これを開けたら、元の場所に戻ったりするのかしらね?
ちょっと考えて、アクビを1つ。
まあ、明日でもいいか……と、そんな事を呟きながらソファーに座って湯気をたてている紅茶を一口。
クッキーをサクサクと頬張って、紅茶をもう一口。ソーサーにカップを置くと、飲んだはずの紅茶は元に戻っていて、クッキーもお皿いっぱいになっている。
「はー……幸せ……」
窓の外は何処の風景かも分からない綺麗な草原。夕日に染まるその光景にチラリと視線を向けると、私はクッキーをもう1枚サクッと食べる。
そうしてクッキーと紅茶だけでお腹いっぱいになった私は、そのままソファーに身を横たえる。
ベッドもあった気がするけど……お腹いっぱいになったらなんだか眠い。
「おやすみなさい……むにゃ」
フワフワのソファーでぐっすりと寝て……窓から朝日が差し込み始めてきた頃、私はゆっくりと目を開ける。
「んー……ふわあー……」
フラフラと起き上がって、洗面台の蛇口を捻って顔を水で洗う。
鏡の中にいる自分を見て……私は思わず「あっ」と声をあげる。
あ、そうか……そうだった。私、違う世界に来てたんだった。
頭の中に部屋の間取りが完璧に入ってたから、自然に動け過ぎて気付かなかった。
なんだか自宅って感覚がするっていうか……いや、アリスの自宅なんだろうから間違ってはいないんだけど。
「どういう理屈でお水出てるのかしら、これ……」
そんな答えの出ない疑問に「ま、いいか」と区切りをつけると、私は拠点の中を探索していく。
私の中にある「記憶」の通りに、私が居たリビング、お風呂のある洗面所、トイレ……台所にベッドルーム、そして地下へと繋がる扉があった。
「む、開かない……」
―機能が解放されていません!―
そんな声が頭の中に聞こえてきて、どうやら「機能の解放」とやらをしないと開けられないのだと無理矢理分からせてくる。
私の記憶だと、この先はトレーニングルームのはずだけど……今は使えないみたいだ。
それだけじゃなくて、あといくつか機能があるんだけど、其処に繋がる扉も機能が解放されていなくて使えないみたい。むー、残念。ショップ機能とかは便利そうなんだけどな。
部屋の隅に置いてあるアイテム保管用の「宝箱」も、箱庭ゲーム的要素であった「農園」も今は使えない。
……しかし、「破滅世界のファンタジア」の開発は何考えてたんだろ。肝心のアクションゲームじゃなくて、こんな機能ばっかりアップデートしてどうするんだか。
だから「アクションゲームはおまけ」とかレビューに書かれるのよ。
……まあ、それはともかく。機能の解放をする為にはどうすればいいのかな?
「確か……ゲームだと……」
本棚に近づいて「ヘルプ」と背表紙に書かれた一冊の本を抜き出して開くと、表紙が自動的に開く。
そこに書かれていたのは、目次でもタイトルでも何でもない……とても簡単なメッセージ。
知りたい事を「検索」の次に入力してください、だ。
だから私はその指示通りに音声入力する。
「検索、『機能の解放』」
私の声に答えるように本のページはせわしなく捲れていき、やがてピタリと停止する。
そしてそれは、確かに『機能の解放』についてのページだった。
「経験値を溜めて……トータルレベルを上げる、と。宝箱の解放はトータルレベル15……」
確か今の私はソードマンのレベル10。ということは、あと5上げてレベル15になれば宝箱を使えるって事よね。
うん、目標があるとやる気が出るわ! レベル上げが必要って事は、あのクラーケンみたいなのを倒していけばいいってことよね。となると……行くべきは外、ね。
「よーしっ、やるわよ!」
私は天井に向かって拳を突き上げると、モンスター退治をするべく気合を入れるのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる