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2巻
2-3
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これで話が終わりだと判断したウィルザードは、水晶の映像を切り、改めてルーガンに疑問をぶつける。
「……で、あのペンダントは何なんだ?」
「あれは……旧王国……ウーファ王国の紋章だ」
「ウーファ……つまり、あれが騎士の証明になるってことか」
ベイガンに滅ぼされた獣人達の国、通称旧王国。
その紋章を持っているのならば、確かに騎士である可能性は高い。もっとも、どこかで拾っただけなんてこともありえるが。
「……いや、ただの騎士じゃない」
ルーガンは静かに首を振って、ウィルザードの推測を否定した。
「ん?」
「あれは、王家の紋章だ……限られた者しか持てない」
旧王国における紋章のペンダントは、王族の身分証明だ。
それを持ち歩くのは王族自身か、常に王族について歩く護衛騎士。つまり、有象無象の〝元騎士〟とは格が違うのだ。
旧王国で元兵士だったルーガンにしてみれば、かつての上司の上司のそのまた上司……のような、まさに雲の上の存在にあたる。
一方、ベイガンにとっては滅ぼした国の中枢にいた人間だ。やりにくいことこの上ない。
「……ふむ」
そんなものを見せてくるということは、旧王国では確かに身分が高かったのだろう。もしかすると、あの金髪の猫獣人の方は王族なのかもしれない――と、ウィルザードは考えた。
別に、彼が王族であるかどうかはウィルザードにとっては比較的どうでもいい話なのだが……そんな権威が未だに影響力を持っているということは問題だった。
この国はロウグリア王国であって、ウーファ王国ではないのだ。
「ねえねえ、ウィルせんせ」
「ん? なんだ、ムル」
クイクイと服の裾を引っ張り、ムルはウィルザードを見上げて疑問をぶつけた。
「つまり、古い国のもの?」
「そうだな。以前この辺りにあった国の偉い人だという証明だ」
「なんでソレで納得したの?」
子供の単純さ故の疑問かもしれないが、その視点は悪くない。
ウィルザードはニヤリと笑い、質問を返す。
「じゃあムルは、納得できないのかい?」
「だって、もう無い国なのに」
「ああ。だが皆が昔暮らしていた国だ」
「今の国の偉い人じゃないのに、変」
子供らしい、スッパリと割り切った答えに、ウィルザードは思わず噴き出してしまう。
「はは……そう、まさにその通り」
結局のところ、旧王国における地位など、全く新しい国家体制においてなんの保証にもならない。
心情的に尊敬し、尊重されるかもしれないが、それだけだ。
そんな権威の残滓を振りかざして、今さら何をしに来たのかは分からないが……場合によってはお引き取り願うのみである。
「少し気になることもあるしな」
ウィルザードは満足げに頷くと、杖を一振りする。
すると彼らの姿は透明になり、ホールからスッと消え去る。
間を置かず、そこに兵士達に先導されながら先程の旧王国の騎士達がやって来た。
ベイガンの姿もある。
今夜の宿泊先などの話をしながら、元騎士達が城から出ていくのをその場で見送ると、ウィルザードは透明化の魔法を解除した。
「うおっ……ウィルザード!? 何してんだお前ら!」
一人ホールに残っていたベイガンは、驚きの声を上げる。
「やあ、ベイガン。大変だったみたいじゃないか」
「あ? まあ……な」
「しかし、この辺りは君にとってみれば〝ああいうこと〟が起こりやすい場所だ。それについては、大した問題でもないかな?」
ウィルザードの物言いに、ベイガンは目を細める。
「お前……まさか、魔法で覗き見してやがったのか?」
「お、すぐにそこに思い当たるとは、やるじゃないか」
全く悪びれた様子のないウィルザードに、ベイガンは頭をガリガリと掻き、盛大に溜息を吐いた。
「だったら、事情も分かってるだろ。どうする、アレを王に会わせんのか?」
「君はどう考える?」
「俺か? 正直、マジで王族絡みかどうかは俺には分からん。だが、もし本当にそうだった場合、面倒なことになる」
「……確かにな」
ロウグリア王国はこの一年で急速に成長し、領土を広げた。
もし王族が生き残っているなら、彼らにとって国土奪回はまさに悲願。今のロウグリアにそれを要求しに来たのであれば、重大な問題に発展しうる。
「謁見の場でしか明かせない、か」
「伝言ではダメだとは……十中八九、面倒事だな」
「ああ。即断を要求するか、誤解なきよう自らの言葉を正確に伝えることを希望しているのか。どちらにせよ、ただのご挨拶では済まないな」
ウィルザード達が顔と顔を突き合わせて話し合っていると、その間にムルが入り込んだ。
「断るのは、ダメ?」
「……たとえば王位をよこせとか、本当に不当で無茶な要求なら、それもアリだとも。さすがにそこまでは言わないと思うけどね……」
そういう話をしようものなら、ウィルザードは躊躇なく魔法を使って、彼らを国の外まで放り出すつもりだ。
だがそれでも、多少の便宜を図れるような要求であれば、考慮するのもまた政治である。
何せ、ロウグリアの民は、旧王国の民だった者達が多数を占めるのだから。彼らの感情をないがしろにはできない。
しばし悩んでいたウィルザードは、ムルを抱え上げて顔を覗き込む。
「ムル、君はいい魔法使いになりそうだが、いい政治家にもなるかもしれないな」
「うん、がんばる」
「よし、いいぞ。その調子で僕が魔法一本に集中できるように頑張ってくれたまえ」
ハハハ、と相変わらず楽しそうに笑う師弟の姿に、ベイガンとルーガンは揃って溜息を吐く。
とてもではないが、彼らは笑っていられる気分ではなかった。
◆
「ふーん、そんなことがあったんだ」
その日の夜。元騎士との一件について聞いたアーニャが、食事の手を止めて呟いた。
「ああ」
アーニャとムルはウィルザードの部屋に集まって夕食を取っていた。
本来、もっと大きな食堂があるのだが〝なんか寂しい〟というアーニャの意見によって、三日に一回はこうして小さな部屋に集まって、普通の食事をするというのが習慣になっていた。
ちなみに、毎日そうしないのは、来賓を招いた時にアーニャが食事マナーで苦労しないようにするためだ。
小さくカットされた芋の煮物を呑み込み、ムルはアーニャに視線を向ける。
「ねえ、あの人、本当に偉い人だったの?」
「え? うーん……私はそういうの詳しくないなあ。田舎の子だったし」
ムルもそうだが、アーニャもしがない田舎村の子供だったので、中央の騎士や王族の顔など知るはずがない。
その地方を治める代官ですら〝滅多に会えない偉い人〟だというのに、中央の人物ともなれば、雲の上の話だ。当然、王族や貴族など、顔も名前もロクに知らない。
彼女達が身を置く平民社会では知らずとも生きていけるし、〝王様〟や〝騎士様〟と言えば事足りてしまうからでもあった。
「……ふーむ。ベイガンがその辺りに詳しければ良かったんだけどな」
「そういえば、ベイガンも王様っていうか……その……」
「滅ぼした張本人だからな」
ウィルザードがアーニャの言葉を継いだ。
結論から言えば、ベイガンも例の二人が旧王国でどの程度の地位にいた者なのかは知らなかった。自分で打ち倒した王くらいは覚えているらしいが、それ以外の王族は全く覚えていないし、興味もないという。
「えー……そんなものなの?」
「日々を闘争に費やしてた奴だからな。討ち取った相手のことはすぐに記憶の彼方に飛んでいくんだろうさ」
倒した相手のことを覚えているというのは一見礼儀にも思えるが、その実は呪いだ。それは罪の記憶であり、日々自身を苛む病でもある。
その辺りをサッパリと忘れてしまえるベイガンは〝闘争に向いている者〟であり、それが彼を蛮王として躍進させた一因でもある。
しかしそれは、〝政治に向いていない者〟の証でもある。戦士の素質であって、統治者の素質ではないのだ。
ベイガンがクラウンソードに選ばれなかったのも、そこが理由だろう。
ともかく、例の二人が本当に旧王国の貴人であるのかは誰にも分からない。
他国の貴人であれば何か知っているかもしれないが、こんなことで借りを作るわけにもいかないし、内紛の種になりかねない弱みを、みすみす晒すわけにもいかない。
この国は、今が一番大事な時なのだから。
「あ!」
ふと、アーニャが声を上げた。
彼女の視線を追って、ウィルザードは自分の肩の上に浮く……アルダンの映る水晶へと目を向ける。
「何かな?」
「アルダン様なら、知ってるんじゃない?」
「……なるほど」
確かに、アルダンは人の視点など及ばぬ視点から世を見下ろす神だ。
また、この世界の再生に関わったというのであれば、その辺りの重要人物に関する知識もあるだろう。
ウィルザードはアルダンに問いかけた。
「どうなんだ、アルダン? 神というなら分かるだろう?」
アルダンは悩むように腕を組むと、目を閉じて唸りはじめる。
「ふーむ。うーん……」
なんとも勿体ぶった仕草である。
「どうした? 知らないならそう言ってくれればいい」
「そうだなあ……知っているといえば知っているんだよ」
どうにも歯切れの悪いアルダンに、ウィルザードもアーニャも……ムルも疑問符を浮かべる。
アルダンは皮肉屋だがスパッとものを言う性格であることは、これまでの付き合いで分かっている。そんな彼女には似つかわしくない態度を、三人は不思議に思ったのだ。
「教えたくない、ということか」
「うーん」
ウィルザードの問いかけにアルダンは再度唸ると、困ったような複雑な笑みを浮かべる。
「私はさあ、〝頑張る子〟が好きなんだよ」
「ああ、前に言っていたな」
ウィルザードは、初めてアルダンと会った日に、彼女が口にした言葉を思い出す。
「君達に教えてもいいんだが……今回ばかりはどうするべきか」
しばらく悩む様子を見せた後、アルダンは〝うん〟と頷き、手を叩く。
「今回は教えないことにしよう。その方が良さそうだ」
そう言うと、アルダンの姿は消え、水晶玉はひとりでにウィルザードの懐へと収まってしまう。
再度アルダンを呼んだとしても、一度そう決めた以上は答えないに決まっている。
アルダンの真意を測りかね、アーニャとムルが顔を見合わせる。
「……どういうこと、かな。私達で頑張るべき――ってこと?」
「そういう風に聞こえた」
実際、今回のように旧来の権力層とどう折り合いをつけるかという問題は、新しく国を立ち上げる以上はいつか訪れるものだ。
アルダンは〝ここで楽をするな〟と言っているとも取れる。
「ウィルはどう思う?」
「そうだな……基本的にはアーニャと同じ意見なんだが……」
ウィルザードの中で、何かが引っ掛かっていた。
頑張るのはアーニャ達なのか、それとも例の二人の方か。神の視点から見れば、どちらもありうるが、正解は分からない。
「この件で深く考えすぎても、ドツボに嵌るだけな気がするな」
「実際に会って、対処してみるしかないってこと?」
「そうだ。答えはすぐに出る。その時に何が起こっても問題ないように色々考えておく……というのが、今できる一番現実的な対処だろうな」
アーニャは〝なるほど〟と頷く。
謁見の本番で慌てないように、いくつかのパターンをシミュレーションしておけばいいのだ。
「本来なら全体会議を行なって対策を検討するべきだが、現状ではな……」
「文官の人、育ってないもんねえ」
建国当初は攻めてくるベイガンに対抗するために戦力拡充を優先した影響もあるが、元々山に逃げてきた獣人に一般人が多かったというのも原因だ。
全員政治の素人とあっては、手探りでどうにかするしかない。そういった点について、今のロウグリアはウィルザード頼みになっている部分が多々ある。
最初は誰もが素人なのだから……という台詞は、指導できる玄人がいるから言えるのだ。
「とにかく、まずは一番厄介な可能性から想定してみるとしよう」
「えーと……実は騎士様じゃなくて王様本人だったとか?」
遠慮がちに小さく手を挙げて、アーニャが言った。
「なるほど。面白い想定だが、それは考えなくていい」
「え? なんで?」
「旧王国の王は死んでいるからな。ベイガンが直接討ち取っている。これは間違いない」
ベイガン本人が〝確実にトドメを刺した〟と言っているから、まず間違いない。彼の大剣の餌食になったとあっては、生き残っていると考える方が難しい。
そして、雑多な王族はともかく、一国の王であるならば、さすがにベイガンの記憶も確かなはずだし、たとえ変装していたとしても、兵士が誰一人気付かないとは思えない。
「じゃあ王子?」
ついで、ムルがウィルザードの顔色を窺う。
「そうだな、ムルの言う通り……王子辺りが現実的だな。旧王国がどういう体制だったかは分からないが、全ての王族が王城に集っていたとは思えない。当然、他国や山奥に逃げた王子や姫がいてもおかしくはない」
そうした貴人達が従者として騎士を連れていることは多い。
「あるいは王子本人でなくとも、使いの者という可能性もある」
たとえば、他国に保護された王子や姫が、なんらかの便宜や助力を求めて使者を送ってきたというのも考えられるところだ。
「でも、何しに来たの?」
「う、そうだよね。何しに来たんだろう?」
もし背後でどこかの国が糸を引いていたとしても、今アーニャと敵対する意味はない。
魔法開発の中心にいるのが〝創魔士ウィルザード〟であるというのは知れ渡っているし、国を乗っ取れば魔法技術の全てがついてくるなどという単純な話ではないのだ。
「そうだな……新体制でなんらかの地位を確保したいという辺りが現実的かな?」
「地位の確保……」
「仮にそうだった場合、どこまで許容するか考えておくことは重要だろうな」
「うーん……お城で働く文官さん、というのは駄目なのかな?」
旧王国の王子なら、政治に対する見識はいくらかあるはずである。ならば、文官としてそれなりの地位を与えるのは、悪い考えではない。
「いいと思うよ。もっとも、いきなり高い地位を与えるのは少し問題があるけどね」
「どうして?」
「派閥を作られる恐れがあるからさ」
旧王国の王族がいきなり大臣ともなれば、旧王国の住人であった獣人達に少なからず影響力を及ぼすだろう。
その求心力はアーニャによる政治体制の中にもう一つの巨大権力を作りかねない。
特に、政に関わる文官の手が足りない現時点で責任ある立場に据えてしまうと、彼の意のままに組織を組み立てられてしまうリスクがあるのだ。
「んー」
話を聞いたムルは、難しい顔で唸り声を漏らす。
「どうした、ムル?」
「元王子……なら、地位がなくても皆を纏めちゃうかも」
「あっ……なるほど!」
ムルの言葉に、アーニャが驚きの声を上げた。
その元王子が有能であれば、地位など関係なしに自然と他の未熟な文官を纏め上げるだろうし、無能でも元王子という肩書に何かを期待する者によって派閥ができるかもしれない。
そうなった時、ロウグリアの政治に良からぬ影響が出るのは避けられない。
「うーん……どうするのが正解なんだろ」
「正解なんてないさ」
悩むアーニャに、ウィルザードは気楽に言ってのける。
「言ってるだろう? 君がどこまで許容できるかが問題なんだ」
つまり、そこまで自分で考えろという話だと、アーニャは理解した。これは、アーニャの王としての仕事なのだ。
「んー……」
途端に分からなくなって悩むアーニャの横で、ムルは夕食を終えて〝ごちそうさま〟と手を合わせる。
ウィルザードを真似しているうちに習慣づいたものだが、小さなムルがやると、なかなか可愛らしい。
「デザートにリンゴがあるぞ」
「食べる」
ムルはモグモグとリンゴを齧りながら、唸るアーニャとウィルザードを交互に見やる。
「ウィルせんせだったらどうする?」
「うん? 僕かい? 答えてもいいんだが……今は邪魔しない方がいいな」
ウィルザードが何かを言うことでアーニャの判断に影響を与えてしまっては本末転倒だ。
……やがて、しばらく唸っていたアーニャは〝そうだ!〟と叫んでテーブルを叩く。
「こら、行儀が悪い」
「あ、ごめん」
アーニャはテーブルから手を下ろすと、仕切り直しとばかりに咳払いをひとつ。
「こほん……。決めたよ。もしロウグリアで働きたいという話だったら、テストすればいいんだよ」
「へえ? テストか。それで優秀な成績を出したらどうするんだい?」
「それならそれで、いいことだと思う。優秀な人をどう使うかっていうのは、たぶん王様の器というか、責任なんだろうし」
自信満々の発言に、ムルは称賛の声を上げ、ウィルザードも手を叩いて感心した。
「素晴らしい。それでこそ僕達の王だ」
「そ、そう? 合格?」
「ああ、文句なしの合格だとも。有能な者を否定してしまえばそれ自体が停滞だ。だから試験をするというのは正しい。無能な問題人物は手に負えないが、能力のある問題人物は使い方次第だからな」
もちろん、有能な問題人物はその有能さ故に大きな問題を起こすかもしれない。
しかし、それを恐れて最初から使わないのは、国にとっての不利益だ。
王が自分の周りをイエスマンだけで固めたがために滅びた国の話は、歴史を紐解けばいくらでも出てくる。
もちろん、有能すぎる部下を御しきれずに滅びた例も多いが……そこは為政者次第、というわけだ。
「よし! じゃあ、これで問題なしだね!」
「まだどういう試験を課すかという問題もあるけどな」
「うっ」
「まあ、そのくらいは僕も考えておこう。さあ、冷めてしまうから、早く夕飯を食べたまえ」
ウィルザードに促され、アーニャはようやく食事を再開した。
三人の食卓は今日も平和だった。
「……で、あのペンダントは何なんだ?」
「あれは……旧王国……ウーファ王国の紋章だ」
「ウーファ……つまり、あれが騎士の証明になるってことか」
ベイガンに滅ぼされた獣人達の国、通称旧王国。
その紋章を持っているのならば、確かに騎士である可能性は高い。もっとも、どこかで拾っただけなんてこともありえるが。
「……いや、ただの騎士じゃない」
ルーガンは静かに首を振って、ウィルザードの推測を否定した。
「ん?」
「あれは、王家の紋章だ……限られた者しか持てない」
旧王国における紋章のペンダントは、王族の身分証明だ。
それを持ち歩くのは王族自身か、常に王族について歩く護衛騎士。つまり、有象無象の〝元騎士〟とは格が違うのだ。
旧王国で元兵士だったルーガンにしてみれば、かつての上司の上司のそのまた上司……のような、まさに雲の上の存在にあたる。
一方、ベイガンにとっては滅ぼした国の中枢にいた人間だ。やりにくいことこの上ない。
「……ふむ」
そんなものを見せてくるということは、旧王国では確かに身分が高かったのだろう。もしかすると、あの金髪の猫獣人の方は王族なのかもしれない――と、ウィルザードは考えた。
別に、彼が王族であるかどうかはウィルザードにとっては比較的どうでもいい話なのだが……そんな権威が未だに影響力を持っているということは問題だった。
この国はロウグリア王国であって、ウーファ王国ではないのだ。
「ねえねえ、ウィルせんせ」
「ん? なんだ、ムル」
クイクイと服の裾を引っ張り、ムルはウィルザードを見上げて疑問をぶつけた。
「つまり、古い国のもの?」
「そうだな。以前この辺りにあった国の偉い人だという証明だ」
「なんでソレで納得したの?」
子供の単純さ故の疑問かもしれないが、その視点は悪くない。
ウィルザードはニヤリと笑い、質問を返す。
「じゃあムルは、納得できないのかい?」
「だって、もう無い国なのに」
「ああ。だが皆が昔暮らしていた国だ」
「今の国の偉い人じゃないのに、変」
子供らしい、スッパリと割り切った答えに、ウィルザードは思わず噴き出してしまう。
「はは……そう、まさにその通り」
結局のところ、旧王国における地位など、全く新しい国家体制においてなんの保証にもならない。
心情的に尊敬し、尊重されるかもしれないが、それだけだ。
そんな権威の残滓を振りかざして、今さら何をしに来たのかは分からないが……場合によってはお引き取り願うのみである。
「少し気になることもあるしな」
ウィルザードは満足げに頷くと、杖を一振りする。
すると彼らの姿は透明になり、ホールからスッと消え去る。
間を置かず、そこに兵士達に先導されながら先程の旧王国の騎士達がやって来た。
ベイガンの姿もある。
今夜の宿泊先などの話をしながら、元騎士達が城から出ていくのをその場で見送ると、ウィルザードは透明化の魔法を解除した。
「うおっ……ウィルザード!? 何してんだお前ら!」
一人ホールに残っていたベイガンは、驚きの声を上げる。
「やあ、ベイガン。大変だったみたいじゃないか」
「あ? まあ……な」
「しかし、この辺りは君にとってみれば〝ああいうこと〟が起こりやすい場所だ。それについては、大した問題でもないかな?」
ウィルザードの物言いに、ベイガンは目を細める。
「お前……まさか、魔法で覗き見してやがったのか?」
「お、すぐにそこに思い当たるとは、やるじゃないか」
全く悪びれた様子のないウィルザードに、ベイガンは頭をガリガリと掻き、盛大に溜息を吐いた。
「だったら、事情も分かってるだろ。どうする、アレを王に会わせんのか?」
「君はどう考える?」
「俺か? 正直、マジで王族絡みかどうかは俺には分からん。だが、もし本当にそうだった場合、面倒なことになる」
「……確かにな」
ロウグリア王国はこの一年で急速に成長し、領土を広げた。
もし王族が生き残っているなら、彼らにとって国土奪回はまさに悲願。今のロウグリアにそれを要求しに来たのであれば、重大な問題に発展しうる。
「謁見の場でしか明かせない、か」
「伝言ではダメだとは……十中八九、面倒事だな」
「ああ。即断を要求するか、誤解なきよう自らの言葉を正確に伝えることを希望しているのか。どちらにせよ、ただのご挨拶では済まないな」
ウィルザード達が顔と顔を突き合わせて話し合っていると、その間にムルが入り込んだ。
「断るのは、ダメ?」
「……たとえば王位をよこせとか、本当に不当で無茶な要求なら、それもアリだとも。さすがにそこまでは言わないと思うけどね……」
そういう話をしようものなら、ウィルザードは躊躇なく魔法を使って、彼らを国の外まで放り出すつもりだ。
だがそれでも、多少の便宜を図れるような要求であれば、考慮するのもまた政治である。
何せ、ロウグリアの民は、旧王国の民だった者達が多数を占めるのだから。彼らの感情をないがしろにはできない。
しばし悩んでいたウィルザードは、ムルを抱え上げて顔を覗き込む。
「ムル、君はいい魔法使いになりそうだが、いい政治家にもなるかもしれないな」
「うん、がんばる」
「よし、いいぞ。その調子で僕が魔法一本に集中できるように頑張ってくれたまえ」
ハハハ、と相変わらず楽しそうに笑う師弟の姿に、ベイガンとルーガンは揃って溜息を吐く。
とてもではないが、彼らは笑っていられる気分ではなかった。
◆
「ふーん、そんなことがあったんだ」
その日の夜。元騎士との一件について聞いたアーニャが、食事の手を止めて呟いた。
「ああ」
アーニャとムルはウィルザードの部屋に集まって夕食を取っていた。
本来、もっと大きな食堂があるのだが〝なんか寂しい〟というアーニャの意見によって、三日に一回はこうして小さな部屋に集まって、普通の食事をするというのが習慣になっていた。
ちなみに、毎日そうしないのは、来賓を招いた時にアーニャが食事マナーで苦労しないようにするためだ。
小さくカットされた芋の煮物を呑み込み、ムルはアーニャに視線を向ける。
「ねえ、あの人、本当に偉い人だったの?」
「え? うーん……私はそういうの詳しくないなあ。田舎の子だったし」
ムルもそうだが、アーニャもしがない田舎村の子供だったので、中央の騎士や王族の顔など知るはずがない。
その地方を治める代官ですら〝滅多に会えない偉い人〟だというのに、中央の人物ともなれば、雲の上の話だ。当然、王族や貴族など、顔も名前もロクに知らない。
彼女達が身を置く平民社会では知らずとも生きていけるし、〝王様〟や〝騎士様〟と言えば事足りてしまうからでもあった。
「……ふーむ。ベイガンがその辺りに詳しければ良かったんだけどな」
「そういえば、ベイガンも王様っていうか……その……」
「滅ぼした張本人だからな」
ウィルザードがアーニャの言葉を継いだ。
結論から言えば、ベイガンも例の二人が旧王国でどの程度の地位にいた者なのかは知らなかった。自分で打ち倒した王くらいは覚えているらしいが、それ以外の王族は全く覚えていないし、興味もないという。
「えー……そんなものなの?」
「日々を闘争に費やしてた奴だからな。討ち取った相手のことはすぐに記憶の彼方に飛んでいくんだろうさ」
倒した相手のことを覚えているというのは一見礼儀にも思えるが、その実は呪いだ。それは罪の記憶であり、日々自身を苛む病でもある。
その辺りをサッパリと忘れてしまえるベイガンは〝闘争に向いている者〟であり、それが彼を蛮王として躍進させた一因でもある。
しかしそれは、〝政治に向いていない者〟の証でもある。戦士の素質であって、統治者の素質ではないのだ。
ベイガンがクラウンソードに選ばれなかったのも、そこが理由だろう。
ともかく、例の二人が本当に旧王国の貴人であるのかは誰にも分からない。
他国の貴人であれば何か知っているかもしれないが、こんなことで借りを作るわけにもいかないし、内紛の種になりかねない弱みを、みすみす晒すわけにもいかない。
この国は、今が一番大事な時なのだから。
「あ!」
ふと、アーニャが声を上げた。
彼女の視線を追って、ウィルザードは自分の肩の上に浮く……アルダンの映る水晶へと目を向ける。
「何かな?」
「アルダン様なら、知ってるんじゃない?」
「……なるほど」
確かに、アルダンは人の視点など及ばぬ視点から世を見下ろす神だ。
また、この世界の再生に関わったというのであれば、その辺りの重要人物に関する知識もあるだろう。
ウィルザードはアルダンに問いかけた。
「どうなんだ、アルダン? 神というなら分かるだろう?」
アルダンは悩むように腕を組むと、目を閉じて唸りはじめる。
「ふーむ。うーん……」
なんとも勿体ぶった仕草である。
「どうした? 知らないならそう言ってくれればいい」
「そうだなあ……知っているといえば知っているんだよ」
どうにも歯切れの悪いアルダンに、ウィルザードもアーニャも……ムルも疑問符を浮かべる。
アルダンは皮肉屋だがスパッとものを言う性格であることは、これまでの付き合いで分かっている。そんな彼女には似つかわしくない態度を、三人は不思議に思ったのだ。
「教えたくない、ということか」
「うーん」
ウィルザードの問いかけにアルダンは再度唸ると、困ったような複雑な笑みを浮かべる。
「私はさあ、〝頑張る子〟が好きなんだよ」
「ああ、前に言っていたな」
ウィルザードは、初めてアルダンと会った日に、彼女が口にした言葉を思い出す。
「君達に教えてもいいんだが……今回ばかりはどうするべきか」
しばらく悩む様子を見せた後、アルダンは〝うん〟と頷き、手を叩く。
「今回は教えないことにしよう。その方が良さそうだ」
そう言うと、アルダンの姿は消え、水晶玉はひとりでにウィルザードの懐へと収まってしまう。
再度アルダンを呼んだとしても、一度そう決めた以上は答えないに決まっている。
アルダンの真意を測りかね、アーニャとムルが顔を見合わせる。
「……どういうこと、かな。私達で頑張るべき――ってこと?」
「そういう風に聞こえた」
実際、今回のように旧来の権力層とどう折り合いをつけるかという問題は、新しく国を立ち上げる以上はいつか訪れるものだ。
アルダンは〝ここで楽をするな〟と言っているとも取れる。
「ウィルはどう思う?」
「そうだな……基本的にはアーニャと同じ意見なんだが……」
ウィルザードの中で、何かが引っ掛かっていた。
頑張るのはアーニャ達なのか、それとも例の二人の方か。神の視点から見れば、どちらもありうるが、正解は分からない。
「この件で深く考えすぎても、ドツボに嵌るだけな気がするな」
「実際に会って、対処してみるしかないってこと?」
「そうだ。答えはすぐに出る。その時に何が起こっても問題ないように色々考えておく……というのが、今できる一番現実的な対処だろうな」
アーニャは〝なるほど〟と頷く。
謁見の本番で慌てないように、いくつかのパターンをシミュレーションしておけばいいのだ。
「本来なら全体会議を行なって対策を検討するべきだが、現状ではな……」
「文官の人、育ってないもんねえ」
建国当初は攻めてくるベイガンに対抗するために戦力拡充を優先した影響もあるが、元々山に逃げてきた獣人に一般人が多かったというのも原因だ。
全員政治の素人とあっては、手探りでどうにかするしかない。そういった点について、今のロウグリアはウィルザード頼みになっている部分が多々ある。
最初は誰もが素人なのだから……という台詞は、指導できる玄人がいるから言えるのだ。
「とにかく、まずは一番厄介な可能性から想定してみるとしよう」
「えーと……実は騎士様じゃなくて王様本人だったとか?」
遠慮がちに小さく手を挙げて、アーニャが言った。
「なるほど。面白い想定だが、それは考えなくていい」
「え? なんで?」
「旧王国の王は死んでいるからな。ベイガンが直接討ち取っている。これは間違いない」
ベイガン本人が〝確実にトドメを刺した〟と言っているから、まず間違いない。彼の大剣の餌食になったとあっては、生き残っていると考える方が難しい。
そして、雑多な王族はともかく、一国の王であるならば、さすがにベイガンの記憶も確かなはずだし、たとえ変装していたとしても、兵士が誰一人気付かないとは思えない。
「じゃあ王子?」
ついで、ムルがウィルザードの顔色を窺う。
「そうだな、ムルの言う通り……王子辺りが現実的だな。旧王国がどういう体制だったかは分からないが、全ての王族が王城に集っていたとは思えない。当然、他国や山奥に逃げた王子や姫がいてもおかしくはない」
そうした貴人達が従者として騎士を連れていることは多い。
「あるいは王子本人でなくとも、使いの者という可能性もある」
たとえば、他国に保護された王子や姫が、なんらかの便宜や助力を求めて使者を送ってきたというのも考えられるところだ。
「でも、何しに来たの?」
「う、そうだよね。何しに来たんだろう?」
もし背後でどこかの国が糸を引いていたとしても、今アーニャと敵対する意味はない。
魔法開発の中心にいるのが〝創魔士ウィルザード〟であるというのは知れ渡っているし、国を乗っ取れば魔法技術の全てがついてくるなどという単純な話ではないのだ。
「そうだな……新体制でなんらかの地位を確保したいという辺りが現実的かな?」
「地位の確保……」
「仮にそうだった場合、どこまで許容するか考えておくことは重要だろうな」
「うーん……お城で働く文官さん、というのは駄目なのかな?」
旧王国の王子なら、政治に対する見識はいくらかあるはずである。ならば、文官としてそれなりの地位を与えるのは、悪い考えではない。
「いいと思うよ。もっとも、いきなり高い地位を与えるのは少し問題があるけどね」
「どうして?」
「派閥を作られる恐れがあるからさ」
旧王国の王族がいきなり大臣ともなれば、旧王国の住人であった獣人達に少なからず影響力を及ぼすだろう。
その求心力はアーニャによる政治体制の中にもう一つの巨大権力を作りかねない。
特に、政に関わる文官の手が足りない現時点で責任ある立場に据えてしまうと、彼の意のままに組織を組み立てられてしまうリスクがあるのだ。
「んー」
話を聞いたムルは、難しい顔で唸り声を漏らす。
「どうした、ムル?」
「元王子……なら、地位がなくても皆を纏めちゃうかも」
「あっ……なるほど!」
ムルの言葉に、アーニャが驚きの声を上げた。
その元王子が有能であれば、地位など関係なしに自然と他の未熟な文官を纏め上げるだろうし、無能でも元王子という肩書に何かを期待する者によって派閥ができるかもしれない。
そうなった時、ロウグリアの政治に良からぬ影響が出るのは避けられない。
「うーん……どうするのが正解なんだろ」
「正解なんてないさ」
悩むアーニャに、ウィルザードは気楽に言ってのける。
「言ってるだろう? 君がどこまで許容できるかが問題なんだ」
つまり、そこまで自分で考えろという話だと、アーニャは理解した。これは、アーニャの王としての仕事なのだ。
「んー……」
途端に分からなくなって悩むアーニャの横で、ムルは夕食を終えて〝ごちそうさま〟と手を合わせる。
ウィルザードを真似しているうちに習慣づいたものだが、小さなムルがやると、なかなか可愛らしい。
「デザートにリンゴがあるぞ」
「食べる」
ムルはモグモグとリンゴを齧りながら、唸るアーニャとウィルザードを交互に見やる。
「ウィルせんせだったらどうする?」
「うん? 僕かい? 答えてもいいんだが……今は邪魔しない方がいいな」
ウィルザードが何かを言うことでアーニャの判断に影響を与えてしまっては本末転倒だ。
……やがて、しばらく唸っていたアーニャは〝そうだ!〟と叫んでテーブルを叩く。
「こら、行儀が悪い」
「あ、ごめん」
アーニャはテーブルから手を下ろすと、仕切り直しとばかりに咳払いをひとつ。
「こほん……。決めたよ。もしロウグリアで働きたいという話だったら、テストすればいいんだよ」
「へえ? テストか。それで優秀な成績を出したらどうするんだい?」
「それならそれで、いいことだと思う。優秀な人をどう使うかっていうのは、たぶん王様の器というか、責任なんだろうし」
自信満々の発言に、ムルは称賛の声を上げ、ウィルザードも手を叩いて感心した。
「素晴らしい。それでこそ僕達の王だ」
「そ、そう? 合格?」
「ああ、文句なしの合格だとも。有能な者を否定してしまえばそれ自体が停滞だ。だから試験をするというのは正しい。無能な問題人物は手に負えないが、能力のある問題人物は使い方次第だからな」
もちろん、有能な問題人物はその有能さ故に大きな問題を起こすかもしれない。
しかし、それを恐れて最初から使わないのは、国にとっての不利益だ。
王が自分の周りをイエスマンだけで固めたがために滅びた国の話は、歴史を紐解けばいくらでも出てくる。
もちろん、有能すぎる部下を御しきれずに滅びた例も多いが……そこは為政者次第、というわけだ。
「よし! じゃあ、これで問題なしだね!」
「まだどういう試験を課すかという問題もあるけどな」
「うっ」
「まあ、そのくらいは僕も考えておこう。さあ、冷めてしまうから、早く夕飯を食べたまえ」
ウィルザードに促され、アーニャはようやく食事を再開した。
三人の食卓は今日も平和だった。
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