死んだ星の名前

松原塩

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 黒い木陰に立つ少年の姿を覚えている。
 太陽の下に出たこともないような真っ白な肌。手触りのよさそうな細くてさらさらの金髪をリボンでひとつに纏めていて、シャツとズボンから覗く手足が細い。水色の瞳は晴れた日の空より澄んでいる。あんなに綺麗な生き物は見たことがなくて、お姫様でなければ妖精か天使だと思った。
 孤児院に慰問の騎士団が訪れることはあったが、彼が一緒に来たのはその時が初めてだった。
 何度か喋ったことのある、立派な体格をした厳めしい騎士団長は、見たことがないほど綺麗なこの少年を守るのが仕事だと言う。
 自分もやりたい。だって、こんなにきれいでかわいいのだから、守ってあげないと、祭りで見た美しく頼りない飴細工みたいに、冬の日の水たまりに張る薄い氷みたいに、簡単に壊れてしまいそうだ。
 無性に心惹かれたその感情が、恋だったのかどうかは覚えていないが、はっきりとした恋になったのは割合すぐだった。
 あの水色の目と、目が合うだけでどきどきした。笑う顔を、シリウスと名を呼ぶ声を、胸の内で何度も何度も思い返した。いつか王になる日のためと様々な勉強に励む彼を尊敬したし、細い体で剣を握る姿が健気に見えた。王は王妃にしか興味がない、自分は王妃の息子だから愛されているように見えるが、本当に自分のことなど見ていない、俯いてそう口にする彼は寂しそうで、抱き締めて慰めてやりたいと思った。
 騎士になるための訓練の日々、忙しい合間を縫って会う彼は、美しい少女のようだった姿から、長身の美しい青年へと成長した。
 庇護欲を掻き立てられるような華奢な少年ではなくなったが、彼を守りたい気持ちは少しも変わらない。それどころか、日増しに想いは強くなるばかりだった。
 美しいアレクシス。俺のアレクシス。誰も彼の美しさに気付かないでほしい。誰も彼に触らないでほしい。
 芽を出した独占欲からは目を逸らし続けた。だって騎士になるのだ。
 いつの頃からか、彼が自分に向ける眼差しにも熱がこもるようになったのを知っている。
 二人だけの秘密を共有しているような、かすかな後ろめたさと、それさえも掻き消す甘美な心地だった。
 そうして積み重ねた宝物のような日々を胸に抱いて、いつか死ぬなら彼のために殉じようと決めた。忠実な騎士の捧げられる愛の形が、ほかにあるだろうか。
 けれどいざ死を目前にすると、瀕死のシリウスを背負うアレクシスが心配でたまらなかった。こんなに愛しいひとを、俺のかわいいひとを、今にも泣きだしてしまいそうなのに気丈に振る舞うこのひとを、放って死ぬなんて。
 戦場で、ハーヴィーが魔法で退路を確保した。異空間のような真っ暗な道で、その先は王城の魔法使い、ロロのもとに繋がっているという。道を保つためにハーヴィーは戦場に残る必要があるというので、シリウスはアレクシスと二人きりでその道を進んだ。
 ロロのもとに辿り着いた時には、自分が生きていたのか死んでいたのか定かではない。息も絶え絶えに取り乱すアレクシスが別室へ連れて行かれる音だけ聞こえていた。助けてくれ、シリウスが、シリウスが死んでしまう。そんなことをずっと叫んでいた。
 こんな別れは嫌だった。
 彼のそばに居たい。悲しませてしまった。守ると誓ったのに。まだ死にたくなんてない。守ってあげないと。俺のアレク。アレクシス。
 傍らで笑う気配がした。
「死が恐ろしいか」
 奇妙にざらついた声だった。
 死にたくない。俺のアレクシス。守らないと。泣いてしまう。
 声なんてもう出ていなかったはずだが、傍らに立つ何者かは少年の声で楽しげに笑った。
「でもお前はもう死んでしまうよ」
 いやだ。アレクシス。そばにいると誓った。守ると誓ったのに。
「死の淵に立ってなお、他人のことだけ考えているのか。面白いやつよなあ。人の体なら死んでしまうが、人の体を棄ててでも、“アレクシス”のそばに立ちたいか?」
 当然だった。どんな形でもいい。アレクシスが泣かなくて済むように、守ってあげなければいけない。
「良い」
 化け物がざらついた声で笑って、シリウスの全身に圧し潰されるような痛みが走る。肉も骨も内臓もまとめて潰されて、ひとつに握られるような感覚だった。
 そうして作り替えられた黒い肉の塊のような化け物の身体は、最初は満足に動かすこともできなかった。人間を化け物に作り替えたマスターの暴挙に真っ青になったロロが匿ってくれて、シリウスは日々人間に化ける練習をした。
 全く同じ姿になることはできない。正体がばれてはいけないから。自分の記憶を辿って、元の体と大体同じ体格になるように身体を作った。黒い化け物だから、髪も目も黒にするのが楽だったのでそうした。新しい名前はマスターに与えられた。
 もどかしい。早くアレクシスのもとへ帰りたいのに。
 噂に聞こえてくる王子殿下は、どうも健やかとは言い難い様子で、特に新しい護衛騎士を付けることを頑なに拒んでいるようだった。
 やはり早く戻らなければ。自分が守ってあげなければ。
 二年かけてようやく自由に扱えるようになった人間の体で、一年騎士の訓練に勤しんだ。
 再びアレクシスの護衛騎士の任に就いて。口付けを交わした。それ以上の触れ合いもした。人生を分かち合いたいとまで言ってくれた。幸せだった。
 それなのに、また悲しませてしまった。
 本当は、この身体を安定させる方法を、マスターから聞いていた。
 けれどそんな、アレクシスの人生を奪うようなまねはできない。彼はいつか王になるのだ。こんな化け物になった自分のために、彼を汚すことなんて許されない。
 第一、そうした時に自分がどれだけ理性を保っていられるのか、自分を信じられなかった。彼を求める飢えに似た渇望が、彼に取り返しのつかない傷を負わせてしまうかもしれないことが何より恐ろしかった。
 守るべき誰よりも大切なひとを自らの手で傷付けてしまうくらいなら、今度こそ終わりを迎えた方がいい。
 いつか再びの別れが訪れるのだと、覚悟していた。
 本当は誰にも渡したくない。誰も彼に触らないでほしい。彼の涙を拭うのは自分の役目であってほしい。けれどそんなことはもう叶わないのだ。初めから叶ってはいけなかったのだ。
 誰より大切な彼を、誰かが優しく慰めていてくれたらいい。
 黒い塊に戻った化け物は、ひっそりと思った。



 ノヴァは必ず自分のもとへ戻ってくると思ったから、失踪したなどと言って大事にならないように、休暇を取らせたという話にした。
 ノヴァは必ず戻ってくる。戻って来なければいけない。アレクシスには、また彼を失うことなど耐えられなかった。
 この五日間、思いつく限りの場所を探した。手始めに孤児院の近辺を捜索し、何の痕跡も見つからないことが分かると、ノヴァの部屋から、城の隅々まで見て回り、騎士の宿舎、訓練場、もう一度孤児院に赴き、更には夏に訪れた湖畔の別荘やシリウスの墓、ノヴァに関係のありそうな場所はくまなく探して回った。どこにもいない。
 食事が喉を通らず、身だしなみもそこそこに、青白い顔で昼も夜もなくあちこちを徘徊していたせいで、城の者には病気を疑われた。
 こんな有様ではいけない、ノヴァが帰って来たときに心配させてしまう。彼が居なくてもまともな生活を送らなければ。思いはすれども、仕事は手に付かず、夜も眠れない。瞼を閉じてうとうとしても、どろりと溶けるノヴァの顔が閃光のようによみがえり、動悸と共にはっと目が覚める。
 人間でも化け物でもなんでも構わないが、このまま二度と会えなかったらどうしよう。考えるだけで息が苦しくなって、真っ暗な地面の底に落ちていくような眩暈がした。
 城下にも足を伸ばして、路地裏まで歩き回ったが何の手掛かりもなく、今日もアレクシスはとぼとぼ城へと戻る。ノヴァの代わりについてくる騎士には、探し物があるとしか伝えていない。アレクシスの異様な雰囲気にのまれて、口出ししようにもできないらしかった。腫れ物扱いだ。
 城門を抜けて、庭園の前を通る。ふと足を止めて眺める秋薔薇はちょうど盛りで、春よりも甘い香りに満ちていた。枝葉が健やかに伸びている。足元には落ちた葉や花弁が散っていた。ここにも探しに来た。視界が歪んで軽い頭痛がして、顔を背けて城内へと向かう。
 廊下を歩いていると、向かいから歩いて来たロロが明らかにぎょっとした顔になった。アレクシスの後ろを歩く見慣れない騎士の顔を見て眉をひそめ、それからまたアレクシスに視線を戻す。
「殿下。ひどい顔色です。何か……、ありましたか」
 気遣わしげな少年を見て、少しだけほっとした。ノヴァの事情を誰にも話すことなどできず、この数日間一人で抱え込んで、ひどく憔悴していた。
 アレクシスはロロを連れて居室に戻った。代わりの騎士とはドアの前で別れて、カーテンが引かれたままの薄暗い部屋へ入る。
 ドアを閉じるなり、アレクシスは口を開いた。喉がひりついて、声が出しにくい。
「ノヴァがいなくなった。名前を、……呼ばれて」
 目を見開いたロロの顔から、みるみる血の気が失せて行く。
「よ、呼んで、しまったんですか」
「おれが呼んだのではないが……おれのせいだ」
 口にするだけで、呼吸が苦しくなって、目の前が滲む。こめかみが痛い。
「目の前で形が崩れて……そのまま、いなくなって、しまった。五日ほどずっと探しているが、見つからない」
 呼吸がうまくできず、切れ切れに吐き出した。痛ましいものを見る顔つきのロロが、一度ぐっと唇を引き結ぶ。
「……マスターが殿下とお話しできるように、お願いしてみます。マスターは気まぐれなので聞いてくれるかわかりませんが……ノヴァさんのことは気に入っていたようなので、きっと力になってくれるはずです」
 まずはノヴァを見付けなければと、それだけで頭がいっぱいになっていた。だが、シリウスを死の淵から引きずり出して、化け物としての生を与えたマスターなら、何か分かるかもしれない。ようやく一筋の希望が見えた気がした。ありがとう、と力なく礼を告げる。
「夜までには話をつけておくので、殿下はこちらで待っていてください。……できればそれまでに何か食べて、少しでも休まれたほうがよろしいんじゃないかと」
「わかった」
 年下の少年に身体を気遣われ、申し訳ないような気分で頷く。
 ロロが出て行ってすぐ、ベッドに倒れるように横になった。体がひどく重い。身を案じる声をかけられた手前心苦しいが、やはり少しも食欲などわかなかった。
 早く、早く見付けてやりたい。
 崩れた体は痛くないだろうか。苦しくないだろうか。どこでどうしているのか、心細くはないだろうか。
 起きているのか寝ているのかもわからないまま、虚ろな目で中空を見詰める。どれだけそうしていたのか、気付けばすっかり陽が沈んで、部屋は暗闇に包まれていた。
 窓のあたりから、小さな物音がした。ぐったり倒れたままそちらへ視線をやると、カーテンの下から部屋の闇より黒い何かが、どろどろと溢れてきている。
 それが崩れたノヴァの体にそっくりで、アレクシスは勢いよく体を起こした。
 黒い泥のようなものは見る間に嵩を増し、人間のような形に盛り上がった。異常な光景に身体が強張る。
「な、なんだ」
「ごあいさつだな。お前が私を望んだのだろ」
 ごぽごぽと水泡の爆ぜるような音が混じった声。笑い混じりの言葉に、ようやくそれが誰なのか理解した。
 ベッドから降りて胸に手を当て、頭を下げる。
「失礼した。ご来訪感謝する」
 ロロのマスターだ。てっきり以前のようにロロの体を借りて来るものと思っていたが、これが本来の姿なのだろうか。
「あの子の名を呼んで化け物に戻ってしまったのだって? 忠告してやったろうに」
「……迂闊だった。おれのせいだ。どうしたらノヴァは帰ってくる? お知恵を拝借したい」
「ひどい有様よ」
 ふ、と笑われた気配があって、確かに人に相対する格好ではなかったと、アレクシスは縺れた髪を手櫛で直した。
 ずる、マスターの足元が這うように蠢いて、アレクシスに近付いて来る。本能的にぞっとして、逃げたくなるのを理性で抑えた。
「ノヴァから聞いておらんか。なぜだろうな? あれはあんなにお前に執着していたのに。こんなにぼろぼろになって、哀れよな」
 ぐにゃりぐにゃりと、上体にあたる部分が左右に揺れる。やつれたアレクシスを観察しているような動きだった。
 望む答えが早く欲しいと気が急くが、ロロはマスターを気まぐれだと言っていた。機嫌を損ねてしまわないように、アレクシスは辛抱強く言葉を待つ。
「私のような化け物には心臓がない。ひとに成るためには心が要る」
「おれが死ねばいいのか?」
 反射的に返していた。
 シリウスに守られた命だ。彼のために使うことにためらいは無かった。
 マスターはおかしそうに笑う。笑った振動で、黒い体の表面にさざ波が走った。
「ああ、可哀想に! あれは“アレクシス”を守りたいとあんなに繰り返していたのに、お前は命を捨てる気でいる! 報われんなあ」
 ――あなたは、私が何をしても抵抗してくださらないから……。
 不意にノヴァの言葉がよみがえった。ノヴァはアレクシスを守りたいといつだって言っていたのに、当のアレクシスが自分を大事にしようとしないことに、苦しんでいた。これではマスターの方が余程ノヴァのことを理解している。胸に苦いものが広がった。
「だが、おれだって……、あいつのためなら何でもしてやりたい」
 本当にそう思っているのに、なぜだか言い訳をする子供になった気分だった。ぎゅっと手を握り締める。
「ふは。結構。心臓を食わせてやるのでも構わんが、心を分けてやれば良いだけだ。命を譲るより体を譲る方が易かろう。与えてやれ」
 心を分ける。理解が及ばず一瞬考えてしまったが、命を譲るのでなく体を譲ると言うのなら、おそらく示すところはひとつだろう。
 ノヴァはアレクシスがどれだけ迫ろうとも、最後の一線だけは越えようとしなかった。アレクシスの気持ちを受け取ることを拒みながら、自分の気持ちは受け取ってほしいなどと平気で言う。
 そのことを指しているのか。アレクシスを受け入れてくれれば、人間として過ごせたのなら、どうしてそんなに拒絶していたのか。
 アレクシスが王子だから。女と婚姻を結び、王として君臨するはずの人生の、邪魔をしてはいけないから。絵に描いたような輝かしい道だ。ノヴァはそれがアレクシスの幸せのためなのだと思い込んでいる。
 彼が居てくれなければ、アレクシスは幸せになんてなれないのに。身分の違いが、結果としてノヴァを殺してしまうのだ。
 いつの間にかアレクシスの眼前まで迫っていた軟体が、顔を覗き込むような仕草をする。
「化け物と交われるか?」
 マスターの姿は、本能的に忌避感を抱く。どこにも眼球が無いのに、どこからも見られているような寒気がした。ノヴァも似たような化け物だ。
 答えの分かり切った問いに、アレクシスは頷いた。
「それがノヴァであるなら、望むところだ。だが、ノヴァは今姿を消している。どこに居るのか……」
「居るだろう。花が咲いているあの庭に」
 あっさりと告げられた返事に動揺した。
「ばかな。おれは庭園だって探しに行って……」
 勢い込んで返すが、途中で言葉が消える。
 探しに行った――本当に?
 探しに行った。庭園の前に立ったのは覚えている。なのにどうしてか、中を探した記憶がない。
 あそこに行くと妙に頭がぼーっとして、外から見渡して何もないのだから、中に踏み込む必要は無いような気にさせられる。考えてみれば、庭師が手入れをしているはずの薔薇も伸びっぱなしで、散った花弁の清掃さえされていなかった。アレクシスだけではない。ほかの誰も、庭園に立ち入ることができていないのだ。
 混乱に口を閉ざしたアレクシスの眼前で、マスターの体が笑いに波打つ。
「化け物だと理解せよ。意識の操作をされたな。よほどお前に近付いてほしくないと見える。どれ、ロロの頼みだ、手助けしてやろう」
 言うが早いか、マスターの体から触手のようなものが突き出して、アレクシスの頭を撫でていった。どぷんと頭に直接音が聞こえて、猛烈な吐き気に襲われる。ひどい眩暈によろめいた。一瞬でしかなかったというのに体が勝手に恐怖を覚え、心臓がばくばくして手が震えて、冷や汗が滲む。
「これで影響は抑えられよう。まだ何かあるか?」
「いや……助かった。感謝する」
「今度は報われるとよいなあ」
 くつくつと笑うような声がして、マスターの体が人型からどぷんと崩れ、そのまま床に沈んで消えていった。



 強い薔薇の芳香がする。ひんやりとした風が吹き抜けて、葉擦れの音を立てた。月明かりの照らす中、アレクシスは庭園の小道へと踏み出した。
 進むほどに、体が抵抗を感じる。酩酊しているように視界が歪んで、ああ、ノヴァに拒否されているのだな、と思った。来ないでほしい。こんな姿を見ないでほしい。声が聞こえずとも伝わってくるその意思が、アレクシスの足を重くする。
 本当にいい加減にしてほしい。ノヴァが化け物だからと言って拒絶できる程度の想いなら、三年の間に彼のことなど忘れ去っている。ノヴァはアレクシスの気持ちをわかっていると言ったが、少しもわかってなどいないのだ。
 息苦しさで浅い呼吸を繰り返しながら、散った葉や花弁を踏みしだき前へと進む。月が明るいおかげで、夜間でも視界に困らない。左右を見回しながら歩いていくと、ようやくそれらしいものを見付けて、心臓が跳ねた。
 シリウスと初めて口づけを交わした、あの四阿だ。柱もテーブルも何も見えず、黒いどろりとしたものに覆われている。あれがまるごとノヴァなのか。視認した途端、風が凪ぐように抵抗感が収まった。
 思わず縋ってしまう場所がここであるというのは、かつてのアレクシスと同じだ。小さく笑って、ゆっくりと近付いた。
「……ノヴァ」
「来ないでください」
 聞こえた声にひどく動揺した。
 ノヴァではない。聞きなれた、ずっと聞きたいと思っていた、恋しい騎士の声。これはシリウスの声だ。妙なざらつきと歪みを感じるが、アレクシスが聞き間違えるはずがない。
 シリウス? ノヴァ? この数日で疲弊しきっていたアレクシスはどう呼んでいいのか混乱した。今となっては、どちらも愛した男の大切な名前には違いない。
「……ノヴァ。心配した。こんなところに居たのか」
 歩を進めれば、切羽詰まった悲鳴のような声が返ってくる。
「来ないで、来ないでください、だめです、だめだ!」
 あまりに悲痛な声の制止に、アレクシスの足が止まった。
「どうしてだ。帰ってきてくれ」
「見ればわかるでしょう、私はこんな化け物になってしまった」
「どんな姿だって構わない。おれはお前を」
「だめです!」
 愛している。言葉にする前に、強く遮られた。
「言ってはいけません、あなたのような尊いお方が、こんな、こんな化け物に成り下がった私なんかを」
 動揺が表れているのか、声の歪みがひどくなって、耳鳴りがする。
 顔も手足も無い、黒いどろりとした塊。どこから見ているのか、どこから声を出しているのかさえ不明だ。表面が波打って、震えるから、ようやくそれが生き物なのだと分かる。どうしたって人間には見えようもなかった。
 アレクシスは寂しげに笑う。
「たしかに化け物だ。おれがお前をこんな化け物にしてしまったのか」
 脈打つように、黒い軟体が震えた。顔が無くても、案外感情はわかるものだ。
 怯えている。自分は化け物だと、来るなと拒絶しながら、アレクシスに嫌悪されることを恐れている。
「ノヴァ。どんな姿でも、どんな名前でも構わない。愛している。もう二度とおれのそばから離れるな。お前にならなんだってやる、おれの心も魂も、はじめから全部お前のものだ。だからおれの下へ帰ってきてくれ」
 再び足を動かす。彼の黒い体はもう目の前だった。ゆっくりと手を伸ばす。
「触らないでください。自分では止められないんです」
 泣き声みたいだ。
 ノヴァの体に触れる。指先に、なめらかで濡れた感触がした。途端にその周辺が盛り上がって、アレクシスの体は一気に中へと引きずり込まれる。
 どぷん、と水の中に落ちたような感覚だった。水中とは違って呼吸はできるが、光が射さない。真っ暗で、何も見えなかった。
「……ノヴァ」
 心細くなって名前を呼ぶと、首筋に何か濡れたものが触れた。
 首筋だけではない。気付けば手足はやわらかい泥に突っ込んだように拘束されて身動きがとれなかった。痛むほど強く押さえつけられているわけではないのに。
「アレク」
 耳元で囁くような声が聞こえて、身震いした。何も見えないまま、身体をどうされるのか。にわかに湧き上がった不安は、耳になじんだ声に一瞬で掻き消される。
「構わない、好きに……、あ」
 首筋に触れていた触手のようなものが、襟元からぬるりと侵入する。シャツの裾からも腰を、腹をぬるぬると撫でるものが這い上がって、ボタンがぶちぶちと千切れた。
「ふっ、う、……ぅ……」
 まるで肌のすべてを味わうかのようにあちこちを撫でられて、くすぐったさに身をよじる。また別の触手が腰から侵入してズボンを引き下ろしながら、ふともも、ひざ、ふくらはぎまで舐めるように這っていった。
 無防備な格好にさせられて頬が熱くなる。しかし触手は、アレクシスの中心には触れることなく、ひたすら肌を撫でるばかりだった。
 首筋から背中、腹に脇、足の付け根から手足の指の股までぬるぬるしたものに擦られて、まるで全身を舐められているようだった。くすぐったいばかりだったそれが、次第に肌を熱くさせる。
 腿の内側を何度も擦り上げられると、ひどくいやらしいことをされている気がして、息が上がった。触れられてもいない自身が反応しはじめているのが恥ずかしい。
「はぁ、ん……、ぅ……、ノヴァ……」
 もどかしくなって名前を呼ぶと、かわいい、と耳元で声がする。その熱がこもった声にすらぞくぞくした。
 いつの間にか硬く芯をもっていた胸の飾りを撫でられたかと思うと、ぱくんと口に含まれたかのように、ぬめったものに包まれる。そんなところ触ったこともなかったのに、くにゅくにゅと揉むような刺激を受けて、次第にじんじんと熱を持ちだした。
「ン、あ、うぅ……っ、う、う……」
 触られているのは胸なのに、どうしてか下腹部がむずむずとしてたまらなくなってくる。
 いやだ、そんなところ触らないでほしい。恥ずかしい。本当ならそう言いたいのに、口にしてしまったら、急に正気に返ったノヴァが全てやめてしまいそうな気がした。嫌がるそぶりなんて見せられない。
「ノヴァ……、頼む……、んっ、さわって……」
 全身を愛撫され、すっかり硬く育ってしまった屹立に気付いていないはずがない。直接的な刺激が欲しくて無意識に腰が揺れる。
「かわいい……、アレク」
「あ、あ、あぁっ!」
 ぬめったものに自身を包まれて、思わず悲鳴を上げた。手で擦るのとは違う吸い付くような質感のものが、ぬちゅぬちゅとゆっくり擦っていく。待ちに待った快感に腰から下ががくがく震えた。
「あっ、ア、っふ……、いい……っ、きもちいいっ……!」
 俯いて目を瞑る。汗が滲む肌に、長い金髪が張り付いた。
「あ、あっ、あ……」
 肌を撫でるのも、胸の尖りを苛めるのも、ゆるゆると下を扱かれるのも、じわじわとアレクシスの性感を高めていく。頭がぼーっとして、体全部が舐め溶かされてしまいそうだった。
 アレクシスがひくひくと震えるたびに、かわいい、かわいいと囁く声が鼓膜まで犯す。達するには至らないもどかしい刺激を受け続けて、体からどんどん力が抜けた。
「あぅ、う……、はぁ、は……ン……、ぅ……」
 すっかり全身が脱力して、閉じることを忘れた口からは吐息と共に甘い嬌声がこぼれる。
 ふと気づくと、双丘の間をすりすりと擦られていて、どきりとした。
 知識としては知っている。男同士はそこを使って性交するのだ。ほかの誰も受け入れたことのないその場所を、ついに拓かれる。ずっとそうして、ノヴァと繋がりたかった。
 期待と緊張で体が強張るのを感じ取ったのか、性器を愛撫する触手に少しだけ力がこもり、扱く速さが上がった。
「あ、あ! ア、そんな、あ、あ……っ!」
 小さく悲鳴を上げる。優しく追い詰めるような動きで擦られて、快感で頭がいっぱいになる。そちらに気を取られた隙に、後孔に何か柔らかいものが侵入してきた。
 ぬるついたそれは痛みももたらさず、少しずつ中に入っては、押し広げるようにゆるゆると中の肉を押してくる。段々と中に入ってくる質量が増えて、奥へ奥へと這うような遅さで、内壁をくまなく舐められているようだった。
 自分でさえ知らない内側の感触を確かめられている。後ろからくちゅくちゅと濡れた音が聞こえて、とんでもない羞恥を感じた。こんなこと、ほかの相手だったら絶対に許さない。
 中を埋める圧迫感はいつの間にか増していて、もういい加減次の段階に進んでもいいはずだ。化け物の体で、人間と同じような性交をするのか分からないが、今されているのは繋がるための準備だというのは察せられた。
「はぁ、はッ、ノヴァ、早く……」
 早くしてくれないと、いつかのようにまた自分だけ先に達してしまう。じれったいほどの緩慢な動きに、つい求める言葉が口をついた。
 それでもまだしつこく後ろをほぐす動きをされて、もう一度早く、と言おうとした時だった。押された中の部分から突然強い快感が走って、一瞬目の前に火花が散って見えた。
「っ、あ……?」
 何が起こったのか分からないまま、自身の先端からとぷっと蜜が漏れる。
 その快楽の源を、見付けたとばかりに何度も押し込んだり、揉むように動かれて、その度にアレクシスの腰ががくがくと跳ねた。
「あっ、あ! あっ、なに、なんっ、ああぁっ! ノヴァ、ぁ、それ、へん、へんになるっ、ぅ、あ、んンっ」
 経験したことのない快感が怖くなる。抱き締めてほしい。キスしてほしい。愛する騎士であるならどんな形でも構わないと思っていたが、顔がないのは不便だった。
「はぁっ、あ、あぁっ、ノヴァ……、ノヴァ」
 不安を誤魔化すように首筋の触手へ頬を寄せると、なだめるように頬を撫でられる。アレクシスはその触手に口付けをして、舌を這わせた。濡れてつるつるとした感触のそれを夢中で舐めていると、後孔を埋めていたものが一気にずるりと抜けた。
「あっ!」
 抜けた時に気持ちのいい箇所を擦られて、高い声が出る。足を拘束していたものが動いて足を開かされ、恥ずかしい格好に耳まで赤くなった。
 アレクシスには何も見えていないが、きっとノヴァには全て見えているのだ。はしたなく足を開かされた格好も、濡れて火照って色付いた肌も、ぐずぐずに溶かされた表情も、全て。恥ずかしくて顔を隠したいのに、捕らわれた腕では許されない。まなじりに涙が滲む。
 後ろに、弾力があって硬いものが押し当てられた。先ほどまでの柔らかいものとは違う。これから起こることを予感して、呼吸を整えようと吐き出した息が震える。
「アレク。俺のアレク。――俺の」
 低い囁きに背筋が震えた。何にも遠慮せず、俺のものだと言われることが、嬉しくてたまらない。切っ先がぬぐ、と潜り込んだかと思うと、一息で奥まで貫かれる。
「っああぁっ!」
 背が反り返る。押し出されるように涙が溢れた。放出の快感で頭が真っ白になって、遅れて自分が射精したことに気付いた。
「あぁ、あ……、あっ、ノヴァ、っは、ああ、あぁっ!」
 絶頂に達したばかりのアレクシスなどお構いなしに、奥深くまで入り込んだものが抽挿を始める。
 狭く柔らかい肉の隘路を、硬い欲望が押し開く。濡れた音がするのが信じがたいほど卑猥で、信じがたいほど気持ちが良かった。
「あぅ、あっ、あ……」
 揺さぶられて視界がぶれる。口の端から唾液が零れるのを拭うこともできない。
 思っていた形とは違ったが、ずっとノヴァに抱いてほしいと、もっと深く繋がりたいと求めていたのだ。そう思えばなおさら快感が増すようで、後孔は勝手にうねって恋しい男を締め付ける。
「あっ、あ、んぅっ、うれしい……っ、ノヴァ……」
 気持ちが昂って、触手に何度も口付け、深いキスを真似るように舌で舐った。
「はぁっ、ア、あぁ、ずっとこうして欲しかった、あっ、ン! んんっ、うれし……、うれしいっ」
 喜びのままに伝えれば、中を抉る動きが激しくなって、痺れるような快感が脊髄から脳へと駆け上がる。
「アレク、かわいい、俺もずっと、こうやって、触りたかった……」
 切れ切れの声は興奮に上擦っていて、求めあっているのだと嬉しくなった。挿入する前から散々に高められていた体は、あっという間に限界を迎える。
「ああ、ぅ、ノヴァ、出るっ、あっ、また、またおれだけ……っ」
「いいよ、イって、アレク。かわいいところ、見せて。俺のかわいいアレク……」
「んっ、あっ! いっ、きもちい、いい! 出る、もう……、あ、んん、うぅーっ」
 絶頂を促すように、中のしこりを強く擦られる。眩むような快感に、強く目を瞑って、がくんと腰を跳ね上げて射精した。吐き出したものがぱたぱたと腹にかかる。
「はぅ、う……っ、ぅあっ!」
 アレクシスが達しても、ノヴァが律動をやめることはない。絶頂の余韻で後孔が勝手に食い締めるせいで、中で動くものの存在を余計に強く感じてしまう。
「あ、あっ……、ノヴァ……、あっ! ア、あぁっ!」
 前に二人の性器を擦り合わせた時には、アレクシスが達したら止まってくれたのに、今は欲望のままに突き上げられている。止まってほしい、せめて休ませてくれと体は訴えているのに、抗議の声も上げられない。理性なんか取り戻してほしくない。
 ノヴァがずっと隠そうとしていた中身に、劣情に直接触れているのだ。ひどく興奮した。
 手足を拘束されているせいで、強すぎる悦楽に細い腰だけがくねる。まるで尻を振って淫らに誘っているようだった。きっと見えていたら羞恥でどうにかなっていたから、アレクシスの目には見えないことだけが救いだった。
「っふ、ン、んあぁっ! きもひ、ぁ、あ! んぅ、あっ、あ、また……っ!」
 休む間もなく追い立てられて、体はたやすく絶頂に向かう。もう前に触られていないのに、後ろを犯される快感だけで達しそうになっていた。こんなに気持ちがいいことがあるなんて知らなかった。
「イきそう?」
「い……っ、い、くぅ、イく、イくっ! イく、ぅ……!」
 ぶるっと震えて、また精を吐き出す。全身に広がる気持ちよさに恍惚とした。何度も射精したせいで、すっかり精子は薄くなっていた。肩で息をする。汗と体液で全身が濡れそぼっていた。
 不意に、後ろを責めていたものの動きがゆっくりになる。やっと少し休めるのだと思ったアレクシスは安心して脱力し、ねっとりと掻き回され、ぬちぬちと引いてはまた押し入ってくる快感を堪能した。
「はぁ、ぁ……、ン……。う、ぅ……あぁ……」
 じわじわと染みるような快楽に、とろんとした目で甘い声を漏らしていると、胸の尖りを再び舐めしゃぶるように愛撫される。
「ん……、あ、あっ!?」
 そこで初めて、休ませる気などさらさら無いのだと気付いた。後ろを穿たれながら胸を触られると、回路が繋がったかのように、気持ちよさが倍増する。後ろを激しく穿たれるのとは違う、甘いけれど逃げられない快感が体を押し上げる。
「あ、あっ! おかし、い、これっ! あッ! あぁぁ! おかし、あっ、イく、イく、イ……ッ」
 視界が白くなる。体がびくびく跳ねて、気持ちがいいこと以外何も分からなかった。全身が気持ちいい。いつまでも快感の引かない体をまた強く揺さぶられて、強制的に意識が戻る。
 確かに達したのに、前からは何も出ていなかった。出ていなかったのに、射精した時よりも激しい絶頂感がなかなか引かない。
 体がおかしくなってしまった。恐ろしくなるのに、絶えず送り込まれてくる快感で恐怖感などすぐに塗りつぶされてしまう。
 気付けばノヴァは口数が減っていて、たまに譫言のようにアレクと名を呼ぶのが聞こえるだけになっていた。抽挿がどんどん早くなる。我を忘れてひたすらにアレクシスを貪っている。
 アレクシスはもう、許容を超えた悦楽をただただ受け取ることしかできない。きもちいい。好き。愛する男に身体をめちゃくちゃにされて、気持ちが良くなるだけの、快楽しか存在しない世界だった。
「アレク、アレク」
 切羽詰まった声が聞こえる。アレクシスは涙と唾液で汚れた顔で、ほとんど朦朧としながら、ゆるんだ笑顔を浮かべた。
「あっ、あ! すき、っん、はぁ、あっ! ノヴァ、すきだ、すき……」
 目の前にあった触手に、愛しさを込めてキスを繰り返す。中を抉っていたものが不意に膨らんで、ごぶりと中に何かを吐き出される感触がした。
「ああっ!? 出て、なかっ、あぅ、あっ、ア……、っはぁ、ア、んぅ……、ぅン、ん、あっ、あぁっ……」
 触手は動きを止めて、アレクシスの奥深くに何かをびゅっ、びゅーっと注ぎ込む。精液のようなものなのだろうか。わからない。人間の射精よりははるかに量が多くて、敏感な内壁にどぷどぷ注がれると目の前がチカチカした。意味のある言葉を喋ることもできず、注ぎ込まれる悦楽に耽溺する。
 また射精しない絶頂に達して、深く長いそれに意識が途切れた。

 ふっと気が付くと、手足の拘束は無くなっていた。しかし相変わらず何も見えなくて、まだ後ろに太いものが入っているのを感じた。
 人の形をした何かに跨って、向かい合って体を預けている。たくさん中に出されたものを掻き混ぜるように、ゆっくり腰を揺らされていた。
「あぁ、あ……、ン……」
 ゆるやかな刺激に小さく息を漏らす。だらしなく開いた唇から、寄りかかっている肩へと唾液が垂れてしまう。
「はぁ、ぁ、ノヴァ……」
 人の形はしているが、感触はやっぱり人ではない。背中に腕を回して縋り付くとぬるぬるしていた。そのぬるぬるした感触に胸の突起が擦れると気持ちが良い。アレクシスは無意識に甘えるように胸を擦り付けて、快感を追っていた。
「きもちいい……」
 浅い息を吐きながら体を揺らして、胸からも、下からも、とろけるような悦びを享受する。
 黙ったまま腰をゆらゆらと揺らしていた彼の体が、少し震えているような気がして、アレクシスは慰めるように背中をさする。
「どうした……? 怖いのか? ん……、かわいそうに」
 おそらく首であろう部分から、頬、口元と思われる部分まで、ちゅっ、ちゅっと口付ける。
「大丈夫だ、おれが、ついている……」
 もどかしいほどのゆるやかな刺激に焦れて、腰が勝手に揺れているのにも気付かず、なだめるように背中を撫でてやる。
「……ごめんなさい、アレクシス様……」
 声は抱き合っている人型から聞こえた。弱々しく呟く声が痛ましい。少し正気に戻ってしまったのかもしれない。
「謝らなくていい。っは、ん……、こんなに、きもちいい……」
 きゅうと中のものを締め付けて、存在を確かめるように腰を振る。中に出されたせいで、少し動くだけでにちゃ、ぬぷ、と音を立てた。
「あ……、ん……、きもちいい……」
 ノヴァを宥めるために動いたはずなのに、アレクシスの体の方が簡単に快楽を拾って、腰の動きが止まらなくなってしまう。熱に浮かされたようにぼんやりとして働かない頭は快楽に素直だった。気持ちがいいところに当てたくて、回すように腰をくねらせる。
「はぁ、ア、いい……、あ、ぁ……っ」
 またすぐに絶頂が見えてくる。快感だけを追って必死に動かしていた腰を、がしりと掴まれた。
「アレクシス様っ!」
 下から強く突き上げられて、目の前に星が飛ぶ。
「あっ! あっ! あぁッ! あぅ、ア、すごい、ああぁっ、きもちいい! イく、イく……っ」
 背中が仰け反って、足が宙を蹴った。陰茎からは何も出ず、ひくひくと震えるばかりだった。
 荒い息を吐き、背を反らしたまま快感に震えていると、後頭部を抱きこまれてまた人型と密着する形に戻される。
「ごめんなさい、アレクシス様、こんな、こんな化け物の私が……、ごめんなさい」
 湿った声でごめんなさいと繰り返しながら、たんたんと腰を突き上げられる。終わらない快感で身体が溶けて、彼と混じり合ってしまいそうな気がした。
 アレクシスは脱力して、だらりともたれながら微笑む。
「お前が化け物になったのは、おれのためだろう。おれのために化け物になったお前が愛しい」
 びくっと人型が震えたかと思うと、強く腰を押し付けられる。一番奥に切っ先が当たっている感触がして、どぷんと液体が溢れた。
「あっ、ぅ、んんっ……、ん……」
 甘い快感が脳を焼く。ぬるま湯に浸るような心地よさに揺られて、アレクシスは目を閉じた。
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