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姉妹で家が一緒だとはいえ、行き帰りはバラバラだ。有紗より早く部活の終わった私は、帰ってすぐお風呂に入り、お風呂から出た後、リビングで寛いでいた有紗に声を掛けた。
「あ、有紗。ご飯食べたらでいいから、私の部屋に来てよ」
「……なんで」
「話したい事があってさ。ほらお風呂入ってきなよ」
我ながら、平然を装いながら上手く言葉にできたと思う。
心臓はバックバクだし、お風呂から出た後で水か汗か分からないが、額から水が流れた。身体も熱いし、緊張し過ぎだろう。
「ふぅん、まあいいけど」
「うん、ありがとう」
「おねえちゃんが部屋に呼ぶなんて、びっくり」
そんな言葉を吐いた後、有紗は立ち上がり歩いて行った。
そんな風に逃げられてしまったので、言葉に困った私は何も返すことができなかった。
***
なんとなく気まずい夕食を終え、私は一足先に自分の部屋へと向かった。いつも食べるのは家族の中でも早い方だから、私が本気を出したらすぐに食べ終えれる。
母の言葉に適当に返し、階段を早足で登っていく。有紗は恐らくゆっくり食べる。嫌な事があると中々行動せずに後回しにしていく癖があるから、なんとなく分かる。
しかし、その性格に今少しだけ助けられている。
決意をして、有紗を誘ったのはいいが、肝心の言葉はほとんど考えていなかった。もしかしたら、さらに最悪のケースになってしまうかもしれない。そんな、嫌な想像。
少し目を瞑っていたら、コンコン、とドアからノックの音が聞こえた。有紗だろう。
時計の短針は八時を指しており、夕食を食べ終えたのが七時半だったので、少し眠っていたようだ。
ガチャリとドアの開く音がして、体を起こす。寝ていたせいで、どう話そうかは何も決まっていなかったが、話したい事は幾らでもある。
ドアを閉め切って、有紗が口を開く。
「話したかった事って?」
「有紗の気持ち。どうして私にあんな事をしてきたのか、私なりに考えてきたの」
「……そう」
有紗はそれから黙って目を伏せて、私の言葉を待っていた。
私は、意を決して、言葉を放った。
「私の事が、嫌いだったんでしょ」
「……え」
「だから、彼氏ができそうになっても、有紗はあんな事して引き止めたんでしょ」
「なに、言って……」
「だって、可笑しいじゃない、姉妹であんな事。そもそも同性でやる事自体、可笑しい事じゃない?」
「……」
有紗は黙って、それから強く唇を噛んでいた。私は続ける。
「有紗、なんで、なんであんな事。嫌な事があったら言ってくれれば、直すから」
「……」
「顔も見たくないなら、見せないから」
「…………」
「人を嫌いになるのは、仕方の無い事だから。好いてとは言わない。私ができる事は何でもするから」
「お姉ちゃん……」
有紗は黙り込む。
数分とも呼べるような、長い沈黙の時間ができた。
「何でもするの?」
「うん……あ、でもできる事だけね。死んで、とか言われたらお姉ちゃんできないかも」
「そっか、なら……」
有紗は言い淀んで、それから真っ直ぐこちらを見つめた。
「この関係を、これからも続けて」
「え……?」
「あ、有紗。ご飯食べたらでいいから、私の部屋に来てよ」
「……なんで」
「話したい事があってさ。ほらお風呂入ってきなよ」
我ながら、平然を装いながら上手く言葉にできたと思う。
心臓はバックバクだし、お風呂から出た後で水か汗か分からないが、額から水が流れた。身体も熱いし、緊張し過ぎだろう。
「ふぅん、まあいいけど」
「うん、ありがとう」
「おねえちゃんが部屋に呼ぶなんて、びっくり」
そんな言葉を吐いた後、有紗は立ち上がり歩いて行った。
そんな風に逃げられてしまったので、言葉に困った私は何も返すことができなかった。
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なんとなく気まずい夕食を終え、私は一足先に自分の部屋へと向かった。いつも食べるのは家族の中でも早い方だから、私が本気を出したらすぐに食べ終えれる。
母の言葉に適当に返し、階段を早足で登っていく。有紗は恐らくゆっくり食べる。嫌な事があると中々行動せずに後回しにしていく癖があるから、なんとなく分かる。
しかし、その性格に今少しだけ助けられている。
決意をして、有紗を誘ったのはいいが、肝心の言葉はほとんど考えていなかった。もしかしたら、さらに最悪のケースになってしまうかもしれない。そんな、嫌な想像。
少し目を瞑っていたら、コンコン、とドアからノックの音が聞こえた。有紗だろう。
時計の短針は八時を指しており、夕食を食べ終えたのが七時半だったので、少し眠っていたようだ。
ガチャリとドアの開く音がして、体を起こす。寝ていたせいで、どう話そうかは何も決まっていなかったが、話したい事は幾らでもある。
ドアを閉め切って、有紗が口を開く。
「話したかった事って?」
「有紗の気持ち。どうして私にあんな事をしてきたのか、私なりに考えてきたの」
「……そう」
有紗はそれから黙って目を伏せて、私の言葉を待っていた。
私は、意を決して、言葉を放った。
「私の事が、嫌いだったんでしょ」
「……え」
「だから、彼氏ができそうになっても、有紗はあんな事して引き止めたんでしょ」
「なに、言って……」
「だって、可笑しいじゃない、姉妹であんな事。そもそも同性でやる事自体、可笑しい事じゃない?」
「……」
有紗は黙って、それから強く唇を噛んでいた。私は続ける。
「有紗、なんで、なんであんな事。嫌な事があったら言ってくれれば、直すから」
「……」
「顔も見たくないなら、見せないから」
「…………」
「人を嫌いになるのは、仕方の無い事だから。好いてとは言わない。私ができる事は何でもするから」
「お姉ちゃん……」
有紗は黙り込む。
数分とも呼べるような、長い沈黙の時間ができた。
「何でもするの?」
「うん……あ、でもできる事だけね。死んで、とか言われたらお姉ちゃんできないかも」
「そっか、なら……」
有紗は言い淀んで、それから真っ直ぐこちらを見つめた。
「この関係を、これからも続けて」
「え……?」
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