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たいけつ!~悪役令嬢、決意の反撃

○14表_悪役令嬢は戦場へと向かった!

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 辺境伯領臨時キメラ生物研究所。
 イザラは、拘束された患者の前に立っていた。

 その患者は、異常なまでに脚の筋肉が発達していた。
 皮膚には、血管のようなものが、まるで植物の根のように、いびつに足から全身へと広がっている。

 拘束されたまま眠る患者に、薬剤を注射するイザラ。
 弛緩する患者。
 同時に、皮膚に広がっていた植物の根が引いていく。
 やがて、引いた先――大腿部が膨れ上がり、
 まるで果実が腐り落ちるように、「神の種」が、地に落ちて、砂のように崩れた。

 静かに、目を覚ます患者。
 ご気分の悪いところはありませんか、と、問いかけるイザラ。
 患者は自らの身体を見て――イザラに、泣きながら礼を言った。

 ついに、解毒剤が完成した!

 解けた緊張に、崩れそうになるイザラ。

 長かった。
 ここまで、本当に長かった。

 初めてこの仮設研究所にやってきたあの日。
 タイタスに気絶させられたオバラ司祭とノグラ教諭を放置し、取り敢えずサンプルの寄生生物を確認しようとしたその時。
 またしても、「声」が響いた。

 ―――――――――――――――――――――――――
 【キメラ生物】
 錬金術師ナイアが生み出した「生物」。
 近づくと寄生してくる危険な生物だが、実は解毒剤で殺せる。
 通常のルートでは、ナイアの裏切りを恐れたイザラが保険として作っている。
 資料はイザラの部屋にあるため、断罪後の家宅捜索で解毒剤も入手できる。
 一方、イザラヒロインルートでは、イザラ様に作ってもらうことになる。
 作成のヒントは辺境伯領の修道院にある資料で……
 ―――――――――――――――――――――――――

 初めてまっとうに役に立ちそうな「声」を聴いたイザラは、すぐ行動に移した。
 タイタスに頼んで辺境伯領の修道院へ案内してもらい、戦時中の資料の閲覧を修道院長へ依頼したのである。

 辺境伯領の修道院長は、マザー・マギアの言う通り、しっかりとした人物だった。
 護衛を引き連れたイザラに対しても、物怖じせず書庫へ案内してくれた。
 資料は整理されておらず、雑然としていたが、何人かシスターを貸してくれた。

 ――構いませんよ、いずれは整理しなければなりませんでしたので。

 そう言って笑う修道院長は、どこか、マザー・マギアと似ていた。

 イザラはその笑顔に応えるべく、夜遅くまで修道院へ通い、資料を読み込んでは、仮設研究所に戻り、

 ――おお、お嬢様! フン! セインツ流忍術!
   お帰りなさいませ! フン! キメラ摘出の術!

 実験して、また資料を読みに修道院へ戻り、

 ――あア、イザラ様! この実験の残りは私にお任せくださイ!
   うふふ、好き勝手にキメラをいじらせてくれる国家権力……

 めぼしい資料をみつけては、また仮設研究所に戻り。

 ――おお、お嬢様! ご覧ください!
   我がセインツ流忍術で!
   この通りキメラを破壊し……!
 ――あア! 患者まで壊しテ、どうするんでス!?

 実権の途中で発生した負傷者を治療し、

 ――うふふううウ! イザラ様! 我が錬金術の成果ヲ――
 ――おい! 患者まで溶けているではないか!

 治療し、

 ……

 たった数日の事なのに、なぜこんなに長く感じるのだろうか。

「すまない」

 いつの間にか、隣に立っていたタイタスに謝られた。
 どうも心の中が伝わったらしい。

「いえ、ノグラ教諭やオバラ司祭はその、ちょっと極端な行動がありましたが、決して、邪魔ばかりだったわけではなく、手伝っていただいたこともありますし、非常し、いえ、突飛な行動が、解毒剤開発のヒントになったこともありますから」
「無理しなくてもいい。俺たちもあの二人を何とかしようと思ったのだが、どれだけ拘束しても、なぜか毎回抜け出してな」

 すさまじくイライラした目で、足元に転がるオバラ司祭とノグラ教諭を見つめるタイタス。せっかくの実験が失敗してはかなわぬと、試作品を前に興奮する二人を黙らせた結果だ。

「とにかくも、今は休んでほしい。
 ラバンには、俺の方から連絡しておく。
 ああ、それと――」

 完成、おめでとう。

 イザラへ、不器用な笑みを向けた。


 # # # #


「いやはや、まさかこんなに短期間でできるとはね。
 文献の保存状態がよかったのと、イザラ嬢の腕と、タイタスの被害者の保護状態がよかったせいだな」

 翌日。再び辺境伯領主。
 訪ねてきたラバンは軽い口調で、しかし真剣な目でイザラの作った薬を見ていた。

「開発の経過はレポートで読ませてもらった。
 危険生物44号――ああ、王宮で決めた『神の種』の正式名称だが、これに対しては即効性があり、ごく少量でも打ち込んでから数秒で効果が出る。副作用として、被害者の筋肉の縮小が見られる……が、これは薬というより危険生物44号が筋肉組織を侵していた影響だろう。動物実験でも問題はなかったようだし、欠点は原料が高価なことぐらいかな?」
「いえ、ラバン様。被害者の中には、寄生が進んでしまって、44号を殺してしまうと、身体を維持できない方もいらっしゃいます。効果の調整が課題になりそうです」
「なるほど。効果が強すぎる、か。では、希釈して44号を徐々に体外へ追い出す形がよさそうだな。希釈するための媒体が問題だが、ここは――」

 議論を始めるイザラとラバン。
 が、途中でタイタスが遮った。

「悪いが、そういう話は研究室で頼む。今は、これからどうするかが問題だ」
「そうだったね。では、私の方から報告だ。
 ナイアが見つかった」

 単刀直入に告げるラバン。
 目を見開くイザラに、タイタスは剣を引き寄せながら答えた。

「そうか、では、捕縛に向かう」
「まあ、待て、タイタス。
 気持ちは分かるが、見つかった場所が問題でね。
 なんと隣国の王宮だ」

 無言で話を促すタイタス。
 ラバンは、イザラが研究している間の出来事を話し始めた。

「私がイザラ嬢を手伝わず何をしていたかというと、まあ、メビウスと一緒に教会のごみ掃除をしていたわけだが、これが実はすぐに終わってね。
 大司教様の協力をいいことに、怒れる第二王子様が次々と修道院を襲撃……おっと、監査した上に、フラネイルの金で懐柔したりしたものだから、今までの教会系貴族はすっかり大人しくなってしまったよ。
 代わりにクラウスから連絡が入ったのだが――」

 が、途中で気遣うようにイザラへ目を向ける。
 イザラはただ静かに返した。

「お気遣いは不要です。クラウス様は、なんと?」
「失礼。続けよう。
 クラウスは、予言された隣国との戦争を避けるため、王命で隣国の姫君と見合いに行っていてね。隣国の姫君はクラウスと同じ触手生物愛好家で、見合いの段階からお互いに気に入った様だったのだが。それを聞いた陛下が、クラウスの新しい婚約者になるのならばと、改めて調査させたらしいんだ」
「それで、ナイアの名前が出たわけか」
「タイタス。その通りなのだが、他に突っ込むべきところがあるだろう?」

 触手生物愛好家だったのですね、クラウス様。
 何がどうなったらお見合いの席で触手生物の話になるのですか、クラウス様。
 ああ、私は貴方のことを何も理解していませんでしたわ、クラウス様。

 タイタスに代わり、心の中で突っ込むイザラ。
 が、そのタイタスは慣れたのか諦めたのか、あくまで冷静に話を進める。

「ナイアが王宮に入り込める程の信頼を勝ち得ているのなら面倒だ。
 クラウスからその姫君に危険性を伝えられないのか?」
「下手にこの一件を伝えると、肝心のナイアが逃げそうだから、クラウスは気づかぬふりをしているらしい。ただ、クラウスも様子見だけをしているわけではなくてね。
 時にイザラ嬢、隣国の姫君は、君にとても興味を持っているらしい」

「え? 私に、ですか?」

「ああ。もう一度、ナイアやクラウスと相対する覚悟はあるかな?」


 # # # #


 数日後、イザラは隣国ハイボリアを訪れていた。
 馬車の中から隣国特有の美しい王宮を眺めながら、しかし、頭の中は、ラバンから告げられた「作戦」でいっぱいだった。

 ――さて、イザラ嬢。
 もうすぐ、クラウスがホトス姫と二回目の見合いを行うことになっている。
 普通ならクラウス一人でホトス姫と会うことになるわけだが、そこにこちらから人数を送り込みたい。そこで、君の出番だ。ホトス姫へのサプライズとして、クラウスから、君と君の現婚約者を紹介してもらおうと考えている。もちろん、君の現婚約者というのは、こちらから送り込む人員のことで、タイタスが担当する。
 というわけで、タイタス、死ぬ気でイザラ嬢を護って、ついでにナイアのしっぽを掴んで来てくれたまえ。

「大丈夫か?」

 タイタスから声がかかる。
 婚約者としての正装を身に着けているが、所々不自然な膨らみは、服の下で武装しているせいだろう。

「護衛は任せてくれればいい。
 俺はラバンのように気の利いたことは言えんが……」

 言葉を探している様子だったが、結局、思いつかず黙り込んでしまう。
 だが、そんな不器用なやさしさが、むしろイザラの緊張を溶かした。
 ようやく、貴族らしい落ち着きある笑みを浮かべるイザラ。

「いえ、お気持ちだけで十分です」
「イザラ様! ここで甘やかしてはいけません! もっとはっきりと、相手がタイタス様では婚約者としての役割をこなせるか不安です、くらい言わねば!」

 そんなイザラに声をかけてきたのは、いつぞやの女騎士。
 今は使用人兼護衛に扮している。

 きっと、この女騎士も、イザラに気を使っているのだろう。
 イザラは弛緩した空気に応じるように、女騎士に答えた。

「そんなことはないわ。
 貴女も、タイタス様がラバン様のように話し始めたら困るでしょう?」
「なるほど。それはおぞましいですね。
 この剣にかけて討ち取らねばならなくなります!」
「……どうやら、問題ないようだな。王城に入るぞ」

 困ったように肩をすくめながら、馬車を下りるタイタス。
 それに、イザラも続く。
 が、すぐにタイタスがイザラを押しとどめた。

「タイタス様?」
「悪い。様子がおかしい」

 謝罪と警戒の言葉も短く、雰囲気を変えたタイタス。
 鋭い視線で周囲を見渡した後、女騎士へ目を向ける。
 女騎士は小さくうなずくと、イザラの後ろについた。

「私が後ろを護衛します。
 ご心配なく、指一本触れさせませんので」
「え、ええ、ありがとう」

 言われてから、細かい違和感に気づく。
 来賓が来たというのに、王宮から衛兵ひとり出てこない。
 サプライズ、とはいっても、いくら何でもこれはおかしい。
 それに何より、どこかひりついたような空気を感じる。
 タイタスが、女騎士へ声をかけた。

「イザラを馬車に乗せて逃がすのは?」
「難しいでしょう。
 敵の手が帰路まで伸びている可能性を否定できません。また、この馬車も籠城戦は考慮していませんので、この場で立てこもるのも危険かと」
「そうか。イザラ、すまないが着いて来てくれ」

 前に出るタイタス。
 イザラも後に続く。

 王宮は異様な静けさに満ちていた。
 その中を、タイタスはよどみなく歩く。
 どうやら、クラウスが見合いをしている部屋へ向かっているようだ。
 海が近いのか、少しづく強くなっていく潮の香を感じながら、どこか薄暗い廊下を進み、目的の扉の前へ。
 目くばせするタイタスに、女騎士とともにうなずくイザラ。

 タイタスはタイミングを計るように室内を伺い――
 勢い良く、扉を開いた!

 開いた扉から、「ナニか」がぶつかったような鈍い音が響く!

「っ! タイタスか!」

 クラウスの怒号が響き、

「っ!」

 同時に、タイタスの剣が、閃いた。
 何者かが倒れる音。
 目を向けると、異常なまでに筋肉が発達した、兵士が倒れていた。
 もう、イザラは見慣れてしまった、寄生生物に侵された、被害者――

「! お待ちください!」

 駆け寄ろうとするイザラを、女騎士が押しとどめる。
 タイタスが軽く室内を見渡し、こちらへ視線を向けるのを待ってから、手を放す女騎士。
 イザラはそっと、被害者へと歩み寄った。

(大丈夫、侵食は、そこまで進んでいない……!)

 手早く鞄から薬を取り出し、被害者へ打ち込む。
 万一を想定して持ってきたものだ。
 神の種、いや、危険生物44号が、その場で崩れ落ちた。

「その薬は――そうか、完成していたんだな」

 クラウスの声が響く。
 それに重ねるように、タイタスが問いかけた。

「何があった?」
「その者は姫の護衛だ。
 お見合いの最中に、急に襲ってきた。
 今、私が分かるのはそれだけだが……」
「きっとナイアの仕業ヨ! アイツったラ、『クラウス王子のために最も美しい触手生物を用意します』とか言っテ――!」

 クラウスの答えを遮ったのは、橙の民族衣装を身にまとった少女。
 イザラは面識はないが、おそらく、ホトス姫だろう。

 そこへ、部屋の奥から嘲笑が、響いた。

「素晴らしイ!
 過去の封印された知識を解き明かすとハ!
 流石はイザラ様!」

「っ! ナイア!」

 その名を叫んだのは誰だっただろうか。
 奥から、ナイアがイザラを見つめていた。
 その視線を遮るように、タイタスが剣を構える。

「危険生物44号に対する特効薬はもう完成した。
 お前は、研究者としても敗北した……おとなしく投降しろ」
「いいエ! タイタスさマ! まだ敗北ではありませン!
 なぜなラ! 私にハ! 改良を加えタ!
 私の優秀な作品達がいるのですかラ!」

 ナイアの後ろから、異常に筋肉が発達した兵士二人と、その二人に拘束された、海色のドレスの少女。
 少女は意識がないのか、ぐったりとしたまま身動きしない。

「トトス!? トトスを放しなさイ!」

 声を上げるホトス姫。
 トトス――確か、隣国の王子の名だったはずだ。
 イザラは面識がなかったため分からなかったが、海色のドレスの少女は、どうやら少女ではなく王子だったらしい。
 しかし、ナイアは弟の身を案じる姉をあざけるように答える。

「イイですよ?
 ただし、イザラさマ、貴女の持つ特効薬と引き換えでス」

 タイタスが、イザラへ視線を向ける。
 イザラはうなずくと、薬のサンプルを取り出した。

「トトス王子をそちらの椅子に座らせた後、離れてください。
 私は、この薬をそちらの机に置きます」
「いいでしょウ」

 特効薬を机の上に置き、離れるイザラ。
 ナイアも兵士に命じてトトスを椅子に座らせ、離れる。

 トトスに駆け寄るホトスとクラウス。
 ナイアは、サンプルを手に声を上げた。

「やはり素晴らしイ!
 私が見つけた文献でモ、寄生生物に対抗する解毒薬の存在は示唆されていましタ!
 過去の戦争では、生物兵器と制御用の解毒薬は対となるものだったのでス!
 ですガ、私は生物兵器を再現するだけで精一杯デ、解毒薬まで手が回らなかっタ!
 だかラ、私は待ったのでス!
 貴女ガ、私の作品に対する特効薬を開発してくれるのヲ!」

 バルコニーへと走るナイア。
 追いかけるタイタス。
 だが、それを兵士が遮る。

「この薬を解析すれバ!
 神の種に特効薬への耐性を与えることができまス!
 これで私の狩人ゴ号はいよるくんは完全体に近づク!
 私の作品の完成に協力してくれテ、ドウモありがとウ!
 お礼ハ、そのトトス王子に施した改良型はいよるくんで結構でス!」

 その言葉を最後に、部屋の奥へと消えていくナイア。
 兵士を切り捨てたタイタスが、後を追う。
 イザラも続こうとしたところで、トトスがうめき声をあげた。

「トトス!」

 声を上げるクラウス。
 が、トトスにその声が届くことはなく、肉体の変容が始まる。

「っ! イザラ! 特効薬を!」

 クラウスの必死の叫びで、イザラは残った特効薬を慌てて取り出し、

「ま、まって、くださイ……」

 トトス王子から声がかかった。

「トトス、大丈夫だ。今、この特効薬で――」
「違う、のでス……クラウス様!
 この寄生生物ハ、私の身体ヲ、女性に変えるものでス!
 一緒に改良したのデ、間違いありませン……!」
「トトス、君は……」
「ボ、僕ハ、どうしてモ、アナタニ……だかラ……」
「なら、尚のこと、ナイアなどの手など借りるべきではない」

 トトスを抱きしめるクラウス。

「私は男女問わず愛せるタイプだ!」

 涙を流すトトス。
 歓喜の声を上げるホトス。

 えっと、どうしましょう。

 感動の光景を前に、困るイザラ。

 しかしそこへ、タイタスが戻ってきた。

「タイタス様! ご無事ですか?」
「ああ、ナイアには逃げられたが、な」

 忌々しそうに納刀するタイタス。
 だが、すぐに女騎士へ向き直る。

「包囲網を敷く。隣国の生き残った兵士にも、連絡を入れてくれ」
「承知しました」
「急いでくれ。
 ヤツがイザラの薬を解析して、キメラを強化するまでに捉えねばならん」

 が、それを遮るように、イザラは声を引き絞った。

「あ、あのっ!」
「ああ、すまない。イザラをどこか落ち着けるところへ――」
「いえ! そうではないのですっ!
 その、ナイアに渡したのは、解毒薬ではなく、ただの麻酔薬なのです!
 症状が進んでしまった方がいた場合のために、用意していたもので!」

 目を見開くタイタス。
 が、すぐに優しい笑みを浮かべた。

「そうか。本当に――いや、よくやってくれた。
 後は、こちらに任せてくれ」

 それはまるで危機は去ったと告げるようで。
 急激に緊張を失ったイザラは、倒れそうになり、
 それをタイタスが優しく支え、

 そんなイザラの背中を、何者かが突っついた。
 振り返ると、

(^_^)/ こんにちハ

 そんな文字を書く、触手生物が、いた。

 悲鳴を上げなかったのは、せめてもの公爵令嬢としての意地だろうか。
 緊張を取り戻したイザラ、慌ててタイタスから離れる。

(*^▽^*) 私、ホトス姫とトトス姫にお仕えしていまス、ヨグちゃんと申します。
( `・∀・´)ノ 今後とモヨロシク!

「え、ええ、よろしくお願いします?」

 とりあえず、挨拶を交わすイザラ。

<(`^´)> 本当なら私があのナイアを排除したかったのですガ!
(><) トトス王子を人質に取らレ、動けませんでしタ!
m(__)m まことに申し訳ありませン!

「い、いえ、人質がいたらなら、仕方がないと思いますわ?」

(^_^)v ありがとうございまス!
('ω')ノ 重ねてのお願いになりますガ!
(._.) トトス王子への治療は少し待っていただき!
(>_<) もう少シ、あの三人だけにして貰っても良いでしょうカ?

 クラウスたちの方へ触手を向けるヨグちゃん。
 イザラ、困惑しながらも答えた。

「え、ええ。44号が治療が難しくなるほど全身まで侵食するのは、時間がかかるから構いませんが……」

(^^) ありがとうございまス!
(*‘∀‘) それでハ! 護衛の方ト! 向こうでお待ちくださイ!

 今度は奥の部屋へ触手を向けるヨグちゃん。
 イザラ、どうすべきかわからず、タイタスの方へ目を向ける。

「分かった、俺とイザラは向こうで待たせてもらう」

 何か悟った顔で、イザラを奥の部屋へエスコートするタイタス。
 女騎士が、駆け寄ってきて尋ねた。

「よろしいのですか? クラウス様の護衛は?」
「いらぬだろう、ヤツは触手生物愛好家だからな。
 それに、二回目だ」
「二回目、ですか?」
「ああ、二回目だ」

 何か悟ったような顔をした女騎士、

「では、イザラ様。
 タイタス様を、よろしくお願いいたします」

 そう言い残して、去っていった。
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