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たいけつ!~悪役令嬢、決意の反撃

○13表_悪役令嬢は逃げ出した!

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「シスター・イザベラ、どうしましたか?」
「いえ、少し寒気が」
「風邪ですか? いけませんね。今日は早く休みなさい」

 アーティアが標的を定めたその時。
 イザラは修道院長マギアの部屋を訪ねていた。
 なぜか猛烈に嫌な予感を覚えたが、なんとか首を振って追い払う。

「先日、ラバン様から手紙をいただきまして。
 マザー・マギアにご連絡が入っている、と」

 お祭りに行く前に、ラバンへ出した手紙。
 その返答には、官吏は教会が派遣したものだとあった。
 ナイアが未だ教会と通じていている可能性がある、教会の一組織である修道院も危険かもしれない、とも。
 そして、手紙の末尾には、こうなった時のために、マギア修道院長には話を別に連絡を入れておいたから、彼女と相談してほしい、とも書かれていた。

「ええ、確かに連絡を受けています。
 ですが、その前に、タイタス様の従者の方より、別に手紙を受け取りました」

 封が解かれた手紙を差し出される。
 失礼します、と断って、イザラは手紙を読み始めた。

――マギア修道院長様

 時間がないので、ご挨拶を省かせていただくことをお許しください。
 主命により、中央の教会へメイドに扮して聖女様にお仕えしていたところ、聖女様宛に手紙が届きました。
 内容を確認したところ、イザラ様の所在を聖女様に告げる内容のようです。つきましては、事前の打ち合わせ通り、イザラ様の身の安全の確保をお願いいたします。
 なお、この手紙は破棄するようお願いいたします。

 T領 騎士A

 どうやらアーティアがイザラを探し回っているらしい。
 目の前が真っ暗になりそうになったが、どうにかマギアへ手紙を返すイザラ。
 マギアは手紙を受け取ると、それを暖炉へ放り込みながら続けた。

「事前の打ち合わせ、というのは、貴女をこの修道院へ受け入れた際に、公爵家やラバン様、タイタス様から有事の際は貴女を逃がすように、と依頼されていた件です。
 オバラ司祭――は、今はいませんので、私が代わりに、貴女をタイタス辺境伯領まで馬車で逃がす手筈となっています。
 ただ、それは貴女自身が望めば、という条件が付きます。
 タイタス辺境伯領へ行けば、貴女はもうシスター・イザベラではなく、イザラ公爵令嬢となるでしょう。そして、貴女は、公爵令嬢として、教会や聖女様と向き合うこととなります」

 マギアはそこまで言うと、イザラに目を合わせた。

「シスター・イザベラ。ひとつ申し上げておきます。
 中央の教会は、聖女様が個人的に貴女と会いたがっているからといって、わざわざ全国の教会や領主へ捜査依頼を出す程、お人好しな組織ではありません。
 貴女を探し出す理由が、きっと他にもあるはずです。
 それが何か、私のような末端の者には分りませんが、これほどまでに大規模な捜査を行うということは、相応に大きな事情があるのでしょう。そうした事情に巻き込まれた者の末路は――貴女の方が詳しいでしょうから省きます。
 ただ、貴女がどのような道を選んでも、私たちは、貴女の幸せを願っています。
 その上で、もう一度お聞きしますが――」

 貴女は、公爵令嬢に戻ることを望みますか?

 その問いかけに、イザベは、はっきりとうなずいた。


 # # # #


 その日の夜。
 イザラは、マギアとともに馬車に揺られていた。
 相当なスピードで走っているのだろう、揺れが激しい。
 しかし、イザラの顔色が悪いのは、決して馬車の揺れだけではなかった。
 これから、ブルネットも派閥も、未来の知識もない状態で、聖女や教会、錬金術師と、公爵令嬢として向き合わなければならない。
 自分に、できるだろうか。
 かつて一度、失敗しているというのに。
 馬車が揺れるたび、そんな不安がよぎる。

「シスター・イザベラ。大丈夫ですか?」
「は、はい! お気遣い、ありがとうございます!」

 そんなイザラに、マギアから声がかかった。
 イザラを落ち着かせるように、話を続ける。

「いいですか、シスター・イザベラ。
 タイタス辺境領は、過去の戦争で聖女と悪魔が戦ったという記録があり、この地方の聖女信仰の聖地とでもいえる場所になっています。
 その地にある修道院も、政争に明け暮れる中央とは距離を置き、我々と同じ宗派を修めた方が修道院長を勤めています。信用できる方ですし、話は通しておきましたから、いざとなれば、辺境伯領の修道院を頼りなさい」
「あ、ありがとうございます」
「お礼は結構です。
 それより、立ち向かうと決めたのなら、もう少ししっかりなさい。
 悪意を持った者への最大の武器は、強い意志です。
 来るべき未来が来たというだけで、目の前を暗くするようでは困りますよ」
「それは……申し訳ありません」

 選択肢は、すでに選んでしまった。
 修道院に残って、身分を偽り続けるよりも、イザラの幸せを願う修道院のシスターたち――ローザやリサ、マギアのために、立ち向かう道を選んだのだ。
 だって、イザラも、ローザたちの幸せを願う事ができたのだから。
 イザラは軽く息をついて自分を落ち着けると、頭を下げた。

「いえ、過ちを認められるだけでも、貴女は十分に強い人です。
 それよりも、伝えておく事があります。
 辺境伯領では、タイタス様が貴女を直接、匿うそうです。
 私はその理由までは聞かされていませんが、どうやら、ある錬金術士が人間を狂暴化させる恐ろしい毒を作り出したとのことです。タイタス様が言うには、貴女ならば、その毒の解毒も可能ではないか、とのことです。
 先程、申し上げた辺境伯領の修道院には、戦時中に開発されたという薬物の資料も残っているかもしれません。
 貴女ほどの知識なら、きっと、役立てることができるでしょう。
 また、道中でその毒に侵された兵士が襲ってくる可能性があると――」

 が、マギアの言葉を遮るように馬車が大きく跳ねる!
 目の前で、御者が、赤い線を引いて崩れ落ちた!

「! ここにいなさい!」

 鋭い声を上げると、御者の席へと走るマギア!
 手綱を引いたのだろう、急停止した馬車を慣性が襲い、

「イザベラ! 出なさいっ!」

 イザラは、馬車の外へと、放り出された!

 転がりながらもなんとか体制を整える。
 視界に飛び込んできた先には、イザラとマギアと馬車を囲むように広がる、異様に筋肉が発達した男――否、怪物達。

 同時に、修道院に送られてから、久しく聞かなかった「声」が聞こえた。

 ―――――――――――――――――――――――――
 【雑魚モンスター】
  錬金術師ナイアが生み出した「生物」が寄生する「元人間」。
  設定はアレだが、実際の戦闘シーンではただのザコ。
  脳筋らしく突っ込んできたところを、返り討ちにしてやろう
 ―――――――――――――――――――――――――

「イザベラ! 大丈夫ですかっ!」

 マギアの鋭い声が、イザラを現実に引き戻す。
 同時、マギアは、見覚えのある薬ビンを取り出した。
 オバラ司祭が、イザラに危険が迫った時のためにと用意していたものだ。
 ビンから出せば、あっという間に気化して、容易に人ひとりを昏倒させる。

 その薬を、マギアは、怪物の真ん中に投げつけた!
 次々と倒れて行く怪物たち!
 だが、ガスから逃れた数匹が、マギアに向かって殺到した!

「イザベラ。馬は乗れますね? 先に逃げなさい」
「ですが、マザーはっ!」
「シスター・イザベラ!
 正直なところ、私は貴女を修道院で受け入れる時、少し戸惑いました。
 王族に追われている貴族を受け入れるせいで、どれだけ周囲の方々や修道院のシスター達が危険にさらされるか、分かりませんでしたから。ですが、どのような方にも幸せをという教義に背かぬよう、戸惑いを押し止めたのです。
 だから、貴女は幸せになりなさい。
 そして願わくば、修道院で学んだ教義を忘れず、誰かの幸せを願えることができるようになりなさい。
 ただ流されるまま生きるのではなく、立ち向かうと決めたのなら、尚のことです」

 一歩、マギアが怪物の方へと進む。

「マザー・マギアッ!」

 叫ぶイザベラ。

「ほら、早く。このままでは、二人とも共倒れですよ?」

 しかし、返ってきたのは、いつもと同じ声で。

 怪物たちは、容赦なくマギアに襲い掛かり、

 次いで、横から飛んできたモーニングスターに、吹き飛ばされた!

 モーニングスターを投げたのは、どこからともなく現れたシスター!

「お嬢様に手を出すとは! 許さんぞ貴様らぁ!」

 そのシスターは、妙に野太い声を上げると、どこからか取り出した防毒マスクをかぶり、未だ気化した毒の漂う怪物の中へと飛び込んだ!
 脅威と見たのか、次々とシスターに襲い掛かる怪物たち!
 が、シスターはモーニングスターを素早く拾い上げると、怪力で振り回し、容赦なく怪物を叩き潰していく!

 イザラが唖然としているうちに、怪物たちは死屍累々!

 だが、シスターの方もただでは済まない!

 修道服は破れ、パンプアップした筋肉のぞいている!

 が、シスターは、両手を天に向けると、妙に高い声で、勝利の雄たけびを上げた!

 同時、筋肉で弾き飛ばされる修道服!
 頭のベールは滑り落ち、防ガスマスクだけが残される!

 なんということだろう!
 シスターは、変態全裸仮面へとクラスチェンジしてしまった。

「あの、マザー・マギア?
 あの方は、もしかして、オバ――」
「いいから早く逃げなさい。
 アレは、私が何とかしておきます」

 あくまでいつも通りの落ち着いた声のまま、ロザリオを取り出すと、静かに祈り始めるマギア。
 イザベラは深く深く頭を下げると、今度こそ辺境伯領へと逃げだした。

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