攻略wiki付悪役令嬢が頑張って栄光の一歩を踏み出すまでの軌跡

すらなりとな

文字の大きさ
上 下
26 / 45
がくえん・裏!~なぜ悪役令嬢はバッドエンドに至ったのか

●09裏-4_攻略対象その1は証拠を隠滅した!

しおりを挟む

 宿屋の一階は、予想通り荒れ果てていた。
 ラバンは顔をしかめながら、周囲を見渡し、

「ひっ……!」

 カウンターの奥に隠れるようにうずくまる、受付嬢を見つけた。

「君、大丈夫かね?」
「は、ははは、はい!? だ、大丈夫、大丈夫です!?」
「あまり大丈夫ではないようだね。
 この飴を舐めるといい。ハーブ入りだ。精神を落ち着ける効果がある」

 言われるまま、素直に口へ飴を放り込む受付嬢。
 面識のほとんどない相手を差し出しされたものを警戒するという基本すら忘れているのだろう。
 ラバンは受付嬢が落ち着くのを待ってから、問いかけた。

「ところで――この村に教会はあるかな?」


 # # # #


 リヴァンク村にある、唯一の教会。
 フラネイルとナイアのやり取りが正しければ、「神の種」はここを拠点に売り出されたはずだ。
 軽くセバスチャンに目配せしてから、そっと協会の扉を開く。
 
「――こうして埋め込まれた神の種は!
 土の人形の中で育ち、その実は心臓に、張り巡らされた根は血管となりマシタ!
 まさに、この神の種は、諸君ら人間の生命力でアリマス!」

 聖堂の中心に立つのは、声を張り上げるナイア。
 隣には、神の種が市場の果物のように積み上げられている。
 そのひとつを手に取るナイア。

「先程、劇場で配る菓子がごとく、神の説法の間にお召し上がり頂いたこの種!
 これこそが! まさしく! 神話の中に登場する果実ナノデス!」

 ナイアの手に取った種から、根が、いや、触手が吹き出した。
 グロテスクな触手の塊うごめくそれを、聴衆に放り投げる。
 だが、聴衆からの悲鳴はない。
 ただ、地響きのようなうめき声が響き、

 身体を破裂させた。

 どこにでもいそうな農夫が、平凡な作業着の男が、村娘が、まるで風船のように膨らんだかと思うと、真っ赤な血を撒き散らしながら弾け飛んだのである。
 後に残ったのは、血まみれの触手。
 だが、その触手も、数秒ほどのたうつと力尽きた様に動かなくなった。

「フム。これだけいて、適合したのはひとりデスカ」

 肉と血の海の中心から、ナイアの声が響く。
 視線の先には、うずくまる男。
 その身体は、破裂した村人たちと違い、筋肉だけが異様に膨張している。

「これがキミの研究の成果かね、ナイア」

 凄惨な光景を、ラバンの声が、冷たく遮る。

「その通りデス」

 ナイアのあざ笑う声が、応えた。

「ワタクシは、この神の種――いや、面倒な呼び方はやめまショウ!
 気づいているであろう貴方には、この寄生生物、狩人ゴ号、ペットネームはいよるくんの名をお教えシマス!
 このはいよるくんハ!
 種子状の卵を飲み込んだ人間の身体中に触手を張り巡らせ、筋肉を増強させた上で脳を支配するトイウ、素晴らしい性能を持ってイマス! 命令にも非常に従順! この特殊な笛を使えば、ご覧の通りデス!」

 構えた横笛が、不調和音のような音を奏でる。
 うずくまっていた男が、まるで糸で吊られた人形の様に立ち上がった。
 だが、不自然な動きもそこまで。
 男は異様な筋肉を誇示するように両腕を広げると、雄叫びを上げた。

「この暑苦しい中、こんな暑苦しい筋肉の塊を作って、何をする気かね、ナイア?」

 あくまで冷静な声を浴びせかけるラバン。
 対するナイアも、嘲る声を続けた。

「おや、分かりマセンカ? 貴方ともあろう方ガ?
 では、お教えシマショウ!
 戦力として売り出すためでス!
 今まで以上の力を持っタ、何でも言うことを聞く兵士ハ!
 治安維持かラ犯罪、戦争まデ!
 様々な役な立つでしょウ!
 ……などというのはおまけデ!
 ワタクシの作った技術ガ!
 圧倒的な暴力デ!
 蹂躙する景色を見てみたいのデス!」
「何かと思えば愉快犯かね? 狂人の発想は理解しかねるな!」
「そうですカ?
 心の中で気に入らない人間を殴り、おとしめ、罵倒した事くらいあるでショウ?
 上手くいかぬ現実の中で、何もかも上手く行く幻想を抱いた事もあるでショウ?
 誰もが『蹂躙する願望』を隠し持ってイル!
 ワタクシは! ただ望み願うだけではなく!
 実現しようとしているだけなのデス!」
「実現するなら誰にも迷惑がかからないところでやりたまえ!
 少なくとも、私を巻き込むんじゃ――っ!」

 ナイアの嘲る声へ言い返す間もなく、男が殴りかかってきた。
 大きく飛び退いて、サーベルを引き抜くラバン。
 しかし、男は再び雄叫びを上げると、そのまま突っ込んできた。
 完全に理性を失っているのだろう。
 迫る筋肉の塊を寸でのところでかわし、すれ違いざまに斬りつける。
 肉を断つ手応え。
 だが、返り血はない。
 見ると、小さくうごめく触手が傷口を再生していた。

「どうでス? 素晴らしいでショウ! ワタクシの与えた力は!」

 ナイアの嘲笑するかのような声。
 それに答える様に、叫ぶ男。
 やはり、理性は感じられない。
 だが、苦痛も見られない。
 むしろ、快楽が混じっている様に思えた。
 まるで、ナイアの言う「蹂躙する願望」が叶ったかのように。

「おや、貴方も楽しいのデスカ?
 サスガ、適合するだけのコトハアル!
 では早速、力を振るうノデス!」

 耳障りな不調和音が煌めく。
 ラバンはサーベルを確かめながら、相手を見据える。
 もし、この剣で対処できなければ――撤退だろう。
 狂人が嬉しそうに語った情報を、国に持ち帰らなくてはならない。

「セバスチャン、悪いが念のため脱出経路を――」
「……与えられた……これは……偽物……冒涜……」
「セバスチャン?」

 が、せっかく方針を決めたというのに、付き人から返ってきたのは、なにやらぶつぶつとつぶやく声。
 戸惑いを向けようとするも、目の前には筋肉の怪物が迫っている。
 やむを得ない。
 ラバンはサーベルを構え、

「ドーピングなど許さんぞ貴様ぁぁぁああああ!」

 同時、セバスチャンが男に組み付いた!
 猛烈な勢いで突っ込んできた肉の塊を、そのまま受け止める!

「ナント!」「馬鹿な!」

 ラバンとナイアの声が重なった!
 が、セバスチャンはこの程度で終わらない!

「ふぅんならばぁっ!」

 気合とともに、筋肉がパンプアップ!

 弾け飛ぶ衣服!
 滑り落ちるズラ!

 一瞬にしてパンツ一丁ムキムキハゲマッチョにクラスチェンジしたセバスチャンは、あろう事か怪物と化した男を投げ飛ばした!

 教会の床を破壊しながら、地面に叩きつけられる怪物!
 床に下ろしていたバックパックから巨大なハンマーを取り出すセバスチャン!

 おいおい、そんなもの調査に必要ないだろう?
 というか、よくバックパックが破けなかったな!?

 ラバンの心の声をよそに、セバスは超重量を容赦なく振り下ろした!

 轟音!

 古びた教会に撒き散らされた血と肉を吹き飛ばすように、砂埃が舞い散る!

 後に残ったのは、ハンマーの下敷きになって動かなくなった怪物と、マッスルポーズを決めるハゲマッチョ!

「良質なプロテインとっ!
 厳しいトレーニングを乗り越える魂があればっ!!
 ドーピングなどっ!!
 不要っ!!!」

 いや、それはおかしいだろう、セバスチャン!?
 医学を志す者としては異議しかないぞ、セバスチャン!?
 というか、君、さようでございます以外も喋れたのかね?

 疑問渦巻くラバン。
 だが、疑問程度で済まないものが、この場にはいた。

「うわぁァアアあああアア?!」

 ナイアである。
 あまりにもあんまりな光景に、頭を抱えて叫んでいる。

 それはまあ、努力の結晶たる研究成果が、知性とは程遠い黒パンツ一丁のハゲマッチョに粉砕されたら発狂もしよう。
 いや、コイツは元々狂っていたか。
 一周まわって常識人になってくれないだろうか。
 ならないだろうな。
 なったところで罪状が消える訳でもない。

 ラバンは哀れみながらも、サーベルの峰(みね)をナイアに振り下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...