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第2章 美しい人
第6話
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数日前から降り続いていた雨は今朝もまだ止んでいなくて、少しだけ寝過ごしてしまった。
身体を起こすと、ずっと部屋に控えていたらしいマリーが桶を持ってこちらへ歩いてきた。
「おはようございます、殿下」
「うん、おはよう、マリー」
また下がりそうになる瞼を擦って、桶の水を顔にかける。
柔らかいタオルで顔を拭く。
頭がすっきりした。
ふう、と一息つくと、マリーがタオルを受け取った。
「殿下、国王陛下と王妃陛下がお呼びだそうです」
国王?セルヴィ様は私をよく呼ぶからわかるけれど、なぜあの男が私を呼びつけるのだろうか。
起きたばかりで回らない頭で考える。
『これはまだ秘密なんだけど、もうすぐ貴方が王族だと正式に認められるわ。もちろん、王族の姓も名乗れるようになるの』
数日前のセルヴィ様の言葉が頭に響いた。
そうだ、たしかにセルヴィ様はそう言っていた。
だったらもしかしたらこの呼び出しは、それに関することなのかもしれない。
「わかったわ、有難うマリー」
すぐに立ち上がって着替えを始めた。
✻ ✻ ✻ ✻ ✻
「ご機嫌麗しゅう、両陛下。遅くなってしまい、申し訳ございません」
急いで準備してきたものの、如何せん起床時間が遅かったため、かなり遅くなってしまった。
2人がいつ私に呼び出しを命じたのか分からないけれど、かなり待たせてしまった気がする。
まあ、部屋に入ったら2人は楽しげに談笑していて、私が来ないほうがよかったんじゃないかと思ったくらいだけど。
その間、やはりずっとセルヴィ様は扇子を口元に翳していた。
セルヴィ様が国王と口元を隠さず話しているのを見たことがない。
私とは、時々扇子を持たず話してくださるけれど。
「ご機嫌よう、アグネス。どうぞ座って」
また以前のようにセルヴィ様に促され、2人の座っているソファの机を挟んだ反対側のソファに腰掛ける。
私が座ると国王は緩慢な動作で足を組み替え、気怠そうに口を開いた。
「今回お前の婚姻に伴って、お前が王族だと承認することになった」
やっぱり、その話だった。
一気に口が渇いて、唾をごくりと飲み込む。
クラッサ王国の法で王族に関することのひとつに、こんな項目がある。
クラッサ王国法 第10条 第37項 国王の婚外子を王族に承認する場合、国王・王妃、又 王位継承権第一位の者の同意を要する。
つまりここにいる国王、セルヴィ様はもちろん、ルークも私が王族の一員になることを認めてくれたのだ。
ルークは私に興味がないから、私が王族になろうとならなかろうとどちらでも構わないだろう。
きっと、国王と王妃に頼まれて承認したに過ぎない。
それでも、嬉しかった。
彼に、私を妹だと認めてもらえた気がしたから。
今度会ったら、ルークにお礼を言わなければ。
「アイザイン家は、公爵家なのもあってスリアナ皇国皇族と親睦が深い。当然皇族は、アイザイン卿の婚姻を重要視している。この婚姻は和平協定のようなものだ。故にお前の母親の姓のまま結婚すると意味がなくなる。お前がクラッサ王国の王女であることが重要だ」
淡々と語っている最中も私のことは一瞥もせず、ずっとセルヴィ様を見つめている。
目の前の男が心底私に興味がないのだと思い知らされると同時に、本当にセルヴィ様に惚れ込んでいるのだということを再認識させられる。
国王はセルヴィ様の手に重ねた自身の手を見ながら、長い溜め息をついた。
「あの女の娘であるお前が王族になるなど心底不快で仕方ないが、セルヴィの頼みだからな。仕方ない」
あの女?
その言葉に、思わず目を見開いた。
この男は、私の母を覚えているのか。
ちょっと遊んだ大勢の女のうちの一人。
顔も覚えていないだろうと思っていたのに。
まさか母が、この男の記憶に残っているなんて。
母は一体、何をしたのだろう。
国王の言い方からして、大層この男の気に障ることをしたんだろう。
だけど、そんなの山ほどあるだろうから見当がつかない。
でも些細なことなら、あの男の記憶の彼方に追いやられていることだろう。
この、他人に全く興味のない人間が覚えているくらい、癪に障ること。
なんだろう…。
視界がぐるぐると回っているような、妙な感覚がする。
思考がまとまらない。
目眩までしているようで、気持ちが悪い。
まるで、なにか考えてはいけないことを考えているような、そんな気さえしてくる。
身体が、思考することを拒否しているみたいだ。
その時、ぺちり、と軽く肌のぶつかる音がした。
はっとして顔を上げると、どうやらセルヴィ様が重なっていた国王の手を軽く叩いた音のようだった。
セルヴィ様は扇子を口に当てたまま、首を横に振った。
「アルバト様、アグネスの母君をそんな風に言うのはやめてください」
「ああ、すまない。許してくれセルヴィ」
国王は先程までの冷たい表情を消して、セルヴィ様以外の人間には決して向けることがないであろう、慈しみ深い優しげな表情でセルヴィ様の頭を撫でた。
「もちろんですわ。もう二度と、あのようなことを仰らないと約束してくださるのなら」
「もちろんだ。もう言わない」
「アルバト様はお優しいですわね」
セルヴィ様は目を細めて、国王の頭を撫で返した。
その光景に、ぴくりと瞼が動く。
なんだろう。何か、得体の知れない違和感を感じた。
なんだか、頭の中がすっきりしない。
気分が晴れない。
そんな靄を感じていると、セルヴィ様が唐突に扇子を閉じて机に置き、ぱっと立ち上がって短く息を吐いた。
そうして身を乗り出して、ぎゅっと私の両手を握りしめた。
「大変な役目だけど、どうか頑張ってね。あなたの幸せを祈ってるわ。そしてこの婚姻で、かつての両国の因縁を払拭できることも」
因縁…。
この婚姻が決まってから、なるべく考えないようにしていたこと。
スリアナ皇国と、このクラッサ王国は敵国同士だ。
だけど、私はなぜ両国が敵対関係にあるのかを知らない。
昔、蔵書室に通って本を読み漁っていた時、歴史書は全て読破した。
けれど、それだけはどうしても分からなかった。
クラッサ王国はもともと弱小国で、大国になったのは当代の国王が即位してからだ。
つまり、ほんの30数年前。
それ以前は、どこの国とも友好関係でも敵対関係でもなく、味方も敵もいなかった。
他国の誰も気にかけない、魅力のない国。
そんなクラッサ王国が敵を作り始めたのは、大国になり始めた頃。
要するにおよそ30年の間に、クラッサとの関係が悪くなったということだ。
そしてその原因は、歴史書に書かれていない。
それはきっと、クラッサにとって都合の悪いことだ。
閣下のあの憎しみのこもった目が、脳裏をよぎった。
もしかしたら彼の憎しみの理由も、そのことと関係があるのかもしれない。
もしそうだったら………。
────私には、どうすることもできない。
身体を起こすと、ずっと部屋に控えていたらしいマリーが桶を持ってこちらへ歩いてきた。
「おはようございます、殿下」
「うん、おはよう、マリー」
また下がりそうになる瞼を擦って、桶の水を顔にかける。
柔らかいタオルで顔を拭く。
頭がすっきりした。
ふう、と一息つくと、マリーがタオルを受け取った。
「殿下、国王陛下と王妃陛下がお呼びだそうです」
国王?セルヴィ様は私をよく呼ぶからわかるけれど、なぜあの男が私を呼びつけるのだろうか。
起きたばかりで回らない頭で考える。
『これはまだ秘密なんだけど、もうすぐ貴方が王族だと正式に認められるわ。もちろん、王族の姓も名乗れるようになるの』
数日前のセルヴィ様の言葉が頭に響いた。
そうだ、たしかにセルヴィ様はそう言っていた。
だったらもしかしたらこの呼び出しは、それに関することなのかもしれない。
「わかったわ、有難うマリー」
すぐに立ち上がって着替えを始めた。
✻ ✻ ✻ ✻ ✻
「ご機嫌麗しゅう、両陛下。遅くなってしまい、申し訳ございません」
急いで準備してきたものの、如何せん起床時間が遅かったため、かなり遅くなってしまった。
2人がいつ私に呼び出しを命じたのか分からないけれど、かなり待たせてしまった気がする。
まあ、部屋に入ったら2人は楽しげに談笑していて、私が来ないほうがよかったんじゃないかと思ったくらいだけど。
その間、やはりずっとセルヴィ様は扇子を口元に翳していた。
セルヴィ様が国王と口元を隠さず話しているのを見たことがない。
私とは、時々扇子を持たず話してくださるけれど。
「ご機嫌よう、アグネス。どうぞ座って」
また以前のようにセルヴィ様に促され、2人の座っているソファの机を挟んだ反対側のソファに腰掛ける。
私が座ると国王は緩慢な動作で足を組み替え、気怠そうに口を開いた。
「今回お前の婚姻に伴って、お前が王族だと承認することになった」
やっぱり、その話だった。
一気に口が渇いて、唾をごくりと飲み込む。
クラッサ王国の法で王族に関することのひとつに、こんな項目がある。
クラッサ王国法 第10条 第37項 国王の婚外子を王族に承認する場合、国王・王妃、又 王位継承権第一位の者の同意を要する。
つまりここにいる国王、セルヴィ様はもちろん、ルークも私が王族の一員になることを認めてくれたのだ。
ルークは私に興味がないから、私が王族になろうとならなかろうとどちらでも構わないだろう。
きっと、国王と王妃に頼まれて承認したに過ぎない。
それでも、嬉しかった。
彼に、私を妹だと認めてもらえた気がしたから。
今度会ったら、ルークにお礼を言わなければ。
「アイザイン家は、公爵家なのもあってスリアナ皇国皇族と親睦が深い。当然皇族は、アイザイン卿の婚姻を重要視している。この婚姻は和平協定のようなものだ。故にお前の母親の姓のまま結婚すると意味がなくなる。お前がクラッサ王国の王女であることが重要だ」
淡々と語っている最中も私のことは一瞥もせず、ずっとセルヴィ様を見つめている。
目の前の男が心底私に興味がないのだと思い知らされると同時に、本当にセルヴィ様に惚れ込んでいるのだということを再認識させられる。
国王はセルヴィ様の手に重ねた自身の手を見ながら、長い溜め息をついた。
「あの女の娘であるお前が王族になるなど心底不快で仕方ないが、セルヴィの頼みだからな。仕方ない」
あの女?
その言葉に、思わず目を見開いた。
この男は、私の母を覚えているのか。
ちょっと遊んだ大勢の女のうちの一人。
顔も覚えていないだろうと思っていたのに。
まさか母が、この男の記憶に残っているなんて。
母は一体、何をしたのだろう。
国王の言い方からして、大層この男の気に障ることをしたんだろう。
だけど、そんなの山ほどあるだろうから見当がつかない。
でも些細なことなら、あの男の記憶の彼方に追いやられていることだろう。
この、他人に全く興味のない人間が覚えているくらい、癪に障ること。
なんだろう…。
視界がぐるぐると回っているような、妙な感覚がする。
思考がまとまらない。
目眩までしているようで、気持ちが悪い。
まるで、なにか考えてはいけないことを考えているような、そんな気さえしてくる。
身体が、思考することを拒否しているみたいだ。
その時、ぺちり、と軽く肌のぶつかる音がした。
はっとして顔を上げると、どうやらセルヴィ様が重なっていた国王の手を軽く叩いた音のようだった。
セルヴィ様は扇子を口に当てたまま、首を横に振った。
「アルバト様、アグネスの母君をそんな風に言うのはやめてください」
「ああ、すまない。許してくれセルヴィ」
国王は先程までの冷たい表情を消して、セルヴィ様以外の人間には決して向けることがないであろう、慈しみ深い優しげな表情でセルヴィ様の頭を撫でた。
「もちろんですわ。もう二度と、あのようなことを仰らないと約束してくださるのなら」
「もちろんだ。もう言わない」
「アルバト様はお優しいですわね」
セルヴィ様は目を細めて、国王の頭を撫で返した。
その光景に、ぴくりと瞼が動く。
なんだろう。何か、得体の知れない違和感を感じた。
なんだか、頭の中がすっきりしない。
気分が晴れない。
そんな靄を感じていると、セルヴィ様が唐突に扇子を閉じて机に置き、ぱっと立ち上がって短く息を吐いた。
そうして身を乗り出して、ぎゅっと私の両手を握りしめた。
「大変な役目だけど、どうか頑張ってね。あなたの幸せを祈ってるわ。そしてこの婚姻で、かつての両国の因縁を払拭できることも」
因縁…。
この婚姻が決まってから、なるべく考えないようにしていたこと。
スリアナ皇国と、このクラッサ王国は敵国同士だ。
だけど、私はなぜ両国が敵対関係にあるのかを知らない。
昔、蔵書室に通って本を読み漁っていた時、歴史書は全て読破した。
けれど、それだけはどうしても分からなかった。
クラッサ王国はもともと弱小国で、大国になったのは当代の国王が即位してからだ。
つまり、ほんの30数年前。
それ以前は、どこの国とも友好関係でも敵対関係でもなく、味方も敵もいなかった。
他国の誰も気にかけない、魅力のない国。
そんなクラッサ王国が敵を作り始めたのは、大国になり始めた頃。
要するにおよそ30年の間に、クラッサとの関係が悪くなったということだ。
そしてその原因は、歴史書に書かれていない。
それはきっと、クラッサにとって都合の悪いことだ。
閣下のあの憎しみのこもった目が、脳裏をよぎった。
もしかしたら彼の憎しみの理由も、そのことと関係があるのかもしれない。
もしそうだったら………。
────私には、どうすることもできない。
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