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第二十八話
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それでは心許ないと、マルヴィナは首にしがみつく。
開脚されたままの足の間に男根があてがわれると、ゆっくりと挿入される。
「いっ……」
「大丈夫?」
「平気……です」
「ベッドでやり直す?」
マルヴィナは苦笑して首を振った。
今更そんなことを言われても、困るだけだ。
ずるっと入るものの、怒張した男根は、隘路の最奥には到達せず、途中で止まる。
マルヴィナも痛みを堪えていたし、レナードにしがみつくばかりでそれ以上は何も考えられなかった。
「きついな、マルヴィナ。これ以上は、今日は無理だ」
「ごめんなさい」
「痛いかい?」
「はい……でも、その……レナードを感じて、幸せです」
マルヴィナは思わず言うと、自分でも赤面してしまいレナードを見ていられなかった。
膣内でぴくんと動いたり、熱がダイレクトに伝わってきたり、それはレナードそのもののようで、心が満ちたのだ。
その想いを言わずにはいられず言ったのだが、まるで煽ったかのようにも聞こえてしまうと後から気が付き、訂正しようと口を開いた。
瞬間、ゆっくりとした抽送が始まってしまう。
「待っ……あっ……んっ……あっ……」
「マルヴィナ。私は我慢していたといったのに。そんなこと言われたら我慢出来ないだろう?」
「だけど……んっ……やっあ……」
マルヴィナは痛みと共にジワジワと隘路が広がると、次第に快楽が押し寄せ始める。
レナードも性急な動きではなく、ゆっくりと動き、まるでマルヴィナのことを確かめるように丁寧に抜き差しをする。
いやらしく喘いでしまうと、マルヴィナの理性は吹き飛びレナードにしがみつくしかない。
「……レナードッ!」
「マルヴィナ、もっと力を抜いてごらん」
「出来ない、これが精一杯」
「でも、こっちも……うっ……」
レナードも切ない吐息を漏らし始め、ゆっくりだった抽送が次第に早くなり、マルヴィナを揺さぶる。
マルヴィナは痛みと快楽の両方が押し寄せ、もはら何も考えられず次第に意識は朦朧とし、快楽の坩堝に飲まれそうになる。
ぞくぞくとするような感覚が背を這うと、マルヴィナは一気に頂きを昇り詰めてしまい、レナードの名前を呼んだ。
「レナード、レナード!」
きゅっと絞まった膣に反応して、咥え込まれた男根は我慢出来ずに爆ぜてしまう。
「うっ……マルヴィナ」
「あっ……あっ……あぁ!」
腹の中で感じるの熱い白濁に、マルヴィナは戸惑いながらも喜びを感じていた。
レナードとひとつになったような、大切な人になれたような、そんな感じがしたのだ。
今までそんな喜びは感じたことは一度もなく、しばらくは戸惑い放心状態だった。
「ごめん。マルヴィナ。堪えきれなかった」
「ううん」
照れたようにマルヴィナが首を振るとすぐにキスの嵐に変わる。
「待って、もうダメよ。レナード。従者が気が付くわ」
「従者くらい、なんとでもなる」
首筋から胸元、へそ、足の付け根、全てにキスをされると、またマルヴィナの体は火照り始めて、潤んだ瞳でレナードを見つめていた。
するとレナードも熱っぽく見つめてくる。
「ほら、我慢出来ないだろ?」
マルヴィナは何も言えず、キスを受け止め、優しく撫でるように膨らみを揉まれることに、また喜びを感じてしまった。
(私、本気でレナードを好き)
じわじわと与えられる快楽にまた飲まれながら、マルヴィナはレナードのしがみついた。
城に着くまでレナードはマルヴィナを求め、離してくれることはなかったが、マルヴィナも応えたくて体を許してしまう。
もはや理性の箍など外れてしまい、体に触れられる寸前でレナード感じて甘い吐息を吐くほどだった。
馬車がゆっくりと停車し始めると分かったのは、ふたりがぐったりと抱き合いもつれていた時だった。
「レナード。レナード。馬車が止まるわ」
「あ、ああ」
乱れた服を互いに整え、窓をそっと開けた。
淫靡な空気は充満し、従者だって開けた途端にふたりが抱き合っていたことは分かるだろう。
「痛くなかったかい?」
「少し、まだ」
「そうだろうね。でも、とても我慢出来そうになくてね」
レナードは髪をかきあげ、マルヴィナを見つめてくる。
その視線はまだ熱がこもっており、マルヴィナはまだ再開しそうで視線を逸らした。
「もう、馬車が止まります」
「分かっているよ。明日は村に視察に行かないといけない。面倒だ」
「そんなことを言っては、……いけません」
そうマルヴィナも言ったものの、内心は城にレナードがいないことが寂しくてがっかりしていた。
マルヴィナは自分がしっかりしなければと、姿勢を正しレナードをじっと見つめた。
「明日からはまた忙しい日々ですから」
「そうだね。城にいる女性達の相手もある」
レナードは眉をぴくんと動かして、足を組んだ。
面倒そうな表情を浮かべながら、もう一度髪をかきあげマルヴィナの方を見つめてくる。
照れてしまいそうで、マルヴィナは見ていられなかった。
さっきまで散々この馬車の中で抱き合っていたのだし、レナードの熱を思い出してしまいマルヴィナの寂しさ、恋しさが堪えきれなくなってしまいそうだ。
「レナード。明日からはまたいつもの生活です」
「そうだな」
寂しそうに言うレナードに、マルヴィナは自分が冷たいかもしれないと思ったが、まだマルヴィナは選ばれたわけではないのだし、出しゃばり過ぎてはいけない。
(城にはまだ花嫁候補が住んでいるのだから)
そう思うと憂鬱だが、どこか一歩自分だけ先に出てしまったような気にもなる。
抱かれたせいもあるし、好きだと互いに求めあったせいだろう。
でも、最後の最後まで、レナードがフィッシャー家の嫁に相応しいと決断する時までは、自分が候補になるかは分からない。
ふっとその時、レナードの悪い噂が自分の中に消えてしまったのを思い出す。
(私ったら。レナードの事あんなに嫌っていたのに)
体を好きにされて捨てられるとか、慰み者だとか、散々アガサと言ったものの、実際のレナードはマルヴィナに誠心誠意尽くしてくれていた。
(村育ちの私でも、優しいわ)
子爵令嬢だと偽れば待遇が少しは良くなると思って必死になったものの、レナードには必要のないものらしかった。
たとえマルヴィナが村で生まれ、村で育ったとしても、きっと受け入れていたのだろう。
そう思うとマルヴィナはまたレナードを想ってしまう。
馬車が止まり、レナードに引かれて降りると執事とメイドが出迎えてくれた。
メイドは旅の疲れは心配して、すぐにマルヴィナを部屋に通し、レナードとは会えなくなってしまった。
***
アストリー子爵の元に戻ってから二日経つが、レナードが落ち着いて机に向かい村や街について考えることは中々難しかった。
まず第一に、勢いとはいえマルヴィナを馬車の中で抱いてしまったこと。
マルヴィナを隘路は狭く、痛いと喘いでいた。
村育ちだからといって既に誰かと経験済みかもしれないとも思ったが、純潔は守られ、レナードがその欲望のままに奪ってしまった。
このことに、その日のうちに反省してマルヴィナに謝るしかないと思ったのだが、メイドに連れられて部屋に行ってしまい、レナードも執事に連れられて自室に戻ることになった。
(怒っていないだろうか)
自分らしくないと思って、恥ずかしさ一杯になる。
もっと丁寧に、部屋には薔薇で埋め尽くし、風呂にも薔薇花弁を散らして、マルヴィナを満足させねばいけないのに、そんな余裕などなかったのだ。
そして、次に驚いたのはマルヴィナは嫌がることなく受け入れてくれたことだった。
本当はまだ嫌われているかもしれないが、マルヴィナは縋るようにレナードに抱きついてきて、その仕草がまるで甘えているようで愛おしく、より一層レナードを煽ったのだ。
普段しれっとかわされているから、余計だろう。
まるで心を許してくれたように感じて、レナードは好かれていると錯覚しそうになった。
いや、途中からは完全にマルヴィナはレナードを好いていると思って抱いていた。
でも、冷静になればなるほど、そんな筈はないと思えてきていたたまれない気持ちになるのだ。
(しかも、馬車の中など。最低だっ!)
頭を抱えてしまうと、今度は次の問題が浮上する。
城に控えていた令嬢達だ。
マルヴィナと出掛ける事は内密なことだったのだが、どこからともなく知り、すぐに問い詰められたのだ。
特に、薔薇庭園でデートをする令嬢は、裏切りだと怒るのだ。
(裏切りはどっちだ)
レナードは怒鳴ってきた令嬢達の顔を思い浮かべる。
どの顔も綺麗で、色香すら漂よう。
でも、もうレナードの妻としては迎えられないと分かってしまっているし、それがマルヴィナのせいでもない。
令嬢達がなんとしてもフィッシャー家の長男であるレナードの妻になろうと躍起なのは分かるのだが、相応しくないことくらいはお見通しなのだ。
(本人たちは気楽なものだがな)
気の強そうな面々を思い浮かべながら、マルヴィナを思い出す。
素直で一見気が強そうにも見えるのだが、どこかまだ弱さも見せている。
それがレナードの男心をくすぐるのだ。
そして、真っ直ぐな気持ちは今まさにレナードに向かっているかもしれないと思うと、気恥ずかしい思いで、とても村のことや街のことなど考えてはいられないのだ。
ましてや、城の令嬢のことなど到底無理だ。
マルヴィナは今頃何をしているのだろうと思いを馳せる。
忘れないで欲しいと、アシュトンに薔薇の花束を送るように言いつけてはあるが、マルヴィナは受け取ってくれるだろうか。
不安で一杯で、レナードの心はどうにかなりそうだ。
そして何より、一番の考え事はマルヴィナが婚約で決定でいいのではないかということ。
婚約者のフリをさせてみて、マルヴィナの振る舞いがいじらしく、謙虚で、より一層思いが強くなってしまった。
アストリー子爵の前では結婚式の話までしたのだし、もうマルヴィナに決めてしまいたい。
でも、その為には城の令嬢をどうにかしないといけないわけだ。
(どうにかなりそうだ)
レナードは立ち上がり、窓辺に立った。
外を眺めれば、眼前には薔薇庭園が広がる。
今日は誰もいないのかと辺りを見ていると、そこにはマルヴィナがいた。
思わず声を上げてしまいそうになったが、レナードは窓からマルヴィナをじっと見つめて観察した。
ウロウロしながらも、目当ての薔薇を見つけるとそこでじっと見つめたり、匂いを嗅いだりしているように見える。
窓を開け放ち、上から声を掛けたくなるのだが、それでは令嬢達に見つかり目の敵にされるだろう。
開脚されたままの足の間に男根があてがわれると、ゆっくりと挿入される。
「いっ……」
「大丈夫?」
「平気……です」
「ベッドでやり直す?」
マルヴィナは苦笑して首を振った。
今更そんなことを言われても、困るだけだ。
ずるっと入るものの、怒張した男根は、隘路の最奥には到達せず、途中で止まる。
マルヴィナも痛みを堪えていたし、レナードにしがみつくばかりでそれ以上は何も考えられなかった。
「きついな、マルヴィナ。これ以上は、今日は無理だ」
「ごめんなさい」
「痛いかい?」
「はい……でも、その……レナードを感じて、幸せです」
マルヴィナは思わず言うと、自分でも赤面してしまいレナードを見ていられなかった。
膣内でぴくんと動いたり、熱がダイレクトに伝わってきたり、それはレナードそのもののようで、心が満ちたのだ。
その想いを言わずにはいられず言ったのだが、まるで煽ったかのようにも聞こえてしまうと後から気が付き、訂正しようと口を開いた。
瞬間、ゆっくりとした抽送が始まってしまう。
「待っ……あっ……んっ……あっ……」
「マルヴィナ。私は我慢していたといったのに。そんなこと言われたら我慢出来ないだろう?」
「だけど……んっ……やっあ……」
マルヴィナは痛みと共にジワジワと隘路が広がると、次第に快楽が押し寄せ始める。
レナードも性急な動きではなく、ゆっくりと動き、まるでマルヴィナのことを確かめるように丁寧に抜き差しをする。
いやらしく喘いでしまうと、マルヴィナの理性は吹き飛びレナードにしがみつくしかない。
「……レナードッ!」
「マルヴィナ、もっと力を抜いてごらん」
「出来ない、これが精一杯」
「でも、こっちも……うっ……」
レナードも切ない吐息を漏らし始め、ゆっくりだった抽送が次第に早くなり、マルヴィナを揺さぶる。
マルヴィナは痛みと快楽の両方が押し寄せ、もはら何も考えられず次第に意識は朦朧とし、快楽の坩堝に飲まれそうになる。
ぞくぞくとするような感覚が背を這うと、マルヴィナは一気に頂きを昇り詰めてしまい、レナードの名前を呼んだ。
「レナード、レナード!」
きゅっと絞まった膣に反応して、咥え込まれた男根は我慢出来ずに爆ぜてしまう。
「うっ……マルヴィナ」
「あっ……あっ……あぁ!」
腹の中で感じるの熱い白濁に、マルヴィナは戸惑いながらも喜びを感じていた。
レナードとひとつになったような、大切な人になれたような、そんな感じがしたのだ。
今までそんな喜びは感じたことは一度もなく、しばらくは戸惑い放心状態だった。
「ごめん。マルヴィナ。堪えきれなかった」
「ううん」
照れたようにマルヴィナが首を振るとすぐにキスの嵐に変わる。
「待って、もうダメよ。レナード。従者が気が付くわ」
「従者くらい、なんとでもなる」
首筋から胸元、へそ、足の付け根、全てにキスをされると、またマルヴィナの体は火照り始めて、潤んだ瞳でレナードを見つめていた。
するとレナードも熱っぽく見つめてくる。
「ほら、我慢出来ないだろ?」
マルヴィナは何も言えず、キスを受け止め、優しく撫でるように膨らみを揉まれることに、また喜びを感じてしまった。
(私、本気でレナードを好き)
じわじわと与えられる快楽にまた飲まれながら、マルヴィナはレナードのしがみついた。
城に着くまでレナードはマルヴィナを求め、離してくれることはなかったが、マルヴィナも応えたくて体を許してしまう。
もはや理性の箍など外れてしまい、体に触れられる寸前でレナード感じて甘い吐息を吐くほどだった。
馬車がゆっくりと停車し始めると分かったのは、ふたりがぐったりと抱き合いもつれていた時だった。
「レナード。レナード。馬車が止まるわ」
「あ、ああ」
乱れた服を互いに整え、窓をそっと開けた。
淫靡な空気は充満し、従者だって開けた途端にふたりが抱き合っていたことは分かるだろう。
「痛くなかったかい?」
「少し、まだ」
「そうだろうね。でも、とても我慢出来そうになくてね」
レナードは髪をかきあげ、マルヴィナを見つめてくる。
その視線はまだ熱がこもっており、マルヴィナはまだ再開しそうで視線を逸らした。
「もう、馬車が止まります」
「分かっているよ。明日は村に視察に行かないといけない。面倒だ」
「そんなことを言っては、……いけません」
そうマルヴィナも言ったものの、内心は城にレナードがいないことが寂しくてがっかりしていた。
マルヴィナは自分がしっかりしなければと、姿勢を正しレナードをじっと見つめた。
「明日からはまた忙しい日々ですから」
「そうだね。城にいる女性達の相手もある」
レナードは眉をぴくんと動かして、足を組んだ。
面倒そうな表情を浮かべながら、もう一度髪をかきあげマルヴィナの方を見つめてくる。
照れてしまいそうで、マルヴィナは見ていられなかった。
さっきまで散々この馬車の中で抱き合っていたのだし、レナードの熱を思い出してしまいマルヴィナの寂しさ、恋しさが堪えきれなくなってしまいそうだ。
「レナード。明日からはまたいつもの生活です」
「そうだな」
寂しそうに言うレナードに、マルヴィナは自分が冷たいかもしれないと思ったが、まだマルヴィナは選ばれたわけではないのだし、出しゃばり過ぎてはいけない。
(城にはまだ花嫁候補が住んでいるのだから)
そう思うと憂鬱だが、どこか一歩自分だけ先に出てしまったような気にもなる。
抱かれたせいもあるし、好きだと互いに求めあったせいだろう。
でも、最後の最後まで、レナードがフィッシャー家の嫁に相応しいと決断する時までは、自分が候補になるかは分からない。
ふっとその時、レナードの悪い噂が自分の中に消えてしまったのを思い出す。
(私ったら。レナードの事あんなに嫌っていたのに)
体を好きにされて捨てられるとか、慰み者だとか、散々アガサと言ったものの、実際のレナードはマルヴィナに誠心誠意尽くしてくれていた。
(村育ちの私でも、優しいわ)
子爵令嬢だと偽れば待遇が少しは良くなると思って必死になったものの、レナードには必要のないものらしかった。
たとえマルヴィナが村で生まれ、村で育ったとしても、きっと受け入れていたのだろう。
そう思うとマルヴィナはまたレナードを想ってしまう。
馬車が止まり、レナードに引かれて降りると執事とメイドが出迎えてくれた。
メイドは旅の疲れは心配して、すぐにマルヴィナを部屋に通し、レナードとは会えなくなってしまった。
***
アストリー子爵の元に戻ってから二日経つが、レナードが落ち着いて机に向かい村や街について考えることは中々難しかった。
まず第一に、勢いとはいえマルヴィナを馬車の中で抱いてしまったこと。
マルヴィナを隘路は狭く、痛いと喘いでいた。
村育ちだからといって既に誰かと経験済みかもしれないとも思ったが、純潔は守られ、レナードがその欲望のままに奪ってしまった。
このことに、その日のうちに反省してマルヴィナに謝るしかないと思ったのだが、メイドに連れられて部屋に行ってしまい、レナードも執事に連れられて自室に戻ることになった。
(怒っていないだろうか)
自分らしくないと思って、恥ずかしさ一杯になる。
もっと丁寧に、部屋には薔薇で埋め尽くし、風呂にも薔薇花弁を散らして、マルヴィナを満足させねばいけないのに、そんな余裕などなかったのだ。
そして、次に驚いたのはマルヴィナは嫌がることなく受け入れてくれたことだった。
本当はまだ嫌われているかもしれないが、マルヴィナは縋るようにレナードに抱きついてきて、その仕草がまるで甘えているようで愛おしく、より一層レナードを煽ったのだ。
普段しれっとかわされているから、余計だろう。
まるで心を許してくれたように感じて、レナードは好かれていると錯覚しそうになった。
いや、途中からは完全にマルヴィナはレナードを好いていると思って抱いていた。
でも、冷静になればなるほど、そんな筈はないと思えてきていたたまれない気持ちになるのだ。
(しかも、馬車の中など。最低だっ!)
頭を抱えてしまうと、今度は次の問題が浮上する。
城に控えていた令嬢達だ。
マルヴィナと出掛ける事は内密なことだったのだが、どこからともなく知り、すぐに問い詰められたのだ。
特に、薔薇庭園でデートをする令嬢は、裏切りだと怒るのだ。
(裏切りはどっちだ)
レナードは怒鳴ってきた令嬢達の顔を思い浮かべる。
どの顔も綺麗で、色香すら漂よう。
でも、もうレナードの妻としては迎えられないと分かってしまっているし、それがマルヴィナのせいでもない。
令嬢達がなんとしてもフィッシャー家の長男であるレナードの妻になろうと躍起なのは分かるのだが、相応しくないことくらいはお見通しなのだ。
(本人たちは気楽なものだがな)
気の強そうな面々を思い浮かべながら、マルヴィナを思い出す。
素直で一見気が強そうにも見えるのだが、どこかまだ弱さも見せている。
それがレナードの男心をくすぐるのだ。
そして、真っ直ぐな気持ちは今まさにレナードに向かっているかもしれないと思うと、気恥ずかしい思いで、とても村のことや街のことなど考えてはいられないのだ。
ましてや、城の令嬢のことなど到底無理だ。
マルヴィナは今頃何をしているのだろうと思いを馳せる。
忘れないで欲しいと、アシュトンに薔薇の花束を送るように言いつけてはあるが、マルヴィナは受け取ってくれるだろうか。
不安で一杯で、レナードの心はどうにかなりそうだ。
そして何より、一番の考え事はマルヴィナが婚約で決定でいいのではないかということ。
婚約者のフリをさせてみて、マルヴィナの振る舞いがいじらしく、謙虚で、より一層思いが強くなってしまった。
アストリー子爵の前では結婚式の話までしたのだし、もうマルヴィナに決めてしまいたい。
でも、その為には城の令嬢をどうにかしないといけないわけだ。
(どうにかなりそうだ)
レナードは立ち上がり、窓辺に立った。
外を眺めれば、眼前には薔薇庭園が広がる。
今日は誰もいないのかと辺りを見ていると、そこにはマルヴィナがいた。
思わず声を上げてしまいそうになったが、レナードは窓からマルヴィナをじっと見つめて観察した。
ウロウロしながらも、目当ての薔薇を見つけるとそこでじっと見つめたり、匂いを嗅いだりしているように見える。
窓を開け放ち、上から声を掛けたくなるのだが、それでは令嬢達に見つかり目の敵にされるだろう。
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