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第八話

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「あ、でもなあ。欲しいなあ。やっぱりレンタルして何かあったら嫌だしぃ」
 と私はちょっと意地悪を言ってみる。
 
 すると芳樹はベッド売り場をグルグル周り始めてしまった。

 嘘だってば。

 私は芳樹を置いて、今度はお風呂セットを見る。
 それにしても、産まれる前から買い揃えるなんて、なんだか不思議なことだ。
 早産になってしまった時の為に用意をしてくださいとは言われても、まだ早産という時期でもない。
 やっと落ち着いて日々を凄しているっていうのに、意外にもバタバタしている。
 気がつけば妊娠中期に入っていた、という感じだ。

 今の状況は嬉しいんだけれど、まだ母親学級で赤ちゃんについてちょっと教えてもらったばかりだし、母親の自覚があるかといえば、それもイマイチ分からない。
 勿論、適当な事はしていないつもりだけれど、なんというか、こちらもやっと赤ちゃんを感じ始めて戸惑いつつも嬉しい、というのが本音。

 立派な母親になるっていうのは、なんなんだろう。

「買えるベッドあるぞ!」
 芳樹が嬉しそうに近づいてくるので、私は何の事だろうと芳樹を見た。
 何か説明を始めそうだ。


「もうベッドはいいから。次はお風呂セット。それからミルクとか、哺乳瓶とか、産着とか、後は、ロンパース。まだまだあるわよ」


「ミルクと哺乳瓶は必要なのか? 母乳は?」


「一応よ。出ないかもしれないでしょ?」


「出ない・・・? 出ないのか?」
 芳樹が驚いていた。

 そういう話は母親とはしないか、と説明をしようと思ったら、芳樹は私の話もちゃんと聞かず、ミルクの値段を見に行った。一人でバタバタ何をやっているのだろうかとお腹を摩る。

 パパ、おバカさんですねえと、お腹に語りかける。
 まだまだ何も聞こえていないのは分かっているのだけれど。 

 それにしても、今までは芳樹の給料で満足していたけれど、さすがに今まで通りな生活を送っていたら、厳しいなと思った。なんでも出来る生活が、一変して我慢もしなきゃいけない生活になるのかと思うと少し憂鬱だ。


「でもね~。ロンパースはゾゾタウンで可愛いの見つけちゃったし・・・」
 思わず言ってしまう。

 家計を見直さないといけない思っていても、それは中々難しいことだった。
 好き勝手やっても芳樹は何も言わないし、足りないと言えばお金をくれる。
 そんな日々を送っていたから、余計に節約という言葉には無縁だし、赤ちゃんが生まれたところで簡単に直せるものかと思ってしまう。

 そもそも、ベビザラスじゃなくて西松屋やでも充分だったのに、私はこちらに来た。
 なんというか、安いという事が安心なのかと私には疑問だったのだ。といより、なんとなく、ベビザラスの方が良いように思うだけで、実際は知らないのだけれど。
 服にしても、凄く安いのは知っていたが、妥協出来ない。
 
 少し離れた赤ちゃん本舗も見てみようか。

 それにしたって、親戚が見に来たらどう答えたらいい。
『どこのメーカー?』と絶対に聞かれる。

 親戚一同、芳樹を馬鹿にしているし、私も結婚したので意地を張っている所がある。
 女の子だし、可愛く着飾って親戚には見せたい。
 でもそれを続ければ、家計はギリギリになる。
 
 困った。

 芳樹がミルク売り場から戻ってくると、言った。


「まあ。大丈夫だろ。あんなに沢山入っているんだから」


「さあ。どれくらい飲むか分からないし。沢山飲んだら、減りも早いわよ」


「とにかく、母乳が出るように、マッサージだな。俺が手伝うぞ?」
 芳樹がニヤリとして近寄る。


「いいから!」
 私は肘で突いて、芳樹を弾き飛ばした。 

 それでもニヤニヤしている芳樹に、私が見ていたお風呂セットを見せる。
 もはや芳樹も値段に驚く事もないのだけれど、どこかさっきより疲れて見える。
 全部買うなんて言った事を後悔しているのだろう。


「まあ。今日は帰りましょう。欲しいのは目星つけたし」
 芳樹がじっくり見始めたので、袖を引っ張った。


「いいのか?」


「うん。とりあえず、いいの。もっと考えなきゃ」
 芳樹は何かから解放されたよう、嬉しそうに私の手を取り、歩き始めた。


「金持ちはいいな。こうして買い物にも悩まなくて。俺、一応頑張ってるんだけどな」
 しょげているのか、芳樹は少し落ち込んでいた。


「いいのよ、別に」
 そうは言うものの、私はしばらく、物欲と葛藤しなければならなかった。

 結局その後私達は、布団も一番良い物よりは、店員さんと話してよく売れているものにした。
 それから悩んだロンパース。お洋服関係は、誰か来る時用と普段着用で買いわける事にした。
 勿論、西松屋にも行って色々選んだ。

 よく考えたのだ。
 赤ちゃんの成長の早さと、自分達のお金とを。

 結論として、将来の学費に一番お金をかけたいという事に辿り着いた。

 だからといって、服がいつも安物というのも女の子だから可哀想だなと思うし、きっと世の中のママさん達だって、張り切ってブランド服を買っていると思う。そのバランスは難しい所だ。
 きっと上手くやりくりしているのだろう。
 
 一人悩んだり、赤ちゃんに喋りかけたり、旅行に行ったり、パーマをかけたりしたりと、中期もあっという間に過ぎていった。
 そんな中でも、芳樹が細々と気を使ってくれているのが分かると、嬉しかった。

 そして、臨月。
 赤ちゃんん用品は、その後に、なんだかんだでお互いの両親も買ってくれた。
 家で出来るマタニティヨガをやってみるものの、続けるのも辛い。おまけに眠い。
 芳樹はいつもまっすぐ帰ってきてくれるのだけれど、私が何もしていない事が多くて、たまに愚痴をこぼす。
 じゃあ、また家出してやろうかと思うも、もうそうもいかない。お腹も重くて面倒だ。
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