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第二話 芳樹

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 すると返事がすぐに来た。


『辛いです』


 やっぱりな。
 困ったもんだな。
 どうして女どもはこういう子を狙うかな。
 いや、男もからかって噂するからな。
仕事が出来ない奴に限って、噂を流して優位に立ちたがる。


 困った俺は、ケータイを眺めた。
 後輩ではあるものの、デスクが近いわけじゃない。
 おまけに俺は役職がついてるわけでもない。平社員だ。
 ただ、先輩でお目付け役なだけだ。
 担当になった後輩は他にもいるし、白木を特別扱いすれば、白木の同期が妬む。
 困った。

 助けたくとも、噂をしてる奴ら全員に一喝出来るほど、俺は偉くないし勇気もない。
 そもそも、そんな奴がいたら凄い。
 ただ、せっかく育てた後輩を潰されるのは嫌だった。一人前になった時に酒を呑みたいし、単純に、俺の教えた後輩が増えて欲しい。
 

 考えているとまたケータイが鳴った。


『先輩、私弱い人間です。何も言い返せません』



 俺はこれにはすぐに返事をしようと思い、ケータイを取った。



『弱くないし、言い返す必要もない』



 送信を押そうとした時、俺はそろそろヤバイと思い、さっさと押した。
 美恵が2階から降りてくる予感がする。 

 俺はさもテレビばかり見ているという仕草をし始めた。
 ケータイはパジャマのポケットの中だ。
 降りて来ないので、2階に上がろうかと考えてみる。 

 俺はいつも通りのグータラ亭主のように、腹を掻いた。
 美恵ベッドで寝転がりながら、テレビを見ていた。
 さっき1人で色々と妄想したせいか、生身を見たら抱きつきたくなった。

「美恵」と呼んでも、返事すらない。

 いきなり抱きしめてみようかと、ニヤニヤしながら近寄る。 

 俺はもう一度美恵の名を呼ぶ。


「美恵、そんなにテレビ面白いか?」
ニヤニヤしながら、美恵の胸を目指す。足音を立てないように。


「別に」


 素っ気ない返事が相変わらずだが、聞こえているらしい。この素っ気なさと、セックスの時の違いが堪らないんだよなあと、ニヤニヤが止まらない。

 そして、隣に寝ころぶと美恵を後ろから抱き締め、そっと胸も揉む。


「ちょっと、やめて」


「いいだろ、これくらいは」


「うざいのよ」 

 今、何て言った、美恵。


 俺はフラフラと美恵から離れた。
 確か、『うざい』と。

 俺をそういう煙たいものの様な扱いにするのか。

 もう煙たがるのか?
 まだ子供もいないんだぞ?
 早くないか?
 俺に飽きたか?
 え?

 俺は混乱して、手から力が抜けて、体を離した。美恵は気にもせず、テレビを見ている。
 
 音がうるさく寝室に響き渡っていた。
 俺はフラフラと寝室を出た。美恵が振り返る事はなかった。
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