初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花

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5巻

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 俺、ラルク・ヴォルトリスは転生者だ。
 前世は四宮楽しのみやらくという名前の、日本にいる普通の高校生だった。だが不運にもトラックにかれ、命を落としてしまったのである。
 だが、そんな俺の死は手違いだったらしく、神様であるサマディさんことサマディエラさんのはからいにより、便利なスキルを三つも授かって異世界に転生したのだった。
 転生してからは義父ぎふのグルドさんのもとで、楽しい異世界生活を送っている。
 義父とうさんはとてもすごい人だ。国の英雄で、人望も厚い。先日、俺と元両親との間でイザコザが発生したのだけれど、そのときは俺以上に怒ってくれたし、俺の支えとなってくれた。
 そのイザコザは義父さんや周りの人々、そしてサマディさんの助けによって無事解決した。
 そして、俺は日常生活に戻ることになったのだが……



 第一話 イデルパーティ仮加入


『夏休みの期間中、正門は閉め切っています』

 正門に貼り出された貼り紙の文面を見て、俺は呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。
 色々なことが片付いて、ようやくまた学校に通えると思っていたけれど、まさかすでに夏休みが始まっていたとは思わなかった。
 せっかく学校に来たので、このまま帰るのはもったいない……
 俺はそう考え、裏門から学園の中に入って職員室に行ってみた。
 いつもは人が多い職員室も夏休みということで少なくなっていたが、担任のカール先生が机に座って仕事をしていた。

「あれ、ラルク君?」
「カール先生!」
「もう、城から出ても大丈夫なの?」

 カール先生が心配そうに聞いてきた。
 そうそう、俺がこの間まで元両親に身柄を狙われていたということは、カール先生にも説明していたんだよね。そして城にかくまってもらうから学校にはしばらく行けないと伝えていたのだ。

「はい、先日やっと全てが終わったから登校したんですけど、まさか夏休みに入っているとは思ってなくて……」
「あぁ、ごめんね。ローゼリアさんが伝えてくれるかなって思って学園からラルク君に知らせてなかったよ。ほら、ラルク君と一緒に住んでいたでしょ?」

 ローゼリアとは、この国のお姫様であり、俺のクラスメートでもある女の子だ。俺は親しみを込めて「リア」と呼んでいる。
 カール先生は謝罪したあと、問題集のたばを俺に渡してきた。夏休みの宿題だそうだ。
 俺は宿題を受け取り、スキルの『便利ボックス』を発動して異空間にしまった。
 それから職員室を退出し、学園を出た俺はその足でドルスリー商会に向かった。商会長のラックさんに、俺が城から出られるようになったことを伝えるためである。
 ドルスリー商会の建物に着き、中に入り受付で「ラックさんはいますか?」と尋ねる。
 すると、商会長室にいると言われたのでそちらに向かい、部屋をノックしてから入室した。

「あれ? レックがここにいるって珍しいね」

 中にはラックさんだけじゃなく、クラスメートのレックがいた。レックはラックさんの息子なのだ。
 レックはこちらを見て驚いたように言う。

「ラルク君? あれ、今は城から出られないんじゃなかったの? カール先生から聞いたけど」
「その件はもう片付いたから、ラックさんに報告しに来たんだ。レックは何してるの?」
「僕達も来年で卒業でしょ? 卒業後のことを考えて、夏休みの間は父さんの仕事を見学して覚えることにしたんだ」
「なるほど……頑張ってね」
「うん、頑張るよ」

 レックに応援の言葉を送ったあと、俺はラックさんに話す。

「……ということでラックさん。城から出られるようになりました。今までご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「ああ、大変だったね。またよろしく頼むよ」
「はい。それで、今回の納品物を渡しに来ました」

 俺はそう言って、『便利ボックス』から砂糖の入った袋を取り出してラックさんに渡した。

「うん、流石さすがラルク君。色々あっただろうに、納期はきっちり守るね」
「商人として当たり前ですよ」

 すると、その光景を見ていたレックが驚きの声を上げる。

「えっ!? それって砂糖だよね? 最近、やたら市場に砂糖が出回ってたのって、ラルク君がおろしていたからなの!?」
「あれ、言ってなかったっけ? ラックさんも、レックに教えてなかったんですか?」
「うん。レックにはいずれ私の商会を継いでもらう予定だが、そういった情報は自分で集めるようにって言っているんだよ。卒業後は一商人として経験を積ませるつもりだしね」
「なるほど、そうだったんですか。じゃあレックが卒業したあとは、俺と取引することになるかもしれませんね」
「そうだね。まあ、そのときはお手柔らかに頼むよ」

 ラックさんがそう言って笑うと、レックがこちらに近付いてきて「よろしくね」と小声で言ってきたので、グッと親指を上げてこたえた。
 その後はドルスリー商会をあとにし、俺のお店や冒険者ギルドにも顔を出してまた普段通りの生活を送れるようになったと報告しておいた。
 その日の晩は、久し振りにギルドマスターのフィアさんと副マスターのララさん、そして叔父のイデルさんを家に呼ぶことに。
 みんなで楽しい夕食を食べたのだった。
 夕食後、フィアさん達を玄関まで見送った俺は自室に戻る。

「は~、自分の部屋に入ると帰ってきたんだって実感するな~」

 独り言をつぶやきつつ、そのままベッドにダイブする。
 それから、久し振りにステータスでも確認するかと思い、『鑑定眼』のスキルで自分を鑑定してみた。


【 名 前 】ラルク・ヴォルトリス
【 年 齢 】13
【 種 族 】ヒューマン
【 性 別 】男
【 状 態 】健康
【 レベル 】74 
【 S P 】730
【  力  】7179(+27)
【 魔 力 】8392(+21)
【 びん しょう 】7735(+37)
【 器 用 】5601(+18)
【  運  】51
【 スキル 】『調理:5』『便利ボックス:3』『生活魔法:2』『鑑定眼:4』『裁縫さいほう:3』
       『集中:5』『信仰心:5』『魔力制御:5』『無詠唱:5』『合成魔法:4』
       『気配察知:4』『身体能力強化:4』『体術:4』『剣術:4』『短剣術:3』
       『毒耐性:1』『精神耐性:4』『飢餓きが耐性:1』『火属性魔法:5』
       『風属性魔法:4』『水属性魔法:3』『土属性魔法:4』『光属性魔法:4』
       『闇属性魔法:3』『雷属性魔法:5』『氷属性魔法:3』『聖属性魔法:4』
       『無属性魔法:2』『錬金:3』   
【特殊 能力】『記憶能力向上』『世界言語』『経験値補正:10倍』『神のベール』
       『神技しんぎ:神秘の聖光せいこう』『悪・神従魔しんじゅうま魔法まほう』『召喚』『神技:神の楽園』
【 加 護 】『サマディエラの加護』『マジルトの加護』『ゴルドラの加護』
【 称 号 】『転生者』『神を宿し者』『加護を受けし者』『信仰者』『限界値に到達した者』
       『神者』『教師』『最高の料理人』『炎魔法の使い手』『雷魔法の使い手』

 「ふむふむ、能力値が少し上がっているな……加護の力もあって、俺の能力値って普通の人と比べたら高いほうなんだけど、まだまだ上には上がいるんだよなぁ……それにしても、明日から大変だ……」
 俺は夕食時のことを思い浮かべた。
 イデルさんはなんでも、ここ十数日間ギルドにまっていた高難度の依頼を続けて受けていたらしい。それらの依頼内容を聞いて、俺は驚いた。オークの巣の破壊、アースドラゴンのつめの採集、地底湖の探索などなど……どれも俺の冒険者ランクでは受けられないものばかりだ。
 俺はイデルさんに尋ねてみた。

「アースドラゴンって、どれくらい強かったんですか?」
「う~ん、俺としては物足りない相手だったな……まあ、アレのレベルは100を超えているはずだから、普通の冒険者だと苦戦するんじゃないか?」

 イデルさんはさらりとそう言った。
 俺と、一緒に暮らしている女の子のリンが驚いていると、義父さんが言う。

「そういう高難度の依頼はちゃんとパーティを組んで挑むのが基本なんだが、イデルは一人で向かうんだ」
「そうなんですか?」

 俺の言葉に、義父さんは「ああ」と頷いた。

「イデルだからギルドも許しているが、普通は危険だから認めない。まあ、こいつは連携が一向にできんっていう事情もあるがな」
「できないんじゃなくてしないんですよ、グルドさん。別に俺一人でなんとかできますからね」
「そう言うが、仲間はいいもんなんだぞ? ……そうだ。ラルク、しばらくの間イデルとパーティを組んであげてくれないか?」

 義父さんがそう言うと、イデルさんが「はぁ~ッ!?」と大声を出した。
 すると、それを聞いていたフィアさんも言う。

「それ、いいわね。イデル君、せっかくだから連携の勉強をしたほうがいいわよ。ラルク君はそれでいい?」
「え? い、いいですけど」
「それじゃ決まりね! さっそく明日から頑張って、イデル君!」

 ということで、俺は一ヶ月という期間限定でイデルさんをパーティに迎えることとなったのだった。
 俺はベッドに寝転がってそのときのことを思い出しながら、独り言を言う。

「イデルさんの強さは知っているけど……あの人、最後の最後まで本気で嫌がっていたんだよな。なんとなく不安だ……」

 嫌な予感がしつつ日課のお祈りを済ませ、俺は寝間着に着替えてベッドに横になり眠りにいたのだった。


     ◇


 翌日。
 俺はリンと一緒にギルドに行って、パーティメンバーであるレティシアさんとアスラに、イデルさんがパーティに一時加入することとその経緯を伝えた。二人はイデルさんの強さを知っているので、驚きはしたもののすぐに喜んでいた。
 それから少し経って、イデルさんもギルドにやってきた。

「ラルク。しばらくの間、世話になるよ」
「はい、歓迎します。よろしくお願いします。イデルさん」

 俺達は順番にイデルさんと握手を交わし、義父さんの受付に行ってイデルさんのパーティ登録をする。
 すると、それを見た周りの冒険者がざわつき始めた。どうやらずっと一匹狼で依頼を受けていたイデルさんがパーティを組んだことに驚いているらしい。

「チッ、こうなることが分かっていたから嫌だったのによ……悪いなラルク、余計な注目を集めてしまって」
「大丈夫ですよ。登録が済んだら、戦闘の際の陣形とかの相談をさせてください」

 つつがなく登録が終わり、俺達は軽めの討伐依頼を受けて町の外に出る。
 それから、俺はイデルさんに尋ねた。

「イデルさん、得意な戦闘スタイルはなんですか?」
「う~ん、特にそんなものはない」
「え?」
「俺、均一にスキルレベルを上げているからな。近接も遠距離もできるぞ。あ~、だがサポートは駄目だ。他人のことを考えながら戦うのは性に合わないんだよな」

 前々から分かってはいたけど、色々と規格外な人だな……
 まあいいや。ようするにオールラウンダーってことだから、ある程度は自由にやってもらおう。

「じゃあ、イデルさんは後衛をお願いできますか? それで、俺が前衛をやります」
「了解。まあ、練習だと思って連携のことも考えてみるよ」

 すると、レティシアさんが意外そうに言う。

「ラルク君が前衛に入るって珍しいね。いつもは中衛か後衛なのに」
「俺、城での生活中、体がなまらないようにずっと模擬戦をしていたんですよね。それで剣の腕が少し上がった気がするので、実戦で試したいと思ったんです」
「なるほどね~」

 陣形も決まり、俺達は依頼の対象である魔物を狩りに森の中に入っていく。
 そしてつつがなく討伐を終え、ギルドに戻って達成手続きを済ませたのだった。
 その日の夕方、家に帰ったら先に戻っていた義父さんに聞かれた。

「ラルク。イデルとのパーティはどうだった?」
「う~ん、イデルさんは普通に後衛の仕事をやってくれてましたよ。今までパーティを組んだことがないとは思えませんでした」
「まあ、あいつも一応は上級冒険者の一員だからな……意識すれば最低限のことはできるんだろう。明日はイデルを連れて迷宮にもぐってみたらどうだ?」
「はい、分かりました」

 俺はそう返事して、夕食を作りにリンと台所へ入った。


     ◇


 そして翌日、ギルドに集まった俺達はイデルさんの転移魔法で迷宮に向かった。
 迷宮に入る前、あらかじめそれぞれの役割を決めておく。
 話し合った末に俺とレティシアさんが前衛、イデルさんアスラは後衛、リンはサポート役、昨日と同じで行くことにした。

「素材集めとかはするの?」

 レティシアさんが俺に尋ねる。

「今日はイデルさんとの連携を確認するだけのつもりなので、なしにしようと思ってます。それで大丈夫ですか?」

 俺が確認を取ると、みんなは「大丈夫だよ」と返事をしてくれたので、今回の迷宮探索は戦闘メインで採取はなしと決まった。
 方針も決め、俺達は迷宮の中に入る。昼食も事前に作ってきていたので、今日は一日潜る予定だ。
 一時間ほどで、二十層付近にまで着いた。上層に比べると出てくる魔物も強くなっており、俺とレティシアさんの間が抜かれることも増えてきた。
 だが、その度にイデルさんが魔法で魔物を瞬殺していき、結果としていつもより速く迷宮を進めていた。
 昼食休憩中、アスラが落ち込んだ様子で言う。

「分かっていたことだけど、僕の出番はほぼなかったな……」
「いや、アスラの魔法も良かったぞ。その歳でアレだけ使いこなせるとはすごいもんだ」

 イデルさんがめると、アスラは苦笑いした。

「ありがとうございます。でも、やっぱりもっと魔法の精度上げないとって思わされましたよ」
「ま、あんまり無理はするなよ。少しずつ成長していけばいいさ」

 そんな会話のあと、俺達は昼食休憩を終わりにして探索を再開した。
 数時間で、以前俺が地震で落ちた下層までたどり着く。そこで少しだけ探索をして、王都に帰った。
 そのままギルドに行って地下室を借り、迷宮で解体した魔物の素材を全て『便利ボックス』から出す。立ち合い役として隣にいた義父さんは「仕事ができるのは嬉しいが、これは本当に嫌になる量だよ」と苦々しい顔をしていた。

「あはは、ちょっと張り切ってかなり下まで潜っちゃいました」
「そうか……まあ、イデルとうまくやれているみたいで良かった。引き続き、あいつを頼むな」

 義父さんはそう言って、嫌そうな顔で素材の仕分けを始めた。



 第二話 第一の住人


 イデルさんが俺のパーティに入って一週間が経った。
 当初はみんなに心配されていたイデルさんも、段々とパーティの連携に慣れてきたようだった。四日目あたりからは後衛だけでなく前衛にも入ってもらっている。イデルさんは素晴らしい剣技で魔物を倒していくので、若干レティシアさんが嫉妬しっとしていた。
 先日、俺がイデルさんにパーティの感想を聞いてみると、こう言っていた。

「そんなに悪くないな。まあラルクのパーティだからってのもあると思うけど」

 そのときは気恥ずかしかったのか、イデルさんは俺と目を合わせようとしなかった。

「というわけで、イデルさんのパーティ嫌いは少しだけ治ったみたいですよ」

 家で朝食を食べながら義父さんに伝えると、義父さんは嬉しそうに言う。

「おう。流石ラルクだな」

 そのとき、家のチャイムが鳴る。俺が応対のために玄関へ向かうと、イデルさんが立っていた。

「イデルさん、どうしたんですか? 今日は依頼を受ける予定はなかったですよね」
「いや、今日は別件だ。お前、ウィードとセヴィスに何か言っていたんだろ? それの返事を早く伝えたいから来てほしいって伝言を頼まれたんだ」

 ウィードさんとセヴィスさんは俺とイデルさんの共通の知り合いで、死の森と呼ばれる場所の奥地にある屋敷に二人だけで住んでいるんだよね。

「ああ、ありがとうございます」
「今から行けるなら転移するけど、どうだ?」
「はい、大丈夫です。お願いします」

 俺が言うと、イデルさんは俺の肩に手を置いて転移魔法を発動する。
 一瞬で景色が変わり、死の森にやってくると、セヴィスさんが目の前に立っていた。

「おや、イデルさん。昨日の今日でラルク君を連れてきてくれたんですか。相変わらず仕事が速いですね」
「まあな。それよりラルク、セヴィス達に何を言っていたんだ?」
「うーん、先にウィードさんのところへ行きましょう。そこで話しますよ」

 イデルさんが頷いたので、セヴィスさんの案内でウィードさんのいる屋敷へ向かう。
 書斎までやってきてセヴィスさんが扉をノックすると、中からウィードさんの「どうぞ」という声が聞こえた。
 中に入ると、ウィードさんがこちらを見て笑みを浮かべた。


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