初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花

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3巻

3-3

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「すごいぞノワール! 影の中を移動できるのか!」

 俺が褒めると、ノワールは「にゃ」とドヤッとしていた。
 しばらくノワールとの触れ合いを楽しんでいたら、お腹が空いてきた。もうそろそろ夕食の時間か~。

「じゃあリンと一緒に夕食の準備をするので、義父さんは風呂掃除をお願いします」

 義父さんは頷いて、名残なごり惜しそうにノワールを一瞥いちべつしたあと風呂場に向かった。
 俺とリンは台所に移動し、今日はノワールが家に来た記念にご馳走を作るぞ! と意気込んだところで素朴そぼくな疑問が生じる。ノワールは何を食べるんだろうか?
 そもそもリンは召喚獣自体を知らなかったので、尋ねても答えられないだろう。ちょっと考えて、俺は義父さんに聞きに行くことにした。

「うーん、食べられないものはないって聞いたことはある。大抵は召喚者の魔力で腹を満たすというが……俺は召喚獣を持ってないのでなんとも言えん」

 浴槽よくそうをタワシでゴシゴシしていた義父さんの答えはこんな感じだった。つまり、シャファルと同じと考えて良さそうだ。
 とはいえ、食べるのが魔力だけじゃかわいそうだろうと思い、台所に戻って『便利ボックス』の中に残っていた焼きおにぎりを皿に載せ、ノワールの前に置いてみる。
 ノワールは一度においをいだあと、すごく美味しそうにパクパクと食べ始めた。

「大丈夫そうだな……」
「うん、専用の食事を買い揃える必要がなくて良かったね~ラルク君」
「そうだね。今から商業区に買いに出かけたら遅くなっちゃうし」

 リンと雑談しながら夕食を作り、リビングに移動して料理をテーブルに並べる。オーガの一件以来、シャファルはずっと出てこないのでお皿の数は三人分だ。
 最後にノワールの分のご飯が入った皿を床に置いて、「いただきます」と言って夕食を食べた。
 夕食を食べ終えたあとは風呂に入り、ノワールを送還してお祈りしてからベッドに入る。
 今日は色々なことがあったな……そういえば、義父さんは召喚獣を持ってないみたいだったけど、上級生の友達であり、この国の王子でもあるウォリス君やリオ君の召喚獣はどういう子だろう……明日リアに聞いてみようかなぁ……
 そういったことをつらつら考えながら、俺は眠りにいたのだった。


 翌朝、目が覚めるとノワールが勝手に出てきていた。おいおい、召喚の詠唱をしなくても出てこられるのか……危険な状況で出てきたら大変だな。

「駄目だぞ、勝手に出てきたら」

 今のうちにそう注意しておくと、ノワールは耳と尻尾をダランとさせてしゅんとした。なんだろう、すごく反省している感じがする。
 身支度を整えて部屋を出たあとも、ノワールは元気がないままだった。ずっと落ち込んでいたら俺も悲しくなってくるし、分かってくれたならいいか。

「もう怒ってないよ」

 ノワールを持ち上げて顔をスリスリすると、ノワールは「にゃ~」と鳴いてペロッと頬をめ、また元気を取り戻したのだった。



 3 ノワールの実力


 ノワールを召喚してから幾日いくにちか経ったとある休日。俺は自宅で本を読みながらノワールを撫でてまったりするという、至福の時間を過ごしていた。

「にゃ~」

 この数日間で分かったが、ノワールはとても賢くて魔法が使えるという点以外は、普通の人懐ひとなつっこい猫とあまり変わらない。召喚すると気ままに日向ひなたぼっこしたり、ゴロゴロしたりしている。また、あごを撫でられるのが好きなようで、俺がそこを撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らすのだ。
 しばらくノワールとじゃれていたら段々楽しくなってきて、最終的には読書も忘れて、先日道端で見つけた猫じゃらしに似た植物で楽しく遊ぶ。

「そうだ。ノワール、ちょっと外に散歩に行くか?」
「にゃ、にゃ~!」

 ノワールは嬉しそうに鳴いて、俺の胸元に飛び着いてきた。
 ノワールを抱いたままリビングに行き、義父さんに「少し散歩に行ってきます」と言って家を出る。
 さて、散歩と言ったけど、どこに行こう……そうだ! ノワールの強さを知りたいし、王都の外に行って魔物と戦ってみようかな?
 さっそく魔物がいそうな草原に移動する。
 しばらく歩いていると、一匹の魔物を発見。

「ギャッ、ギャッ!」
「お、はぐれゴブリンがいるな……ノワール、勝てそう?」
「にゃ!」

 ノワールは「任せろ!」と言わんばかりに力強く鳴いて、俺の手から離れてゴブリンと対峙たいじした。

「ゲェッ、ゲッ、ゲッ!」

 おお、ゴブリンが勝ちほこったように笑っている。ノワールを普通の猫と勘違いしているらしい。
 ゴブリンが棍棒こんぼうを空高く掲げてノワールをたたつぶそうと振り下ろした。
 棍棒が激突する寸前、ノワールは「にゃ」と一鳴きする。
 次の瞬間、ノワールの前に黒い刃のようなものが出現して、ゴブリンを真っ二つに切り裂いた……マジで?
 一瞬の出来事に少し呆然としていたら、ノワールが褒めて褒めてと俺の足にスリスリしてきた。

「す、すごいねノワール。よくやった」

 とりあえず頭をヨシヨシして、ゴブリンの死体を回収しておく。

「しかし、これほどの魔法が使えるとなると、どのレベルまでの魔物を倒せるのか気になるな……」
「にゃ~?」
「よし、ノワール。これから、森の中を探検しに行こう!」
「にゃ~!」

 ノワールが元気良く鳴いたので、意気揚々いきようようと森へ向かう。
 それから、ノワールはいろんな魔物と戦った。ウルフ、キラービー、ボアといった低レベルの魔物から、オーク、ベアー、オーガなどの大型種まで。どのモンスターも基本的に一撃で倒しており、かわいい見た目に反して相当の実力を持っていることがうかがえる。

「ノワールって実は超強いのか?」
「にゃ、にゃ~」

 その後も問題なく森の魔物を倒しまくり、最終的に、ノワールにはここら辺の魔物程度なら余裕で勝てるほどの戦闘能力があると結論付けた。これは思わぬ収穫だ。今後は魔物の討伐依頼のときも、ノワールがいればだいぶ楽になる。

「さてと、狩りに夢中になってて昼飯を食べ忘れてたな……確か、この先に湖があったから、そこで昼食を食べようか」
「にゃ~」

 ということで俺達は森の中を移動して湖へ。湖には魔物があまり現れないので、冒険者の休息の場になっているのだ。あそこなら昼食も安心してれるだろう。美しい景色も楽しめるしね。
 湖に着き、『便利ボックス』から作り置きしていた弁当箱を取り出す。ふたを開けてサンドイッチを半分に分け、片方をノワールにあげた。

「いただきます」

 と、手を合わせてからサンドイッチをかじる。ノワールは運動してお腹が減っていたのか、勢い良く食べていた。
 ノワールは俺より先に食べ終えると、ゴロンとお腹を見せてきた。撫でてほしいのか?
 お腹を撫でながら、まったり昼食を食べる。

「ふ~、ごちそうさま。ノワール、このあとはどうする? もう帰ろうか?」
「にゃっ、にゃ~」

 俺が聞くと、ノワールは森の奥を向いて鳴いた。

「まだ探索がしたいの? いいよ、行こうか」

 弁当箱を『便利ボックス』に入れ、歩きだす。
 森の奥へ進むと、段々強い魔物が出るようになった。一体でも低ランク冒険者にとっては厄介なオークやオーガも、集団で見かけるようになる。
 ただ、ノワールは魔物達をものともせず、闇属性魔法で軽く倒していった。

「ノワール、どんだけ強いんだ……」
「にゃ~?」
「いや、何が? って顔するなよ。これはアレだな……レティシアさん達の前ではノワールに戦闘はさせないでおこう。自信をなくしかねない……」

 さて、そろそろ帰ろうかな……ん? ノワールが何かを伝えたそうにこっちを見てる。

「どうしたの?」
「にゃにゃっ」
「え、魔力をリンクしてほしいって? 別にいいけど……」

 ノワールの言いたいことがなんとなく分かり、望み通り、ノワールと魔力をリンクする。
 すると、どういうわけか俺の視界に俺自身の姿が映った。
 これは……ノワールの視界を俺が共有してるのか?

「おお、これはすごいな……ノワールは影の中を移動できるし、いざというときの偵察ていさつ用に使えそう……本当にノワールは優秀だね」
「にゃ~」

 視覚共有を切って褒めると、ノワールは体を擦り寄せてきたのだった。


 無事に森を抜けて帰宅すると、庭で運動してた義父さんが声をかけてきた。

「おかえり。それにしても、えらい長く散歩してたな」
「はい。ちょっとノワールの戦闘能力を見てみたくなって、森まで行ってました」
「なるほどな。で、どうだったんだ?」
滅茶苦茶めちゃくちゃ強かったですよ。冒険者だったらCランク以上はあると思います。オークやオーガを一撃で倒してましたからね」

 俺がそう言うと、義父さんはノワールを見て目を丸くする。

「こんなちっこい奴がオーク達を……」

 ノワールは嬉しそうに「にゃ~」と鳴き、家に入る。
 義父さんと一緒に追いかけたら、先日買っておいた猫用のクッションの上でスヤスヤ寝ていた。

「こうして見ると普通の猫なんだがなぁ……」
「そうですね。でも、頼もしいです」

 ノワールを起こさないよう、俺は静かに夕食の準備を始めたのだった。



 4 新商品


 召喚獣の授業から一ヶ月が経った。最近は段々と寒くなってきて、気候が秋から冬へ移り変わろうとしている。
 そして、冬に近付くということは、俺と義父さんの誕生日がせまってきているということでもある。俺と義父さんは同じ誕生日なんだよね。
 とある日の朝、俺と義父さんが誕生日はどんなプレゼントがいいかとお互いの希望を言い合っていたとき、リンが「ラルク君とグルドさんって同じ誕生日なの!?」と驚きの声を上げた。

「実はそうなんだよね。初めて知ったときは、すごく驚いたよ」
「俺もだ。城で暮らしてたとき、国王のアルスに聞いてビックリしたぜ」
「私、春生まれだから一人だけ仲間外れだ……」

 なんかよく分からない落ち込み方をするリン。

「えーっと……春ってことは、一緒のパーティのレティシアさんも春生まれだから仲間外れじゃないよ」

 変ななぐさめをすると、リンは嬉しそうに「そうなの?」と食い付いてくれた。この対応で正解だったのか……

「ところで、ラルク君の今日の予定は?」
「俺の店に行こうかなって思ってるよ。リンは?」
「うーん……あ、じゃあ私も手伝いに行っていいかな?」
「それはありがたいな。じゃあさっそく行こうか」

 ということでリンと一緒にお店へ。
 入口のドアを開けて奥に入ると、厨房でナラバさんが仕込みをしていた。

「おはようございます、ナラバさん」
「おはようございます、ラルク君。それにリンちゃんもおはようございます」

 ナラバさんが丁寧に挨拶を返してくれる。ちなみに、この一ヶ月間でリンは何度かお店を手伝ってくれていたので、ナラバさんとは顔馴染みだ。

「おはようございます。ナラバさん、いつも早いですね」

 リンが言うと、ナラバさんは笑いながら答える。

「早いと言っても、私も先ほど起きたばかりなんですよ。住み込みで働いている分、移動時間がないので、すぐに出勤できて楽ちんです」

 そうそう、この前お店を改装して、ナラバさん用の部屋を用意したんだよな。
 それにしても……最初にナラバさんから部屋を作ってほしいとお願いされたときは驚いたよ。
 それは今から三週間ほど前のこと。

「えっ、住み込みで働きたいって……ナラバさんがですか?」

 ナラバさんから提案されたとき、俺はそう聞き返した。
 ナラバさんは真剣な表情で頷く。

「ええ。店も順調に繁盛はんじょうしてきているので、もう少し仕込みの量を増やしたいんです。それに最近、家から店までの移動時間がもったいないと感じるようになりまして……駄目でしょうか?」
「べ、別に拒否するつもりはないんですが……いいんですか? ご家庭のことがあるでしょう?」

 ナラバさんは妻子さいし持ちの立派なお父さんで、子供達はまだ小さいと聞いている。

「ええ、妻にも住み込みについては話してあります。多少、子供達と接する時間は減ると思いますが、大丈夫です。それに、休みの日には家に帰るつもりですしね」

 そう言うナラバさんの目は本気だった。
 俺はしばらく考え、ゆっくり頷く。

「……そうですか、分かりました。なら、改築を大工さんに頼んでおきますね」
「ありがとうございます」

 そういうわけで、その日から工事がスタートしたのだった。
 後日、店のオーナーとしてナラバさんの家族に挨拶しに行った際、ナラバさんの奥さんからこう言われた。

「最近のあの人、毎日楽しそうに仕事に行ってるんです。私や子供達もそんな姿を見て応援したいと思っているんですよ。今後も夫をよろしくお願いします」

 そうは言っても家族が離れて暮らすのはなぁ……あ、そうだ。
 いい考えが浮かんだ俺は、さっそく奥さんと子供達に一つ提案してみる。奥さん達は驚いていたものの、了承してくれたので、すぐに大工さんに追加工事の依頼をした。
 それからおよそ二週間後。ナラバさんは改装の終わったお店を見てすごく驚いていた。

「ら、ラルク君。当初は休憩スペースの一部に壁を作って一人分の寝床を用意するだけの予定でしたよね? なんか建物全体が大きくなっている気がするんですが……」

 そう、ナラバさんの言う通り、お店全体を大きくして三階部分を作ったのである。

「ええ、三階を増やしました。ナラバさん、家族ってやっぱり、全員が揃って生活するのが一番だと俺は思うんですよね。ナラバさん一人が住み込みで働くと、家族が離ればなれになるじゃないですか? なら、いっそのこと店の中に一家全員が住める空間を作ろうかなと思いまして。ちなみに、ナラバさんの奥さんとお子さん達は了承済みですよ」
「そ、そうは言っても……」
「まあまあ、とりあえず上がってみましょうよ」

 まだ事態が吞み込めていないナラバさんの背を押し、階段を上って三階へ。
 三階は工事の人に頼んで、うんと立派にしてもらった。
 驚いた様子で部屋を見回すナラバさんの前に、事前に隠れていた奥さんと子供達が出てくる。

「あなたを驚かせたくて、今日まで秘密にしちゃった。駄目だったかしら?」
「いいや……そんなこと、あるわけないだろ」

 ナラバさんは奥さんと子供達を抱きしめたのだった。
 あのときは喜んでくれて良かったな~と思っていたら、ナラバさんが話しかけてきたので現実に引き戻される。

「それで、ラルク君。新しいメニューはどうするか決めたんですか?」

 そうだった、その話をナラバさんにしておかないと。
 というのも、派手な増築をして調子に乗った俺は先日、お店に隣接していた空き物件を土地ごと購入したんだよね。そして俺のお店とその建物を一つに繋げて、敷地面積を拡大したのだ。ちなみに、代金はお店の売上でなんとかなった。
 もちろん焼きおにぎりも売り続けるが、せっかくお店が広くなって飲食スペースを確保できたので、新メニューを売り出すことにしたのである。

「はい、一応次も米を使った料理にするつもりです。それで、一気に二品の新商品を出そうと思います」
「おお、二品も出すんですね」
「ええ、一つは飲食スペースで食べられるもので、もう一つはお菓子を考えています」
「お菓子……ですか?」

 ナラバさんが不思議そうな顔で呟いた。まあ、その反応は当然か。

「そうです。詳しくは皆さんが揃ってから説明するので、今は準備を済ませましょう」

 そう言い、三人で仕込みを進める。
 それからしばらくして、レティシアさんと従業員のリリアナさん、ソーナさんが店にやってきた。
 よし、じゃあ説明を始めよう。
 まず、最初に見せたのが以前作ってレックにも好評だったポン菓子だ。

「おお……? ラルク君、これが本当にお菓子なんですか?」

 ナラバさんが怪訝な顔で尋ねてくる。まあ、ポン菓子の外見は米がふくらんでいるように見えるだけだし、変だと思うのも当然か。

「不思議な見た目ですけど、ポン菓子っていう、ちゃんとしたお菓子ですよ。試食してみてください」

 俺はそう言ったあと、全員にポン菓子を配る。
 まず、レティシアさんが一粒口にした。

「……! 美味しい~!」

 よしよし、気に入ってもらえたようだ。
 パクパク食べる女性陣の横で、ナラバさんが興味深そうに食レポする。

「……なるほど、これは美味しいですね。サクサクとした食感は噛んでいて心地いいですし、適度に甘くて次々と食べたくなります」

 プロの調理人であるナラバさんも高評価。これはすぐにでも新商品として売り始めていいだろう。
 ただ、製法が難しくて量産できないという課題は抱えたままなのだが……
 すると、ちょうど良くリリアナさんがそのことについて質問してきた。

「ラルク君、このポン菓子ってどうやって作るの?」
「それなんですが……俺が合成魔法を使って作っているので、このお店の設備で作るのは難しいんですよね。だから、ポン菓子は限定商品と銘打めいうって一日の販売数を制限しようと思ってるんです」

 俺が答えると、ナラバさんが腕組みして口を開く。

「なるほど、ラルク君の魔法でしか作れないなら限定品ということにしておかないと大変ですね。分かりました」
「はい。今度、鍛冶師さんにお願いして製造用の機械を作ってもらうつもりです」
「一日の販売数は決めているの~?」

 今度はソーナさんに尋ねられた。

「う~ん、とりあえずは午前と午後で五十袋ずつ、合計で一日百袋にしようかなって考えてますけど、どうですかね?」
「百袋かぁ……それだと、買えなくて文句を言うお客さんが出るかもね」

 ソーナさんの言葉にナラバさんもウンウンと同意する。
 そのとき、レティシアさんが聞いてくる。

「ねぇ、ラルク君。このポン菓子、一ついくらで売るつもりなの?」

 値段か……砂糖を使ってるから、材料費は焼きおにぎりより高くなるな。実はこの世界、砂糖がわりと高級品だったりするのである。

「えっと……一応砂糖も使っているので、一袋で銅貨十枚にしようかな、と。焼きおにぎりの倍です」

 少し考えてからそう答えると、リリアナさんが眉をひそめた。

「うーん……内容量にもよるけど、ちょっと高めだね。買うのをしぶる人が出そう」

 しかし、ナラバさんは首を横に振って意見を言う。

「いや、砂糖を使っているなら妥当な金額でしょう。高価なことには変わりませんが……」

 そのとき、今まで黙って話を聞いていたリンが口を開く。

「それならいっそのこと、貴族様向けの商品ということにしたらどうなのかな?」

 その言葉を聞き、ナラバさんは「なるほど!」と声をはずませた。

「今でもたまに貴族様がお店に来ますし、いいかもしれません。他の店でも高級な商品は置かれていることが多いから、文句も言われないでしょう。それに貴族様向けと言っても、決して普通の人が手を出せないほどの価格でもありませんからね」

 そういえば、以前義父さんと一緒に街の食堂に行った際、通常のメニューとは別に貴族向けの高級メニューを見た気がする。なんだか不思議な文化だが、この世界では常識なのだろう。

「それなら、ポン菓子は貴族様向けの商品として売り出すということでいいですかね?」

 俺が聞くと、ナラバさん、リリアナさん、ソーナさん、レティシアさんが一斉に頷いた。
 話がまとまったので、続いてもう一品の料理を説明がてら調理する。
 調理の工程を見ていたリンとレティシアさんは、何かに気付いたように「あ!」と声を上げる。この二人にはいつも作っているから、気付いたみたいだ。
 数分後、俺は完成した新商品――焼飯やきめしを人数分の皿に盛り付けた。
 試食するようにうながすと、ナラバさん、リリアナさん、ソーナさんがおずおずと焼飯を口に運ぶ。ちなみに、焼飯を何度も食べたことのあるレティシアさんとリンは、勧めるまでもなくバクバクと食べていた。

「この味は……! ら、ラルク君、この料理の作り方を――」 
「ま、まあまあ、もうすぐ開店時間ですから、お店を閉めたあとに改めて教えますね」

 興奮気味に詰め寄ってきたナラバさんを押し戻し、俺は厨房を出て開店の看板を店先に出した。


 夕暮れ、閉店したので俺達は再び厨房に集まる。なお、どこから話を聞きつけたのかは分からないが、ドルスリー商会の商会長であるラックさんもその場にいた。
 とりあえず改めて作り方を教えると、ナラバさんが驚いたように言う。

「朝から思っていましたが、調理法は驚くほど簡単なんですね……」
「そうですね。慣れてきたらアレンジすることも可能ですよ」

 そう言って、俺は焼飯のレシピをナラバさんに渡しておく。

「ふむ……それでは、値段はどうするんだね?」

 黙って見守っていたラックさんが言った。
 焼飯は一皿で満腹になるほどボリューミーだし、具材も盛りだくさんだから意外と材料費もかかるんだよな……
 迷っていたら、ラックさんが助け舟を出してくれた。

「では、銅貨五十枚にしようか。材料は私の商会から卸せば多少安く仕入れられるから、採算も取れるだろう」

 ということで、価格は決定。
 それにしても銅貨五十枚で売るとなると、硬貨を大量にやり取りすることになって会計が大変そうだ。自動でお金を数えて食券を発行してくれる券売機でも作って設置しようかな。それだったら食券と料理を交換すればいいだけだし……まあ、そんなものがこの世界で作れるのか分からないけど。時間を見つけて鍛冶師さんに相談してみよう。
 そんなことを考えつつ、その日は解散となったのだった。


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